閑雲孤鶴の日々  - Fire生活者の呟き -

Fire生活経験談のほか、世相世情 💹📆、知的生産技術💻📱、書評📒について、書き綴ります。⏳

試しに電灯を消すとどうなるか?

2018年10月17日 | 生活習慣

「試しに電灯を消してみることだ」という一文が、谷崎潤一郎の名著「陰翳礼讃」の最後の一文にある。


私の自宅は、若い頃よりも茶の間の電灯をかなり暗くし、廊下等を含め、LED電灯に切り替えた。キャンプ用品も非常災害用品もほとんどLEDのもの。
消費電力が少なければ、電気代もかなり安くて済む。

それだけではない。陰翳が増えることは、夕食後、余計な刺激に晒されずに済む。夕食後、神経を穏やかなものに維持するには、陰翳があった方が好都合なのだ。山の上で一人テントを張ってキャンプしたことはないが、山の上で見る、七夕の頃の星空はそれだけで満足感があるように思う。星空を見ていると、他に何もいらない気持ちになるという意味である。

この本(角川書店の文庫本)には、谷崎の別のエッセイ「懶惰の説(らんだ)の説」が読める。内容的には、養生訓みたいな文章なのであるが、よくよく読んでいくと、なぜ日本人女性が長生きできるのか、その理由をこのエッセイに見出すのである。

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昔、といってもついわれわれの祖母の時代の頃までは、堅気な家の女房というものはほとんど一年中日の目も見ないような薄暗い部屋の奥にいて、めったに外へ出ることはなかった。京大阪あたりの旧家では入浴さえ五日に一遍ぐらいだったという。そして「御隠居さん」といわれるような身分になれば、一日べったりと据わったきり座布団の上をさえ動きはしない。今から思うとそんな風にしてどうして生きていられたか不思議であるが、彼らのたべる物といっては、ほんのわずかな、ごく淡泊な、鳥の摺り餌のようなものだった。粥、梅干、梅びしお、でんぷ、煮豆、佃煮ー私は今でも祖母の膳の上にあったそういう品々を思い出すことが出来る。彼女たちには彼女たち相応な消極的摂生法があって、多くの場合活動的な男子よりも長寿を保っていたのである。
「寝てばかりいては毒だ」というが、同時に食べ物の量を減らし、種類を減らせば、それだけ伝染病などの危険を冒す度も少ない。カロリーだのビタミンだのとやかましくいって時間や神経を使う隙に、何もしないで寝ころんでいる方が賢いと云う考え方もある。世の中には「怠け者の哲学」があるように。「怠け者の養生法」もあることを忘れてはならない。

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「陰翳礼讃」は照明デザインの世界で、日本文化の特徴を見事に描いているとして評価され、今や世界的なバイブルとして位置づけられている。

私は、この本の重要さを、「外国人が評価する日本人ランキング」という趣旨のテレビ番組にて初めて知った。日本人が日本のこと、日本文化の深層を知らないことは恥ずかしいことであることは承知しつつも、名著は時代を越えても名著として扱われるべきと考え、ここに引用させていただいた。

さて、全国各地のある場所に、とある、しかるべき血筋の名家のお宅がある。私が知るその家、周りの家が日が暮れて照明をつけるのに、なかなか照明が明るくならない。夕暮れになってもすぐに電灯を付けず、かつ「徐々に明るくなる照明」を採用しているためである。つまり、陰翳を礼讃する生活をしているのである。このお宅は、室町時代に家系図が遡れそうな、谷崎が指摘する堅気、旧家レベルのお宅である。

それにしても、良家の日本女性は、老いても日本の陰翳文化の核心に鎮座している、そしてそういう日本女性を西洋社会は格言レベルで評価している、これらの点は素直に認めなくてはなるまい。

そういう意味で、良家の日本女性あるいは陰翳を理解する日本女性を伴侶とできた男は、結婚運の良さ、長寿の環境を提供してくれていることに、感謝すべきかもしれないのである。

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