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日本を衰退に追いやる「中抜き」経済を考える 2024/02

2024-02-08 03:12:28 | なるほど  ふぅ〜ん

日本を衰退に追いやる「中抜き」経済を考える
Newsweek より 240208 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代


中間業者が入ればその分だけ事務経費が固定費としてかさんでくる nampix/Shutterstock <「事務部門の維持費」を効率化できれば、現場の収入も上げられ、人手不足の解消にも繋がる>

 近年「中抜き」という言葉をよく耳にするようになりました。例えば、能登半島地震で避難をしている人に配られる弁当が、貧相な内容なので「中抜き」されているのではないか、という議論がありました。弁当といえば、コロナ禍の時期にビジネスホテルに強制隔離された入国者に配られる弁当も貧相だと問題になったことがあります。
 この時はハッキリと国が払う1日2700円の予算の中から、ホテル側が経費として700円を差し引いていたということが明るみに出ていました。

 コロナ禍の期間中は、例えば入国時の検疫に大量の人員が動員されたり、高額なPCR検査が大規模に実施されたりしましたが、これも非正規雇用者や医療従事者には国から直接報酬は払われませんでした。国はあくまで契約した派遣業者や場合によっては旅行代理店などに、まとまった支払いをするだけで、こうした法人が得る利益のことも「中抜き」だと非難されていました。
 
 より構造的なのは、今回2024年問題としてクローズアップされている、運送業や建設現場の問題です。
トラック輸送の仕事は、ドライバーが直接荷主から報酬を受け取るのではなく、間に多くの中間業者が介在しており、ドライバーの報酬は低く抑えられています。
 建設現場での職人への報酬にも似た構造があります。

 まさに、日本経済は「中抜き」経済と言っても良さそうです。
では、本来は生産者やサービス提供者に払われるべき報酬を減らし「中抜き」された利益はどこへ行くのかというと、中間業者の経営者やオーナーなどが「山分け」して豪華な生活をしているのではありません。

⚫︎「事務部門の維持費」という固定費
 中間業者、例えばホテルのマネジメント会社、人材派遣業者、運送業者、ゼネコンや一次下請、問屋、商社などは、それぞれ企業としての体裁を維持しています。
 ですから、固定費として、毎月一定の費用を負担しています。その中でも、総務、経理、人事、営業管理、顧客管理、契約書管理などの事務部門は、一定の業務量があり、そうした部門を維持する費用は、景気の善し悪しにかかわらず負担しなくてはならない固定費となっています。

 この構造、経済のあらゆる段階に「事務部門の維持費」という固定費がかかるために、現場の報酬が上がらない、これが「中抜き経済」の大きな問題点です。
「中抜き」のカネが流れる先の事務部門も、決して豊かでないし、何よりも間接部門の事務作業だからといって定型的で楽な仕事ではありません。
 様式やハンコを伴う複雑な規則に縛られストレス満載の業務であることが多いと思います。制度の全体としては、人々を決して幸福にしてはいません。

 更にこれに加えて、近年では現場の人材不足という問題が出てきています。トラックドライバー、バスドライバー、建築現場の職人などの現場仕事では、極端な人手不足が指摘されており、このままでは社会が崩壊する瀬戸際に立たされています。
このような現場における人手不足はやがて全産業に及ぶでしょう。

ということは、社会として改革の方向性はほぼ絞り込まれると思います。

 本当の意味での付加価値を産まず、GDPへの貢献も薄い事務仕事はDXによって大幅に効率化すべきです。
 その上で多くの人材を現場へ回すとともに、中抜き経済を止めることで現場では大幅な賃金アップと労働時間削減を達成する、そのような方向です。

 効率化はDXにとどまりません。どの会社にもある会計、給与計算、在庫管理などは、業界や企業ごとに「自己流の事務スタイル」が確立していますが、これを標準化して自動化や外注化を進めるのです。DXと合わせて大幅な効率アップが期待できます。
 グレーゾーンを、個々の企業や業界が勝手に解釈してコストや納税額を削減し、そのことを隠すためにコソコソ紙で計算したり、社員がサービス残業したりというムダも追放できます。

 そのようにして、100人いた事務部門を10人に減らすことで、「中抜き」つまり中間業者を限りなくゼロにして、その分を上乗せして現場に支払うのです。同時に、そこで出てきた90人の人材を現場仕事に回して人手不足に対応することができます。

 現場仕事というのは、工場の生産ラインやドライバー、建築現場、観光のサービス現場などに加えて、高い付加価値を生み出すイノベーション関連の技術者、付加価値を伴う情報のマネジメント、工芸家、シェフ、一流のソムリエやコンシェルジュ、更には高付加価値農業や環境ビジネスなども含みます。
 これに伴って、ドライバーや職人の社会的・経済的地位を、工芸家やテック技術者と同等に上げてゆくことも必要だし、可能になってくると思います。

⚫︎社会をどうやって誘導するか
 問題は、そのような方向へと社会をどのように誘導するかです。全体の設計としては、高い価値を生み出す現場仕事に見合う、専門職を育成する社会へとシフトする方向になると思います。
 教育が良い意味での職業教育になり、手に職をつけた若者を社会に送り出し、社会は専門職としてそのスキルを評価するような社会、つまり公平で流動的な労働市場が開かれた社会にするのです。

 成功の鍵は、現在、日本語による原本、様式、ハンコに囲まれた事務仕事に縛り付けられている人材を、やり甲斐と高収入を伴った専門職として価値を生む現場へとどうやって移すかです。
 解雇規制を緩和して痛み先行で進めるのは得策ではありませんし、何よりも社会を暗くします。そうではなくて、どんどん成功事例を作って、多くの人が安心して追随できるようなトレンドを生み出す作戦が必要と思います。
最低でも収入倍増になるような政策が必要です。

 このまま膨大な事務部門を維持しつつ、そのコストをまかなうために「中抜き」を続けて現場を疲弊させていては、日本の国内経済は衰退が加速するばかりです。
今こそ、トレンドを転換するタイミングだと思われます。

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