村の中で生きた真の禅僧である良寛(りょうかん)さんは、仏教の組織という物に一切関わらない、属さないために、自分で生活費を稼ぐしかありませんでした。要は、庶民と同じように働かないと生きて行けなかったのです。
そのために手紙の代筆をしたり、書や絵を書いて、その代価として食物や着物を得ていました。
他の立派な身なりをした僧侶たちは、庶民から寄付を得ながら暮らし、みすぼらしい姿の良寛を遠目で見ないふりをしていたのです。
良寛の生き方は、霊的な「見えない借金」を作りませんが、他の僧侶は死んだ後が大変です。庶民から「先祖のために」と集めた金は、それを私用に使った分は、死後に必ず一銭まで返すことに成ります。今でも、この霊界の法則は生きています。
良寛は、村の多くの住民から愛されていました。その訳は、良寛は良い言葉しか口にしなかったからです。良寛と会えば、ほめられて感謝されるばかりの言葉を掛けてもらえるので、心が辛い住民には特に嬉しかったのです。
良寛は、「良い言葉しか発しない」誓いを立てていた人物でした。誓うというよりも、良寛が持つ自然な本能(内在神)だったのです。
良寛のような善人を見ていると、陰で面白くない連中は当時でも居たのです。
乱暴な悪人の素行をしている連中には、良寛のような善人で人気者は鼻についたのです。いつか、その本性をさらしてやろうとたくらんでいました。
その中に、川の渡し船の船頭の逸話が残っています。
ある日に良寛が、一人で船に乗って来ました。川の中ほどまで来た時に、周辺に他人がいないことを確認した船頭は、良寛が泳げないことを知っていながら船を揺らして川に突き落としたのです。
良寛さんが必死にもがいて沈みかけた時に船頭は、もう良いだろうと良寛を船へと引き上げました。船頭は、良寛が何を言うのかと楽しみに待っていました。すると良寛は、
「助けてくださって有り難う。あなたは命の恩人だ。」と深々と感謝をしたのでした。
船頭としては、良寛が文句を言えばもう一度落としてやろうと思っていたのですが、逆に良寛から感謝をされて目が覚めました。
自分はなんて愚かなことを優しい人間にしたのだろうかと。良寛は、自分が突き落としたことを知っているのに、助けたことに感謝をしてくれると・・・。
良寛とは、絶えず「今という瞬間」しか見ていない人でした。
船頭が突き落としたという先ほどの「済んだ過去」よりも、助けてくれた「今の船頭」に心から感謝をしたのです。
それは本当に心の奥から、それでも「助けてくれた」船頭へ良寛は素直に感謝をしていました。
良寛は「ありのまま」を見る天才です。とにかく「助けられた」という事実に感謝をします。
私たちも、済んだ過去よりも、今の自分に縁のある相手を「正しく見る」練習が大切です。
どうしても、その人を知っている、そういう人だ、・・・と先入観で見ており、「今の」その人を見ていないことが多いのです。
済んだ過去の情報、予測される情報も捨て去って、今の瞬間を見てやろうとする姿勢が大切なのです。
今のあなたの視線は、どこを見ていますか?
済んだ過去ですか?まだ来ない未来の心配ですか?
これでは、大切な今という瞬間を生きていないことに成ります。
今を生きていなければ、これが連続する未来は弱いものと成るのです。
だから、一生懸命に今を生きて、感謝をして行くことが、自分の最善へと導きます。
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