目覚時計に叩き起こされることなく目を覚ます。静けさと夜明け前の薄明かりは窓の内側
から見ていても、冷え切りピーンと張りつめた空気を感じさせた。少しだけ窓を開けて外気
に触れると、冷と言うより凍に近いものが暖かい顔を撫ぜる。早朝だから快適とはいかない
ものの然したる疲れはなく、これから出かける観光のためにしっかりと腹を据えておかねば
ならぬと、朝食会場に向かうとメンバーの出足は良いようだ。ホテルの朝食は数種類のパ
ンが準備されており、何れのホテルのものも当たり外れなく美味しかった。特にクロワッサン
は外がパリパリ中はモチっとした感じに加え香りが良かった。ヨーロッパの食事から逃げる
との出来ない食材と言えばジャガイモがある。こいつは朝から晩まで手を変え、品を変え変
幻自在に出てくる。山のホテルでも灘端のホテルでも分け隔てなく。
少しなら私も食べるが、こうも連続攻撃を掛けられては、特に男性陣からは諦めともため息
ともとれるような声混じりになっていった。定番の朝食はパン、様々な種類のハム、ソーセー
ジとパン、卵料理、果物、サラダに飲み物類であったが、いずれも美味しい方だと思った。
ホテルから外に出てみると水たまりや階段などの濡れていた場所は氷が張り、ツルツルにな
っており足を取られ転んだ人もいた。この寒い中、湖に浮かぶ小島を目指して手漕ぎボート
に乗るためバスに乗り船着き場に向けて10分ほど移動する。
日差しはさしており無風だから見た目には寒さを感じるようではないが、体感は途轍もなく冷
たく耳がちぎれそうだ。この日のために準備してきた防寒具を総動員して頭から指先まで覆
い尽くしボートに乗り込む。湖面にブレッド城や聖マリア教会が映り込まれ、その様はアルプ
スの瞳と呼ばれているそうだ。湖の水は青く澄んで美しい、こうした環境を守るためにエンジ
ンボートを使わないで20人くらい乗れるボートを手漕ぎしている。遠くに見えるアルプスの山
々は白く、空、湖の青とマッチして感嘆の声が上がる。漕ぎ手は一人だが思ったより早く進み
教会のある島まで10分足らずで到着した。船着き場の目前には上に行くのを阻むかのように
長い99段の階段が待ち構えている。この教会で結婚式を執り行う新郎は大変な難行苦行を
遂げなければならない。花嫁を抱きかかえ階段を登り教会まで行くのだそうだ。私などにはと
ても叶うことではなさそうだと、要らぬ心配をしながら階段を登り始めた。カメラと小さなバッグ
だけ持っているだけなのに、途中で休憩しなければならないから、いくら花嫁だからと言われ
ても・・・・・
ホテルロビーから湖を望む
対岸の教会
朝陽を受けるブレッド城
アルプスの山々
15世紀、小島に建てられた聖マリア教会、塔は52mの高さ
スロベニア、ブレッド湖