ランチのあと部屋に戻ると、わたし
たちはだっぷりと時間をかけて愛し
合い―――
わたしたちはそれを「アフタヌーン
デライト」と呼んだ―――、
同じだけたっぷりと午唾をむさぼ
った。昼寝から目覚めたら、夕食
を食べに外に出かけて、その足で、
ガムランを聴きに行ったりした。
年末から年始にかけての六日間。
旅が終われば、わたしは東京へ、
彼はシンガポールへ。空港で
別れがふたりを待っていた。
「寂しいな、あしたは離れ離れ
になっちゃうんだね。今はこん
なに近くにいるのに、あしたの
今頃はもう、手を伸ばしても、
届かないところにいるなんて」
彼は心の底から、寂しがって
いるように見えた。
「雫ちゃんも、寂しい?」
可愛い人、裸の彼の胸に耳を
当て、心臓の鼓動を聞きながら、
わたしは思っていた。
あなたは、とても可愛い。愛して
も愛しても、愛しても、愛し足り
ないくらい、愛してる。もう一度、
いいえ、何度でも、わたしはあな
たを抱いてあげたい。抱き合った
まま、つながったまま、眠りだい、
それくらい、好き。
「寂しいよ」
っと、言った。
でも、本当は、ちっとも寂しく
なんてなかった。
初めから、覚悟を決めて、飛んで
きたのだ。
この旅が終われば、この恋も終わる。
終わりにしなくてはならい。これ
は遊びの恋。真剣な、火遊び。
それをいとおしみ、味わい尽くす
権利は、大人だけにある。
わたしは、離婚歴も不倫歴もある
二十九歳。自分を、大人の女だと
思い込んでいた。
分別も常識もある大人の女。
信念を持っていた。大人の恋とは、
ただ楽しむためにあり、そこに
決して、生活とか将来とかを持ち
込んではならないのだと。