コロナ不況でも「日本だけ」がなぜか強い労働市場…これから5年で圧倒的進化を遂げるかもしれない
現代ビジネス より 210716 DJ Nobby
⚫︎コロナ禍で雇用情勢が大きく悪化
厚生労働省は2020年5月から「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」という統計を毎週公表している。
今年7月2日までの累積値を見ると、雇用調整の可能性があるとした事業所はおよそ13万カ所、解雇等見込みの労働者数がおよそ11万人と、宿泊業やサービス業を中心に深刻な状況が示されている。しかもこれらの数字は都道府県の労働局やハローワークに対して相談のあった件数なので、実際はもっと深刻な状況だと考えられる。
総務省の労働力統計を参考にすると、新型コロナで失われた雇用は2019年12月と2020年6月末を比較するとおよそ110万人。これはリーマンショック時に匹敵する減少幅であり、特にコロナ禍では非正規雇用の減少が目立つ。
2019年には1.6倍だった有効求人倍率も昨年9月には1.04倍まで低下。徐々に回復傾向にはあるものの、未だに採用状況は厳しいと言わざるを得ない。
新型コロナウイルスワクチンの接種拡大などを受けて状況は徐々に落ち着きを取り戻しつつあるが、コロナ禍で職を失った人たちが職場に戻れるまでには、まだすこし時間を要するだろう。
⚫︎実は日本はいまだに「完全雇用」状態
一方で、失業率は意外な状況だ。直近の発表では失業率は3.0%と非常に低く、過去30年の平均値である3.4%を大きく下回っている。4度目の緊急事態宣言発出などにより失業率がさらに悪化する可能性はあるものの、アメリカの5.8%やフランスの7.3%をはじめとして、欧米先進国に比べて日本の失業率はまだまだ低いと言える。
マクロ経済学上の概念で「完全雇用」という状態がある。これは必ずしも失業率がゼロであるということを指しているわけではなく、一定程度の自発的な、あるいは摩擦的な失業は許容されると考えられている。
総務省の労働力統計を参考にすると、新型コロナで失われた雇用は2019年12月と2020年6月末を比較するとおよそ110万人。これはリーマンショック時に匹敵する減少幅であり、特にコロナ禍では非正規雇用の減少が目立つ。
2019年には1.6倍だった有効求人倍率も昨年9月には1.04倍まで低下。徐々に回復傾向にはあるものの、未だに採用状況は厳しいと言わざるを得ない。
新型コロナウイルスワクチンの接種拡大などを受けて状況は徐々に落ち着きを取り戻しつつあるが、コロナ禍で職を失った人たちが職場に戻れるまでには、まだすこし時間を要するだろう。
⚫︎実は日本はいまだに「完全雇用」状態
一方で、失業率は意外な状況だ。直近の発表では失業率は3.0%と非常に低く、過去30年の平均値である3.4%を大きく下回っている。4度目の緊急事態宣言発出などにより失業率がさらに悪化する可能性はあるものの、アメリカの5.8%やフランスの7.3%をはじめとして、欧米先進国に比べて日本の失業率はまだまだ低いと言える。
マクロ経済学上の概念で「完全雇用」という状態がある。これは必ずしも失業率がゼロであるということを指しているわけではなく、一定程度の自発的な、あるいは摩擦的な失業は許容されると考えられている。
具体的にどの程度の失業率であれば完全雇用と言えるのかについては様々な議論があるものの、経済協力開発機構(OECD)が公表している推計に基づくと、日本の完全雇用失業率は3.7%〜4.3%程度であるとされている。
すなわち、コロナ禍で経済に大きな打撃があったとはいえ、失業率という観点から見ると日本はいまだに完全雇用状態にあると言えるのだ。
欧米各国ではワクチン接種が世界に先駆けて開始され、イギリスやアメリカでは経済活動を全面的に再開する動きが広がっている。このような報道に接すると、日本の経済回復は大変遅れているとの印象を持つ方もいるかもしれないが、そもそも負っている傷の深さが全く異なるのだ。
雇い止めや解雇、勤務時間削減などで生活に大きな影響を受けた方も多いが、経済全体としての雇用情勢は他国に比べると恵まれていると言える。
⚫︎人口減少が雇用に与える影響
雇用情勢を語るとき多くの場合は分子、すなわち解雇や失業者数の方に注目が集まりがちだが、今後の日本の雇用情勢を占うためには、実は分母である労働人口の方が重要だ。
足元では合計特殊出生率が5年連続の低下、出生人口はおよそ84万人と過去最低を記録した。一方の死亡数は140万人弱となっていて、コロナ禍の特殊要因があったとはいえ、労働人口の減少は今後も急激なペースで進むと考えられる。
現在の日本の総人口に占める生産年齢人口(15歳〜64歳)はおよそ60%であるため、2020年たった1年間で30万人以上の労働人口が減少したと考えられる。さらに政府予測では今後も少子高齢化は継続するため、2050年には総人口がおよそ1億人まで減少、さらに生産年齢人口比率は50%程度まで低下するとされている。
すなわち、コロナ禍で経済に大きな打撃があったとはいえ、失業率という観点から見ると日本はいまだに完全雇用状態にあると言えるのだ。
欧米各国ではワクチン接種が世界に先駆けて開始され、イギリスやアメリカでは経済活動を全面的に再開する動きが広がっている。このような報道に接すると、日本の経済回復は大変遅れているとの印象を持つ方もいるかもしれないが、そもそも負っている傷の深さが全く異なるのだ。
雇い止めや解雇、勤務時間削減などで生活に大きな影響を受けた方も多いが、経済全体としての雇用情勢は他国に比べると恵まれていると言える。
⚫︎人口減少が雇用に与える影響
雇用情勢を語るとき多くの場合は分子、すなわち解雇や失業者数の方に注目が集まりがちだが、今後の日本の雇用情勢を占うためには、実は分母である労働人口の方が重要だ。
足元では合計特殊出生率が5年連続の低下、出生人口はおよそ84万人と過去最低を記録した。一方の死亡数は140万人弱となっていて、コロナ禍の特殊要因があったとはいえ、労働人口の減少は今後も急激なペースで進むと考えられる。
現在の日本の総人口に占める生産年齢人口(15歳〜64歳)はおよそ60%であるため、2020年たった1年間で30万人以上の労働人口が減少したと考えられる。さらに政府予測では今後も少子高齢化は継続するため、2050年には総人口がおよそ1億人まで減少、さらに生産年齢人口比率は50%程度まで低下するとされている。
概算ではあるが、2050年までにおよそ2500万人の生産年齢人口が失われるのだ。これは現在の生産年齢人口の実に3分1に相当する。
このような急激な労働人口の減少に対して取り得る方策は2つ。「生産性の向上」と「労働参加率の向上」だ。
AIの発達や業務のスリム化などを通じてこの先も生産性の向上に対する取り組みは続いてくことと思われるが、サービス業などを中心に生産性の向上が限界に近づいている業種も多い。また、女性や高齢者の労働参加率の上昇を勘案しても、2025年までには労働人口が減少に転じるとの予測も出ている。
多くの人が認識しているであろう「一度仕事を失うと、次を見つけるのに苦労する」という状況が、この先はむしろ「雇用主側が働き手を見つけるのに苦労する」時代に変わっていくと考えられる。
⚫︎都市部にいると分からない、地方の人手不足
しかし、人が足りないと言ってもそれは若い年代だけの話であって40代以上には無縁の話だ、と考える人も多いだろう。実際、大都市部の比較的待遇の良い仕事はその状況が継続すると考えられる一方で、地方の人手不足はすでに深刻な状況になっている。
長期的なトレンドとして、1970年代以降は南関東・北関東・及び東海地域を除いて、各地域とも人口流出が続いている。この傾向は大都市部である近畿圏でも同様だ。また、人口の高齢化も急速に進行しているため、これから多くの働き手が定年退職し、現場の人手不足感はさらに強まるものと見られる。
このような急激な労働人口の減少に対して取り得る方策は2つ。「生産性の向上」と「労働参加率の向上」だ。
AIの発達や業務のスリム化などを通じてこの先も生産性の向上に対する取り組みは続いてくことと思われるが、サービス業などを中心に生産性の向上が限界に近づいている業種も多い。また、女性や高齢者の労働参加率の上昇を勘案しても、2025年までには労働人口が減少に転じるとの予測も出ている。
多くの人が認識しているであろう「一度仕事を失うと、次を見つけるのに苦労する」という状況が、この先はむしろ「雇用主側が働き手を見つけるのに苦労する」時代に変わっていくと考えられる。
⚫︎都市部にいると分からない、地方の人手不足
しかし、人が足りないと言ってもそれは若い年代だけの話であって40代以上には無縁の話だ、と考える人も多いだろう。実際、大都市部の比較的待遇の良い仕事はその状況が継続すると考えられる一方で、地方の人手不足はすでに深刻な状況になっている。
長期的なトレンドとして、1970年代以降は南関東・北関東・及び東海地域を除いて、各地域とも人口流出が続いている。この傾向は大都市部である近畿圏でも同様だ。また、人口の高齢化も急速に進行しているため、これから多くの働き手が定年退職し、現場の人手不足感はさらに強まるものと見られる。
このあたりの詳しい分析は内閣府が公表している「地域の経済」などをご参照頂きたい。(https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr19/chr19youyaku.pdf)
地方では人手を確保するために年齢や性別、学歴などの条件を緩和して募集をかけるケースも目立つという。この流れが近い将来大都市圏に及んでくることが予想され、労働者である我々も考え方を転換すべき節目に来ていると言えそうだ。
⚫︎最高の「老後への備え」
これからの労働人口減少を見据え、我々が取り得る方策は「生産性の向上」と「労働参加率の向上」の2つだ。特に「労働参加率の向上」が重要だとお話しした。育児や介護に携わる人の雇用を促すことや、様々な事情で働けない人の力を活用することが、これからの日本経済の維持に重要となってくる。
それに加えて、勤労年齢の上限を拡大することも労働参加率の向上には非常に重要になってくるだろう。
老後2000万円問題で注目を集めたとおり、これから定年退職を迎える世代は年金だけで暮らしを維持する事は難しいとされている。現役時代にある程度の貯蓄を作っておかなければ、定年退職後に家計が破綻するリスクが高まるというのだ。
ただ、この状況は今後大きく変わってくる可能性が高い。なぜなら、定年後も元気に働ける人達に対しては潤沢な雇用が生まれると考えられるからだ。
現在、労働人口は15歳から64歳までと定義されているが、人生100年時代と言われる今となっては65歳はまだまだ働き盛りの年齢だと言える。今はまだ大きなマーケットとなっていないが、退職者に対する企業のニーズは今後どんどん高まってくると考えられる。
ここまでにお話ししてきたことから、以下の3点がご理解頂けるだろう。
・コロナ禍でも日本の労働市場のダメージは限定的だった
地方では人手を確保するために年齢や性別、学歴などの条件を緩和して募集をかけるケースも目立つという。この流れが近い将来大都市圏に及んでくることが予想され、労働者である我々も考え方を転換すべき節目に来ていると言えそうだ。
⚫︎最高の「老後への備え」
これからの労働人口減少を見据え、我々が取り得る方策は「生産性の向上」と「労働参加率の向上」の2つだ。特に「労働参加率の向上」が重要だとお話しした。育児や介護に携わる人の雇用を促すことや、様々な事情で働けない人の力を活用することが、これからの日本経済の維持に重要となってくる。
それに加えて、勤労年齢の上限を拡大することも労働参加率の向上には非常に重要になってくるだろう。
老後2000万円問題で注目を集めたとおり、これから定年退職を迎える世代は年金だけで暮らしを維持する事は難しいとされている。現役時代にある程度の貯蓄を作っておかなければ、定年退職後に家計が破綻するリスクが高まるというのだ。
ただ、この状況は今後大きく変わってくる可能性が高い。なぜなら、定年後も元気に働ける人達に対しては潤沢な雇用が生まれると考えられるからだ。
現在、労働人口は15歳から64歳までと定義されているが、人生100年時代と言われる今となっては65歳はまだまだ働き盛りの年齢だと言える。今はまだ大きなマーケットとなっていないが、退職者に対する企業のニーズは今後どんどん高まってくると考えられる。
ここまでにお話ししてきたことから、以下の3点がご理解頂けるだろう。
・コロナ禍でも日本の労働市場のダメージは限定的だった
・この先5年程度のうちに日本の生産年齢人口は減少に転じるだろう
・特に退職後の高齢者に対する雇用は今後大きく増加する可能性が高い
以上のことを踏まえると、これからの労働市場の変化に対応するために必要なのは「健康寿命をできるだけ長くして、働き続ける」事だといえる。身を粉にして働いて2000万円を貯めることができたとしても、そのおかげで体調を崩して長く働けなくなってしまっては本末転倒だからだ。
これからはワークライフバランスを保ちながら、健康に留意しつつできるだけ長く働く、というライフスタイルが先進諸外国でも定着していくだろう。
⚫︎「経済的貯蓄」から「健康貯蓄」へ。
日本の雇用情勢はここから5年間で大きな進化を遂げることになるのではないだろうか。
・特に退職後の高齢者に対する雇用は今後大きく増加する可能性が高い
以上のことを踏まえると、これからの労働市場の変化に対応するために必要なのは「健康寿命をできるだけ長くして、働き続ける」事だといえる。身を粉にして働いて2000万円を貯めることができたとしても、そのおかげで体調を崩して長く働けなくなってしまっては本末転倒だからだ。
これからはワークライフバランスを保ちながら、健康に留意しつつできるだけ長く働く、というライフスタイルが先進諸外国でも定着していくだろう。
⚫︎「経済的貯蓄」から「健康貯蓄」へ。
日本の雇用情勢はここから5年間で大きな進化を遂げることになるのではないだろうか。