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⚠️ 戦場で武器・弾薬を運搬! ニュース報道では分からない「軍事ロジスティクス」の深淵 202205

2022-05-15 13:25:00 | 気になる モノ・コト

戦場で武器・弾薬を運搬! ニュース報道では分からない「軍事ロジスティクス」の深淵
 Melkmal より 220515 石津朋之(歴史学者)


⚫︎ウクライナ報道で広まった専門用語

ウクライナ領内に乗り捨てられていたロシア軍の燃料タンク車

 2月下旬のソ連軍によるウクライナ侵攻以降、世界各国のメディアはその実相を詳細に伝えている。そうした報道の中で、

【写真】ロシア軍の苦戦原因は「中国製の安いタイヤ」だった? タイヤが破損したロシア軍の車両を見る

・ロジスティクス
・兵站(へいたん)
・補給

といった、やや耳慣れない専門用語が見受けられるようになった。
 そこで、この小論では軍事ロジスティクスについて分かりやすく説明してみたい。

⚫︎戦争のプロはロジスティクスを語る

 マーチン・ファン・クレフェルト『増補新版 補給戦――ヴァレンシュタインからパットンまでのロジスティクスの歴史』(画像:中央公論新社)
 イスラエルの歴史家マーチン・ファン・クレフェルトは、その主著『増補新版 補給戦――ヴァレンシュタインからパットンまでのロジスティクスの歴史』で、ロジスティクスをめぐる術(アート)を、
「軍隊を動かし、かつ軍隊に補給する実際的方法」
と定義した。

 端的に言えば、ロジスティクスをめぐる術(アート)とは指揮下の兵士に対して、それなくしては兵士として活動できない「1日当たり3000kcal」を補給できるか否かの問題である。彼はまた、戦争をめぐる問題の
  「90%」はロジスティクスに関係するとも述べている。

 もとより、ロジスティクスという言葉が意味するところについては、論者によって見解は大きく異なるが、この小論では、物資の「流れ(フロー)」――物流――を中心に考察を進めたい。
「戦争のプロはロジスティクスを語り、戦争の素人は戦略を語る」
との格言がある。

 1991年の湾岸戦争や2003年のイラク戦争でもそうだったが、テレビなどメディアでは最前線の戦いの場面ばかりが話題にされ、アメリカ本土やヨーロッパなどから中東地域まで軍隊を移動させ、兵士に糧食や水を提供し、必要な武器および弾薬を運搬するという、戦いの基盤となるロジスティクスの側面はほとんど注目されなかった。

 だが、仮にロジスティクスが機能不全に陥れば、いかに世界最強のアメリカ軍や多国籍軍(有志連合軍)といえどもほとんど戦えないのである。

⚫︎ロジスティクスの重要性

ウクライナと国境を接するロシア南部ロストフ州の道路を進むロシア軍車両(画像:)

 ロジスティクスの歴史を振り返ってみれば、例えば中世ヨーロッパの戦争では、基本的に侵攻した地域を「略奪」することによってのみ、軍隊は維持され得た。だが、略奪を基礎とする中世のロジスティクスのあり方は、19世紀の新たな戦争を賄うには問題が多過ぎた。

 その結果、この時期には組織管理上の変化が見られたが、その最も重要なものが、ロジスティクスという業務が正式に軍隊の中に組み込まれたことであり、こうした変化をイギリスの歴史家マイケル・ハワードは
「管理革命」
と表現した。この時期、現地調達を徹底することによって戦いの規模と範囲を劇的に変えたナポレオン・ボナパルトの戦争でさえ、ロジスティクスをめぐる問題がその戦略を規定したのである。

 こうした略奪の歴史が1914年の第1次世界大戦を契機として消滅したのは、戦争が突如として人道的なものに変化したからではない。戦場での物資の消費量が膨大になった結果、もはや軍隊はその所要を現地調達あるいは徴発することが不可能になったからである。

 ロジスティクスの重要性を一言で表現すると、古代から今日に至るまで戦争の様相は「戦略」よりも「ロジスティクスの限界」――兵站支援限界――によって規定されてきたとなろう。つまり、ロジスティクスこそ戦いの様相、そして用いられる戦略などを規定する大きな、時として最も大きな要因なのである。

 戦略を策定する行為を、あたかも真っ白なカンバスに絵を描くように捉える論者が多数存在する。ビジネスの世界であれば経営者が大きな目標を掲げ、それに向かってトップダウンで戦略を下位の部署に落としていくとの発想である。

 なるほどこれは外部から見て理解しやすく、格好の良いものである。しかしながら、たとえ戦略家が地図を広げてどれほど壮大な構想を練ったとしても、それを支える基盤――ロジスティクス――がなければ、しょせんは白昼夢にすぎない。つまり、カンバスの大きさを規定するのがロジスティクスなのである。

 実際、歴史を振り返ってみれば、戦いの場所や時期、規模を少なからず規定してきたのはロジスティクスの限界あるいは制約であったことが理解できる。湾岸戦争やイラク戦争で、とりわけアメリカ軍はいとも簡単に最前線まで兵士や物資を移送させたように見えるが、それが可能であったのは同国軍が中東地域へと至るロジスティクスの線(ライン)――例えばシーレーン――を確保し、それを維持し得たからである。

 もちろん、ロジスティクスの限界は時代と共に変化する。例えば、有名な古戦場の位置を地図で確かめてみれば、ほとんどが河川や運河の近くである事実に直ちに気が付くであろう。大量の兵士や物資を移送するには昔は河川や運河に頼るしか方法がなかったからである。河川沿いにロジスティクス拠点を設けて、そこから行動可能な範囲内で戦ったのである。

⚫︎鉄道とコンテナの活用
 ロジスティクスの観点から近代の戦争の様相を変えた大きな転換点は、疑いなく鉄道の登場であった。

 大量の兵士や物資を絶え間なく内陸部へと送り込め、しかも最前線で負傷した兵士を迅速に後送し治療を施すことが可能になった。その後のトラックの登場――自動車化――によっても、やはり戦争は変化した。

 また、20世紀後半でその代表的な事例はコンテナである。コンテナ化、さらにはパレット化の結果、必要な物資の迅速かつ大量の移送が可能になった。「軍事ロジスティクスにおける革命」のひとつと評価されるゆえんである。

 アメリカを中心として各国の軍隊でコンテナ――国際基準規格(ISO)コンテナ――が広く使用され始めたのは1980年代であり、前述の湾岸戦争では4万ものコンテナが用いられたという。だが、その半分は収納品を把握できず、現地で開梱(かいこん)し確認する作業が必要であった。その後のイラク戦争では、RFIDという電子タグの導入によってこの問題が解決された。

 つまり今日では、コンテナそのものはもとより、そこに収納された個々の物資についてもその所在を正確かつリアルタイムで把握可能な態勢が整っている。ロジスティクスの「可視化」が実現したのである。なお、不定形の物資を移送する際はコンテナではなく、パレットを用いるのが一般的である。「箱」ではなく「板」に載せて移送するとの発想である。

⚫︎ロジスティクスを制する者はビジネスを制する
 ビジネスの世界には「ロジスティクス4.0」という概念がある。これは、人工知能(AI)、 モノのインターネット(IoT)、ロボティクスといった近年の新たな技術イノベーションとそれらの応用が、物流のあり方を根本的に変えつつあることを意味する。

 実際、こうした最先端技術の活用の結果、物流の「省人化」や「標準化」、さらには「装置産業化」が生じつつある。そして、こうした技術イノベーションの活用は、軍事ロジスティクスの領域でも大きな可能性を秘めている。

 民間企業であれ軍隊であれ、伝統的にロジスティクスに関わる大きな課題のひとつは、「ラストワンマイル」の移送であった。鉄道を用いても航空機を用いても、最前線までの「最後の行程」は、トラック、馬、最悪の場合はヒトに頼らざるを得ないとの事実は、歴史を通じてロジスティクス担当者を悩ませてきたのである。

 だが今後、このラストワンマイルは自動配達ロボットやドローンなどの運用によって、無人化が可能になるかもしれない。

⚫︎プロセスとしてのロジスティクス
 また、民間企業であれ軍隊であれ、ロジスティクスとは組織の物流部署だけに任せておくことは許されず、組織全体で対応すべき領域である。

 実にロジスティクスは、装備品もしくは商品の企画段階に始まり、その廃棄に至るまでライフサイクル全般について顧客(ユーザー)を支援することに他ならないからである。

 つまり装備品の移送にとどまることなく、顧客が継続的に使用可能なことを保証する必要がある。装備品の企画、設計、サービス、補修部品といった一連の業務は、決して独立したものでなく、相互に密接に関係しているのであり、ロジスティクスとはまさに
「プロセス」
である。

 確認するが、ロジスティクスについて真に理解しようとすれば、装備品の企画段階からその後の支援(サービス)や補修部品に至るまでのプロセス全般を視野に入れることが求められる。

 当然ながら、戦争の遂行にはいわゆる「シューター」(兵器など)の確保だけでは不十分であり、兵士や物資、情報などの「流れ(フロー)」を維持する必要がある。

 さらに、装備品もしくは商品の性能を最大限に発揮するためには教育および訓練も不可欠であり、こうしてみると、ロジスティクスの意味するところをさらに広範に捉えることが求められる。

⚫︎「軍事ロジスティクスにおける革命」
 イラク戦争では、軍事ロジスティクスの部外委託(アウトソーシング)が大きく進んだとされる。その理由のひとつは、大量の物資――とりわけ現地では調達できないハイテク装備品など――を遠く海外へと移送するノウハウに関して、民間企業の方が優れていたからである。

 湾岸戦争でアメリカ軍は、約2か月間継続して戦えるための物資を事前に準備したが、イラク戦争では約1週間分の備蓄で攻撃を始めたとされる。そして、こうした状況を可能としたのが、衛星もしくは軍事衛星を用いた通信ネットワークの発展であった。最前線の部隊とロジスティクス担当の部隊が衛星で結ばれれば、どの部隊がいかなる物資を必要としているかを容易に把握できるからである。

 実は、戦争においてロジスティクスとインテリジェンス(情報)は相互補完関係にある。また、歴史的に主要諸国の参謀本部制度が確立される過程では、そのロジスティクス部署とインテリジェンス部署が、オペレーション(作戦)部署よりも重要とされた。

 さらに踏み込んで言えば、参謀本部制度とは元来、ロジスティクスに関する機能を強化する目的で生まれたものである。当然ながら、戦略、作戦あるいは戦術の策定とその実施を支える基盤が、ロジスティクスであり、インテリジェンスだからである。

 また近年、軍事の領域では突発的なテロやゲリラ攻撃などに迅速に対応できるよう、現場あるいは最前線の部隊への権限委譲――民間では「アダプティブ」として知られる――の必要性が改めて認識されており、軍事ロジスティクスの領域も例外ではない。

 なるほど今日の軍隊は主として情報通信技術(ICT)の発展の結果、最前線の状況が本国中央でもリアルタイムで把握できるようになった。それにもかかわらずアメリカ軍などは、一部に「任務戦術」の概念を採り入れて最前線の部隊への権限の委譲を進めているが、その狙いのひとつはもちろんテロやゲリラ対応である。戦いが始まって、その度に中央に指示を求めていたら、対応が後手に回ってしまう。

⚫︎「ジャストインケース」から「ジャストインタイム」へ
 ビジネスの世界で「ジャストインタイム」という発想が採用されてから久しいが、その核心は、「必要なものを、必要な時に、必要なだけ」であり、これは今日の軍事ロジスティクスの領域にも広く導入されている。

 冷戦から湾岸戦争にかけての時期は「ジャストインケース」といった発想でロジスティクスが運用された結果、その副産物として大量の物資を集積する「アイアン・マウンテン」が随所で構築された(詳しくは、江畑謙介著『軍事とロジスティクス』日経BP社、2008年を参照)。

 だが、最前線とロジスティクス担当の部隊が通信ネットワークで結ばれ、さらにはRFIDタグが導入された結果、物資の流れをリアルタイムで把握することが可能になった。

 なお、イラク戦争に先立って開始されたアフガニスタン戦争(2001年~2021年)では、最前線に移送した物資のうち70~80%が燃料および水であり、その水の75%が兵士のシャワー用であったとされるが、これは、アメリカ軍だけに許された「特権」である。同国軍の優れたロジスティクス能力の証左であるが、これは「水を制した」古代ローマ帝国(軍)をほうふつとさせる。

 また、民間企業も軍隊も「ジャストインタイム」の発想は同じであるものの、仮に相違があるとすれば、軍隊には戦時あるいは緊急時の物資不足など絶対に許されないため、多少の備蓄が必要とされ、許されるとの点であろう。その象徴的な事例が、いわゆる「RO-RO船」に代表される海上事前集積部隊(MPS)である。

⚫︎軍隊の「アキレス腱」
 もちろん、今日までのこうした「軍事ロジスティクスにおける革命」は大きな問題を解決する一方で、新たな課題も多々生じさせた。

 例えば、イラク戦争では部隊の侵攻があまりにも早かったため、必要な物資を必要な時に必要な数量だけ提供するとの「ジャストインタイム」ですら、その欠点が表面化した。また、この戦争でアメリカ軍の犠牲者の3分の2以上がロジスティクス担当の部隊から出ており、ロジスティクスが軍隊の「アキレス腱(けん)」であるとの事実は、技術イノベーションが大きく進んだ今日でも変わらない。

 さらに冷戦終結後、今日に至るまでの戦争の多くは「テロとの戦い」の様相を呈しており、主権国家間の戦争を想定し構築された従来のロジスティクスの態勢が通用し難くなってきている。

 実はこれは今日、各国の軍隊が抱えた大きな課題のひとつである。従来の正規軍同士の戦争――国家間戦争――では、敵の位置が比較的特定しやすかったため、どこが戦場か、そのためにロジスティクスの線(ライン)をどう確保すべきか、などある程度は予測可能であった。

 ところが、テロやゲリラとの戦いでは戦場の位置すら不明確である。そのため、各国の軍隊は今日、必要な物資をできる限り自ら携行する方策に「回帰」しているようにも思える。

⚫︎「テロとの戦い」の時代のロジスティクス
 先にも触れたように、国家の正規軍同士の戦争を想定した従来のロジスティクスのあり方は、今日、その有用性を徐々に失いつつあるように思われる。

 併せて、自己完結を旨とする従来のロジスティクスの態勢も、大きな見直しを迫られている。テロやゲリラとの戦いに象徴される「新しい戦争」の時代の要請に応じた、新たなロジスティクスのあり方が求められる。

 つまり、従来、自己完結を旨とした主権国家の軍隊が、今日の国家の枠組みを超えた紛争や活動――例えば非通常戦争(非対称戦争)や国連平和維持活動(PKO)――にいかに対応できるか、また、ロジスティクス業務の多くを民間企業に委託せざるを得ない今日の社会状況に軍隊がいかに対応できるかが問われている。

 さらには、伝統的な事態対応型のロジスティクス態勢から、事前対応型のものへの移行も求められるであろう。テロやゲリラに象徴される非通常戦争が多発する今日、最前線と後方地域の境界(線)はますます曖昧になってきており、時としてこうした区分は無意味ですらある。

 ある軍人の言葉を借りれば、ロジスティクスは決して「魅惑的(グラマラス)」な領域ではない。それにもかかわらす、戦争に勝利するためには必要不可欠な領域である。

 近年、食糧安全保障やエネルギー安全保障、さらには経済安全保障をめぐって活発な議論が展開されている。例えば、日本の食料自給率はカロリーベースで37%とされ、エネルギー全般の自給率は12%とされる。
 半導体の不足も大きな問題となった。だが、例えば船舶や航空機などの移送手段が使用できず、鉄道や道路に代表される交通インフラが遮断された場合、東京の食料自給率は1%にとどまるという。

 ここに、今日のグローバリゼーションという時代状況下でのサプライチェーンの確保をめぐる問題が出てくる。物資の流れ(フロー)は「経済の血脈」とされる。だからこそ、生産あるいは調達から小売り消費に至るまでのサプライチェーン全般を円滑に統合することが重要となる。確認するが、ロジスティクスとは人々の生活の基盤であり、インフラである。軍事ロジスティクスは、戦いの基盤である。

 日本は今後、そもそも「後方」と表現されあまり注目されることのない軍事ロジスティクスの領域に、どれだけのヒトや資源を充てることができるのであろうか。

 ウクライナでのロシア軍の軍事行動から推測するに、同国軍は限られた国防予算の中でミサイルや航空機などの「正面装備」に資源を投入し過ぎ、弾薬や補修部品に代表されるロジスティクス、さらには「継戦能力」に対する施策がおろそかになっていたと感じざるを得ないからである。



💋日露戦争(露艦隊の補給譚含め)以降の日本の軍部の致命的な欠点、不作為で以前から指摘されてきたのに…更に精神論が跋扈…
 近代戦争でもいつも問題視され、鉄道でも狭軌広軌問題、鉄道網、アウトバーンの意義とか色々問題視されたのに…
  まだこんな警告文が… 歴史に学ばない…

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