「21世紀のオイルショック」が日本をエネルギー大国にする 原油価格高騰で資源採掘に頼らない技術に脚光 大原浩氏緊急寄稿
Zakzak より 231023
⚫︎イラン・イスラエル戦争で原油1バレル=500ドルも
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの衝突により、中東情勢が緊迫している。ハマスの背後にはイランの影も見え隠れする。
国際投資アナリストの大原浩氏は緊急寄稿で、〝中東の火薬庫〟が火を噴いた場合、新たな石油ショックが起こり、原油価格が1バレル=500ドルまで上昇することもありうると指摘する。日本にとってはピンチかチャンスか―。
第4次までの中東戦争を含むアラブ世界とイスラエルの対立は75年にわたって続いている。今回の衝突はイランとイスラエルの間にさらなる火種を持ち込んだ。
第4次までの中東戦争を含むアラブ世界とイスラエルの対立は75年にわたって続いている。今回の衝突はイランとイスラエルの間にさらなる火種を持ち込んだ。
中東の2つの軍事大国が激突すれば、「21世紀の中東戦争」を引き起こしかねない。また、それが「21世紀の石油ショック」につながる可能性は高い。
第4次中東戦争による1973年の第1次石油ショック前の原油価格は、1バレル=数ドル程度だった。しかし、イラン革命をきっかけとする第2次石油ショックが終わる83年までに、原油価格は40ドル台まで高騰した。10倍以上となったのだ。
現在の原油価格は100ドル超えが議論されている段階だ。「21世紀の石油ショック」により、その5倍程度の500ドルまで上昇することも十分あり得ると考える。
ただ、過去の石油ショックは、天然ガスや原子力発電の普及を後押しした側面もある。天然ガスの中東依存度は2割程度とされ、リスクが分散されている。
原子力は、原油価格が数ドル程度の時代にはコスト面での競争力において厳しかったが、石油ショックによって急速に脚光を浴びた。
福島第1原発事故によって悪いイメージもあるが、日本は原子力技術の先進国であり、マイクロ炉を始めとするより安全性の高い小型の原子炉の開発が急ピッチで進んでいる。
そして今回予想される「21世紀の石油ショック」も新世代エネルギーの開発を促すはずだ。
筆者が注目しているのは次の3つだ。
まず、豊田中央研究所が研究の最先端を走っている「人工光合成」である。同じ太陽光を利用する太陽光発電との決定的な違いは、ギ酸という常温で液体の有機物の形でエネルギーを生産できることである。ガソリンと同じように扱え、しかも水素の生成も容易だ。
同じトヨタグループのデンソーがチャレンジしている、「固体酸化物形電解セル(SOEC)」という水電解装置も有望であると考える。水電解技術はすでに確立しているが、コスト面で難点がある。同社は600~800度の高温水蒸気を使用するという新たな技術で低コスト化にチャレンジしているのだ。もし水の電気分解によるエネルギー生産が普及すれば、まさにエネルギー革命である。
最後は、筑波大学大学院の渡邉和男教授がリードする、下水処理過程でのバイオマスエネルギー(藻類)生産だ。こちらも、下水処理と併用することで生産コストを低減できる。
いずれも「エネルギーを『工場生産』できる技術」であるということに注目いただきたい。未来のエネルギーは、限られた地中の石油や天然ガスを「採掘する」のではなく、太陽光や水のようなほぼ無尽蔵、あるいは藻類のような再生可能な「材料」を使って「工場生産」するようになるかもしれない。
そうなれば、製造業大国の日本が「エネルギー大国」になっても不思議ではない。長期的観点に立てば日本に対する追い風だと考える。
■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。
第4次中東戦争による1973年の第1次石油ショック前の原油価格は、1バレル=数ドル程度だった。しかし、イラン革命をきっかけとする第2次石油ショックが終わる83年までに、原油価格は40ドル台まで高騰した。10倍以上となったのだ。
現在の原油価格は100ドル超えが議論されている段階だ。「21世紀の石油ショック」により、その5倍程度の500ドルまで上昇することも十分あり得ると考える。
ただ、過去の石油ショックは、天然ガスや原子力発電の普及を後押しした側面もある。天然ガスの中東依存度は2割程度とされ、リスクが分散されている。
原子力は、原油価格が数ドル程度の時代にはコスト面での競争力において厳しかったが、石油ショックによって急速に脚光を浴びた。
福島第1原発事故によって悪いイメージもあるが、日本は原子力技術の先進国であり、マイクロ炉を始めとするより安全性の高い小型の原子炉の開発が急ピッチで進んでいる。
そして今回予想される「21世紀の石油ショック」も新世代エネルギーの開発を促すはずだ。
筆者が注目しているのは次の3つだ。
まず、豊田中央研究所が研究の最先端を走っている「人工光合成」である。同じ太陽光を利用する太陽光発電との決定的な違いは、ギ酸という常温で液体の有機物の形でエネルギーを生産できることである。ガソリンと同じように扱え、しかも水素の生成も容易だ。
同じトヨタグループのデンソーがチャレンジしている、「固体酸化物形電解セル(SOEC)」という水電解装置も有望であると考える。水電解技術はすでに確立しているが、コスト面で難点がある。同社は600~800度の高温水蒸気を使用するという新たな技術で低コスト化にチャレンジしているのだ。もし水の電気分解によるエネルギー生産が普及すれば、まさにエネルギー革命である。
最後は、筑波大学大学院の渡邉和男教授がリードする、下水処理過程でのバイオマスエネルギー(藻類)生産だ。こちらも、下水処理と併用することで生産コストを低減できる。
いずれも「エネルギーを『工場生産』できる技術」であるということに注目いただきたい。未来のエネルギーは、限られた地中の石油や天然ガスを「採掘する」のではなく、太陽光や水のようなほぼ無尽蔵、あるいは藻類のような再生可能な「材料」を使って「工場生産」するようになるかもしれない。
そうなれば、製造業大国の日本が「エネルギー大国」になっても不思議ではない。長期的観点に立てば日本に対する追い風だと考える。
■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。