このところ皇室の慶事が続き、テレビ、新聞、雑誌等も、数多くの記事を発信していたが、いささか気になることがある。
以下に掲げるのは、毎日新聞、産経新聞、朝日新聞の記事の一部である。内容は、ほぼ共通しており、宮内庁での発表を受けて記事にしたもののようである。発表を録音し、文字化したのなら寸分違わぬ表現になるはずであるが、新聞各社は発表を加工している。ニュースは創られると言うことを知る上で有意義な記事ではある。
① 天皇、皇后両陛下の長女愛子さまは1日、18歳の誕生日を迎えられた。学習院女子高等科3年の愛子さまは充実した高校生活を送り、4月から続く代替わり儀式にも深い関心を寄せているという。/宮内庁によると、学校では進学に向けてこれまで以上に勉強に励んでいるという。4月にあった学習院の行事で…
② 天皇、皇后両陛下の長女、敬宮(としのみや)愛子さまは1日、18歳の誕生日を迎えられた。4月に学習院女子高等科3年生となり、勉学に励む一方、高校生活最後となる運動会や文化祭などの行事で活躍するなど、充実した日々を過ごされている。天皇陛下のご即位に伴う一連の関連儀式も逐次テレビなどで見守り、関心を持たれているという。
③ 天皇、皇后両陛下の長女愛子さまが1日、18歳の誕生日を迎えた。宮内庁によると、即位に伴う一連の儀式について深い関心を持ち、新聞やテレビなどの報道を見ていたという。/愛子さまは現在、学習院女子高等科3年生。今後の進学に向け、これまで以上に勉学に励み、充実した忙しい日々を過ごしているという。
さて、どれがどの社の記事か判るであろうか。
各文(センテンス)の主述表現に着目してみよう。 冒頭の文の「長女愛子さま」は共通である。①と②は述部①が敬意を含む表現になっているが、③のみは異なる。
①では、第二文以下の述部から敬語は使用されなくなる。②は基本的に敬語表現で通そうという姿勢が見える(文の途中を常体で、文末を敬体にすることは認めてよいであろう)。
つまりここには、できるだけ敬体を用いて敬意を表明しようという立場の記事、最初に敬意を表明した後は、それで後はよしとする立場の記事、そして一貫して敬意を表に出さないようにしようとする立場の記事が存在しているということである。
話し手や書き手が。相手や話題になっている人物に対してどのような態度をとるかを示す言語表現を「待遇表現」という。敬語はその待遇表現で、皇室の一員に対して、各新聞社がどのような態度を取っているかを知ることができる。現場からの記者レポートなどでは余裕のなさから、不用意、不適切な表現もある(新天皇の伊勢神宮参拝報道では、敬語に不慣れなレポーターが馬車を引く馬に敬語を使っていて、思わずわらってしまったが……)が、新聞記事はそうではない。
①から③の記事は、①=毎日新聞、②=産経新聞、③=朝日新聞である。言うまでもないことであるが、各社の皇室に対する日頃からの姿勢・態度をよく示している。③では、 「○○さま(が)」-「迎えた」という対応には、日本人の言語感覚としては違和感がある。言語感覚としては、「○○さん」-「迎えた」というのが普通の感覚であろうが、さすがに「○○さん」とは言えなかったようで歯切れが悪い。いっそ記事にしないという方法も考えてみるべきではなかったのかと思ってしまう事例であった。