【大混雑ゴールデンウィーク】京都にみるオーバーツーリズム、ホテルが増え住民は減る…「観光が成長を牽引」は幻想
JBpress より 240502 佐滝 剛弘,湯浅 大輝
今日は訪日客でごった返している=写真はイメージ(写真:Andriy Blokhin/Shutterstock)
ゴールデンウィーク後半戦、観光地はどこもかしこも人が多くてうんざりしている人も少なくないのでは。
日本政府観光局(JNTO)によると3月の訪日客数は308万1600人で過去最高。中でも京都の混雑ぶりは「オーバーツーリズム」の典型とも言われる。
『観光公害─インバウンド4000万人時代の副作用』の著者で観光学が専門の佐滝剛弘氏に、世界屈指の観光都市を取り巻く「観光公害」の実態を聞いた。(JBpress)
(湯浅大輝:フリージャーナリスト)
[JBpressの記事]
⚫︎「観光都市」が招く人口減
──訪日客数が激増しています。中でも、日本屈指の観光スポットである京都市をめぐる「オーバーツーリズム」の問題はここ数年、注目を集めています。今、何が起きているのでしょうか。
佐滝剛弘氏(以下、敬称略):京都市では長らく、オーバーツーリズムの問題が叫ばれてきました。目立つもので言えば、ゴミの散乱やバスの混雑などです。
ただ、最も甚大な被害は「目に見えないもの」です。それが「人口減少」という問題です。
「観光都市」というイメージが先行するあまりホテルが乱立し、マンションを建てる土地がなくなってきています。
もともと京都市は、任天堂やワコール、京セラといった世界的企業が本社を構える産業都市です。これらの企業の社員も会社近くに住みたいと考えているのですが、市内はホテルの建設ラッシュでマンションが建つ土地が少ない。やむなく、滋賀県や京都南部から通勤するという社員が増えているのです。
▶︎佐滝 剛弘 城西国際大学 観光学部教授
1960年、愛知県生まれ。東京大学教養学部卒。NHKディレクター、高崎経済大学特命教授、京都光華女子大学キャリア形成学部教授などを経て現職。NPO産業観光学習館専務理事。世界遺産、産業遺産、近代建築、交通、観光、郵便制度などの取材・調査を続ける。著書に『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード』『観光地「お宝遺産」散歩』『高速道路ファン手帳』(以上中公新書ラクレ)など。祥伝社新書から『「世界遺産」の真実』『それでも、自転車に乗りますか?』を上梓。
実際、京都市の2022年と2021年の人口減少数は全国でもワースト1位。人口が減るということは、税収も少なくなることを意味します。
「観光でお金が落ちるから良いじゃないか」と思う人がいるかもしれません。ただ、京都市の税収に占める観光による効果は12.8%程度と推測されています*1。
さらに、京都市内のホテルは外資系企業が多く、日本の企業にお金が落ちていない場合もあることも指摘しておかなければなりません。
⚫︎「観光業は日本の基幹産業になり得ない」
佐滝:「観光立国」というキーワードが一人歩きしていますが、日本のような産業の裾野の広い国において、観光は基幹産業にはなりえません。理由は単純で、観光におけるお金の使い道はサービス業がメインだからです。
国内総生産(GDP)に占める観光業の割合を見ても、2019 年に2%と微々たるものです。これは先進国に共通で、フランスは5.3%、ドイツでも4%です*2。
*2:令和5年版観光白書について(概要版)(観光庁)
「観光がGDP比に占める割合が大きい」国々はマルタやギリシャなど他産業が弱い国々で、先進国にそんな国はないのです。「街に外国人観光客が増えた、彼らが経済成長をけん引してくれるだろう」と思うのは幻想でしかありません。
私は、観光産業そのものを否定しているわけではありません。ただ、京都市が「観光都市」を目指すあまり、本来の産業都市としての活力を奪ってしまっている現状は認識すべきだと思います。
──京都に住む住民の視点からは、どのようなことが問題になっていますか。
⚫︎並ばずに入れていた町中華に行列が
佐滝:京都市民にとっての日常が「非日常」化していることが最大の問題です。昨今は京都市が観光に力を入れるあまり、ホテルの誘致を積極的に行っていて、住宅街の京都市南部にまでホテルが建設されています。
これらのホテルにはレストランが併設されていないことも多く、宿泊客は近場で夕食をとる必要が出てきています。
これまでは地域住民が並ばずにご飯を食べられていた町中華に行列ができていて、1時間待たされる、というような現象も起きているのです。
特にコロナ禍でSNSの利用が普及し、外国人観光客もスマホで「京都市民の日常」を広く知るようになりました。
特にコロナ禍でSNSの利用が普及し、外国人観光客もスマホで「京都市民の日常」を広く知るようになりました。
神社仏閣などのポピュラーな観光スポットよりも、地元の人々の生活を「追体験したい」というニーズも拡大しています。結果として、町中華が混雑するなど、京都市民の日常が「非日常」になっているのです。
──「宿泊税」の引き上げなどで、オーバーツーリズムの問題は解決できそうでしょうか。
⚫︎ターミナルを分散させよ
佐滝:イタリアのベネチアなど、入り口がひとつのエリアでは観光税の導入効果はあると思います。ただ、京都市は広いので、京都全域で人数制限を課すことは不可能です。神社仏閣などの単位で入場制限をかけることは可能でしょうが、現実的に京都市を訪れる訪日客を政策的に減らすことはできないでしょう。
解決策として現実的なのはターミナルの分散です。現在は京都駅に観光客が集中しすぎています。
──「宿泊税」の引き上げなどで、オーバーツーリズムの問題は解決できそうでしょうか。
⚫︎ターミナルを分散させよ
佐滝:イタリアのベネチアなど、入り口がひとつのエリアでは観光税の導入効果はあると思います。ただ、京都市は広いので、京都全域で人数制限を課すことは不可能です。神社仏閣などの単位で入場制限をかけることは可能でしょうが、現実的に京都市を訪れる訪日客を政策的に減らすことはできないでしょう。
解決策として現実的なのはターミナルの分散です。現在は京都駅に観光客が集中しすぎています。
東海道新幹線をはじめ、大阪国際空港(伊丹空港)からのリムジンバスなど、ハブとなる場所が京都駅だけになっています。
市バスの混雑もよく取り沙汰されますが、極端に混雑しているのも京都駅から各観光地に行くバスだけです。
(京都駅周辺のバス停で乗車待ちの列に並ぶ訪日外国人=イメージ(写真:StreetVJ/Shutterstock))
(京都駅周辺のバス停で乗車待ちの列に並ぶ訪日外国人=イメージ(写真:StreetVJ/Shutterstock))
反対に、観光スポット各地に最寄り駅がある京都市営地下鉄は赤字なのです。
例えば、烏丸御池にバスターミナルを設置するなど、沿線にターミナルを新たにつくるべきです。市バスの増発は、日本人のバス運転手不足で現実的ではないですから、地下鉄にもう少し観光客を誘導するような施策を打つべきではないでしょうか。
東京にも訪日客は多数訪れていますが、京都ほど問題にならないのは、ターミナル機能が分散されているからです。
東京にも訪日客は多数訪れていますが、京都ほど問題にならないのは、ターミナル機能が分散されているからです。
東京駅や品川駅、新宿駅、池袋駅と空港とバス、電車をつなぐ路線が散らばっていて、1カ所に人が集中しすぎないような仕組みをつくっているのです。
これはタイのバンコクも同様で、空港から観光客がバラバラに目的地まで到着できるようになっています。
京都市では今年2月に16年ぶりに新市長が誕生しました。松井市長は「オーバーツーリズム対策」を公約に掲げています。
京都市では今年2月に16年ぶりに新市長が誕生しました。松井市長は「オーバーツーリズム対策」を公約に掲げています。
彼が今後どのような施策を打ち出していくのか、見守りたいと思います。
💋市民の生活圏が侵食著しく、観光立国=地元生活疲弊が明白化してるのに…またも行政の不作為…