27)価格理論への期待
先に述べたように価格理論が期待するのは、需給均衡量から外れた商品量における商品の市場価格の解明である。価格曲線を一つの曲線で描く限界効用理論の効用曲線図は、価格曲線が二つに分裂する従来の需給曲線図に対し、このような期待に応えるものであり、その有意性もこの点に集約されるはずであった。ところがその効用曲線も上記26)でその内容を二元分解すると、元の需給曲線に戻ってしまう。おそらく限界効用理論にすれば、このような効用曲線の内容分析と二元分解は余計なお世話である。しかしこのような限界効用理論の考えに関わらず、商品価格の分析は商品価格の購入価格と販売価格への分裂を動機づける。需給商品量における市場価格を外れた価格では、購入者と販売者がそれぞれ商品に見出す効用も対立し合うからである。そして効用曲線がそのように分裂したなら、24)の需給曲線図で示したように、需給均衡点を外れた他の商品量での効用も不定となる。一方で限界効用理論における効用曲線の需給分裂の拒否は、逆に限界効用の概念が抱える一つの無意味さを暴露する。なぜなら効用一元曲線の全ての点は、その商品量における市場価格であり、その全てが限界効用のはずだからである。そのことは、最大効用を示す曲線上限値だけを特別扱いし、それを限界効用と呼ぶ限界効用理論の理屈に反する。それゆえに限界効用理論の効用曲線図が価格理論の期待に応えようとするなら、効用曲線から限界効用を撤去し、ただ無心に需給分裂した二曲線の統一を図る必要がある。
28)商品単価曲線
上述までに確認した限界効用理論の遺産は、曲線座標の縦軸目盛りを商品価格ではなく、商品単価にすることであった。これをそのまま踏襲して需給曲線図の需要曲線と供給曲線を単価あたりの曲線式に変換し、曲線座標を描くと次のようになる。もちろんこれらの式は、二曲線の式を商品量Xで割っただけの式である。供給単価曲線式 :Y= A ※Aは正数、すなわちY座標AのX軸に平行な直線 逓需要単価曲線式:Y= C X -B ※BとCは正数でかつC>B、すなわちY座標(C-B)のX軸に平行な直線を漸近線にした反比例曲線 交点座標(需給均衡量 ,市場 単価):( C A+B , A )
上記の需給単価曲線は、縦軸目盛りに商品価格をとった需給曲線のただの単価版である。供給単価が単なる生産価格として同じ単価であるのに対し、需要単価曲線は単価上限値を漸近線にして商品量に反比例する右肩下がりの曲線になる。価格理論が期待する一般的な商品単価、すなわち需給均衡量から外れた商品量における商品の市場単価は、購入者基準では可能な商品単価最小値として現れるので、次のようになる。ちなみにこれは商品の買い手市場における商品単価曲線である。
上記の需要主導の市場価格で現れる市場単価曲線は、16)において示された限界効用理論の元々の効用曲線のモデルである。限界効用理論は上記曲線の定額部分を意図的に変形し、不正確に市場単価曲線を改悪して提示しただけである。
一方で需給均衡量から外れた商品量における商品の市場単価は、販売者基準では可能な商品単価最大値として現れるので、次のようになる。ちなみにこれは商品の売り手市場における商品単価曲線である。
上記に示した二つの単価曲線は、需給均衡点を除くと、その期待価格が乖離している。すなわち購入者と販売者の思惑が対立する限り、需給均衡量を除くどの商品量においても、市場単価は理論的に決定し得ない。それゆえに市場において販売者と購入者は、需給均衡量を目指して自らの商品販売量と商品購入量の調整を目指す。商品量の調整が整わない場合、市場単価は購入者と販売者の力関係において次の範囲で決定される。
29)限界効用理論の役割
需要と供給から離れて個々に擁立された商品価格は、価格の実存である。ところがそれらは実存でありながら、市場においてその実存を否定される。その否定は個々の商品価格を単なる恣意的思い込みとして扱い、そのイデア的本体として市場価格を擁立する。この市場価格の擁立は、個々の商品の無差別的な度量化を通じて行われる。実際に個々の商品は大きさや質に差異を持ち、度量化を通じなければ相互に比較することもできない。このときに価格の度量単位に現れるのは、労働価値論では労働力である。それは価格原子論における原子であり、それらの総体において商品価格は表現される。ただし労働力は、限界効用理論における効用と違い、商品属性でもなければ、商品構成部分でもない。労働力は商品の外面に描着した商品の社会的身分であり、そのような現実としてそれは商品価格でもある。この労働力を度量にして商品価格は、或る大きさの商品生産に要する労働力量として現れる。そしてこの商品塊の量的な基礎単位に対する価格が、商品単価である。この基礎単位の価格と量は、個々の商品価格のイデア的本体として超出され、市場価格と需給均衡量となる。それゆえに市場価格と需給均衡量とは、市場におけるその商品の本質である。それが表わすのは、抽象化された個々の商品であり、超出された該当商品のイデアである。この市場価格と需給均衡量に即応して現れる商品は、個々の商品の実存を否定し、自らを商品の実存とする。
一方でこの労働価値論に対して限界効用理論は、価格の度量単位に効用を割り当てる。当然ながら商品価格は効用の総体において表現され、市場価格も商品基礎単位の大きさと質に対して割り当てられる効用量として現れる。この効用に対して経済学が与える定義は、商品の消費によって得る満足量である。限界効用理論は商品量増加における商品一単位当たりの最大効用量をもたらす商品量を需給均衡量とし、その効用量を市場単価に扱う。しかし16)でその市場単価は定額の供給単価に過ぎず、そもそも限界効用自体が眩惑にすぎないことが明らかにされた。ただしこの眩惑は、限界効用理論だけに向いているわけではなく、需給均衡において市場価格を説明する従来の価格論にも向いている。供給曲線が表わす全ての価格は、商品量で除算すれば基本的に定額の供給単価になるからである。もちろんこの定額の供給単価が表わすのは、商品一単位の生産に必要な投下労働力量である。しかしこの現実は、需給曲線の座標が、縦軸目盛りに商品単価ではなく、単価総量としての商品価格をとると判りにくくなる。すなわち従来の需給均衡曲線図は、需要曲線に対峙して供給曲線を用意したことで、この労働価値論の現実を見えにくくする問題を抱えていた。これに対して限界効用理論は、効用曲線の座標の縦軸目盛りに、単価総量としての商品価格ではなく、商品単価をとることでこの需給均衡曲線図が抱えていた問題を明瞭にしている。ただし限界効用理論それ自体は、労働価値論の示す現実を粉飾するのを目指している。このために限界効用理論が果たす役割は、一方で労働価値論を覆っていた煙幕を除去し、他方で新たな煙幕を張り巡らすと言った矛盾したものになっている。
(2020/02/24) 前の記事⇒((7)限界効用逓減法則)
ヘーゲル大論理学 存在論 解題
1.抜け殻となった存在
2.弁証法と商品価値論
(1)直観主義の商品価値論
(2)使用価値の大きさとしての効用
(3)効用理論の一般的講評
(4)需給曲線と限界効用曲線
(5)価格主導の市場価格決定
(6)需給量主導の市場価格決定
(7)限界効用逓減法則
(8)限界効用の眩惑
ヘーゲル大論理学 存在論 要約 ・・・ 存在論の論理展開全体
緒論 ・・・ 始元存在
1編 質 1章 ・・・ 存在
2章 ・・・ 限定存在
3章 ・・・ 無限定存在
2編 量 1章・2章A/B・・・ 限定量・数・単位・外延量・内包量・目盛り
2章C ・・・ 量的無限定性
2章Ca ・・・ 注釈:微分法の成立1
2章Cb(1) ・・・ 注釈:微分法の成立2a
2章Cb(2) ・・・ 注釈:微分法の成立2b
2章Cc ・・・ 注釈:微分法の成立3
3章 ・・・ 量的比例
3編 度量 1章 ・・・ 比率的量
2章 ・・・ 現実的度量
3章 ・・・ 本質の生成
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