Dr. Jason's blog

IT, Engineering, Energy, Environment and Management

環境安全工学 11 自動車交通の安全

2006-12-17 | Mech Eng
 某大学の機械系の学科での「環境安全工学」の11回目の講義。
 概要は、以下のとおり。

0. 本日の参考書等
 この記事の最後に示した。

1. 交通事故の現状
  日本の(道路)交通事故の推移
   重度後遺症者、死傷者数 ==> ケガ人は増えている
   死傷者数、死傷事故件数 ==> 事故は増えている
  日本の交通事故発生件数は、1970年(昭和45年)に最初のピークを迎えた後、1970年代後半(昭和50年代中盤)
  までは急速に減少した。
  その後再び増加傾向に転じ、1992年(平成4年)には死者数が11451人に達した。
  その後死者数は減少傾向にあるが、事故件数、死傷者数は増加を続け、2000年こそ微減したものの、依然として
  過去最悪の水準にある。
  過去5年、平均 929,017 件
  一日あたり、 約250件の事故が発生している。

  最近の東京都の(自動車)交通事故 (今年11月まで)
   年齢層別では、65歳以上の高齢者が72人(31.0%)と最も多い。
   状態別では、歩行中の死者が90人(38.8%)と最も多く、また、二輪車乗車中が11人増加。
   時間帯別では、午前6時から8時と22時から午前0時が各25人(10.8%)と最も多い。
   曜日別では、水曜日が46人(19.8%)と最も多く、また、土曜日が昨年と比べ7人増加。
   事故類型別では、横断歩行中の事故、出合頭事故、車両単独事故、追突事故の順に多い。
   違反別では、歩行者側の信号無視、車両側の前方不注意などが多い。
   飲酒運転による事故の死者は25人。
  交通事故死者に歩行者が占める割合 (2004年)
   韓国 39.3%
   ポーランド 34.8%
   日本 30.7%  歩行者の被害者が多い
   ハンガリー 25.2%
   ルクセンブルグ 24.0%
   フランス 10.9%
   ベルギー 9.8% (2002年)
   ニュージーランド 8.7%
   ノルウェー 8.5%
   オランダ 8.1%
   人口密度、信号形態、自動車侵入制限、救急医療、歩道整備....

2. 自動車交通システム
 「自動車交通システム」は,人や貨物,自動車,道路だけ
でなく,それらを支援する様々な設備・施設・システム(交通支援システムという)から構成されている.
 「自動車交通システム」の事故は,人、貨物、自動車、道路、さらに交通支援システムの各領域の原因がからみあって発生する。


3. 人間による交通事故
 ドライバーの事故直前の意識的な行動に起因する事故 75%
 # 残りの 25%は、飲酒運転、無謀運低等

 発見の遅れ 47%
  歩行者、障害物の発見を支援するシステムが必要
 判断の誤り 16%
  警報、情報提供のシステムが必要
 操作の誤り 12%
  操作を支援するシステムが必要
  ユーザインターフェースの改善

 ドライバーの高齢化も、事故を助長している。
  70歳以上の高齢者の運転免許保有者数は507万人(平成16年末現在)
  前年と比べ33万9千人増加、10年前に比べると2.5倍

 酒酔い運転による事故
  2005年に発生した交通死亡事故は6,871件。そのうち、
  約1割にあたる707件は、飲酒運転が原因。
  飲酒は化学的に判断力や運動神経に大きな影響を与える。
  日本は、酒酔い運転に甘すぎる。
  現行刑法では、業務上過失致死傷罪の法定刑は懲役5年以下で、酒酔い運転で死亡事故を起こした場合でも、
  業務上過失致死と道交法違反(酒酔い)を合わせた法定刑の上限は懲役7年。
  米国では,州によっては,酒酔い運転での殺人は,懲役15年である.
  飲酒運転防止に、有効な対策
   アルコール・イグニッション・インターロック装置(AED)
   運転手の呼気から規定値以上のアルコールを検知すると、
   車のエンジンがかからなくなる装置

4. 車両等の改良
  先進安全自動車(Advanced Safty Vehicle: ASV)
  ASVの基本理念
   (1) ドライバ支援
   (2) ドライバ受容性
   (3) 社会受容性
  ASV技術はドライバの運転を支援する。
   支援の形態として、「認知の支援」「判断の支援」「操作の支援」がある。
   支援の機能として、「知覚機能の拡大」「情報提供」「警報」「事故回避支援制御」「運転負荷軽減制御」がある。

  ASVの主なシステム
    ○居眠り警報装置  
    ○ヘルメットマウントディスプレイ  
    ○配光可変型前照灯  
    ○配光可変型前照灯(二輪車用)  
    ○前方障害物衝突防止支援システム  
    ○後側方・側方情報提供装置   
    ○カーブ進入危険速度防止支援システム   
    ○車線逸脱防止支援システム   
    ○緊急制動情報提供装置  
    ○ブレーキ併用式車間距離制御機能付定速走行装置  
     (全車速域制御)  
    ○車線維持支援装置 

    ○被追突予知むちうち傷害低減システム  
    ○不適正荷重配分情報提供装置  
    ○夜間前方歩行者情報提供装置  
    ○車両死角部障害物衝突防止支援システム  
    ○二輪車存在情報提供装置  
    ○車両前面突入軽減装置  
    ○二輪車用エアバッグ  
    ○歩行者傷害軽減ボディ&歩行者保護エアバッグ  
    ○全席シートベルト着用勧告装置

    ○前方障害物衝突防止支援システム  
    ○カーブ進入危険速度防止支援システム  
    ○車線逸脱防止支援システム  
    ○一時停止支援システム  
    ○出合い頭衝突防止情報提供装置  
    ○右折衝突防止情報提供装置  
    ○横断歩道歩行者衝突防止情報提供装置  
    ○路面情報活用車間保持等支援システム

  既に、一部の機能は、商用車にも活用されている。

  既存安全技術の搭載義務化と効果

  アルコール・イグニッション・インターロック装置
   飲酒運転防止効果 5-10%

  ドライブ・レコーダー 
   安全運転、経済運転促進効果 5-10%
   事故処理の迅速化、明確化効果
 
  義務化の前段階としては、損害保険の割引や車両税の割引等のインセンティブの設定が考えられる。


5. 道路等の改良
 交差点での人身事故は多い。
 特に右左折車両が激しい場合、危険度が高い。

 交差点人身事故への原理的な対策:
  分離信号(歩車分離信号)
  1. スクランブル信号
  2. 押しボタン式分離信号
 ■人と車を別々に流すため極めて安全性が高い。
 ■双方が信号を守る限り理論上事故は発生しない。
 (通常信号方式では、信号は守っても事故が起こる)


6. その他の事故低減システム 
 ICタグによる歩行者事故低減システム
 NTTデータ、日産
 アイ・セイフティ「子ども見守り」および「交通安全サービス」
  1. ドライバー通知
  2. 通報駆けつけ
  3. 登下校(見守り)通知
  4. エリア検索


7. 参考書等

学会誌

「自動車技術 Vol.60 2006 10」
 特集 進化していく自動車の安全
 自動車技術会
 http://tech.jsae.or.jp/hanbai/list.aspx?category=102&year=2006


参考URL
ja.wikipedia.org/wiki/交通事故
http://www.npa.go.jp/
http://www.kotsu-anzen.jp/
http://www.itarda.or.jp/
http://www.nilim.go.jp/lab/gdg/intro/accident.htm
http://www3.wagamachi-guide.com/jikomap/jiko_index.asp?j=hok
http://www.police.pref.hiroshima.jp/ps/saijo/daigakujiko.html
http://www.ahsra.or.jp/whats_ahs/02/index.html
http://www.koutsuujikosoudan.com/
http://www.adm.u-tokyo.ac.jp/per/per2/koutu-jiko.html
http://www.sonpo.or.jp/action/inshuunten.html
www.anzen-unten.com/home/archives/2006/06/post_89.html
www.maddjapan.org/madd/mail/mail.html
hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20040225304.html
www006.upp.so-net.ne.jp/bunri/





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環境安全工学 10 鉄道の安全

2006-12-17 | Mech Eng
 某大学の機械系の学科での「環境安全工学」の10回目の講義。
 概要は、以下のとおり。

0. 本日の参考書等
 この記事の最後に示した。

1. 鉄道事故の記憶
 1951年 4月24日 京浜線桜木町駅電車火災事故 死者106名 重傷者92名
 1962年 5月3日 常磐線三河島駅列車多重衝突事故 死者160名 重軽傷者325名
 1963年 11月9日 東海道線鶴見列車多重衝突事故 死者161名 重軽傷者120名
 1972年 11月6日 北陸線北陸トンネル列車火災事故 死者30名 負傷者714名
 1991年 5月14日 信楽高原鐵道列車正面衝突事故 死者42名 重軽傷者614名
 2000年 3月8日 営団地下鉄日比谷線列車脱線衝突事故 死者5名 負傷者64名
 2005年 4月25日 福知山線脱線転覆事故 死者107名 負傷者555

2. 身近な大規模システム:鉄道
 日本の旅客鉄道は世界でも有数の規模である。
 先進国の中ではダントツのトップの輸送量。
 鉄道は、都市生活には欠かせない交通システムである。
 # 朝のピーク時山手線は2.5分、中央線は2分間隔の運行
 また、都市間の移動手段としても重要なインフラである。
 特に、新幹線は、世界的にみても非常に高度で複雑な陸上交通システムである。
 一度に非常に多く人を輸送する。
 山手線:
   11両編成ラッシュ時の乗車率200%以上
   一両の定員は141-162名
   ラッシュ時は、3000名以上の乗客が乗る
 新幹線:
  2階建のMAXE4系
   8両編成で817名、16両編成で1634名の定員
   これが、240km/h で走る
  最速の500系
   16両編成で1,324名の定員
   これが、最高速300km/h、平均242.5km/hで走る。
   ひとたび事故が起きれば大惨事となる。


3. 鉄道事故と教訓
 1951年 4月24日 京浜線桜木町駅電車火災事故 死者106名 重傷者92名
 その当時、京浜線電車に使用していた「戦時設計」の63系の粗悪な構造が死傷者を多くしたとして、国電の安全対策強化の契機となった。

 1962年 5月3日 常磐線三河島駅列車多重衝突事故 死者160名 重軽傷者325名
 列車や設備、事後直後の保安対策が十分に行われなかった事が原因とされ、自動列車停止装置(ATS)の設置を推進する事になった。

 1963年 11月9日 東海道線鶴見列車多重衝突事故 死者161名 重軽傷者120名
 脱線原因を徹底的に調査・実験した結果、車両の問題・積載状況・線路状況・運転速度・加減速状況などが複雑に絡み合った競合脱線であるとされた。
 護輪軌条の追加設置、塗油器の設置、2軸貨車のリンク改良、車輪踏面の改良などにつながった。

 1969年 12月6日 寝台特急日本海北陸トンネル列車火災事故
 機関士はとっさにトンネル内での停止は危険だと判断し運転規則に逆ってトンネルを脱出して停車してから消防車の協力を得て消火作業を行い火元車両焼損だけで無事鎮火させた。
 ところが国鉄は、この犠牲者・負傷者ゼロをもたらした殊勲のトンネル脱出の判断を運転規則に反映させるのではなく「運転規則違反」だとして乗務員を処分し、前述の「北陸線北陸トンネル列車火災事故」の引き金となったといわれている。

 1972年 11月6日 北陸線北陸トンネル列車火災事故 死者30名 負傷者714名
 列車が「当時の規則」に基づいてトンネル内で停車した。
 この事故を教訓に、地下鉄や長大トンネルを走る車両の難燃化・不燃化の基準が改訂され、車両の防火対策が進められた。

 1991年 5月14日 信楽高原鐵道列車正面衝突事故 死者42名 重軽傷者614名
 事故の発端となった信楽駅の信号不具合の遠因は、信楽高原鐵道とJR西日本がそれぞれ別個に「無認可で行った信号制御の改造」と両社の意思疎通の欠如にあった。
 この事故の後、鉄道会社間相互で行われる直通運転に対して鉄道車両と運転方法の安全性など鉄道運転業務面の問題点が指摘されるようになった。

 2000年 3月8日 営団地下鉄日比谷線列車脱線衝突事故 死者5名 負傷者64名
 過去の参考となる脱線事故に関して、運輸省が全事業者に注意を促すことは無かったので営団でもチェックされなかった。
 この事故が法改正を促し、航空・鉄道事故調査委員会発足の契機にもなった。


4. 新幹線の事故
 2004年(平成16年)10月23日 上越新幹線脱線事故
  17時56分頃に新潟県中越地震が発生。
  震度は、6強から7の大地震。最大加速度は1500ガル。
  震源地に近い上越新幹線浦佐駅~長岡駅間を走行中だった
  東京発新潟行きとき325号(200系10両編成)のうち7・6号車を除く計8両が脱線した。
  地震発生当時、同列車は長岡駅への停車のため約200km/hに減速して走行中であったが、早期地震検知警報システム「ユレダス」による非常ブレーキが作動し、長岡駅の東京寄り約5kmの地点で停車した。
当該列車は、8両が脱線したものの軌道を大きく逸脱せず、逸脱した車両も上下線の間にある多雪地方特有の排雪溝にはまり込んだまま滑走したおかげで、横転や転覆を免れた。
  現場付近の高架橋の支柱の多くは損傷したが、豪雪による雪の重みに耐えられるように、支柱が頑強に作られていたため、結果的に地震による崩壊を免れることに繋がった。

  日本では、大規模システムの構築には、必ず地震対策が必要である。
  日本は世界有数の地震多発地域にある。
  「災害に時なし、場所なし、予告なし」

5. 新幹線の安全上の課題
 地震対策の課題

 高架橋、橋脚、トンネルの耐震設計の水準
  高架橋の強度
  高架橋の基礎方式
  活断層の位置
  トンネルの強度

 脱線防止策
  地震検知、警報装置の改良
  警報発信時間の短縮

 逸脱防止策
  脱線しても、車両が軌道から逸脱しないための対策
  車両ガイド
  脱線防止ガード

 トンネル強化
  活断層との交差地域の補強


 その他の問題点
 システム全体の老朽化対策は?

 軽量化された「のぞみ」の車両強度は、十分か?
  脱線した上越新幹線は、旧式の200系だった。

 270-300km/h で走行しているのにシートベルトも
  エアバッグもない?!

 トンネル火災の対策はどうなっているか?

 航空機のように乗客の氏名を特定しない発券のため、
  大きな事故があった場合に被害者を確認するのが難しい。


6. 宿題の提出


7. 参考書等

書籍

新幹線安全神話はこうしてつくられた

日刊工業新聞社

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巨大地震と高速鉄道―新潟県中越地震をふりかえって

山海堂

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図解・鉄道の科学

講談社

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崩壊する巨大システム

時事通信

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参考URL

http://ja.wikipedia.org/wiki/鉄道事故http://blog.goo.ne.jp/ganbaro433/m/200510
http://gonta13.at.infoseek.co.jp/newpage47.htm
http://www2.kanazawa-it.ac.jp/knl/nagase/comment19.html
http://www.kyoto-np.co.jp/kp/special/shigaraki/shigaraki_index.html
http://www.chunichi.co.jp/wtok7/050427T1705.html
http://katoler.cocolog-nifty.com/marketing/cat694201/index.html
http://shippai.jst.go.jp/
http://ja.wikipedia.org/wiki/新幹線
http://ja.wikipedia.org/wiki/山手線
http://ja.wikipedia.org/wiki/JR東二本E231系電車
http://ja.wikipedia.org/wiki/新幹線E4系電車
http://ja.wikipedia.org/wiki/新幹線500系電車
http://www.toshiba.co.jp/tech/review/2003/09/58_09pdf/a02.pdf
http://www.hitachi.co.jp/Div/omika/product/koutsu/index.html
http://www.hitachi.co.jp/inspire/hakken/yellow/01_kotsu_system.html
http://techon.nikkeibp.co.jp
http://www.osaka-jma.go.jp/tokushima/handbook1/6-6.ht


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