唯物論者

唯物論の再構築

ヘーゲル大論理学存在論 解題(2.弁証法と商品価値論(6)需給量主導の市場価格決定)

2020-03-13 07:25:28 | ヘーゲル大論理学存在論


21)需給量主導の市場価格決定の動き

 需給量主導の需給曲線は、価格と商品量の座標で先の(18Ⅰ)の需要曲線と同様にその需要曲線も右肩下りになり、(18Ⅱ)の供給曲線と同様にその供給曲線も右肩上りになる。供給曲線が右肩上がりなのは、商品量に商品価格が正比例するだけなので、当たり前である。しかしこの理解だと、需要曲線が右肩下がりなのは不自然である。この不自然を正すためには、需要曲線の表す商品量が需要に対する供給量と理解され、供給曲線の表す商品量が供給に対する需要量と理解されるべきである。つまりそれは、需要曲線が表すのは在庫量であり、横座標が在庫過剰の度合いだと理解することであり、供給曲線が表すのは不足量であり、横座標が商品不足の度合いだと理解することである。その詳細は次のような商品需給量の購入価格への連動だと解釈される。

 21Ⅲ)商品在庫過剰がもたらす購入価格の下落
  21Ⅲ1)在庫過剰は、販売者の商品完売の必要に従い、商品の廉価販売を目指す形で販売価格を下落させる。
  21Ⅲ2)在庫過剰は、商品の高値買取で商品獲得を謀る購入者の思惑を不要にする。それゆえに購入価格も販売価格に連動して下落する。
 21Ⅳ)商品不足がもたらす販売価格の高騰
  21Ⅳ3)商品不足は、購入者の商品獲得の必要に従い、商品の高値買取を目指す形で購入価格を高騰させる。
  21Ⅳ4)商品不足は、商品の廉価販売で商品完売を謀る販売者の思惑を不要にする。それゆえに販売価格も購入価格に連動して高騰する。

 ここでの商品在庫過剰や商品不足は、いずれも対応する価格の下落や高騰に連携する。しかしこの価格の下落や高騰が商品量に与える影響は、20)でまとめたように実際には販売価格と商品原価の相関において不定である。とは言え価格の下落や高騰が、出発点の在庫過剰や商品不足を是正する方向に進まなければ、在庫過剰や商品不足はさらに激化し、暴落や暴騰へと連携する。暴落は、場合によりその商品を市場から永久に消滅させる。また暴騰も、場合によりその商品を特殊商品にし、異なる需給調整が働く特殊な市場に永久に追放する。暴落や暴騰が商品を市場から消滅や追放させるケースは、いずれも在庫過剰や商品不足の是正が不可能な場合に起きる。そしてそれらの商品において自らの過剰や過少の是正が不可能なのは、その商品の固有の特性に従う。市場から消滅した商品では、その特性は使用価値の欠落として現れる。また特殊市場に移る特殊商品では、その特性は再生産不可能性として現れる。そしてこの再生産不可能性が特殊商品を希少にし、この希少性が特殊商品を商品量による価格変動から解放する。これにより特殊商品は、意識の恣意的価格決定だけを受け付けるようになる。しかしこの希少性は、逆に特殊商品における生来の使用価値を没落させる。その代わりに特殊商品は、今度は希少性を自らの使用価値にする。ところがこの希少性は、個別の用途に対して個別に現れる使用価値ではない。したがってそれは普遍的な使用価値であり、無定形な使用価値に純化されている。それは全方向に向いた全能的使用価値であり、単なる快楽として言い換えることができる。それゆえに特殊市場において特殊商品は、快楽の塊として取引される。特殊市場におけるこの快楽の大きさは、特殊商品の支配可能な価値の大きさとして現れる。言い換えると特殊市場では、この特殊商品の支配可能な価値の大きさが、特殊商品の価値の大きさとなる。そして特殊市場においてこの特殊商品は、その支配可能な価値の大きさを自らの価値の大きさだと扱われて売買される。自らの支配可能な価値の大きさを自らの価値の大きさとする商品とは、簡単に言えば貨幣である。つまり特殊商品とは、貨幣の一種である。このような再生産不可性は土地などの不動産にも該当し、それらを特殊商品にする。ただしその再生産不可性は、個々の不動産が持つ代替可能性に応じて消滅可能である。それゆえにそれらの特殊性も限定的である。


22)需給量主導の市場価格決定の問題

 商品の需給関係における量的過剰や量的過少が是正されなければ、それがもたらす暴落や暴騰は、商品を市場から消滅または追放する。一方で商品は市場に残留する限りで商品である。したがって商品が商品である限り、その量的過剰や量的過少は必ず是正されなければいけない。そしてこの是正は、商品に対する商品としての数量的維持に等しい。この是正の第一条件は、商品の使用価値の実在である。使用価値が無ければ、その商品に対する数量的維持が要請されることはない。その商品は、市場の中で価格下落の果てに商品としての自然死を迎える。そして是正の第二条件は、商品の再生産可能性である。再生産不可能であれば、その商品に対する数量的維持も不可能である。やはりその商品は、市場の中で価格高騰の果てに商品としての自然死を迎える。商品の量的過剰や量的過少が是正されるためには、価格の下落や高騰がそのまま暴落や暴騰に連携する前に、価格の増減方向を反転する必要がある。この反転の条件は、先に不定と見られた価格の下落や高騰による商品量への影響のうち、商品量の変化が反転しない側を無効にするのを条件とする。すなわちその条件は、上記の18Ⅰ)と18Ⅱ)の相反する動きの一方だけを有効にし、他方を無効にすることである。そこで以下に、減少する商品量が増加に転じるケースを考える。例えば在庫過剰は、21Ⅲ)の事由に従い価格を下落させる。ここではこの価格下落が18Ⅱ5)の事由で販売商品量を減少させたと考える。この価格下落状態で商品量の増加に転じる条件については、18Ⅱ)に示した次の箇所が該当する。

 18Ⅱ4) 購入価格の下落は、下落前後で購入者の同一額の購入商品量を増やす。
      それが購入者に商品の大量購入を促せば、購入量はさらに増加する。そうでなければ購入量も増加することは無く、とりあえず現状を維持する。
 18Ⅱ5) 販売価格の下落は、それ以上の原価の下落が無い限りで、下落前後で販売者の同一商品量の販売収益を減らす。
      極端な販売価格の下落は、販売収益を赤字に転じるかもしれない。
      販売損失は、販売者に商品の販売を断念させ、販売商品量は減少する。そうでなければ販売量も減少することはなく、とりあえず現状量を維持する。
 18Ⅱ6) 販売価格が下落でも、それ以上の原価の下落があれば、高騰前後で販売者の同一商品量の販売収益を増やす。
      販売増益は、販売者に商品の大量販売を促し、販売商品量を増加させる。
      そうでなければ販売量も増加することは無く、とりあえず現状量を維持する。

上記の18Ⅱ4)は、購入量増加の単なる可能性に留まる。それゆえにここでは無視する。次の18Ⅱ5)はもともとの販売量の減少事由である。そこでまずこの減少事由は無効にされるべきである。このためには原価の下落幅が価格の下落幅を超えなければいけない。このときに販売者は販売収益を出すために、投下労働力を減らすなどの原価下落の対応を取るであろう。一方で原価の下落幅が価格の下落幅を超えることは、18Ⅱ6)の販売量増加の条件でもある。そうであるなら、原価の下落幅を価格の下落幅以上にすれば、販売量増加するかのように見える。ところが18Ⅱ6)もまた販売量増加の単なる可能性にすぎない。販売者による販売量増加の試みは、ここでジレンマに突き当たる。投下労働力を減らすなどの原価下落の対応は、雇用労働者の賃金カットや配当資本金の減額として現れれば、それは内実的にただの販売減益である。それは商品販売の断念事由であり、むしろ販売量を減少させる。需給量主導の市場価格決定の先には、価格主導の市場価格決定が現れた。そしてこの価格主導の市場価格決定に従えば、この先に現れるべき販売量増加の道筋は見えない。このままだとまるでこの商品は、販売価格を徐々に切り詰めて暴落に至り、市場から消滅せざるを得ないかのようである。


23)需給量主導の市場価格決定についての総括

 使用価値が欠落した商品は、販売損失を生じて最終的に市場から消滅する。しかし価格が損益分岐点から損失側に落ち込まないのであれば、その商品は市場から消滅することなく、市場に残ることができる。ただしこのときの商品価格は、販売者の身を削るような低価格ではない。それはどれほど減額したとしても、その総額が販売者の平均的人間生活を保障するような商品価格である。またそうでなければ結局その商品は、市場から消滅せざるを得ない。もちろんこのときに商品価格が体現するのは、商品再生産に必要な投下労働力の量である。したがって販売価格の下落は、その売上額が販売者の平均的人間生活を実現する規模の値段を下限にする。当然ながら販売価格がそれを上回るなら、需要量の増加に応じた販売量の増加は十分可能である。
 ここで需給量主導の市場価格決定における問題にし、具体例として検討したのは商品価格下落における商品量減少の下限であり、その増加反転の仕組みである。それはもともと価格主導の市場価格決定では、意識の恣意でしか片付けられない不定な商品量の増減として、単なる可能性であった。価格主導の理屈で説明できない増加反転の仕組みが、需給量主導の理屈でなぜ説明可能なのかと言えば、商品量が投下労働力量に比例し、商品量自体が労働力量を表現するからである。そうでなければ、商品価格が商品の自ら体現する労働力量を下回る事態に対し、販売者がその安値に危機意識を持つ必要もなければ、その安値に購入者が飛びつく理由もない。上記では在庫過剰に端を発して減少する商品量が増加に転じるケースを考えたが、商品不足に端を発して増加する商品量が減少に転じるケースを考えても、結論は同じである。商品価格が商品が自ら体現する労働力量を上回るなら、購入者はその高値に危機意識を持たざるを得ず、販売者もその高値に飛びつかざるを得ない。ここでは、商品価格高騰における商品量増加の上限に、投下労働力量を表現する商品価格が再び現れ、増大する商品量を減少反転させる。すなわち商品において投下労働力量を表現する商品価格は、商品量減少の下限であり、同時に商品量増加の上限である。もちろんこの商品価格が収束する先とは、その商品の市場価格であり、その表す商品量が市場における商品需給均衡量になっている。


(2020/02/24) 続く⇒((7)限界効用逓減法則) 前の記事⇒((5)価格主導の市場価格決定)


ヘーゲル大論理学 存在論 解題
  1.抜け殻となった存在
  2.弁証法と商品価値論
    (1)直観主義の商品価値論
    (2)使用価値の大きさとしての効用
    (3)効用理論の一般的講評
    (4)需給曲線と限界効用曲線
    (5)価格主導の市場価格決定
    (6)需給量主導の市場価格決定
    (7)限界効用逓減法則
    (8)限界効用の眩惑

ヘーゲル大論理学 存在論 要約  ・・・ 存在論の論理展開全体

  緒論            ・・・ 始元存在
  1編 質  1章      ・・・ 存在
        2章      ・・・ 限定存在
        3章      ・・・ 無限定存在
  2編 量  1章・2章A/B・・・ 限定量・数・単位・外延量・内包量・目盛り
        2章C     ・・・ 量的無限定性
         2章Ca    ・・・ 注釈:微分法の成立1
        2章Cb(1) ・・・ 注釈:微分法の成立2a
        2章Cb(2) ・・・ 注釈:微分法の成立2b
         2章Cc    ・・・ 注釈:微分法の成立3
         3章      ・・・ 量的比例
  3編 度量 1章      ・・・ 比率的量
        2章      ・・・ 現実的度量
        3章      ・・・ 本質の生成


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