おもしろき ー熊本、鹿児島、宮崎で過ごした日々🌟🌟🌟

おもしろきことのなき世をおもしろく!Carpe Diem. 人間万事塞翁が馬。人生いろいろあるから、おもしろい!

生命の泉 五話

2012年01月02日 06時25分31秒 | 僕が書いた小説
年末から、短編小説なるものにトライしている。
これはその続きである。


僕は耳を疑って、リョウのほうを振り向いた。

「えっ、何て言った?」

「俺の顔、向こうの世界で見たことない?」

リョウの顔を見ていると、確かにどこか見覚えがある。なんだろう?
考えながら険しい顔をしていると、リョウは微笑んだ。何と爽やかな笑顔だろう。
その微笑んだ顔は、向こうの世界の至るところにあった。
あらゆる家の額縁に飾られてある。
神殿の像にもなっている。
「か…神様。龍神様。龍…リョウ」
呟きながら、何が何だかわからなくなっていると、龍神様が(いやリョウと呼ぶべきか)ゆっくりと語り始めた。

「あの釣り針は悪魔の釣り針で、人間の欲を増長させる。最初は魚ばかりつれるが、しばらくすると、自分の欲しいものが釣れ始める。人間の欲は際限がない。欲しいものが手に入っても、満足することがない。
次々に他の刺激的なものを求めるようになる。
そして、最後には人の魂を釣るようになる。
魂を抜かれた人間は当然死んでまう。
数人の魂を釣り上げていくうちに、その人間は悪魔へと近づいていく。
ケイタはまだ今からだ。
そして知っているだろう。オークが地獄の使者だということを…」

僕はエレベーターでの出来事を思い出す。
「オーク、オク、奥先生…。」
点と点が線になる。エレベーターにのった時の、奥先生が出していた殺気は気のせいなんかではなかったのだ。
僕は地獄の使者からあの釣り針をもらったのだ。

それでも疑問が残る。釣り針はどうやってケイタの手を離れ、僕に渡ったのか?
生命の泉は一体?

リョウは僕が考えていることがわかったらしく、微笑しながら言った。

「それはまた次に語ることにする。
もうすぐ、みんなが追いつく。さあ、釣り針を湖の中に捨てるぞ、いいな。」

僕はリョウが釣り針を湖に投げ込む姿を、見ていた。何でも釣れる釣り針が少しずつ底に沈んでいく。
いざなくなると、惜しくて仕方なかった。

ちょうどその時、みんながやってきた。
僕達はまだ、この湖で何が起こるのかを知るよしもなかった。

続く…

生命の泉 四話

2011年12月28日 02時23分03秒 | 僕が書いた小説
ケイタはゆっくりとゴミ箱に近づき、フタをとった。

「ボールが一個しかない。」
ダイキが僕の顔を見る。
僕は、とっさに左のポケットからボールをとりだして、ケイタに言った。「ここにあるぞ。」
そう言うやいなや、僕は走って逃げた。
ケイタも全力で追いかけてきた。
ほっとしたせいか、笑いが込み上げてきた。

ところが、今度はゴミ箱をダイキが調べ始めた。
そしてゴミ箱から小箱を見つけ、まさに開けようとしていた。

僕は叫んだ。「ダイキ、開けるな!」
ケイタも振り返り、ダイキを見た。
大きい声を出したせいか、鬼ごっこは自然消滅し、ヤスや、まだ捕まってないリョウまでも姿を現した。

鬼ごっこのメンバーが5人ゴミ箱の前に集結した。

ダイキは黙って箱を見つめている。
僕は絶体絶命の状況にある。
ダイキは僕に尋ねた。「何が入ってる?」

僕はとっさに言った。「見てはいけないものが入っている。開ければ、世の中に禍をもたらすもの。だから棄てた。絶対に開けたら、大変なことになる。」

ヤスが笑いながら言った。「開けようぜ。」

その瞬間、僕はダイキから小箱をとりあげ、走って逃げた。

皆が、追いかけてきた。リョウは施設で一番足が速い。
施設の外まで逃げたが、リョウだけがまだしつこく追いかけてくる。

いつも魚釣りをする湖のところで僕はとうとう、リョウに捕まった。

僕は観念して、リョウに箱を渡した。

リョウは真剣な顔つきで言った。
「箱の中身は知ってるよ。生命の泉のこともね。」

続く…

生命の泉 三話

2011年12月27日 01時01分41秒 | 僕が書いた小説
箱を開けると…
ケイタが持っている伝説の釣り針が入っていた。
この釣り針は世界に1つしかない。
一瞬喜びが込み上げたが、すぐに疑問を抱き始めた。
何故僕のところに伝説の釣り針があるのか?
ケイタが釣り針をなくしてしまっていたとしたら…

僕がケイタの宝物を盗んだことになる。
これまでの彼との友情は簡単に消えてしまうだろう。
事情を説明しようが、到底現実の話とは思えない。

考えるほど、恐ろしくなり、すぐに箱を閉めてポケットに入れた。

その時、ウアーという叫び声が聞こえた。
ヤスが捕まったのだ。ケイタはヤスのポケットから無理やりボールをとりだし、いつもの笑い声で喜びのダンスをしていた。
僕はその間に急いで階段を下りた。
すぐにふたのついたゴミ箱が目に留まった。
とっさに僕は思った。「ケイタに疑われる前に、この小箱を棄ててしまおう。」

上からケイタの足音が聞こえる。一瞬ためらったが、思い切って小箱を棄てた。

ほっとした…のは束の間だった。

その様子を掃除用具入れの中に隠れていたダイキが見ていたのだ。

ダイキが突然現れ、ゴミ箱のところへ走ったので緊張がはしった。
「まずい。小箱の中身がばれてしまう。泥棒と思われる。みんながどんな顔をするだろう。ケイタからは一生無視されるだろう。」など、いろんなことが頭をよぎった。

ところが、ダイキは何を血迷ったのか、ポケットのボールをゴミ箱の中に入れた。
「これでケイタに俺たちのボールをとられずにすむ。イエーイ」とダイキは言った。
ダイキは僕がボールをゴミ箱の中に隠したと勘違いをしているようで、彼も同様にしたのである。

ついにケイタがいつもの笑いでゆっくりと階段から下りてきた。

ダイキは微笑んで言った。「俺たち、ボール持っとらんけん。」

ケイタは不気味に笑いながら言った。「ハーハーハー、ハーハーハー、ボールはそのゴミ箱の中だろ。ハーハーハー」

ダイキの表情が暗くなった。僕の表情はどう見えただろう。多分、死んだも同然という顔だったに違いない。
続く…

生命の泉 二話

2011年12月26日 10時40分55秒 | 僕が書いた小説
ふと気がつくと、
僕は中学生になっていた。
生命の泉に生身の人間が入ると若返り、もうひとつの世界が経験できるのかもしれない。

黒の制服のポケットには小さな小箱とボールが入っている。
前の世界の記憶と今の世界との記憶が交差する。

僕は今、同級生のケイタ達と鬼ごっこに似たゲームをしている。

向こうの世界では、ケイタ達は塾講師をしていた時の教え子だ。

こっちの世界のことを語らねばならない。

僕達は5階建ての施設で、共同生活を営んでいる。全員中学生だ。

ケイタとは特に仲がよく、親友といってもよい。そして僕達は5人で鬼ごっこに似た遊びをしている。
いつも、施設の中を走りまわっている。

が、なんといっても僕達の一番の楽しみは魚釣りである。

みんな競って、釣り針を集めている。お互いのコレクションを自慢しあう。

最近、ケイタが必ず魚が釣れるという伝説の釣り針を手にいれた。
ケイタはみんなから羨ましがられ、誰よりも僕がケイタのことを羨ましく思った。

話を戻す。僕達は鬼ごっこなるものをしている。
今日はケイタが鬼だ。僕は友達のヤスと同じ方向へ逃げていた。

4人を捕まえて、それぞれのポケットにあるボールを4つ集めれば、鬼の勝ちという簡単なゲームだ。
それでも、逃げている時はスリルがある。

僕は、走って逃げている途中、向こうの世界で、奥先生からもらった小さな箱のことをふと思い出した。

右のポケットに小さな箱が入っている。
逃げながら、何が入っているのか知りたい衝動にかられた。
そして、ポケットから箱をとりだした。
続く…

生命の泉 一話

2011年12月25日 00時56分27秒 | 僕が書いた小説
夢をアレンジして、短編小説なるものを初めて書いてみる。

僕は、全ての物に命を与える工場で働いていた。

椅子や机、ゴミ箱、いろんな物が意志を持っている。その工場では、それらが動きまわり、互いに会話をしている。

そこに勤めている僕は、もうすぐ40を迎える中年男。
前職は塾の講師をしていた。わりと真面目に働いていたが、転職してこの会社に入り、一ヶ月が経とうとしていた。

ちょっとしたことで全てが狂ってしまう。僕の場合もそうだ。
何故僕が人間でなくなってしまったのか。

それは、不運な遅刻から始まった。

会社には、二人組で出社することになっている。

僕の場合は、坂本健さん(前職の先輩社員でボクシング経験のあるやくざのような存在)や林和貴くん(前職でずっと一緒に働いていた鼻のでかい美男子後輩)と交互にペアを組んで出社していた。

三人とも塾出身であるため、この会社では平社員で、出世の見込みはない。

話しを戻す。一ヶ月が経とうとしていたある日のこと、僕は坂本さんを家に迎えに行った。
彼がなかなか現れない。このままでは遅刻してしまう。電話をすると、少し待ってくれという。
やくざのような彼の頼みを断れない。
ゴメン、ゴメンと彼は一時間後に現れた。
当然、遅刻して、上司の沼口課長に小言を言われた。「自分でたまにはこんなこともある。仕方ない。仕方ない。」と呟いた。

ところが、えてして禍は重なることが多い。
次の日、後輩の林くんが迎えに来た。
街は祭の真っ只。車が全く進まない。
背中に冷や汗が流れた。「2日連続、遅刻。前代未聞だ。」
結局、一時間遅れてしまう。
恐る恐る課長のところへ行くとこっぴどくしぼられた。「前の会社では一度も遅刻したことはなかったのですが、いろいろ事情があって…」なんて、言い訳をしたものだから、説教が長引き、危うく首になるところだった。

説教が終わるとエレベーターに向かった。
地下数百メートルのところに僕達の作業場がある。

エレベーターを待っていると、机や椅子が僕を心配してくれて、慰めてくれた。僕は愛想笑いを彼らに向けながら、エレベーターに入った。

エレベーターには前職で先輩の奥先生が乗っていた。彼はプロレスラーのように強く、キレたら何をするか解らないような凄みのある人物だった。
その彼に今日の出来事を話すと同情してポケットサイズの小さな箱をくれた。
すごくいいものが入っているから後で開けるように言われた。
箱を渡される時、拳銃で撃たれるような恐怖を覚えたが、錯覚だったのかもしれない。
僕は、右のポケットにその箱を入れ、エレベーターで地下へ地下へと降りて行った。
地下50階の作業場に着くと、坂本さんや林くんはすでにそこで働いていた。
奥先生とそこで別れ、僕は自分の持ち場へ向かう。
僕達の仕事は、生命の泉からポンプを使って、その水を地上まで運び、いろんな物に命と意志を与えることだ。
その中でも僕の仕事は一番簡単で、生命の泉が溢れないように見張るだけだ。

生命の泉を見ていると、遅刻したことが原因か、説教されたことが原因か、または言い訳した自分に嫌悪感があったからか、理由ははっきりしないが、どうしても目の前の生命の泉に浸かってみたいという衝動に駆られた。
動く意志を持った人間に、さらに意志と命を与えたらどうなるのだろう。
もうひとつの人格ができるのだろうか?
意志や命が暴走して死んでしまうのだろうか?
時空を超えて別の世界に行くのだろうか?
いろいろ考えた結果、好奇心からと現実からの逃避欲が重なり、生命の泉に入ることを決心した。

服を脱ぐ時、右のポケットに奥先生からもらった小さな箱のことを思い出した。
開けようとも思ったりしたが、泉に入りたくてしょうがなく、箱を持ったまま、生命の泉に頭から飛び込んだ。
温泉に浸かっているようななんともいえない気持ちよさが、波のようにやってくる。心が癒され、意識が遠のいていった。続く…

今日はクリスマス。
読んでくれた人、メリークリスマス。
いつも、ありがとう。