「量子サイバーセキュリティ」「デスクトップ型」量子コンピューティング、4大注目技術
編集協力:グローバルインフォメーション
ビジネス+IT より 210604
世界的に量子コンピューティングへの関心は明らかに高まってきています。日本政府も2020年1月に「量子技術イノベーション戦略」を発表し、ゲート型量子コンピューティング、固体量子センサー、量子通信、量子暗号技術など、量子技術に関する技術ロードマップの例を挙げました。
米国の市場調査会社Inside Quantum Technology(IQT)社が発行した市場調査レポート「Quantum Random Number Generators: A Ten-year Market Assessment(量子乱数ジェネレーター:10年間の市場評価)」では、アプリケーションやメーカーの戦略などについても詳細に分析しています。
この記事では、IQTが予想する2021年注目の4つの量子技術などを紹介します。
■2021年の量子技術に関する4つの予測
世の中ではあまりにも多くのことが起こっているため、2020年は量子技術がどれだけ進化したのかを見逃してしまいがちでした。およそ1年前には量子コンピューターが商業的に軌道に乗るかどうかを疑う記者もいました。
ところが今では、量子コンピューターでどれだけのことができるのか、あるいは、量子コンピューターの実用的なアプリケーションが増えるかどうかの議論ではなく、量子コンピューターの商業化がいつ頃になるのかが議論の中心になっています。
2020年に量子技術で達成されたことを考えると、2021年はさらに特別な年になるとInside Quantum Technology(IQT)は考えています。そこで、2021年のIQTの4つの予測をご紹介します。
■量子サイバーセキュリティ市場が急成長
まず1つ目です。IQTでは、2021年に量子サイバーセキュリティが急速な進歩を見せると予測しています。
世の中ではあまりにも多くのことが起こっているため、2020年は量子技術がどれだけ進化したのかを見逃してしまいがちでした。およそ1年前には量子コンピューターが商業的に軌道に乗るかどうかを疑う記者もいました。
ところが今では、量子コンピューターでどれだけのことができるのか、あるいは、量子コンピューターの実用的なアプリケーションが増えるかどうかの議論ではなく、量子コンピューターの商業化がいつ頃になるのかが議論の中心になっています。
2020年に量子技術で達成されたことを考えると、2021年はさらに特別な年になるとInside Quantum Technology(IQT)は考えています。そこで、2021年のIQTの4つの予測をご紹介します。
■量子サイバーセキュリティ市場が急成長
まず1つ目です。IQTでは、2021年に量子サイバーセキュリティが急速な進歩を見せると予測しています。
新製品が登場する背景には、(1)多くの国で国家安全保障上の脅威としてサイバー攻撃が拡大していること、(2)ビットコインが通常の交換手段や価値貯蔵手段となった世界で、暗号通貨の脆弱性に関する懸念があること、この2点が挙げられます。
2021年5月、Samsung(サムスン)はスイスのID Quantique社およびSK Telecom社と共同で、世界初の量子乱数生成器(QRNG:Quantum Random Number Generator)対応の5Gスマートフォン「Samsung Galaxy Quantum」を発表しました。ID QuantiqueのQRNGチップセットは携帯電話のセキュリティを強化します。
サムスンや、おそらくHuawei(ファーウェイ)などから発売される量子セキュアスマートフォンも、2021年のクリスマスまでにはハッカー集団を寄せつけなくなり、モバイル機器での電子商取引を保護するためのホットな消費者アイテムになると思われます。
一方、量子セーフ・コンピューティングは、量子鍵配送(QKD)、ポスト量子暗号(PQC)、QRNGを組み合わせたもので、スタートアップ企業やサイバーセキュリティ企業のリブランド製品の対象となると考えられます。企業がこれまでは踏み込めなかった領域にまで量子技術を拡大させる傾向が見られると予想されます。
■デスクトップ型量子コンピューターが話題になる
2つ目として、IQTは1年以上前から、量子コンピューティングの「次の大きな事象」はデスクトップ型のコンピューターであり、それが物理的に大きいものではないことを示唆してきました。
現在の量子コンピューターのサイズはというと、カナダのD-Wave Systems社が2020年10月に発表した「Advantage」量子システムは、データシートでは10フィート×7フィート×10フィート(約304cm×213cm×304cm)という大きさです。
米国に拠点を置き、ピュアプレイ量子コンピューティング企業としては初の株式公開を果たしたIonQ社は、デスクトップ量子コンピューターの実現まであと5年程度と述べています。スウェーデンのチャルマース工科大学は、すでに実験目的ではありますが、小さな量子コンピューターを開発しました。
デスクトップ型の量子コンピューターが実現可能かについては、賛否両論があります。しかし、IQTは2021年末までにはデスクトップ型量子コンピューターの話題がインターネット上で広がると予想しています。
ただし、実際の商用のデスクトップ型量子コンピューターが登場するにはまだ数年かかり、IonQが考えているよりも長いかもしれません。しかし、それは数十年後というわけでもないと考えています。60年前にミニコンピュータが主流になった時と同じように、デスクトップ型量子コンピューターの商用化を契機に、量子コンピューターの市場は拡大する可能性があります。
デスクトップ型の量子コンピューターは、現在の量子コンピューターの主流であるクラウド・アクセス・パラダイムとの競争となり、量子技術のビジネス面に大きな変革をもたらす可能性があります。
とはいえ、すべての量子コンピューター技術が小型化に適しているわけではありません。特定の技術が特定の企業に結びつくことで、デスクトップ型量子コンピューターは今後、個々の市場シェアに大きな影響を与えると考えられ、「小型量子コンピューター」を掲げる企業は、新しいホットな投資対象になるかもしれません。
■中国:量子技術が政治的な側面を持つ
3つ目が政治的な動向に絡んだ予測です。2年ほど前、筆者は上海で開催された国際電気通信連合(ITU)主催のQKD/量子ネットワーキングに関する会議で講演しました。この会議には、あらゆる技術先進国の代表が参加しており、彼らの多くが互いに対立関係にあると考えられています。
筆者はスピーチで、「これだけ多様な国々からの国際会議への参加はこの先も可能なのでしょうか?」と声を大にして投げかけました。ちなみに、この発言は中国の保安担当者の目に留まり、筆者が中国にとって脅威かどうかを確認するためのインタビューを受けることになりました。もちろん、脅威ではないと判断されました。
2021年には、中国と西洋の対立が激化する中で、量子関連の事柄が重要な役割を果たし、2つの文明の間に壁を築くことになると予測されます。影響は量子技術ビジネスにとって、プラスにもマイナスにもなると予想されます。
プラス面:
中国の量子技術の進歩スピードを脅威に感じる欧米では、中国に対抗するために国防や情報機関からの量子技術への資金提供を増加させると考えられます。
これまで助成金申請書の多くが気候変動を理由にしていたのと同じように、国家安全保障を理由にする助成金申請書が増えると予想されます。
これは助成金を決める委員会が国家安全保障を理由にした申請書をより好意的に見てくれることを見越してのことです。
マイナス面:
中国と欧米の量子科学者の間で成果の共有がますます制限されるようになると予測されます。
一方で、量子技術は一般の経済紙や国内紙でより広く報道されるようになると考えられますが、一般紙のジャーナリストが量子技術に対して深く理解しないまま記事を書くことで、誤った表現や誇張も出てくると思われます。
■量子技術企業の信頼性は強固に(耐量子テクノジー)
IQTでは最後4つ目として、2021年には量子コンピューターが扱う量子ビット数が大幅に増加し、その他の関連する指標(たとえば量子体積など)も大幅に増加すると予想しており、量子コンピューティングは標準的な公開鍵暗号方式を脅かす存在になると考えています。
その結果、量子コンピューターでも解読が難しい暗号などのような耐量子テクノジーがブームになると予想されます。一方で、量子電話やデスクトップ量子コンピューティングの夢は、量子の「マス・マーケット」というアイデアを中心として構築されたビジネスの初期の兆候につながると予測されます。
これらはすべて、1年後の私たちの状況を表しているかもしれません。しかし、このような量子技術の拡大を実現させるための資金はどこから来るのでしょうか。前述のように、中国の脅威によって、防衛コミュニティからの資金が量子技術市場に多く流れ込むことになるでしょう。
2021年5月、Samsung(サムスン)はスイスのID Quantique社およびSK Telecom社と共同で、世界初の量子乱数生成器(QRNG:Quantum Random Number Generator)対応の5Gスマートフォン「Samsung Galaxy Quantum」を発表しました。ID QuantiqueのQRNGチップセットは携帯電話のセキュリティを強化します。
サムスンや、おそらくHuawei(ファーウェイ)などから発売される量子セキュアスマートフォンも、2021年のクリスマスまでにはハッカー集団を寄せつけなくなり、モバイル機器での電子商取引を保護するためのホットな消費者アイテムになると思われます。
一方、量子セーフ・コンピューティングは、量子鍵配送(QKD)、ポスト量子暗号(PQC)、QRNGを組み合わせたもので、スタートアップ企業やサイバーセキュリティ企業のリブランド製品の対象となると考えられます。企業がこれまでは踏み込めなかった領域にまで量子技術を拡大させる傾向が見られると予想されます。
■デスクトップ型量子コンピューターが話題になる
2つ目として、IQTは1年以上前から、量子コンピューティングの「次の大きな事象」はデスクトップ型のコンピューターであり、それが物理的に大きいものではないことを示唆してきました。
現在の量子コンピューターのサイズはというと、カナダのD-Wave Systems社が2020年10月に発表した「Advantage」量子システムは、データシートでは10フィート×7フィート×10フィート(約304cm×213cm×304cm)という大きさです。
米国に拠点を置き、ピュアプレイ量子コンピューティング企業としては初の株式公開を果たしたIonQ社は、デスクトップ量子コンピューターの実現まであと5年程度と述べています。スウェーデンのチャルマース工科大学は、すでに実験目的ではありますが、小さな量子コンピューターを開発しました。
デスクトップ型の量子コンピューターが実現可能かについては、賛否両論があります。しかし、IQTは2021年末までにはデスクトップ型量子コンピューターの話題がインターネット上で広がると予想しています。
ただし、実際の商用のデスクトップ型量子コンピューターが登場するにはまだ数年かかり、IonQが考えているよりも長いかもしれません。しかし、それは数十年後というわけでもないと考えています。60年前にミニコンピュータが主流になった時と同じように、デスクトップ型量子コンピューターの商用化を契機に、量子コンピューターの市場は拡大する可能性があります。
デスクトップ型の量子コンピューターは、現在の量子コンピューターの主流であるクラウド・アクセス・パラダイムとの競争となり、量子技術のビジネス面に大きな変革をもたらす可能性があります。
とはいえ、すべての量子コンピューター技術が小型化に適しているわけではありません。特定の技術が特定の企業に結びつくことで、デスクトップ型量子コンピューターは今後、個々の市場シェアに大きな影響を与えると考えられ、「小型量子コンピューター」を掲げる企業は、新しいホットな投資対象になるかもしれません。
■中国:量子技術が政治的な側面を持つ
3つ目が政治的な動向に絡んだ予測です。2年ほど前、筆者は上海で開催された国際電気通信連合(ITU)主催のQKD/量子ネットワーキングに関する会議で講演しました。この会議には、あらゆる技術先進国の代表が参加しており、彼らの多くが互いに対立関係にあると考えられています。
筆者はスピーチで、「これだけ多様な国々からの国際会議への参加はこの先も可能なのでしょうか?」と声を大にして投げかけました。ちなみに、この発言は中国の保安担当者の目に留まり、筆者が中国にとって脅威かどうかを確認するためのインタビューを受けることになりました。もちろん、脅威ではないと判断されました。
2021年には、中国と西洋の対立が激化する中で、量子関連の事柄が重要な役割を果たし、2つの文明の間に壁を築くことになると予測されます。影響は量子技術ビジネスにとって、プラスにもマイナスにもなると予想されます。
プラス面:
中国の量子技術の進歩スピードを脅威に感じる欧米では、中国に対抗するために国防や情報機関からの量子技術への資金提供を増加させると考えられます。
これまで助成金申請書の多くが気候変動を理由にしていたのと同じように、国家安全保障を理由にする助成金申請書が増えると予想されます。
これは助成金を決める委員会が国家安全保障を理由にした申請書をより好意的に見てくれることを見越してのことです。
マイナス面:
中国と欧米の量子科学者の間で成果の共有がますます制限されるようになると予測されます。
一方で、量子技術は一般の経済紙や国内紙でより広く報道されるようになると考えられますが、一般紙のジャーナリストが量子技術に対して深く理解しないまま記事を書くことで、誤った表現や誇張も出てくると思われます。
■量子技術企業の信頼性は強固に(耐量子テクノジー)
IQTでは最後4つ目として、2021年には量子コンピューターが扱う量子ビット数が大幅に増加し、その他の関連する指標(たとえば量子体積など)も大幅に増加すると予想しており、量子コンピューティングは標準的な公開鍵暗号方式を脅かす存在になると考えています。
その結果、量子コンピューターでも解読が難しい暗号などのような耐量子テクノジーがブームになると予想されます。一方で、量子電話やデスクトップ量子コンピューティングの夢は、量子の「マス・マーケット」というアイデアを中心として構築されたビジネスの初期の兆候につながると予測されます。
これらはすべて、1年後の私たちの状況を表しているかもしれません。しかし、このような量子技術の拡大を実現させるための資金はどこから来るのでしょうか。前述のように、中国の脅威によって、防衛コミュニティからの資金が量子技術市場に多く流れ込むことになるでしょう。
■この記事はInside Quantum Technology(IQT)社発行のレポート「 Quantum Random Number Generators: A Ten-year Market Assessment(量子乱数ジェネレーター:10年間の市場評価)」を基に同社が書いた記事をグローバルインフォメーションが再構成しています。