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感想:男声合唱団ジョイフル・スーベニール 第18回定期演奏会

2016-10-24 19:24:25 | 雑文
感想:ジョイフル・スーベニール 第18回定期演奏会

2016年10月23日、アクロス福岡シンフォニーホールにて男声合唱団ジョイフル・スーベニールの第18回定期演奏会が開催され、楽しませて頂いた。

この合唱団は1998年4月に結成された。結成当時は僅か11人だったのことであるが、現在では70人を超える大合唱団に成長した。しかも、その平均年齢が76歳という。

演奏会は4部で構成され、第1部「心に響くロシア民謡」、第2部は、今年「山の日」(8月11日)が制定されたのを記念して「青春の山の歌」、第3部は福岡女子短期大学音楽科の学生による賛助出演、第4部はミュージカル曲。たっぷり2時間はの演奏で、聴衆は満足したようである。

第1部、団員が整然と登場すると会場がざわめいた。予想していたこととは言え、黒のズボンに白のブレザーの老紳士たち70人、もうそれだけで会場を圧倒する迫力があった。その緊張も、演奏が始まると観衆は完全に包み込まれてしまった。そこには、もう老人ではなく、若々しい男性群が楽しそうに青春を謳歌している姿があった。私自身は、この人たちとほとんど同世代であるが、もうあのように歌う元気もないし、声も出ない。

なぜ、彼らはロシア民謡を、あのように「自分たちの歌」として歌っているのだろうか。その時、ハッと思った。これがこの世代の人の「青春の歌」なのだ。あの頃、私もこれらの歌を歌っていた。この人たちが、高校に入学したのは1950年代の中頃だ。その頃、新しい日本を作るという一種の革新運動が起こった。1953年11月27日には、日本共産党を中心とする労働組合などで「1953年日本うたごえ祭典」が日比谷公会堂で開催され、それを切っ掛けに、全国各地で「うたごえ運動」が広がっていった。その2年後には、「1955年日本うたごえ祭典」が両国の国際スタジアムで開催された。この「うたごえ運動」は日本の音楽史における一つのターニングポイントとなった。それまでは、音楽とか、歌とかは女・子供の遊びだという雰囲気が日本にはあって、男が人の前で大声で歌うということは「はしたない行為」と見做される雰囲気があった。私が中学の頃(1950~53)、音楽の先生が、私には音楽の才能があると言って、ピアノを教えたいと言われた。その時、もちろん家にはピアノなどないし、男がピアノを習うなんて恥ずかしいと言うと、母親は烈しく怒り、「ベートーヴェンもモーツアルトもみんな金玉をぶら下げている」と叱られたことを思い出す。それで中学では、放課後音楽室でその先生からピアノを習い、だんだん音楽に引かれていき、高校に入学したとき(1953年)にはその先生の先生を紹介され、3年間、天王寺の先生のお宅でレッスンを受けるようになった。練習は、授業が始まる1時間前に登校して音楽室のピアノを使わせて貰った。そのためクラブ活動は「音楽部」、その頃音楽部は女子のクラブで、男子は私一人、最初の頃は「変人」扱いをされたが、そのうち仕方なしに指揮をすることになり、3年間どっぷり音楽に浸かった生活であった。平均年齢76歳というと、この人たちは1956年高校入学ということになる。
日本のうたごえ運動とまさに重なる頃のことであった。ただ、当時高校生であった私たちは、直接うたごえ運動とは関係しなかったと思うが、この運動を切っ掛けにして、1950年後半から1960年にかけて、全国各地に「歌声喫茶」が流行したのだ。ここでよく歌われたのがロシア民謡であった。私はこの時代に青春を謳歌した人たちを「歌声喫茶世代」と呼ぶ。ここでは、男も女も、セミプロのようなリーダーの指導で思いきり歌を歌う。少々大袈裟に言うと、歌声喫茶から男も歌を歌うという文化が形成されたのである。その後、1970年を挟んで、学生運動等によるフォークソングがはやり、70年代後半からカラオケ文化へと展開する。1970年代には30歳代になっており、社会の中堅となり、フォークソング世代とは距離があったように思う。
要するに、歌声喫茶世代にとってロシア民謡は「心の故郷」である。その流れの中で第2部の「山の歌」も盛んに歌われた。「雪山賛歌」「「山男の歌」などは、うたごえ運動がもっていたイデオロギー性を脱し、「男の歌」であった。
第1部から第2部への展開はごく自然なもので、これらを「自分たちの歌」として生き生きと歌う姿は、気持ちがよかった。
15分の休憩を挟んで、第3部の若いお嬢さんたちの歌は素晴らしかった。もう少しダイナミックな演出があってもよかったかなと思う。
さて、第4部、かなり力を入れた演奏であると思うが、残念ながら、エネルギーが枯れていた。高齢者の宿命は、歩行力と腹筋力の衰えに現れる。腹筋が弱ると、いくら頑張ったって、声が前に出ないのである。これは誰よりも私自身が日頃感じていることである。歌だけではない。人の前で話しているとき、自分自身は声を出して話しているつもりでも、声が口元だけで止まってしまうのである。
でも、そんなことはマイナスではない。76歳を平均年齢とする70人の紳士たちが、目を輝かせて、若者のように嬉々として歌うその姿に、観衆は感激したのである。
あと2年で、創立20周年を迎えるとのこと、ここで歌った人たちが全員、元気な姿で歌う姿を見たい。

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