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⚠️ 《マグニチュード9、2~3分で津波が来る》南海トラフ地震発生が有力視されている「10年」とは? 202203

2022-03-18 00:56:00 | なるほど  ふぅ〜ん

《マグニチュード9、2~3分で津波が来る》南海トラフ地震発生が有力視されている「10年」とは?
  文春 onlain より 鎌田 浩毅,長尾 年恭,中島 淳一


《首都圏は砂上の楼閣》都心西部、横浜市直下…首都直下地震、想定される震源域は19ヶ所 から続く

被害は東日本大震災の10倍! 首都直下地震、富士山噴火にも備えよ。鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)、長尾年恭氏(東海大学客員教授)、中島淳一氏(東京工業大学教授)ら専門家による最新研究について議論した座談会「南海トラフ地震はいつ起こるか?」を全文転載します。(全2回の2回目/#1より続く 「文藝春秋」2022年4月号より)

「富士山は平安時代から、50年~100年に1度のペースで噴火してきました」

◆ ◆ ◆

⚫︎老朽化したインフラが被災
鎌田 では、首都直下地震が起こった場合の被害はどれほどになるのでしょうか。国の想定する最大震度7の揺れが起きれば、室内にあるピアノやテレビは飛び、耐震補強されていない古い木造住宅の多くは10秒で倒壊します。しかも被害はそれだけではありません。電気、水道、ガスといったライフラインが、最悪、1週間から数週間、遮断される可能性があります。

長尾 私も、インフラ面は非常に大きな問題だと感じています。冒頭で、昨年10月に東京・埼玉で起きた震度5強の地震は2005年にも同じ場所で起きたといいましたが、昨年は前回なかったインフラのトラブルが多発しました。とくに水道管の破裂が多かった。この15年余りでインフラの老朽化が進み、被害が拡大する恐れがある。

鎌田 地震の被害もさることながら、もっと心配なのが火災です。関東大震災では「火災旋風」と言われる火の竜巻が起き、死者10万人のうち9万人は火災で亡くなりました。いまも首都圏には木造住宅が密集した地域があり、地震を生き延びても、潰れた木造家屋の火事で命を落とす可能性がある。

中島 そうですね。

鎌田 その次に怖いのが水です。東京の地下には多くの下水道がはりめぐらされていますが、それが破裂して、地下鉄や地下街に下水が流れこむと、水死者が出るでしょう。

長尾 帰宅困難者の問題もあります。災害が発生した後、帰ろうとするから混乱が起きるので、企業は社員がオフィスにとどまれるよう、積極的に対策を進めるべきです。

鎌田 何百万人もの人が一斉に移動したら密集ができる。そこで「群衆雪崩」、人間による雪崩が発生して圧死するケースも出る。
 だから大災害が起きたら、4、5日は帰宅しない前提で、主要なビルには自家発電設備の設置と、水・食料・医薬品・簡易トイレの備蓄を義務づけるくらいしたほうがいい。

⚫︎懸念される「群衆雪崩」

長尾 大賛成です。

中島 3・11は東北で発生した地震ですから、それを除くと戦後、首都圏が経験した大きな地震は1987年に起きたマグニチュード6・7の千葉県東方沖地震ぐらい。はっきり言って首都圏は大きな地震を経験したことがない。3・11の時の映像を見ると、渋谷駅などが大混乱に陥っていますが、いま想定されているマグニチュード7クラスの首都直下地震が起きれば、あの時以上の混乱になるのではと危惧しています。

⚫︎富士山は「スタンバイ状態」
長尾 では次に富士山の噴火について解説していきましょう。ここ20年で火山噴火のメカニズムに関する理解が根本的に変わりました。かつては、歯磨き粉のチューブをギューっとしぼるイメージでしたが。

鎌田 いまはビール瓶から泡があふれ出すイメージですね。噴火とは地下のマグマが突然、地上に噴出される現象ですが、そのマグマの中に水分が5%ほど溶けこんでいます。その水分が水蒸気になると、液体マグマ全体が膨張して、浮力が大きくなり、火道を上っていく。

 富士山には地下20キロのあたりにマグマだまりがあって、いまパンパンに溜め込まれています。

長尾 富士山は平安時代から、50年~100年に1度のペースで噴火してきましたが、1707年の大規模な宝永噴火を最後に、目立った噴火は観測されていませんからね。

鎌田 そう。300年分が溜まっている状態です。いま解説したように水分が水蒸気になるのは、マグマだまりの中の圧力が下がったとき。マグマだまりの周りにひび割れが生じると、圧力が抜けて下がる。
 実は東日本大震災の4日後、富士山のマグマだまりの上方、深さ14キロで地震が起きました。これによってマグマだまりの天井にひびが入った可能性がある。いま富士山は「スタンバイ状態」なんですよ。

長尾 では噴火した場合に想定される被害は何か。まず広範囲に降り積もる火山灰があります。もし宝永噴火と同規模の噴火が起きると、風向きにもよりますが神奈川県西部で10センチから30センチ、東京都心部では2センチの降灰が予想されています。1センチ以上で健康被害、10センチ以上でほぼすべての都市機能が停止すると言われています。首都圏も決して他人ごとではない。

鎌田 火山灰はタバコや炭の灰とは異なり、正体は砂状のガラスの破片。人体に入ると気管や肺を傷つけ、ぜんそくや気管支炎を悪化させるので健康被害を引き起こす。非常に細かいので、IT機器のなかに入り込むと機能障害も起こる。そうなると都市機能は壊滅です。
 また溶岩流が南へ流れると、東海道新幹線、東名高速、新東名高速という日本の大動脈は寸断される。

中島 問題はどこで噴火するかでしょうね。宝永噴火は山体の南東から大量の火山灰や軽石が放出されて、江戸にも降灰があった。その前の864年の貞観噴火では北西の斜面で起こり、流れ出たマグマが山麓を広く覆いつくしました。この2つは噴火様式が大きく異なりますが、次はどんな噴火が予測されているのでしょうか。

鎌田 富士山には南東・北西方向に火口が並んでいますが、次にどこから噴き出るのかは予測できないのです。火山学の限界ですよ。しかも富士山は火山灰から溶岩流、火砕流、噴石、泥流と、あらゆるものが出る「噴火のデパート」。なにが噴出するかは、リアルタイムで追いかけながら判断するしかない。

長尾 実は、火山噴火の予知は比較的、簡単にできます。地震と違って場所が分かっているので、観測体制さえ整っていれば、前兆現象を捉えることができる。

鎌田 マグマが上がってきたら、山が膨れて傾斜がきつくなる。だから傾斜計を設置しておけば、どの方向にマグマが上がってきたか推測はできます。

長尾 ところが、その観測体制を作るのが大変なのです。いま私は「NPO法人富士山測候所を活用する会」の理事を務めており、観測点を増やそうと活動しているのですが、富士山は静岡県と山梨県、国土交通省、気象庁、あと8合目から上を所有している富士山本宮浅間大社と、管轄が入り組んでいて、交渉に手間がかかる。観測のためにドローンを飛ばすのも禁止なのですよ。それに孤立している山なので風が強くて、機材がすぐに壊れてしまう。いちばん重要な火山なのですが、こうした事情で、思うように観測網の整備が進んでいないのが実情です。

鎌田 東日本大震災のあと、富士山はスタンバイ状態ですから、観測体制を充実させないと。さらに揺らされたら噴火につながります。その引き金をひくのが、私は南海トラフ地震だと思っています。

⚫︎南海トラフ地震の恐怖
長尾 そうなると巨大な災害が複合的に発生するわけです。では、その南海トラフ地震について、中島さんにメカニズムを解説してもらいましょう。

中島 はい。海底にある、海のプレートが沈み込む盆地状の地形を「トラフ」といいます。西南日本では、大陸プレートの下に、年間4センチのスピードでフィリピン海プレートが沈み込んでいます。この境界で起こるのが南海トラフ地震です。

 古文書も含めて記録が残っており、600年代後期、飛鳥時代の白鳳地震から現在まで、100年~200年の間隔で発生しています。
 前回の1944年の昭和東南海地震(M7.9)、1946年の昭和南海地震(M8.0)から約80年経っています。年間4センチが8十年ですから、3メートル以上のひずみが溜まっていて、それが解放されたときが次の地震です。

鎌田 付け加えると、南海トラフ巨大地震には東海地震、東南海地震、南海地震と3つがあって、過去に連動して発生しています。いま中島さんが触れたように、前回は東南海地震と南海地震の組み合わせ。過去のデータから、3回に1回はこれら3つすべてが連動して巨大地震が発生することがわかっていますが、なんと次は三連動の番なのです。

長尾 マグニチュード9近い地震が起きるという想定です。

中島 南海トラフから海岸線にいたる広い範囲で、海側プレートの境界が一気に破壊されるとみられています。震源域が浅くて海岸線に近いので、津波が到達するのも早い。静岡県から西はかなり人口密度が高いので、甚大な被害が予想されます。

鎌田 津波の高さも、最大で高知県34メートル、静岡県33メートルなど、30メートルクラスが想定されています。

長尾 東日本大震災では津波が来るまで20~25分の猶予がありました。私が教えている東海大学海洋学部は静岡県の清水という場所にあるのですが、南海トラフ地震では2~3分で津波が来ます。揺れている間に津波が来るほどの早さです。

⚫︎西日本大震災と呼ぶべき
鎌田 そうした揺れと津波が、静岡県から宮崎県まで太平洋ベルト一帯を襲う。東日本大震災と同じぐらいの広いエリアが被害に遭うので、私は「西日本大震災」と呼んでいます。被害額は220兆円と想定されており、これは東日本大震災の10倍、国家の税収の3倍にも上ります。

長尾 南海トラフ地震は震源域が陸地に近いので、直下型の阪神淡路大震災のように建物倒壊の恐れがあります。首都直下地震の話にもあった大規模火災も起こりえる。鎌田さんの「西日本大震災」という表現は、正鵠を射ていると思います。

鎌田 以前は死者32万人と想定されていました。最近、地震の脅威が周知されたという理由で、23万人に下げられましたが、全然、伝わっていないですよ。

長尾 下げる根拠がないですね。

鎌田 23万人でも東日本大震災の10倍ですから、人的被害も経済的な被害も、ヒトケタ違う。

長尾 そこで問題はいつ発生するかということですが、2030年から40年の間が有力視されていますね。私と鎌田さんの親分の元京大総長、尾池和夫先生は2038年説です。

鎌田 私は2035年プラスマイナス5年と唱えています。プレートにかかるストレスのため南海トラフ地震の40年ほど前から、内陸での地震が増える傾向がある。振り返ってみると、日本で内陸地震が増えてきたのは1995年の阪神淡路大震災からです。その40年後だから2035年。高知県で観測されたプレートの動きからも、そう予想できます。

⚫︎巨大地震の発生はなぜか社会の変動期と重なっている
中島 私は東日本大震災の時は仙台にいたので大地震の怖さを身をもって体験しました。あの地震から、まだ11年。あれほど深刻な事態が東北で起きたのに、世間の記憶が薄れてきている気がします。地震の直後は揺れたら海に近づかないとか、自宅や職場で防災グッズを備蓄するなど、強く意識していたはずです。普段から防災への意識をもって、脳内シミュレーションをやってほしい。

鎌田 それが非常に大事ですよ。

中島 私が学生たちに言うのは、「1日を3つに分けて考える」ということです。1日のうち8時間は大学にいて、夜の8時間は自宅。あとは通学やバイトですね。大学の建物は頑強なのでたぶん倒壊しない。自宅では、ベッドの近くに倒れそうな家具を絶対に置かない。それでリスクは3分の1になる。残りの時間帯は自分でコントロールできない要素も多いのですが、普段から災害を意識していればリスクは下げられます。

長尾 私が提案したいのは、夜の3時間でいいから、電気、ガス、水道を1切、使わないこと。そうすれば自分の家で、何が足りないのか発見できる。

鎌田 きたるべき災害のことを考えていると、暗い気持ちになるかもしれませんから、最後は明るいことを言って終わりにしましょう。
 歴史を振り返ると、地震の活動期は、不思議と社会の変動期と重なることが多いのです。

長尾 そう。前回の南海トラフ地震は終戦直後に発生しました。

鎌田 そのとき松下幸之助や本田宗一郎などの企業家が世に出て、日本に繁栄をもたらした。さらに一つ前に起きたのは幕末で、桂小五郎や大久保利通、西郷隆盛や伊藤博文が明治維新を成し遂げましたよ。
 首都直下地震も、富士山噴火も、南海トラフも必ず起きます。パスはない。でも、その後には20代、30代の若者たちが新しい日本を作り上げてくれると信じています。

(鎌田 浩毅,長尾 年恭,中島 淳一/文藝春秋 2022年4月号)

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