繰り返される停電危機 日本はどこまで没落するのか
Wedge より 220324 山本隆三
2022年3月22日は「日本没落の始まりの日」として、歴史に刻まれる日になるかもしれない。3月22日、関東地方を中心に東京電力管内では、電力需給が厳しい状況になった。テレビでは1日中節電が呼びかけられ、家電量販店では展示しているテレビの電源が抜かれた。駅では券売機が間引かれ、私鉄では通勤特急の運転が中止になった。
看板が点灯しないお店も出てきた。スカイツリーも点灯されなかった。やはり停電が常態化する国になったようだが(「停電が常態化する国へ 日本でEV社会実現は夢のまた夢」)、エネルギー、電力を取り巻く環境が安定供給にさらに影響を与えそうだ。
昨年からの天然ガス価格の上昇に端を発した欧州エネルギー危機とロシアのウクライナ侵略は化石燃料価格に影響を与え、燃料価格は高止まりしたままだ。日本が輸入する化石燃料、石炭、石油、液化天然ガス(LNG)の値段もこの1年でほぼ2倍になった。
進む円安がこの状況の追い打ちをかけ、これから発電用化石燃料の価格も電気料金も上がるだろう。しかし、燃料の上昇による電気料金の調整には限度額が設定されており、既に一部の大手電力の燃料費調整は上限に達している。
消費者は燃料費のさらなる上昇による電気料金の値上げを避けられることになり、電力会社が燃料の値上がり額を負担することになる。消費者には良いことに見えるが、そうではなく安定供給に影響を生じることになる。
なぜなら、電力会社の採算の悪化は、発電設備への新規投資の削減と利用率の低い既存火力発電所の閉鎖に結び付き、ただでさえ減っている火力発電設備(図-1)をさらに減少させる。その結果、停電がますます常態化するとの危機に晒される(「何度でも言おう このままでは日本の停電は避けられない」)。
電力の安定供給をどう達成するのか真剣に考える時が来た。
⚫︎大活躍した揚水発電とは
ご存知の読者も多いだろうが、改めておさらいしておきたい。電気の需要量は、1日を通し、1年を通し変動する。例えば、夏の午後には冷房需要が高まる。あるいは冬の夕方には照明、料理、暖房などが重なり、需要が大きくなる。
電気は必要な時に必ず必要な量を供給しなければ停電する。そのため、最大の需要量がある時に備え発電設備が建設されている。燃料費が高い石油火力の中にはピーク時にしか利用されず、年間数%の利用率になるものもあるが、低利用率の設備がなければ需要量が多い時には発電量が不足し停電する。
電気を貯めて使えば良いように思うが、電気を大量に貯める実用的な方法は揚水発電しかない。
⚫︎大活躍した揚水発電とは
ご存知の読者も多いだろうが、改めておさらいしておきたい。電気の需要量は、1日を通し、1年を通し変動する。例えば、夏の午後には冷房需要が高まる。あるいは冬の夕方には照明、料理、暖房などが重なり、需要が大きくなる。
電気は必要な時に必ず必要な量を供給しなければ停電する。そのため、最大の需要量がある時に備え発電設備が建設されている。燃料費が高い石油火力の中にはピーク時にしか利用されず、年間数%の利用率になるものもあるが、低利用率の設備がなければ需要量が多い時には発電量が不足し停電する。
電気を貯めて使えば良いように思うが、電気を大量に貯める実用的な方法は揚水発電しかない。
大型蓄電池、あるいは電気を水素に変え貯めておく方法もあるが、大型蓄電池の価格は高く、貯めると電気のコスト(家に届く電気料金の請求書には使用量キロワット時(kWh)が書かれているが、このkWhを発電するコスト。火力発電であれば、数円から十数円。これに送電、配電するコストが掛り、家庭用であれば1kWh当たり二十数円になる)が高くなり、実用化は特殊な場所以外では行われていない。
電気が余った時に水を電気分解することにより水素に変えておくことも理論的には可能だが、コストは蓄電池よりも高くなるので、実用化は先の話になる。
揚水発電では電気が余った時にポンプを使い、下の池に溜まった水を上の池に上げておき、電気が足らない時に上の池から水を落とし水力発電を行う。
揚水発電では電気が余った時にポンプを使い、下の池に溜まった水を上の池に上げておき、電気が足らない時に上の池から水を落とし水力発電を行う。
東日本大震災以前には、原子力発電所が多く稼働していたが、原子力発電所は一定の稼働率で運用されるので深夜に電気が余ることがある。その余った電気を使うために揚水発電設備は利用されたが、今は、太陽光などの再生可能エネルギーの電気が余る時にも利用される。
揚水のポンプを動かしても電気が余ることもあり、その時には再エネ設備の出力制御が行われる。3月22日の東電管内の電力供給では、揚水発電設備がフル稼働した。
⚫︎停電寸前だった電力供給
1日中節電要請が行われた3月22日の東電管内の電力需給状況は、図-2の通りだ。日本の事業用発電設備約2億7000万kWの内、水力が4960万kW、その内揚水は2750万kWを占めている。
@
ダム式、水路式よりも多くの発電能力がある。東電グループが保有する揚水発電設備容量は768万kW。図-2を見る限り9時から正午にかけて、ほぼフルに発電していたことが分かる。
揚水発電は、水を落として発電するので水がなくなれば発電できなくなる。その水の量は3月22日7時時点を100%とすると、運転を終了した22時時点で29%となった。
揚水のポンプを動かしても電気が余ることもあり、その時には再エネ設備の出力制御が行われる。3月22日の東電管内の電力供給では、揚水発電設備がフル稼働した。
⚫︎停電寸前だった電力供給
1日中節電要請が行われた3月22日の東電管内の電力需給状況は、図-2の通りだ。日本の事業用発電設備約2億7000万kWの内、水力が4960万kW、その内揚水は2750万kWを占めている。
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ダム式、水路式よりも多くの発電能力がある。東電グループが保有する揚水発電設備容量は768万kW。図-2を見る限り9時から正午にかけて、ほぼフルに発電していたことが分かる。
揚水発電は、水を落として発電するので水がなくなれば発電できなくなる。その水の量は3月22日7時時点を100%とすると、運転を終了した22時時点で29%となった。
一方、東電管内では、22日7時から16時までの間、東北電力から九州電力までの7電力から最大約142万kW、16 時から24時まで北海道電力など5電力から最大約93万kWの電力融通が行われている。
図-2を見る限り、融通電力と節電努力がなければ、揚水発電の水も底を尽き夜間には停電が発生していただろう。
図-2を見る限り、融通電力と節電努力がなければ、揚水発電の水も底を尽き夜間には停電が発生していただろう。
今、東電管内では原子力発電所が稼働していないので、深夜に電力が余る状況にはなく、揚水発電のため水を上池に上げるには、化石燃料を燃やし火力発電でポンプを動かすしかない。揚水発電のコストは決して安くない。
⚫︎余裕がなくなる発電設備容量
今回の電力需給逼迫の背景には、3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震により東北地方の沿岸にある火力発電設備が影響を受け、操業できなくなったことがある。
⚫︎余裕がなくなる発電設備容量
今回の電力需給逼迫の背景には、3月16日に発生した福島県沖を震源とする地震により東北地方の沿岸にある火力発電設備が影響を受け、操業できなくなったことがある。
東日本大震災時、関東から東北地方沿岸の原子力発電所から火力発電所まで被害を受け操業ができず計画停電が実施されたが、規模は違うものの同じことが起こった。
現在操業が停止している発電所は計6基334.7万kWだ。
現在操業が停止している発電所は計6基334.7万kWだ。
東電管内に送電を行っている発電所は、広野火力発電所6号機(JERA) 60万kW。
東電、東北電力管内に送電している発電所は新地火力発電所(相馬共同火力発電) 100万kWだけだ。残りの発電所は東北電力管内に電力供給を行っている。
図-2を見ると、今停止中の設備が稼働していたとしても、節電努力がなければ3月22日の電力供給は綱渡りだった。
図-2を見ると、今停止中の設備が稼働していたとしても、節電努力がなければ3月22日の電力供給は綱渡りだった。
電力市場が自由化されたため、発電事業者は利用率が低く収益を生まない老朽化した石油火力を立て替える余裕はなくなり、電力需要が高まった時に供給する設備を保有できなくなってきている。
太陽光発電を中心に再生可能エネルギー設備の導入が増えれば、ピーク対応の火力発電設備の利用率はますます下がり、需要を賄うための設備はさらに減る。
太陽光発電を中心に再生可能エネルギー設備の導入が増えれば、ピーク対応の火力発電設備の利用率はますます下がり、需要を賄うための設備はさらに減る。
図-3の3月22日の太陽光発電設備の発電量を見れば、悪天候時に備え利用率の低い設備も保有する必要があることは明らかだが、電力会社は体力を失くしてきている。
⚫︎上昇する電気料金と新規設備投資
欧州連合(EU)では昨年、天然ガス価格が高騰したため、各国政府は電気料金の上昇を抑制するため補助金を投入したり、電気料金に関わる税の減免を行ったりした。各国政府の抑制策にもかかわらず、小売り電気料金はEU27カ国平均で昨年30%上昇した。
日本では,化石燃料価格の変動を電気料金に反映させる燃料費調整制度が導入されている。
⚫︎上昇する電気料金と新規設備投資
欧州連合(EU)では昨年、天然ガス価格が高騰したため、各国政府は電気料金の上昇を抑制するため補助金を投入したり、電気料金に関わる税の減免を行ったりした。各国政府の抑制策にもかかわらず、小売り電気料金はEU27カ国平均で昨年30%上昇した。
日本では,化石燃料価格の変動を電気料金に反映させる燃料費調整制度が導入されている。
簡単に言えば、3カ月間の化石燃料、石炭、石油、LNGの輸入平均価格の変動を毎月の電気料金に反映させる仕組みだ。
各大手電力会社の燃料種別熱量構成比で計算された基準価格に基づき、3カ月平均の燃料費の増減を反映する形で毎月電気料金が調整される。
例えば、21年11月から22年1月の3カ月平均の燃料価格は22年4月の電気料金に反映される。調整制度には大きな電気料金の上昇を防ぐため上限額が設けられている。
大手電力ごとの基準価格に50%上乗せした額が上限だ。
例えば、関東エリアで東京電力エナジーパートナーと従量制で契約している家庭では、22年4月分として1kWh当たり2.27円の負担になる。
例えば、関東エリアで東京電力エナジーパートナーと従量制で契約している家庭では、22年4月分として1kWh当たり2.27円の負担になる。
この燃料費調整額が既に基準価格を50%上回る上限に達した電力会社もある。北陸、関西、中国、四国、沖縄の5電力は上限に達しているので、燃料費が上がっても電気料金に反映できない。他の電力会社も上限に近づきつつある。
化石燃料の輸入価格は大きく上昇している。21年1月の輸入価格と今年1月の価格を比較すると、石炭(燃料用一般炭)は8400円から2万1000円に、LNGは4万5000円が8万2000円に、原油は3万2000円が5万8000円に上昇している。
化石燃料の輸入価格は大きく上昇している。21年1月の輸入価格と今年1月の価格を比較すると、石炭(燃料用一般炭)は8400円から2万1000円に、LNGは4万5000円が8万2000円に、原油は3万2000円が5万8000円に上昇している。
これから円安が価格上昇に追い打ちをかけることになる。
大手電力は設備更新を行うことが、ますます困難になる。再エネ主力電源化の掛け声の下、30年に向けて再エネ導入が進む中で電力供給の不安定化は増すことになる。
⚫︎電力の安定供給と価格安定のためには
エネルギー危機の最中にある欧州では、再エネと並行して原子力発電の導入支持の声も高まっている。
大手電力は設備更新を行うことが、ますます困難になる。再エネ主力電源化の掛け声の下、30年に向けて再エネ導入が進む中で電力供給の不安定化は増すことになる。
⚫︎電力の安定供給と価格安定のためには
エネルギー危機の最中にある欧州では、再エネと並行して原子力発電の導入支持の声も高まっている。
電力の安定供給と価格の安定化の選択肢は原子力の活用しかないと欧州の多くの国が考え始め、現在、13カ国が原子力推進の声を上げている。オーストリアなど4カ国は原子力反対と表明しているが、送電網が連携している欧州では4カ国も他国の原発からの電気を輸入し使うことになる。
再エネ導入と電力市場自由化を同時に進めた日本では電力供給は欧州よりも不安定になっている。
再エネ導入と電力市場自由化を同時に進めた日本では電力供給は欧州よりも不安定になっている。
電力供給が不安定化すれば3月22日のように停電を恐れながら1日を過ごすことになる。電力の安定供給と電気料金の安定化のためには原発の再稼働を進め、小型モジュール炉(SMR)などの安全性に優れコスト競争力があるとされる新型炉の開発を進めるしか方法はない。
今回、政府は初の「電力需給ひっ迫警報」を発令した。必要なことであると理解できるが、発令することのみが政府の役割ではない。
今回、政府は初の「電力需給ひっ迫警報」を発令した。必要なことであると理解できるが、発令することのみが政府の役割ではない。
安価で安定した電源を確保し、国民の生活と産業をしっかりと守るために必要なエネルギー安全保障の政策を打ち出し、実行することこそ、政府の真の役割であることは論を俟たない。
💋いよいよ原発反対論が電力危機の根源に。ひいては国家衰亡化と生活困窮加速
デジタル化=要電力