第3の素粒子「エニオン」の存在を初確認! グーとパーしかない世界にチョキが現れたような衝撃
kusuguru.inc ナゾロジー より 200711
物質を作るフェルミオン(グー)、物質間の力を伝えるボゾン(パー)、新たに確認されたエニオン(チョキ)/Credit:depositphotos
新たな研究によって、40年前に理論が提唱されていた素粒子「エニオン」の存在が確認されました。
現在の私たちの科学技術は、この世界の物質は「フェルミオン」と「ボソン」の2種類の粒子にわけられるという前提の元に発展を続けてきました。
子どもたちがグループわけに使う「ぐっとっぱ(地方のよってはぐっぱーじゃすなど)」に登場するグー(フェルミオン)とパー(ボソン)のような関係性です。
しかし今回の研究により確認されたエニオンには、グループわけにチョキとして参加する価値があり、科学発展の前提条件に劇的な変化を生む可能性があります。
凝縮系理論家の大家であるローズナウ教授は7月3日に「Nature」に掲載された記事の中において、エニオンの確認をヒッグス粒子の観測と同じくらい魅力的な事件だと述べていました。
◉最高の変わり者、エニオン準粒子とは?
現在発見されている素粒子はヒッグス粒子を入れて18種類。ヒッグスはどちらかといえばボソンに分類される/Credit: 名古屋大学
エニオンは準粒子と呼ばれるカテゴリーに分類されます。
準粒子は素粒子的でありながら素粒子でないという、微妙な立ち位置にある粒子を差します。
また準粒子は常識外れな性質を持つものが多く、たとえば単極磁気の準粒子には磁極が1つしかありません。
これは磁石は割っても割ってもN極とS極がある……とする既存の常識に反します。
準粒子と知られているもので有名なのは、近年物理学界で大流行しているマヨラナ準粒子です。こちらはなんと、反粒子としての性質を持っています。
しかしエニオンはさらに奇怪です。
これまでの見解では、この宇宙に存在する全ての素粒子は、電子・陽子・中性子といった物質を作るタイプ(フェルミオン)と、電磁波のような力を伝えるタイプ(ボソン)の2種の粒子しかないとされていました
ですがエニオンはそのどちらでもありませんでした。
さらにエニオンは通常の三次元空間では発生せず、極薄の二次元的なシート内でのみ「電子の集団状態」として生成されるという、極めてピーキーな性質があったのです。
またエニオンは電子と同じように電流をうみだしますが、1ユニットのエニオンが運ぶ電荷は1個の電子の3分の1になります。
この性質は非常に重要なことで、私たちの科学技術は、電荷の最低単位を電子1個ぶん(e)としてきました。
ですが半導体内部に電子の代わりにエニオンを流すことで、電荷の最低単位をより細かくすることが可能になります。
もしかしたら未来では「電子」部品という名前は時代遅れになり、エニオン部品あるいは準粒子部品が市場を埋め尽くしているかもしれません。
◉どうやってエニオンの存在をとられたか?
2次元レベルでは回転的な位置の入れ替えは一方を中心にした回転と意味が同じ(トポロジー的に等価)
エニオンの存在は40年前に理論が提唱されましたが、長い間、存在の確認には成功しませんでした。
そのため、科学者のなかにはエニオンは単なる数学上の概念に過ぎず、現実世界に存在する粒子ではないと考える人もいたそうです。
しかし、理論の提唱から20年が経過した2005年に、エニオンが現実世界に存在する可能性が示されました。
そこで今回、アメリカの研究チームはエニオンの直接観測に乗り出し、長年放置されてきた物理学者の宿題を終わらせたのです。
エニオンの存在を確認するには、エニオンが現れると予想されている2次元的な薄いシートを作成する必要があります。
そのため研究チームは、ヒ化ガリウムとヒ化アルミニウムガリウムの薄層からなる構造を製造することで、電子が2次元的に動く環境を整えました。
またこの薄膜を絶対零度近くまで冷却し、さらに強力な磁場を追加して内部を絶縁体にし、外部だけに電流が流れるように設定します。
このように手の込んだ方法で2次元を周回する回路を作り、効率よくエニオンを捕られる環境を作り出しました。
また、エニオンは不思議な振る舞いをすると予想されていました。
(上の図の左側が示すように、)2次元的なシートの内部で動くエニオンにとって、2つのエニオンの回転的な位置替えは、一方を中心として他方がその周りを周回する移動と同じ(トポロジー的に等価)とされるのです。
そのため、(上の図の右の回路のように)エニオンを装置内部で回転するように流すと、現実の世界の絶縁状態にある装置中心部に、電荷をもったエニオンが集積していくのです。
観測装置には、この内部に溜まったエニオンを検出する能力も備えられていました。
装置を稼働させた状態で検出装置で調べると、装置内部でのエニオン電荷の出現と消滅の直接的証拠となるパジャマストライプと呼ばれる干渉パターンが生成されていることが確認できました。
このパターンは、エニオンの存在が確認された証拠として非常に強固なものと考えられています。
今回の研究によってエニオンの存在が確認されたことから、今後はエニオンを使った電子部品ならぬ、エニオン部品やエニオン量子コンピューターの製造が期待されます。
そうなれば、電子をつかった機器が時代遅れと言われるような日が来るかもしれません。
研究内容はアメリカ、パデュー大学の中村氏らによってまとめられ、6月26日にプレプリント版が「arXiv」に、またプレプリント版を元にしたニュースが7月3日に学術雑誌「Nature」で紹介されました。
💋今年又、第三の素粒子系と言う凄い画期となる発見がなされ…