Dr. Jason's blog

IT, Engineering, Energy, Environment and Management

マネジャーの正しい育て方、学び方

2006-07-30 | Business
  カナダのMcGill University の経営学の教授である ヘンリー ミンツバーグ(Henry Mintzberg)先生 「Managers Not MBA: A hard look at the soft practice of managing and management development」の翻訳を入手した。
 経営学を専門とする知人が本屋いくというのにつきあって、一緒に書棚をみていたら発売直後の本書を偶然発見。

 ミンツバーグ先生は、経営学、特に組織論や戦略論では、著名な研究者、教育者である。経歴が少しかわっていて、最初は、カナダの2つの大学で、機械工学の学士、教養の学士(夜学)をとって、それから、MITで経営学の修士と博士をとっている。

 日本では社会人向けにMBAスクールが花盛りだが、欧米ではMBA的なマネジメントの限界がささやかれている。
 本書は、単なる在来型のビジネススクール(経営管理学修士:MBAを出す大学院)での教育の問題へのアンチテーゼではない。MBA取得者の分析的マネジメントの問題から、マネジメントやリーダシップの本質、その教育と学習について、様々な角度から論じている。中盤で、繰り返しのべられるキーワードは「省察」と「文脈からの判断」である。

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目次

はじめに

PART1 MBAなんていらない
第1章 間違った人間
マネジメントは実践である
MBAの入学者選考における「職務経験」
時期が間違っているだけ?
入学者選考の茶番
経営する意思vsビジネスへの情熱

第2章 間違った方法
ビジネス教育の歴史
・ビジネス教育のあけぼの
・アカデミズム重視への回帰
問題だらけのMBA教育
・業務機能が覇権を握った
・マネジメントはどう教えられているのか?
・分析至上主義の横行
・ソフトスキルはどこへ消えた?
ビジネススクールの教育方法
・「現実世界」を追い求めて
・学生がおこなうビジネスゲームの実態
・フィールドワークはそんなに素晴らしいのか?
ハーバード流ケースメソッドの功罪
・ハーバードの授業でやっていること
・ケースメソッドに異議あり
・「ボック報告書」の衝撃
ビジネス教育方法論の収斂

第3章 間違った結果(1)――教育プロセスの腐敗
学生はどう思っているのか?
自信―能力=傲慢
ビジネススクールの無責任商法
ビジネススクールの最大の関心事とは?

第4章 間違った結果(2)――マネジメント実務の腐敗
「現実」世界への跳躍
・教育への投資に見合う就職
・なぜ、MBAがホットなのか?
・コンサルタントと投資銀行家の「花嫁学校」
・MBA学生の人気就職先
・コンサルティング会社にも見離された?
・生産や販売にはノータッチ
マネジメントは迂回
・重役室の傭兵たち
バランスを欠いたマネジメント
・マネジメントに必要な三要素
・MBAのアンバランス
・計算型マネジャーの実態
・ヒーロー型マネジャーの台頭
MBAの成績表
・CEOの座に就くことには成功
・問題はトップでの仕事ぶり

第5章 間違った結果(3)――既存の組織の腐敗
「探検」と「開拓」
マネジメントの2つのカルチャー
MBAが日用消費財産業を好むわけ
起業家として成功しているか?
ハイテク起業家としての存在感
ハイテク企業のCEOに就任するMBA
MBAは新しい時代の「官僚」

第6章 間違った結果(4)――社会制度の腐敗
正統性を欠くリーダーシップ
バランスを欠いた社会
政府も非政府組織もMBAに任せろ?
リーダーシップに関する二つの考え方

第7章 新しいMBA?
MBA教育という支配的デザイン
エグゼクティブMBAの実態
MBAの革命?
教育テクノロジーの変化
国際化の進行
ビジネススクールの本業
世界のビジネス教育
ヨーロッパにおける専門分化
イギリスの新しい取り組み
二つの対照的なプログラム
MBAの「B」と「A」の断絶

PART2 マネジャーを育てる
第8章 企業のマネジャー育成
マネジメント教育とマネジャー育成
ぶっつけ本番
異動させて、助言して、見守る
・計画的人事異動
・メンタリング
・モニタリング
・日本のOJT
マネジャー育成のブッフェ
・娯楽、「教えること」、トレーニング、学習
・カスタマイゼーション
・リーダーシップ・プログラム
・ビジネススクールのプログラム
・新しい取り組み
アクションラーニング
・レバンス流アクションラーニング
・MiLのアプローチ
・GEのワークアウト
・アクションはもう十分?
企業内大学
・企業内大学の未来
日本流とアメリカ流
・マネジメントは「不自然」な行為?
専門分野の枠を越えてマネジャーを育てる

第9章 マネジメント教育の構築
まったく新しいアプローチ
定石1「マネジメント教育の対象は、現役マネジャーに限定すべきである」
定石2「教室では、マネジャーの経験を活用すべきである」
定石3「優れた理論は、マネジャーが自分の経験を理解するのに役立つ」
定石4「理論に照らして経験をじっくり振り返ることが学習の中核をなす」
定石5「コンピテンシーの共有は、マネジャーの仕事への意識を高める」
定石6「教室での省察だけでなく、組織に対する影響からも学ぶべきである」
定石7「以上のすべてを経験に基づく省察のプロセスに織り込むべきである」
定石8「カリキュラムの設計、指導は、柔軟なファシリテーション型に変える」
関与型のマネジメントを実現するために

第10章 マネジャーの育成(1)――IMPMプログラム
IMPM(国際マネジメント実務修士課程)
地理上の基本設定――本当の意味での国際性
構造上の基本設定――バランスの取れたパートナーシップ
概念上の基本設定――マネジメント志向のマインドセット
方法上の基本設定――省察志向の教室

第11章 マネジャーの育成(2)――五つのマインドセット
モジュールの設計
・モジュールの一般的な構造
第1モジュール――自己のマネジメント(省察のマインドセット)
第2モジュール――組織のマネジメント(分析のマインドセット)
第3モジュール――文脈のマネジメント(世間知のマインドセット)
第4モジュール――人間関係のマネジメント(協働のマインドセット)
第5モジュール――変革のマネジメント(行動のマインドセット)

第12章 マネジャーの育成(3)――職場における学習
リフレクション・ペーパー
チュータリング
セルフスタディー
マネジャー交換留学
ベンチャー
メジャー・ペーパーと学位

第13章 マネジャーの育成(3)――学習のインパクト
IMPMは割にあうのか?
IMPMの二つのインパクト
IMPMには効果があるのか?
残された課題

第14章 マネジャーの育成(5)――イノベーションの普及
現役マネジャー向け修士課程の位置づけ
IMPM的アプローチの普及
非営利組織向け修士課程プログラム
Eラウンドテーブル
企業向けの短期プログラム
上級リーダーシップ・プログラム
IMPMのイノベーションに不可欠な要素
「境界」でマネジャーを教育する

第15章 本物のマネジメントスクールをつくる
アカデミックな機関の特権
MBAの「M」と「B」と「A」
・専門分野に特化したプログラム
・現役マネジャー向けの総合的なプログラム
・現役マネジャー向けの非学位取得型プログラム
・学部レベルのプログラム
・年長者向けの博士課程プログラム
学術研究の果たす役割
・アカデミックな成果を求めて
・学問的厳密性と実用性
・研究に役立つ教育
・大学との結びつき
マネジメント/ビジネススクールをつくり変える
・「四〇対四〇対二〇」以外の道
・終身在職権の落とし穴
・縦割りを克服する
・基礎的学問分野の位置づけ
・「変革の担い手(チェンジ・エージェント)」を変革する

注釈
引用参考文献

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 個人的には、最後の15章がとても参考になった。
 550ページの大冊なので、全体を一気によむのはちょっと大変だが、章ごとにうまくモジュール化されているので興味のある章を先に読みすすめることもできる。このボリュームと内容で 2800円+税 はお買い特である。
 翻訳もこなれている。注釈もすべて翻訳されている点はりっぱ。

 経営学やその教育だけでなく、広い意味で、マネジメントとリーダーシップ、人材の教育や学習に興味のある方、現在、マネジメントに関わっている方にオススメの一冊。
 
 

MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方
ヘンリー ミンツバーグ著、池村千秋訳
日経BP社

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21世紀の成功のコンセプト

2006-05-22 | Business
 先週店頭で購入してあった 大前研一氏 の最新作(訳書).
 2006/05/21の時点で,「Amazon.co.jp ランキング 本で18位」と売れている.

 原作の "The Whole New Mind" は,2005年の米国でのベストセラーの一つで,すでに12カ国語に翻訳されているらしい.
 原作者の Daniel H. Pink 氏 は,エール大学のロースクール出身で,ワシントン・ポスト,ニューヨーク・タイムズ,バーバード・ビジネス・レビュー,Wired,Yahoo!Finance等への寄稿等で知られている.

 
 コンピュータやネットワークの高性能化と普及,中国やインド等のアジアの安い労働力,先進国における「過剰な豊かさ」などのために,これまでは知的労働者と考えられていた,医者,弁護士,MBA保持者のような人々ですら,「左脳」的な能力だけでは,21世紀の「第四の波」の変革の中でサバイバルできなとし,その成功のガギを「右脳」的能力である「6つの感性」として解説している.

 個々の話しをみると,美術やデザインについて多少は学んだ者,あるいは,東洋的な哲学や佛教等にふれている者からみると,「あたりまえ」のことをいっている部分も少なからずあると思う.しかし,工業化,情報化の次に来るものが「コンセプト」であるというのは,通常のビジネスパーソンからみると,斬新な視点であるのかもしれない.
 本書の中で,米国では,美術学修士号(MFA: Master of Fine Arts)が,次世代のMBA(経営管理学修士号)のように評価されているとの記述にはいささか驚いた.

 21世紀の新しいコンセプトや感性に興味のあるすべての方にお勧めの一冊.


 筆者解説
 はじめに
 第1部 「ハイ・コンセプト」の時代
 1 なぜ,「右脳タイプ」が成功を約束されるのか
 2 これらかのビジネスマンを脅かす「3つの危機」
 3 右脳が主役の「ハイ・コンセプト/ハイ・タッチ」時代へ

 第2部 この「六つの感性」があなたの道を開く
 1 「機能」だけでなく「デザイン」
 2 「議論」よりは「物語」
 3 「個別」よりも「全体の調和」
 4 「論理」ではなく「共感」
 5 「まじめ」だけでなく「遊び心」
 6 「モノ」よりも「生きがい」

 あとがき


ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代
ダニエル・ピンク(著),大前研一(訳)
三笠書房

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 原書は読んでいないが,大前先生にしては,なんとなく訳文のリズムがよくない部分があるように感じた.
 また,第二部6章で,Mazeを迷宮(メイズ),Labyrinthを迷路(ラビリンス)と訳しているところには,やや違和感があった.
 本来,Labyrinth Maze 異なるものである.本書の中でももその違いについて説明している.日本語で,これらを区別する場合には,ギリシャ神話にでてくるクノッソス宮殿に代表される Labyrinth の訳語は「迷宮」,袋小路のあるゲーム等の Maze の訳語が 「迷路」 として,広く定着していると思う.手元の「新明解 国語辞典 第四版」(三省堂) には「めいきゅう [迷宮] Labyrinth の訳語.」とある.Labyrinth の訳語に迷路をあてているのは,医学用語の「内耳の膜迷路」(Membranous Labyrinth) など,特殊な場合だと思うが,あえて,一般に定着しているものと逆の訳語にしているのは,何故だろうか?
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絵(ビジョン)が描けないから忙しい

2006-05-07 | Business
 連休の始めに「忙しいから絵(ビジョン)が描けないのではなく、描けないから忙しいだけだ」という帯のコピーだけをみて購入。
 よくみると、筆者は神戸大学大学院の看板教授金井壽宏先生であった。

 「組織変革」というよりは、個人と人とのかかわりや、人の行動と情熱(パッション)、使命(ミッション)、動機等の基本的な関係を説く。その上で、変革のための、リーダーシップ、ビジョン(構想の絵図)、シナリオとステップ(足取りの展望)について考察する。

 254ページの中に、よくもまぁこんなに詰め込んで、さすが金井先生という感じ。
 心理学、認知科学、組織論、経営論の幅広いトピックスをカバーして、参考文献も充実。
 自分が勉強不足であることを感じさせてくれる。何度も読み直したい。

 <目次>
 まえがき
 プロローグ うちの会社も、どこの会社も
 第 1 章 個人にとって組織とはなにか
 第 2 章 なぜ組織変革が必要なのか
 第 3 章 変革を動機づける
 第 4 章 組織変革を拒むもの
 第 5 章 組織変革のリーダーシップ
 第 6 章 組織変革のビジョン
 あとがき
 参考文献


 人、組織、変革等に興味のあるすべての方にオススメの一冊。

組織変革のビジョン
金井壽宏
光文社

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  金井先生の著作については、 2005/9/17のblogでも紹介した。
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不適切高価格と高付加価値のパラレルワールド

2006-02-14 | Business
 カリフォルニア在住の知人である八木博士の2006/2/12のblogに,スマートなデザインの家具等で有名なスウェーデンのIKEA社の紹介があった.

 その中に以下のような記述がある.少し長いが引用する:
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コスト低減で思うこと

私は以前いた会社で、米国の大手化学メーカーとの合弁事業締結を担当したことがあったが、その時に米国企業は常に価格ダウンで競争力確保という戦略に固執していた。 私のいた会社は、高付加価値、高価格戦略を掲げていた。 米国の会社との議論は、高機能高価格は、非現実的であると認めれば、合弁をしようというところまできたが、当時のTOP判断で、そこまでの妥協ができずに、話は流れてしまった。 日本の会社の癖であるが、高機能高価格は日本のマーケットでのみ通用する特殊な論理であると思う。 だれでも、いらないお金は使いたくないのである。 ビルゲイツもずいぶん長いこと格安チケットで飛び回っていたという。それにしても、世界展開をしている起業の考え方に学ばされることは多いが、今年の、IKEAの日本での展開は注目に値する。
----------

 この「高付加価値、高価格戦略」というのは,非常に多面的な意味を持つキーワードであると思う.


 まず,日本のマーケットの歪さについて自覚が必要であろう.
 日本では,中流の人々の経済力が中途半端に高いため,様々な日常品や日常的なサービスが世界的にみても非常に高い価格て提供されている.
 しかし,日本では,それが世界的にみて多少高くても「買えてしまう」のである.
 また,非専門家の人件費も,世界的にみて非常に高い.セブンイレブンやマクドナルドのアルバイトで,大学生が 10.00USD/H 稼げるのは,おそらく日本だけだ.
 しかし,一方で,専門家によるサービスや専門家の人件費は,欧米ほど高くはない.
 普段,日本の中にいると,これらのことには気がつかない.


 この日本のマーケットの歪さとは全く別に,どのような業界にも,プロを相手にする製品やサービス,ハイエンドのユーザを相手にする製品やサービスというものがある.そのようなマーケットは,一般にはそれほど大きくはないが,確実に「ニッチ」な市場として存在していて,そこでは,高品質,高性能,高ブランド力等の高付加価値がバリューであり,価格競争力はあまり重要ではない.
 例えば,日本の輸入車市場は,世界一多くの自動車メーカーを国内にもちながら,メルセデスやBMWの高級輸入車販売の台数が,より大衆的で大きな生産量をもつVWよりも多いという,特異なマーケットである.
 日本では,中流の人々の一部も(他の国では収入のバランスから考えられないほどの範囲で),このような高付加価値マーケットのユーザ層を構成している.これは,他の先進国では存在しないユーザ層である.

 これらのことを,はっきりと意識してマーケティングできているのは,そのほとんが日本の企業ではなく,主にブランド品,ハイエンド商品を日本に輸入販売している海外の企業である.


 日本では,この二つの世界が,パラレルワールドのように,同時に存在しているのだ.
 
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133年目と78年目 一つの時代の終焉

2006-01-22 | Business
 133年前の明治のはじめ,1873年に,東京・麹町の薬種問屋,「小西六兵衛店」が写真器材や石版器材の取扱を開始した.
 その後、この会社は、国産初の印画紙、国産初のカラーフィルム、世界初のオートフォカスカメラなどを開発し,写真技術の専門学校( 現在の東京工芸大学) も設立するまでに成長した.それがコニカミノルタの「コニカ」である.

 78年前の昭和のはじめ,1928年に,兵庫・武庫川で,田嶋一雄 が設立した「日独写真機商会」において,ドイツ人技術者の技術指導をうけドイツのローライ社カメラの研究がはじまり,翌年にはレンズ,シャッターなどには輸入部品を用いた"ニフカレッテ"カメラが発売された.
 その後,この会社は、国産初の二眼レフカメラを発売し,NASAに宇宙船搭載用のカメラや露出計を提供し,世界初のオートフォーカス一眼レフカメラを開発する.それが,コニカミノルタの「ミノルタ」である.

 コニカとミノルタは,日本の写真/光学機器の業界では,最も古い歴史を持つ会社であり,2003年,つまり,コニカの創業から130年目,ミノルタの創業から75年目に経営統合し,「コニカミノルタ」となった.


 このような歴史のある、コニカミノルタの写真とカメラの事業ではあったが、残念ながら,デジタル・カメラによるビジネスの流れの変化にうまく適合できなかった.
 銀塩フィルムベースの写真事業からの撤退は時間の問題であったと思う.しかし,デジカメについては,カメラ事業の長い歴史の中での多くの「成功」が「油断」を産み,新しい環境への柔軟な対応が遅れたということであろうか?全く残念なことだ.

  2005/01/19 プレスリリース:「カメラ事業、フォト事業の終了と今後の計画について 」

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21世紀を生き抜く「ザ・プロフェッショナル」

2006-01-02 | Business
 昨年末に入手した数冊のうちの一冊.

 日本人のビジネス・コンサルタントで掛け値なしに世界で一番有名な 大前研一氏 の,昨年秋の著作.
 ハーバードビジネスレビュー(日本語版)への連載をたたき台に,単行本化にあたり大幅に加筆したもの.

 第1章 「プロフェッショナリズム」の定義
 第2章 先見する力
 第3章 構想する力
 第4章 議論する力
 第5章 矛盾に適応する力

 個々のトピックスは,これまでも大前氏があちこちで書いている内容であり,その一部は,既にビジネス・プロフェッショナルの中では「常識」になっているいる.

  学び続ける姿勢
  知的好奇心,知的怠慢
  変化を愉しむ
  試行錯誤
  緊張感
  野生の直感力
  「意志」に投資する
  強固な信念
  「逆行」の発想
  「深度」の経済
  議論する力
  問題解決力とコミュニケーション力
  自由と統率
  直感,洞察,創造
 

 自分自身の日常について,好奇心,こだわり,試行錯誤,緊張感などの不足を痛感させられる.大前氏と議論するつもりで,何度も読み返したい.
 これまで,大前氏の著作を読んだことのない,比較的若い世代にこそお勧めの一冊.
 
 

ザ・プロフェッショナル
大前研一
ダイヤモンド社

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専門家と専門分野,学際的プロフェッショナル

2005-11-24 | Business
 知人と, 11/20のblog に書いた官僚の専門性に関連して,メールでいくつかやり取りした.
 知人が,その内容を,是非 blog の記事にというので,書いてみることにした.


 まず,日本では「博士号」をもっているようなレベルの「専門家」は,大学の先生か,公的機関か大企業の研究所にいる人がほとんどだが,欧米では,民間企業でそれも研究職ではない人も多い.独立系コンサルタントで,博士という人も沢山いる.
 また,複数の専門分野や,複数の修士以上の学位や,専門的な資格を持っている人も沢山いる.いくつか例をあげてみよう.


 欧米の大きな学会,IEEE(www.ieee.org)や,ACM(www.acm.org) の役員選挙のために送られてくる候補者の経歴書をみると,まず,大学教授でない人でも Ph.D.の学位をもっている人が多い.また,
  Ph.D. 博士号
  P.E. Professional Engineer (米国の技術士)
  C.E. Certified Engineer (英国の技術士)
  PMP Project Management Professional (国際公認のプロジェクトマネージャ)
のいずれも,持っていない人は,むしろ少ない.これらの学位や資格を複数もっている人もいる.
あるいは,
  工学士 or 工学修士 + MBA(経営管理修士) or AMP(ビジネススクールの上級経営プログラム)
という人もいる.


 16年ぐらい前,実際に,私が勤務していた会社のシリコンバレーの本社では,以下のような複合的,学際的専門分野をもつ人が少なからずいた.
  工学士 + MBA
  工学修士 + MBA
  工学修士 + 弁護士
  MBA + 弁護士

 そのため,ただ,
  工学修士
  文系の学士 + MBA
だけぐらいでは「普通」という感じだった.

 少し先輩の,社内弁護士だった,T氏(高校のときに渡米した日本人)は,
  コンピュータ工学修士, 会計学修士, 法務博士(ロースクルー)
 という経歴で,特許などの知的所有権の専門家の弁護士だった.
 日本では,弁護士の絶対数が少ないので,有名な大企業でも社内弁護士は珍しい.わたしが入社した当時この会社の社員は,まだ500名弱だったが,3名の弁護士いた.T氏はその中でも一番若手だった.社員が800名になる前に,社内弁護士は4名になった.

 ベテランの人のエンジニアの中には,P.E. の資格を持った人もいたし,技術分野の副社長やディレクタの半分ぐらいは,もちろん,Ph.D. だった.
 ソフトウェアの分野では,
  ソフトウェア戦略担当副社長(前ソフトウェア技術副社長)
  オペレーティングシステム開発担当部長
  コンパイラ開発担当部長
は,3人とも,Ph.D. で,エンジニアとしてだけでなく,マネジャーとしても優秀だった.

 このころに知り合った,M氏は米国の業界では有名なプログラマで,ソフトウェアのコンサルタントもしており,
  コンピュータサイエンスのPh.D.
  MBA
という経歴だった.


 ビジネスの世界に目をむけてみよう.
 日本では,「博士号」をもつレベルの「専門家」は,「視野がせまい」というイメージがあるようだが,そうでない人も多い.
 先日亡くなった,ドラッカー先生は,大半の人には経営学の大家と思われているが,博士の学位は国際法であり,最初の仕事は,貿易商社の見習い,投資銀行の証券アナリスト,新聞社の記者等だった.米国の大学で教えはじめたときは,政治,経済,歴史,哲学などを教えていた.
 GE の経営と人材の輩出で,有名な元CEO ジャック・ウェルチ氏は,一般にはゼネラリストと思われているが,彼は,化学の Ph.D. で,GEのプラスチックの部門のエンジニアだった.
 日本人の経営戦略コンサルタントで,ただ一人世界的に知られている大前研一氏は,原子力工学の Ph.D. で,新人のころは日立で原子炉の設計をしていた.
 経営戦略コンサルタントで沢山の著作があり,多摩大学の教授もつとめる田坂広志氏も,原子力関係の工学博士であり,新人のころは某メーカーに勤務していた.



 政治の世界に目を向けてみよう.
 まず,米国政府の要人の経歴.一部だが,以下に日本語になった詳しい情報がある.
  http://japan.usembassy.gov/j/info/tinfoj-bushadmin.html
 
 元々スタンフォード大学の教授だったライス国務長官が博士号をもっていることはよく知られているが,他にも博士がいる.ブッシュ大統領はMBA保持者で最初の大統領らしい.チェイニー副大統領も博士課程まで進学したらしい.もちろん「弁護士あがり」の人もいる.

 日本の政府とは大分違うように思う.
# そもそも,このような詳細度で経歴が公開されていない.

 

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ドラッカー自伝「20世紀を生きて」

2005-11-24 | Business
 昨日 Amazon.co.jp から「ドラッカー 20世紀を生きて -私の履歴書-」が届いた.
 これは, 11/13日の blog のドラッカー先生の訃報 の中で,写真とリンクだけを載せていたものだ.

 ドラッカー先生のような先人の自伝的な書は「ロールモデル」としても非常に貴重であると思う.

 本書は,2005年2月に日本経済新聞の紙面上で「私の履歴書」として27回にわたって連載されたものを下敷きにして,そのインタービュー,翻訳等を担当した,編集委員の牧野 洋 氏 による,解説,年表,著作,論文/記事などの一覧を追加して一冊にまとめたものである.

 ギムナジウム卒業後,17歳でハンブルグで貿易商社の見習いからスタートし,大学の講義には出席せず,もっぱら読書によって学び,フランクフルトでは新聞の編集者を生業とする傍ら,大学の助手も続け国際法の博士号を取得したことは,本書で初めて知った.第二次世界大戦前のドイツで,働きながら学位を取得するのがそう簡単だったとは思えないが,「当時の大学では,試験さえ通れば大丈夫で,21歳で国際法の博士号を取得していた.」とさりげなく書かれている.
 また,最も成功した経営者の一人といわれる,GEの元CEOジャック・ウェルチに対して,1981年から5年間コンサルタントをしていたことも,初めて知った.

 まだオーストリアが帝国だったころ,すなわち第一次世界大戦前のウィーンの話しから,つい最近までの話しまで,ドラッカー先生の読者にとっては,興味深いエピソードが満載である.
 

ドラッカー20世紀を生きて―私の履歴書

日本経済新聞社

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ドラッカー先生を偲ぶ 「経営者の条件」

2005-11-17 | Business
  11/11(米国太平洋標準時間)の朝に亡くなったドラッカー先生 の最も代表的な著作を読んでいなかったので,先生を偲ぶ意味もこめて,遅まきながら本書を入手した.

 まず,全く不勉強なため,原題が「THE EFFECTIVE EXECUTIVE」であったことを知らなかった.

  成果をあげる能力は取得できる
  汝の時間を知れ
  どのような貢献ができるか
  強みを生かせ
  最も重要なことから始めよ
  意思決定とは何か
  成果をあげる意思決定とは
  成果をあげることを習得せよ
 

 まえがきにある,フレーズがずしりと響く.
 「そもそも,自分をマネジメントできない者が,部下や同僚をマネジメントできるはずがない.ほかの人間をマネジメントすることは,主として,自分が模範となることによって行うことができる.」
 「そして,エクゼクティブとして成果を上げることは,新入社員であろうと,中堅社員であろうと,彼ら自身の自己実現のための前提でもある.」


 終章にある,3章の要点を説く以下の部分は,私のモットーに非常に近いものであることに驚かされた.
 「そして,エクゼクティブたる者は,強みを生かすことによって,個人の目的と組織のニーズを結びつけ,個人の能力と組織の業績を結びつけ,個人の自己実現と組織の機会とを結びつける.」


 ドラッカー先生を偲びながら,初心にかえってじっくりと読み直そう.
 

新訳 経営者の条件
P.F.ドラッカー 著,上田惇生 訳
ダイヤモンド社

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ピーター.F.ドラッカー (PETER F. DRUCKER) 教授逝去

2005-11-13 | Business
半世紀以上にわたって世界で最も影響力のあった,経営学者,ビジネス思想家である ピーター.F.ドラッカー (Peter F. Drucker) 先生 は,米国太平洋標準時間 11月11日 朝,カリフォルニア州のクレアモント(Claremont)の自宅で逝去されました.95歳でした.
 
 謹んでご冥福をお祈りいたします.

 ドラッカー先生についての情報は,いつくかのWebサイトにまとめられています.

  http://www.cgu.edu/pages/357.asp?EventID=176
  http://www.cgu.edu/pages/292.asp
  http://www.cgu.edu/pages/3764.asp
  http://www.druckerarchives.net/


ドラッカー20世紀を生きて―私の履歴書

日本経済新聞社

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ドラッカー先生の著作については,以下の 7/30 の blog の記事でも紹介しています.
 
Jason's Library ものづくりが文明をつくる

 
Jaons's Library ドラッカー入門



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考えるための「読む」技術

2005-10-18 | Business
 「考える」ためには,情報をどう「読む」か?「解読」「解釈」が重要であると思う.
 また,情報の「読み方」には色々なアプローチがある.

 本書は, 産能大学大学院 での,「社会調査法特論」の講義資料をもとに,書き下ろされた,「読む」技術についての教科書である.
 あとがきに,その講義では『「読む」という行為を「知的消費」の技術と位置づけ,「知」という栄養をいかに吸収するか,ということに焦点を合わせた』とあるが,これは,普段の私自身のアプローチに近い.

 筆者の 妹尾堅一郎 先生 は,慶応大学経済学部卒業.化学メーカーで人事,マーケティング等を担当したあと,英国ランカスター大学で経営情報学の博士号を取得.産能大学,慶応を経て,現在は,東大 先端科学技術研究センター特任教授という,少し変わった経歴の持ち主.現在は,知識創造/知的財産マネジメントとMOT(技術経営)の研究,および関連する先端人財育成の方法論開発などを行っている.


 情報社会を生き抜くための,情報の「読み方」==「考え方」に興味のあるビジネスパーソンや大学院生に,オススメの一冊.


考える力をつけるための「読む」技術?情報の解読と解釈
妹尾堅一郎
ダイヤモンド社

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秋の読書月間 (9) イノベーションがもたらす破壊とは?

2005-09-29 | Business
  9/26 の blog で紹介した,『「経験知」を伝える技術』と一緒に届いたもう一冊.たまたま,2冊とも,Harvard business school press のシリーズである.
 こちちらも,まだ読んでいないが,注目の書であることは間違いないので紹介する.

 筆頭筆者の クリステンセン先生は ハーバード・ビジネス・スクールの教授 であり,1997年の『The Innovator's Dilemma』(イノベーションのジレンマ) で,広く知られている.
 本書(邦訳)は,イノベーション・シリーズの最新刊として今月発売されたばかりである.568ページもある大冊なので,複数の本を並行して読み進むスタイルの私の場合,ちょと時間がかかりそうだ.
 
 Amazon.co.jp の紹介によると,「企業という範疇、さらには経験則という不確実性を超えて、業界全体の未来を理論で見通す画期的業績。本書が示す手法は、従来のクリステンセン読者だけではなく、広くビジネスの明日を読もうとする読者にとっての福音となる。」とある.

 「未来を見通す」「変化を予測する」ことに興味のある方に参考になりそうな一冊.



明日は誰のものか イノベーションの最終解
クレイトン・M・クリステンセン, スコット・D・アンソニー, エリック・A・ロス (著)
ランダムハウス講談社

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秋の読書月間 (8) 「経験知」をどう伝えるか?

2005-09-26 | Business
 最近,自分のもっている,専門知識の学習法,暗黙知,経験知を,どのように周りに伝えるかを,模索している.
 特に,習ったり,読んだりして学習したものでなく,様々な場面での経験の結果として身に付いている「経験知」をどのように伝えるかは,非常に難しい課題だと思う.
 現に今も,ことを考えながら,あるプロジェクトのためにオフィスで二日目の朝を迎えようとしている.

 そのようなときに,Amazon.co.jp で偶然,本書をみつけて,早速注文した.
 私自身もまだ,読んでいないが,紹介することにした.

 Amazon.co.jp の紹介には「蓄積された経験知をいかにして組織内で移転するのか?「暗黙知」の形成段階にまで立ち返ってその性質を解き明かし、豊富かつ具体的な事例に基づいて移転方法を分析・解明した画期的な一冊。 」とある.
 
 筆者は,以下のハーバード大とタフツ大の先生である.

  ドロシー・レナード:
  ハーバード・ビジネススクール名誉教授。イノベーション、創造性、
  新製品開発、知識移転などをテーマにビジネススクールで25年近く
  教鞭を執るかたわら、ダイムラー・クライスラーなどの有力企業や
  政府機関のコンサルタントを務めた経験ももつ.

  ウォルター・スワップ
  タフツ大学名誉教授(心理学)。同大学の心理学部長、学長も歴任。
  現役エンジニアやマネジャー向けプログラムでの教育経験もある。
  集団力学、態度変容、人格理論、利他的行動、攻撃性などのテーマ
  に関する学術論文を多数執筆している.


 「経験知」の伝達に悩むすべての人に,参考になりそうな一冊.


「経験知」を伝える技術 ディープスマートの本質
ドロシー・レナード,ウォルター・スワップ
ランダムハウス講談社

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秋の読書月刊 (7) マネジメント心理学

2005-09-17 | Business
 先週の選挙のあとに買ったなかの一冊.

 筆者の 金井壽宏 (かない としひろ)先生 は, 神戸大学大学院経営学研究科 教授である.
 リーダーシップ,モティベーション、クリエイティブなマネジメント,ネットワーキング,キャリア・マネジメントなどについて研究されている.Amazon.co.jp をみると,啓蒙書から研究書まで 29 冊の著書/訳書がある.私も,他にも数冊読んでいる.

 本書では,組織のマネジメントを,組織の中で働く個人の「気持ち」「元気」「志」などの視点から見つめなおし,それらのバロメータを「心的エナジー」とらえている.そして,その働く個人の「心的エナジー」を活かし上げることによって,組織を動かし,より力づけることができると説く.
 一見当たり前のように見えるが,「経営学」の教授で,マネジメントの参考書にこのような心理学的なアプローチを全面に押し出す人は少ない.

 マネジメントにおける心理学的アプローチに興味のある方にオススメの一冊.

組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法
金井壽宏
中経出版

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秋の読書月間 (4) 知識社会と情報共有

2005-09-11 | Business
 今月になって,知識社会,ナレッジマネジメント,情報共有等についてちょっと勉強しなおしてみようと思った.Amazon.co.jp やマーケットプレースで何冊かみつくろって購入した.

 先週は,その中から,たまたま, 田坂広志 先生 の著作2冊を読んだ.
 筆者の田坂先生は, 多摩大学大学院 の教授で会起業家論を講じ, シンクタンク・ソフィアバンク 代表でもある.また,様々な会社の社外取締役や顧問も務めている.
 Amazon.co.jp で検索すると著作の数は,1996年からの9年間で38冊もある.単純に平均すると年に4冊以上執筆していることになる.38冊すべてを読んだわけではないが,ものによっては,言い回しがややクドいと感じる場合もあように思う.しかし,どの本にも共通する特徴は,平易なことばで記述されていることだろう.

 
これから知識社会で何が起こるのか―いま、学ぶべき「次なる常識」

東洋経済新報社

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 知識社会についてのまとめの中で,「言霊」(こどだま)や,Linux等のオープンソースソフトウェアの哲学の骨子の一つである「コピーレフト」(Copyleft)を持ち出すあたりは,さすがというべきだろう.


なぜ日本企業では情報共有が進まないのか―ナレッジ・マネジャー7つの心得

東洋経済新報社

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 情報共有についてまえがきの中で,情報共有が進まない理由として「情報の囲い込み」があげられていた.さらに自身が客員研究員をしていたバテル研究所での経験をふまえて「知恵の出し惜しみをしない」ことの重要性をあげていた.まとめの中では,電子メールや電子掲示板をうまく活用した「共鳴場」の形成とそれによる「こころの生態系」のマネジメントを説く.


 どちらも新しい本ではないが,知識社会,ナレッジマネジメント,情報共有などに興味のある方に広くオススメできる.

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