ひとりの男によって人類の価値観は一変した…20世紀最大の功績を残した天才学者が「辿り着いた答え」
現代ビジネス より 240614 奥野克巳
「人類学」という言葉を聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろう。聞いたことはあるけれど何をやっているのかわからない、という人も多いのではないだろうか。
『はじめての人類学』では、この学問が生まれて100年の歴史を一掴みにできる「人類学のツボ」を紹介している。
※本記事は奥野克巳『はじめての人類学』から抜粋・編集したものです。
⚫︎世界は構造でできている
私たちは遠く離れた辺境の地に住む人たちを、長い間「文明から取り残されている人」として「野蛮人」や「未開人」呼ばわりしてきました。
※本記事は奥野克巳『はじめての人類学』から抜粋・編集したものです。
⚫︎世界は構造でできている
私たちは遠く離れた辺境の地に住む人たちを、長い間「文明から取り残されている人」として「野蛮人」や「未開人」呼ばわりしてきました。
こちらから一方的に偏見を持って見下して語ったり、劣等者扱いをしてきたのです。
フランスの人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースは、そういう考え方こそが非科学的だと言い放ちました。
フランスの人類学者であるクロード・レヴィ=ストロースは、そういう考え方こそが非科学的だと言い放ちました。
それは、耳ざわりのいいヒューマニズムではありません。彼は自身の研究を通して、「未開人」の洗練された思考を人類学的に明らかにしたのです。
たしかに「未開人」と呼ばれてきた人たちの考え方には、私たちのものとは違うところがたくさんあります。でもそれらは、私たちが気づいていないだけで非常に研ぎ澄まされた、豊かなものです。
たしかに「未開人」と呼ばれてきた人たちの考え方には、私たちのものとは違うところがたくさんあります。でもそれらは、私たちが気づいていないだけで非常に研ぎ澄まされた、豊かなものです。
レヴィ=ストロースはブラジル奥地の先住民社会の親族体系や神話を調べ上げる過程で、それらの中に私たちがぱっと見では気が付かない、繊細な秩序が隠れていることを発見しました。
日本人である私たちは、父と母と子による関係性を家族の基本単位とみなし、家族形態を理解しようとします。
日本人である私たちは、父と母と子による関係性を家族の基本単位とみなし、家族形態を理解しようとします。
しかし「未開」社会には、それにはあてはまらない家族形態があります。
たとえば前章で触れた、父母のそれぞれの兄弟姉妹がすべてチチやハハと呼ばれるような社会です。チチ・ハハがたくさんいる家族形態は、父母の同世代の男女が乱婚する、私たちのものよりも劣る原始的な習慣の残存であると考えられたのです。
レヴィ=ストロースは、そのような親族呼称の体系は、それぞれの社会や共同体が持つ規則の違いにすぎないと断じます。そして、その体系の中に普段は意識されていない「構造」が隠されていると捉えました。
レヴィ=ストロースは、「構造」こそが人類に備わった普遍的なものであると主張した人類学者です。
レヴィ=ストロースは、そのような親族呼称の体系は、それぞれの社会や共同体が持つ規則の違いにすぎないと断じます。そして、その体系の中に普段は意識されていない「構造」が隠されていると捉えました。
レヴィ=ストロースは、「構造」こそが人類に備わった普遍的なものであると主張した人類学者です。
彼は言語分析の方法論を用いて親族体系や神話を研究し、人々が日々生きていく中で意識されていない「生の構造」が、そこに潜んでいるという結論に辿り着きました。
⚫︎実存主義が解体された
彼が編み出した理論は人類学の理論だけにとどまらず、その後「構造主義」と呼ばれる思想にまで発展しました。
⚫︎実存主義が解体された
彼が編み出した理論は人類学の理論だけにとどまらず、その後「構造主義」と呼ばれる思想にまで発展しました。
構造主義とは、私たちが生活している社会や文化の背後には目に見えない構造があり、人間の活動はその構造によって支えられているとする考え方です。
構造主義が20世紀半ばの欧米の思想界に及ぼした影響は絶大なものでした。この意味で、レヴィ=ストロースは人類学において最大級の功績を残した学者のひとりだと言うことができるでしょう。
20世紀になると、人間や社会は進歩していくのだという歴史の発展法則に基づいて、マルクス主義が進展を遂げました。それとは逆に、構造主義は人間の精神は進歩するのではなく、最初から完成してしまっていると説いたのです。
20世紀になると、人間や社会は進歩していくのだという歴史の発展法則に基づいて、マルクス主義が進展を遂げました。それとは逆に、構造主義は人間の精神は進歩するのではなく、最初から完成してしまっていると説いたのです。
その点で、構造主義はまったく新しい人間観でした。構造主義では、西洋近代社会も「未開」社会も、同じ人間の精神の所産なのです。
彼の提起した構造主義により、西洋近代が「未開」社会を、遅れたもの、劣ったものとみなすことには何の根拠もなくなってしまいました。
レヴィ=ストロースは西洋近代の知を理性的だと思い込み、「未開人」を主観的で劣った世界に住む人たちだとみなす見方を傲慢だと批判します。
レヴィ=ストロースは西洋近代の知を理性的だと思い込み、「未開人」を主観的で劣った世界に住む人たちだとみなす見方を傲慢だと批判します。
人間を「構造」が生み出す要素にすぎないと語る構造主義によって、人間の主体中心の思想として広まっていた実存主義は解体されてしまいました。
このように構造主義を軸に20世紀後半の西洋思想は展開したのです。構造主義はその後、現代社会の変化を説明しきれないという面から批判に晒されます。
このように構造主義を軸に20世紀後半の西洋思想は展開したのです。構造主義はその後、現代社会の変化を説明しきれないという面から批判に晒されます。
ですが、レヴィ=ストロースによって提起されるようになった構造主義は、現代を生きる私たちにとってもいまだに大きな知恵を与え続けてくれているのです。
さらに連載記事〈日本中の職場に溢れる「クソどうでもいい仕事」はこうして生まれた…人類学者だけが知っている「経済の本質」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
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