磯野波平さん54歳の衝撃…戦後70年間で日本人の寿命が20年延びた理由【医師が解説】
幻冬社ゴールドOnlineより 230316 和田 秀樹
昭和20年代後半でも、日本人男性の平均寿命は60歳前後、女性でも65歳前後ですした。54歳の磯野波平さんは立派な高齢者、「おじいちゃん」でした。老人医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏が著書『70歳からの老けない生き方』(リベラル社)で解説します。
昭和20年代、波平さんは普通の高齢者だった
■見た目の若さは時代によって変化
老化は個人差がかなり大きいと実感しています。
私は20年以上にわたって有料老人ホームのコンサルタントをしてきましたが、65歳でも何事にも意欲的で、運動に励み、食事でしっかり栄養を摂っている方であれば50代に見える方もいます。逆に、栄養状態がよくなくて病気がちあれば、70歳以上に見える方も珍しくありません。
2021年、医師の近藤誠先生と対談集の書籍を上梓したのですが、その際に近藤先生に『サザエさん』のお父さん、磯野波平の年齢は54歳、と話しました。
すると、少し驚いておられました。60歳は過ぎていると見ていたのです。
ただし、改めて考えてみると『サザエさん』が登場した昭和20年代は、波平さんのような50代半ばで“老人然”とした人はごく当たり前でした。
ですから、作者の長谷川町子さんは「ごく普通のおじいちゃん」として波平さんを描いたのではないでしょうか。
当時、定年間近の日本人男性は波平さんのような風貌でした。
たとえば、昭和20年代後半でも、日本人男性の平均寿命は60歳前後、女性でも65歳前後です。現在よりもかなり平均寿命が短い時代にあって、54歳の波平さんは「立派な高齢者、おじいちゃん」であったのです。
このように時代が変わり、栄養状態もよくなって、昭和の時代と現代では、実年齢と見た目の関係がずいぶん変わりました。元気で長寿の高齢者が増えた理由として、医療関係者の中には医療技術の進歩を挙げる人がいますが、それは大間違い。医療の進歩など、ほんのわずかなファクターに過ぎません。
日本人の長寿に大きく寄与したのは間違いなく栄養と運動です。
若々しさや健康度は平均寿命にも表われています。2020年厚生労働省が公表した日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳。日本は、世界でもトップクラスの長寿国であり、昭和20年代後半のころと比べると、約70年間で20年も寿命が延びている計算になります。
若々しさや健康度は平均寿命にも表われています。2020年厚生労働省が公表した日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳。日本は、世界でもトップクラスの長寿国であり、昭和20年代後半のころと比べると、約70年間で20年も寿命が延びている計算になります。
それにしても改めて考えさせられるのは「余生」の長さです。もはや「定年後=余生」ではないともいえるでしょう。定年後の生き方、時間の使い方は、ますます重要になっています。
■心が健康な人はいつまでも若々しい
年齢を重ねれば誰でも老化します。それはある意味、生物学上、避けられないことですが、心つまり、感情の老化は、個人の意識の持ち方次第でかなりコントロールでき、進行を遅らせることが可能です。
したがって、特に気を付けて予防していきたいのは体の老化よりも、この「感情の老化」なのです。
心が健康で感情が老化しない方は意欲的に活動するので、体も頭も使い続けることになります。老化予防で大事なのは頭や体を「使い続ける」ことなのです。
■心が健康な人はいつまでも若々しい
年齢を重ねれば誰でも老化します。それはある意味、生物学上、避けられないことですが、心つまり、感情の老化は、個人の意識の持ち方次第でかなりコントロールでき、進行を遅らせることが可能です。
したがって、特に気を付けて予防していきたいのは体の老化よりも、この「感情の老化」なのです。
心が健康で感情が老化しない方は意欲的に活動するので、体も頭も使い続けることになります。老化予防で大事なのは頭や体を「使い続ける」ことなのです。
逆に、感情が老化すると、意欲が低下し、頭や体を使うことが億劫になります。
そうすると、身体機能も脳機能も使わないうちにどんどん老化していくことになります。
感情を老化させる原因には、①脳の前頭葉の萎縮、②動脈硬化、③神経伝達物質・セロトニンの減少があります。
⚫︎感情を老化させる3つの原因
では、原因を一つずつ見ていきましょう。
①脳の前頭葉の萎縮
年をとるにつれ、脳は前のほうから縮み、前頭葉から萎縮していきます。前頭葉は高次脳機能のうちの、思考や判断などを司るところです。前頭葉の機能を低下させないためには、前頭葉に刺激を与え続けることです。具体例は後述しますが、生涯現役で仕事や趣味の活動をし続けることです。脳トレによくあるような簡単な足し算も脳の血流を増やすので効果的です。難しい本を読むより簡単な計算のほうが前頭葉への刺激となります。
②動脈硬化
年をとるにつれて、だんだん血管の壁が厚くなり、血管の内腔が狭くなってきます。血管の内腔が狭くなると脳に酸素が届きづらくなり、意欲の低下が生じやすくなります。予防としては、バランスのとれた食生活と適度な運動が大切です。
③神経伝達物質・セロトニンの減少
『カプコンファイティング コレクション』
セロトニンは、幸福感ややる気(意欲)につながる「幸せホルモン」としてメディアで紹介されたりしているので、聞いたことがある方も多いのではないかと思います。
「腸内細菌」がクローズアップされるようになって10年くらいたつでしょうか。雑誌、新聞をはじめとする多くのメディアで腸の重要性が注目され、善玉の腸内細菌のエサとなるヨーグルトや納豆といった発酵食品の売れ行きが急増するなど、大きなブームになりました。
多くの人々の関心を集めた背景に、腸内細菌のもたらす効果が「腸だけではなく脳にまで及ぶ」という点があったように思います。「下半身に存在する腸が頭の脳に影響を及ぼす」ということに驚かれた方も多いかと思います、それは、セロトニンという神経伝達物質が腸内細菌の働きで作られるからです。
腸の中の細菌類がバランスよく保たれていれば、幸せを感じやすくなるセロトニンというホルモンが多く分泌される、というわけです。セロトニン生成の材料となるたんぱく質を摂ることも大事です。
また、セロトニンは、日光を浴びることで分泌が活性化されます。朝の散歩など、太陽の光を浴びながら軽い運動をすることはセロトニンの減少予防に効果があります。
■女性が高齢期に活動的になる意外な理由
70歳くらいになると、生活全般において意欲を失くしてくる男性が増えてきます。出かけるのが面倒、人と会うのが億劫、雑誌や本を読まなくなる、着るものに頓着しなくなる、部屋が片付けられない……。中年以降の男性に“ショボクレ感”が強いのは、男性ホルモンの量が大きく関わっていると考えられます。
そうすると、身体機能も脳機能も使わないうちにどんどん老化していくことになります。
感情を老化させる原因には、①脳の前頭葉の萎縮、②動脈硬化、③神経伝達物質・セロトニンの減少があります。
⚫︎感情を老化させる3つの原因
では、原因を一つずつ見ていきましょう。
①脳の前頭葉の萎縮
年をとるにつれ、脳は前のほうから縮み、前頭葉から萎縮していきます。前頭葉は高次脳機能のうちの、思考や判断などを司るところです。前頭葉の機能を低下させないためには、前頭葉に刺激を与え続けることです。具体例は後述しますが、生涯現役で仕事や趣味の活動をし続けることです。脳トレによくあるような簡単な足し算も脳の血流を増やすので効果的です。難しい本を読むより簡単な計算のほうが前頭葉への刺激となります。
②動脈硬化
年をとるにつれて、だんだん血管の壁が厚くなり、血管の内腔が狭くなってきます。血管の内腔が狭くなると脳に酸素が届きづらくなり、意欲の低下が生じやすくなります。予防としては、バランスのとれた食生活と適度な運動が大切です。
③神経伝達物質・セロトニンの減少
『カプコンファイティング コレクション』
セロトニンは、幸福感ややる気(意欲)につながる「幸せホルモン」としてメディアで紹介されたりしているので、聞いたことがある方も多いのではないかと思います。
「腸内細菌」がクローズアップされるようになって10年くらいたつでしょうか。雑誌、新聞をはじめとする多くのメディアで腸の重要性が注目され、善玉の腸内細菌のエサとなるヨーグルトや納豆といった発酵食品の売れ行きが急増するなど、大きなブームになりました。
多くの人々の関心を集めた背景に、腸内細菌のもたらす効果が「腸だけではなく脳にまで及ぶ」という点があったように思います。「下半身に存在する腸が頭の脳に影響を及ぼす」ということに驚かれた方も多いかと思います、それは、セロトニンという神経伝達物質が腸内細菌の働きで作られるからです。
腸の中の細菌類がバランスよく保たれていれば、幸せを感じやすくなるセロトニンというホルモンが多く分泌される、というわけです。セロトニン生成の材料となるたんぱく質を摂ることも大事です。
また、セロトニンは、日光を浴びることで分泌が活性化されます。朝の散歩など、太陽の光を浴びながら軽い運動をすることはセロトニンの減少予防に効果があります。
■女性が高齢期に活動的になる意外な理由
70歳くらいになると、生活全般において意欲を失くしてくる男性が増えてきます。出かけるのが面倒、人と会うのが億劫、雑誌や本を読まなくなる、着るものに頓着しなくなる、部屋が片付けられない……。中年以降の男性に“ショボクレ感”が強いのは、男性ホルモンの量が大きく関わっていると考えられます。
ちなみに、女性の場合は閉経後に男性ホルモンが増えます。レストランやカフェなどで中年の女性たちのグループが楽しく歓談している光景をよく目にしますが、男性ホルモンが増えると人に興味をもつようになり、人付き合いがさかんになるのです。
男性ホルモン=女性を好きになるホルモンではありません。男性ホルモンは「人にやさしくなる」という作用もあります。
■感情の老化は意欲の低下につながる
早い人は50代から、多くの人は70代になると、いろいろなことを実行するのが面倒になり、日常生活の中で運動量もぐっと低下してきます。1日に5000歩くらいは歩くことを心がけていた人が、ウォーキングの習慣を失くしてしまえば、運動機能や脳の機能の低下は目に見えています。つまり、意欲の低下が心身の老化につながっていくのです。
ものごと一般に対する意欲が低下してくると、ときに「老人性うつ」といわれる状態を招きます。うつ病のレベルではない場合は、精神科に診てもらったり、薬を服用したりすることはないことも多いのですが、なんとなく「ボーッとしている老人」になってしまいます。そうならないように、感情の老化予防を始めましょう。
▶︎和田 秀樹
ルネクリニック東京院 院長