ぶんやさんち

ぶんやさんの記録

M.エンデ作「郊外の家」(「自由の牢獄」収録)

2007-12-13 17:05:32 | 雑文
「悪が持つ秘密とはただ一つ、悪に秘密がないということだけなのかもしれません。」
これは、M.エンデの「郊外の家」という作品の最後に付加された「追記」の文章である。この作品は、この「自由の牢獄」という作品の中で、昨日紹介した「ポロメオ・コルミの通廊」に対する読者からの手紙という形式で書かれている。この作品のドイツ語の書名は「町の周辺にある家」という意味であり、ナチス時代を題材とした作品である。この作品のテーマは「悪」はどこに存在するのかということである。エンデが「悪の巣窟」として描く「町の周辺の家」は「外側だけの家」である。正方形の建物で、表と裏、右側面と左側面とはまったく相似形で、面のドアを開けて中にはいると、そのまま裏側から外に出てしまう。その逆も同じで、左右の側面も同じという不思議な家である。結局、その家は戦争の末期、爆弾によって破壊されるが、その瞬間、家は内側に吸いこまれるようにして消滅し、跡形もなくなってしまったという。読者からの手紙の最後に上にあげた文章が追記として書かれている。したがって、「追記」といっても、エンデの作品としては本文に属している。
悪は確かに「町の周辺」に存在する。しかし、その存在の場所はない。「空虚」という空間すらもない
昨日、日本漢字能力検定協会が全国公募した「今年の漢字」が発表され、トップだったのは「偽」ということであった。「偽もの」とは本物が存在して、はじめて存在するものである。「ホンモノ」のない「ニセモノ」が堂々と本物として通用している。ホンモノのない「偽正義」が世にはびこっている。

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