安藤先生の月刊ブログ 「きらめき」

何気ない毎日に"きらめき"を感じていますか?

雪の華

2016年02月15日 | 月刊ブログ

 暦の上では、立春となりましたが、1年で一番寒い季節を迎えました。

 1月24日には、長崎地方気象台によると統計を取り始めた1906年以来最多となる17センチの積雪を観測しました。辺り一面の雪模様は、荘厳な感じがします。車の轍もつかず真っ白な景色は、別の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に囚われます。

 早速ベランダの雪をひとつかみ手に取ってみました。ふんわりと手の中で溶けていく様に子供のころをふと思い出します。私の指の跡だけを新雪に残したまま、またその上にゆっくりと降り積もっていきました。

 しかし現実には、こんな西の端の地域では、雪に対する危機管理など全くと言っていいほどなされておらず、交通機関のストップでは大きな影響を受けました。

 次の日は、学校は休校となり思わぬ休暇をいただきました。午後からは雪の中をサクサクと踏みしめ、近くに買い物に出かけましたが、男性と女性が大きな雪だるまを作っていました。本当は大人の方がうきうきとはしゃいでいるのかもしれません。

 

 雪景色を見ていて、新美南吉が書いた『手ぶくろを買いに』という童話を思い出しました。

 朝早く、子狐が洞穴から外へ出ると途端に「母ちゃん眼に何か刺さった、抜いてちょうだい早く早く」と言って戻って来ました。母さん狐があわてふためきながら見てみると何も刺さってはいませんでした。母さん狐は外に出て始めてわけが解りました。昨夜のうちに真っ白な雪がどっさり降って、その雪の上からお陽さまがキラキラと照らしていたので雪が眩しいほど反射をして、目に刺さったと思ったのでした。」こんな書き出しから始まる物語ですが、雪で遊んで帰ってきた子狐の手が牡丹色になっているのを母狐が見てかわいそうに思い、人間が住んでいる町へ手ぶくろを買いに行くというお話です。

 母狐は以前に仲間が人間にひどい目にあっていることに恐怖心を持っていました。母狐は何度も繰り返し子狐に、人間の手に化けさせたほうの手を戸の隙間から出して「この手にぴったりの手ぶくろちょうだい。」と言うんだよと本物のお金を持たせるのです。しかし子狐は戸の隙間から溢れ出る光に驚いて反対の狐の方の手を出してしまいました。店の主人はやれやれと思い、木の葉ではなく本物のお金を出した狐の手に、手ぶくろを乗せてくれたのでした。

 子狐は、「母さんは人間は恐ろしいものだっておっしゃったがちっとも恐ろしくないや。しかし人間なんてどんなものか見たい。」と明りの漏れている窓下から、子守唄をうたってくれている母と子どもの様子を見て、早くお母さんに会いたくなって走って帰っていくのです。

 狐の言葉を借りて、人間とはどういうものなのかしら?と投げかけ、また、母子の愛情は狐も人間も変わらないということを柔らかな挿絵とともに描いてあります。

 この童話の中には、後の解釈によると様々な疑問点が出てきますが、最後の「『ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら。』とつぶやきました。」の言葉が、この物語の本当の深い意味なのではないかと、大人の目線で何回も読むことで見えてきました。

 今でも『ごんぎつね』と並んで、私の大好きな童話の一つですが、黒井健の灰色がかった雪景色の中での母子狐の表紙絵とともになつかしさと、なぜかもの悲しさが込み上げてきます。

 この雪の日、本棚から取り出してみると、新美南吉は最後の言葉にどんな意味を込め、それを伝えたかったのかと深く考えてしまいました。

 

 さて、1月の末に長崎校では、私が楽しみにしている恒例の2年生の卒業論文発表会が開催されました。日頃は関わることが少ない長崎校の学生たちと同じ時間を共有し、2年間の実習や就職活動の様子が手に取るようにわかります。

 発表を聞いていると見違えるほど成長した2年生たちでした。それぞれ将来の夢を叶えるためにこの学校を選んで来てくれた彼らは、一人ひとり個性がはっきりと違い年齢の高い人もいるのに、私にはとても仲が良く見えました。お互いに支え合ってきつい実習を乗り越えてきたのだと思いました。そしてその人間として一回り大きくなった姿に嬉しさが込み上げてきました。

 

 先人は、人間は生まれながらにして「善」であるという「性善説」と「悪」であるという「性悪説」を唱えました。私は前者を信じますが、それも日々の努力があって「善」を保ち続けることができるそうです。

 全てが人としての精進あるのみでしょうか。私も学生たちも。

 とにかく、今の目の前のものを一つ一つ片付けるのが先決ですね!

 

 今月の写真は、雪の日の姫りんごです。『手ぶくろをかいに』の本と対照的な活発な赤がとてもかわいらしいですね。

 Photo by mizutani


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