ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団112 播磨国風土記は「日本酒風土記」

2011-07-04 10:21:58 | 歴史小説
写真はヤエガキ酒造の『八重垣』(同社ホームページより)

「それじゃ、私は樹(いつき)を手伝ってお食事の用意をしてきます。皆さん、先にお風呂に入ってゆっくりしていて下さいね。お部屋は、女性は奥の部屋、男性はこちらをお使い下さい。お風呂はこの離れから出た母屋の角のところです。縁側から、引き戸で脱衣所に入れます」
 最後に入った高木は、檜の香る湯船に浸かりながら、今日の思いもかけぬ展開をたどっていった。高木の常識的な古代史の世界はどんどんと崩され、スサノオや大国主の一族がいきいきと活躍する世界が姿を現してきた。何も考えずにゆっくりと疲れを癒したいと思うものの、寝付けない時のように、頭は冴えてくる。
 高木が部屋に戻ると、一同は縁側でぼんやりと庭を眺めていた。
「みなさん、珍しくお静かですね?」
「いやあ、今日は収穫が多かったので、考えを整理しているところだよ」
 高木と同じで、カントクも風呂から考え事を続けていたようである。
「スサノオ探偵団が、大国主探偵団になって、急に目の前が開けてきたようね」
 マルちゃんの感想は高木と同じであった。
「改めて現地に来て、みんなと検討してみると、播磨国風土記は面白い。古事記とセットで分析すると、神話時代の歴史が復元できるね」
 慎重な長老が今日は思い切った発言をしている。
「日本神話はこれまで荒唐無稽な創作として見られてきましたが、建国時代の英雄達の語り継がれてきた物語ではないでしょうか。神話に登場する神々は、子孫達によって神として祀られ、その活躍もまた語りつがれたと思います」
 ヒナちゃんも長老の発言に力をえたようだ。
「それにして、播磨国風土記が書かれた時代の地名がそのまま残り、そこに登場するスサノオ・大国主一族が今も神社に祀られ、すごい伝承が残っているのには驚いたなあ」
 カントクの感想は高木と同じであった。
「播磨国風土記が、幕末まで一般の人には知られることがなく、封印されていたということは大きい。そして、現在の地名や神社に祀られている神々、地元に伝わてきた物語が、播磨国風土記の記載と付合するんだからね」
 高木は「天下原」の地名や、地元の人に聞いた大国主の「鯛ジャリ」伝説を思い出した。
「神社の祭神や伝承は、日本書記や古事記に合わせて、江戸時代に大名や好事家、勤王家などによって作り替えられた部分も多くてうっかりと信用できないところもあるんです。しかし、播磨国風土記は幕末まで、1100年あまり、一般の人々の目には触れていません。従って、この地の地名や伝承は、8世紀に播磨国風土記に書かれたものが、そのまま19世紀まで伝わったことになります」
 ヒナちゃんはこれから長老と一緒にすごい仕事をすることになるかもしれない、と高木は思わざるをえなかった。高木のところにアルバイトで来ていたヒナちゃんは、もはや高木の手の届かないところに行ってしまったのかも知れない。

「みなさん、お話が盛り上がっているようですけど、お食事の用意ができました。どうぞ、こちらにおこし下さい」
 ヒメの母の案内で、一同は縁側を伝い、母屋の大広間に案内された。
 離れの庭は裏山と一体となった茶庭風の自然庭園であったが、母屋の庭は池を中心とした池泉庭園であった。
「今宵は夕月。この見事な庭を眺めながら酒を飲めるとは、最高だなあ」
 高木が月を意識するのは1年のうちで中秋の名月ぐらいしかないが、カントクの世代は月が身近かな存在なのかもしれない。
「さあ、瀬戸内海の味覚を味わって下さいね。お酒は、播州産山田錦を仕込んだヤエガキ酒造の『八重垣』を用意しました」
 縁結びの高砂神社に詣った夜に、スサノオが奇稲田姫のために詠んだ「八重垣」を用意したヒメは、いったい誰にメッセージを送っているのだろうか? 高木はヒメのいつもの詞遊びを読み切れなかった。
「それじゃあ、播磨国風土記をさかなに、『八重垣』をいただきながら、スサノオ・大国主で盛り上がりましょうか」
 カントクはさらりと受け流した。
「播磨国風土記は、別名『日本酒風土記』と言っていいほど、お酒の話が多いんです。日本酒のルーツを探りながら、いただきません?」
 またまた、高木はヒナちゃんの事前調査に負けてしまったようである。

※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
       霊の国:スサノオ・大国主命の研究(http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
       霊(ひ)の国の古事記論(http://hinakoku.blog100.fc2.com/)
       帆人の古代史メモ(http://blog.livedoor.jp/hohito/)
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