歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~マイケル・レドモンド氏の場合≫

2024-08-18 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~マイケル・レドモンド氏の場合≫
(2024年8月19日投稿)

【はじめに】


 先日、8月11日、パリ五輪の幕が閉じた。
 その閉会式において、大会組織委員会のトニー・エスタンゲ会長は、「我々は世界が見たことがないような五輪を経験した」と誇った。「フランスは文句ばかりの国民と言われますが、一丸となって声援を送り……」と笑顔で語った。
 また、IOCのトーマス・バッハ会長は、「センセーショナルな五輪、あえていえば、“セーヌ”セーショナルな大会だった」と話した。開会式で船上パレードを行ったセーヌ川にかけたものだったようだ。
 また、トム・クルーズが、フランス競技場の屋根上から登場し、ワイヤーアクションで地上に降り立って、ステージで五輪旗を受け取り、その後バイクに乗ってさっそうと走り去った。VTRの中で、パリの凱旋門、エッフェル塔などを走り抜けて、空港へ向かい、ロサンゼルスへは上空からスカイダイビングして、降り立つ。さながら「ミッションインポッシブル」の映画のようだった。
 バッハ会長が閉会を宣言した後、米国を代表する歌手、フランク・シナトラの代表曲「マイ・ウェイ」を、地元の歌手が歌った。「マイ・ウェイ」は元々、フランスの「コム・ダビチュード(Comme d’habitude:いつものように)というシャンソンが原曲だった。
 日本とパリとでは、7時間の時差があり、思うように、私としてはテレビ観戦できなかった。睡魔に勝てず、フランスとスペインのサッカー決勝も見逃してしまった。それでも、いくつかの競技は観戦できた。個人的で俗っぽい感想を記しておけば、メダルの有無や色に関わりなく、二人の選手が印象に残った。一人は、バドミントンのダブルスの銅メダリスト志田千陽選手と、クライミングで4位に入賞した森秋彩選手である。志田選手は、美貌とスポーツ能力、天は二物を与えたかと思うほどの秋田美人にもかかわらず、自らの失敗に舌を出したり、クルクル回転ダンスをしたりと、そのキュートな仕草が人気を博した。なりふり構わず全力で精一杯するプレーが、そのキュートな仕草とあいまって、特に海外で人気を得たようだ。
 一方、森選手は、筑波大学3年生であるが、154センチと低身長で、中学生かと見間違えるほどの童顔。ボルダーの第1課題でスタート直上のホールドをつかめず、0点であったが、得意のリードで全体1位の96.1点をマークした。
 美人なのにお茶目、童顔で低身長なのに実力ナンバーワンというギャップないし意外性が、二人の選手の魅力なのかもしれないと思いつつ、競技を観戦していた。

 ともあれ、バッハ会長は、いみじくも、次のように語り、選手たちをたたえた。 
「五輪は平和を作ることができないのは分かっている。だが、五輪は平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」と。
 
 さて、スポーツの祭典であるオリンピックのみならず、囲碁という文化も、「平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」のではないかと思っている。
 例えば、呉清源氏は、1928年、瀬越憲作氏らの尽力により、14歳で来日し、川端康成とも親交があり、『名人』の中でも、“天恵の象徴”と表現されている。そして、木谷実氏とともに、新布石時代を築いた(平本弥星『囲碁の知・入門編』30頁~31頁)。また、呉清源—林海峰—張栩という、法灯ならぬ“碁灯”を継承する(張栩『勝利は10%から積み上げる』18頁、60頁、99頁)。
 また、原爆下の対局で知られる、島根出身の岩本薫氏は、戦後、アメリカなどに囲碁の海外普及に後半生を捧げた(平本弥星『囲碁の知・入門編』36頁~38頁)。
 このように、囲碁文化の歴史は、平和および国際性と密接に関連している。
 さて、今回、紹介するプロ棋士は、アメリカ出身のマイケル・レドモンド氏である。
次の著作を参考にして、囲碁の攻めについて考えてゆきたい。
〇マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
 今回、紹介するマイケル・レドモンド氏は、奇しくも、4年後の2028年に開催されるロサンゼルスと同じ、カリフォルニア州出身のプロ棋士である(サンタバーバラ)。日本では数少ないアメリカ出身のプロ棋士である。妻は中国囲碁協会の牛嫻嫻三段、牛栄子四段は姪である。10歳の頃に物理学者の父親に教えられて、囲碁を始めたという。その後の活躍は、プロフィールにある通りである。

【マイケル・レドモンド氏のプロフィール】
・1963(昭和38)年5月生まれ。米国カリフォルニア州出身。大枝雄介九段門下。
・1977年院生。1981年入段。1985年五段。2000年九段。
・1985年留園杯優勝。1992年新人王戦準優勝。1993年棋聖戦七段戦準優勝。




【マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』(日本放送出版協会)はこちらから】





マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
【目次】
1章 攻めは分断から
 攻めの考え方①
 攻めの考え方②
 中央での戦い
 閉じ込める
 封鎖を避ける 
<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)

2章 両ガカリ対策
 両ガカリ対策
 戦いはまず頭を出して
 閉じ込めて主導権を握る

3章 ハサミで戦おう
 積極的なハサミ
 弱点をねらう
 戦いはスピード
 全局を視野に
 ボウシの威力
 まず封鎖
 閉じ込めれば大模様Ⅰ
 閉じ込めれば大模様Ⅱ
<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)
 
4章 見合いと振り替わり
 オサえる方向に注意
 カカっていこう
 小目に挑戦
 囲わせて勝つ
 切る・切られる
 見合いをみつけよう
 簡単! 高目と目外し





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・攻めの基本と守りの基本
・三連星の攻めと守り
・両ガカリ対策
・戦いはまず頭を出して
・ハサミで戦おう
・オサえる方向に注意
・小目に挑戦~小目の大ゲイマガカリ定石
・囲わせて勝つ~小目の大ゲイマガカリ定石の変化
・切る・切られる~競り合い
・見合いをみつけよう~小目の大ゲイマガカリ定石の変化
・【補足】ハネツギの効果
・【補足】ハネツギの効果~攻め合いのとき(『攻め合いの達人』より)







はじめに


・「どうしたら強くなれますか?」とよく聞かれるそうだ。
 定石の研究、詰碁の勉強といろいろあるが、碁の中でもっとも楽しくもあり、難しいのは、戦いの場面。
 しかし、戦いは、布石やヨセと違って、同じ形はまず現れない。
 定石がないところが、勉強しづらい点である。

・攻めが苦手な人もいるだろうし、守りがおろそかになる人もいる。
 攻め一辺倒でも、守ってばかりでもいけない。
 戦いには、攻めと守りの両面が必要。

〇戦いの考え方を理解して身につけることが、中盤を戦い抜くコツ。
 戦いに入ったときの作戦の組み立てかたで、碁の流れは大きく変化する。
 
※本書では、戦いの考え方を理解してもらうため、「攻め」と「守り」の基本をわかりやすく解説している。
 気に入った戦法があれば、必ず実戦で使ってみてほしい。
 何回か試してみれば、理解の度合いがぐんとアップするし、自分にとって使いやすいかどうかの判断も下せる。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、2頁~3頁)

攻めの基本と守りの基本


【攻めの基本と守りの基本】
ポイント
〇攻めの基本
①相手を分断する
 相手の石が連結して地を作ったり、大きな一団になったり安定すると、攻めが効かない場合が多い。
②閉じ込める 
 眼形のない石が孤立したら、中央などに逃げようとするだろう。
脱出を事前に防いで、狭い所に閉じ込めることができれば、攻めは成功したといえる。

〇守りの基本
①連絡する
 石は連絡すると強くなる。
 また、三線や四線で連絡すると地ができる。
②中央に出る
 辺の連絡が断たれると、中央へ向かう競り合いが始まる。
 一歩でも先に頭を出したほうが優位に立つ。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、9頁)

三連星の攻めと守り


☆三連星を題材に攻めと守り、戦いについて考えてみる。
 六子以上の置碁でも使え、実戦でよくできる形である。
 三連星は、隅と辺の要点を合わせて三手打った形である。
【基本図】
・三連星の内側に白が1、3と入ってきた。
・プロの対局では、白1がAと三連星の外側からカカって、急な戦いを避けるほうがふつうである。
 黒のほうが石数が多く強い場面であるので、白を攻めることを考える。
 しかし、白にハサまれた三角印の黒が心配である。
 黒は心配な三角印の黒から動いて、攻めと守りのバランスの取れた打ち方を考えるといい。
≪棋譜≫10頁の基本図

【3つの打ち方】
A一間トビ
B鉄柱
Cコスミ


【A一間トビについて】
・黒1と一間にトブのが、まず頭に浮かぶだろう。
 ハサまれて攻められたので、中央に早く脱出したいという気持ちが表れた手である。
 一間トビは確かに中央に出るスピードは早いが、白への攻め、分断ができているか心配。
※「一間トビに悪手なし」という格言があるが、白(17, 八)とケイマにあるときはあてはまらない。

・白は2とツケて黒の弱点を突きながら、連絡しようとしてきた。黒が連絡させまいと3とオサえると……
・白4の切りがうまい筋。「切り違い」になった。
・分断をもくろんで、黒5とアテる。
※切り違いは複雑なので、黒5のアテしかないわけではない。
 腕に覚えのある人は、研究するとよいという。

・白6と逃げられると、黒5の左の断点が心配。
・黒は7とツイで戻らなければならない。
・白8で連絡されてしまった。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、8頁~12頁)

両ガカリ対策


〇両ガカリ対策について
・互先でも置碁でも、よく登場するのが、「両ガカリ」
 とくに自分の立場が強い場面で始まる置碁では、有効な戦法。
 両ガカリの後は、模様を築くことになりやすく、厚いダイナミックな碁にもっていくことができる。
 攻めと守りの基本を念頭において、始めていこう。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、59頁)

【基本図】
・二間高ガカリの両ガカリについて、説明していく。
 右上が焦点。

【1図】基本図までの手順
・黒4と辺からトブのが、わかりやすくおすすめ。
※一間トビは足が早く、守るときに大いに役立つ。
 また、白も分断して、攻める姿勢も十分。
・白5と両ガカリされたときが、問題。


【2図】
・黒6とコスんで、中央に出るのが自然な手であるが、白7とカケがぴったりで、難しくなる。
※戦っていけば、黒が悪くなるわけではないが、三角印の白と両方が二間のときは、初心者にはコスミはおすすめできない。

【3図】
・二間高ガカリの両ガカリのときは、黒1とケイマにするのが、封鎖されない好手。
※白を分断すれば、攻めをみることができる。
・白は2とトンで、逃げてきた。

【4図】
・白に連絡されないように、また囲まれないように、黒3と押した。
※同時に上辺の白にモタレながら、右辺の一間トビしている白をねらっている。
 強いほうの石に働きかけながら、反対側の石の攻めをみる「モタレ攻め」は、攻めの常とう手段。ぜひ感じをつかんでほしい。
・黒5まで押して、黒7とボウシ。
※黒は一間にトンで守りながら、白を攻めて、一石二鳥。

【5図】
・黒1のケイマに対しては、白2と押すのが、最も自然な手。
※しかし、右辺の白がきれいに囲まれてしまうので、白苦しい。
・白6~10は、置碁などでもよく見かけるサバキの手順であるが、黒は11まで受けて十分。
※中で生きるとなると、白はつらい手ばっかり。
・黒17まで、右下隅の黒の勢力は巨大になってきた。

【6図】
・白2ケイマも形であるが、黒3と封鎖されて、ダメ。
・やはり黒15まで、白つらい。
※黒1のケイマは比較的強い上辺カカリの白石を固めて、右辺カカリの白石を狙う作戦だとわかる。
 逆に相手の弱い石を先に固めると、両方逃げられる恐れがある。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、60頁~62頁)

戦いはまず頭を出して


〇両ガカリを題材に、うまい手筋も紹介していこう。
【基本図】
・両方とも二間高の両ガカリのときは、三角印の黒とケイマで出ていくのが、わかりやすい。

【1図】
・白1のツケは強手で、要注意。
 黒はどう応じるか?

【2図】
・黒2のオサエに、白3と切るのが厳しい。
・黒4とアテたくなる。
※しかし、取れないのに、アタリにするのはよくないことが多い。


【3図】
・白5と逃げられたとき、黒はシチョウにならないので、6とアテることになる。
・白は7とさらに逃げる。
※白7のサガリがきたことで、隅の黒が心配になってきた。
 弱い石から動くのがコツ。
・黒8のオサエは逃せない。
※根拠の要点だから。


【4図】
・黒10のマガリに、白は11と二段バネしてきた。
※黒は気をつけて対応しなければならない。
・黒12としっかり、自分の断点を守ることが大切。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、68頁~69頁)

ハサミで戦おう


〇3章 ハサミで戦おう~積極的なハサミ
・3章では、四子局を題材に、戦いの考え方を解説している。
・互先の「二連星」でも活用できるので、実戦でも試してほしい。
・戦いは暗記ではない。考え方を身につけることが大切
➡盤面全体を視野に入れた打ち方を考えること。
 
【基本図】
〇四子局
・白1とカカってきたら、黒2と積極的にハサもう。
※置碁では、置き石の威力が十分な序盤で戦えば、有利に進めることができる。
※ハサミには、「一間バサミ」「二間バサミ」などがあるが、星という印のある「三間バサミ」がわかりやすい。
・白3の両ガカリに対しては、黒4とコスむのが、わかりやすくおすすめ。

【2図】
・コスミなら、白は5と三々に入るしかない。
※黒は三々だけ知っていればいいので、わかりやすい。おすすめ。
・黒はハサミのあるほうから、6とオサエ。
【6図】
・黒8とケイマにカケて、白への攻めを見たいところ。
【13図】
・黒がケイマにカケるのは、白9と出て11と切られるのが、恐いかもしれない。

【17図】
・白は13、15とハネツイで、弱点を補強した。
・黒16は上での戦いを意識した守り。
・白17のノビに対して、どう守るか?
・黒18とaと迷う人がいるようだが、18が正しい。
※ aでは白から出切りが残るし、右辺の星と2路違いで連絡が悪い。
・黒20は、白に囲まれないよう広げながら、bの切りを防いでいる好手。

≪棋譜≫94頁、17図


【22図】
・17図の白17で1とノビるのも、考えられる。
・黒は2とナラんで、受けるのが形。
【23図】
・黒は1などと手を抜くと、白に2から4と出切られて、困る。
・取られないためには、黒5からずるずるとハッていかなければならない。
※白は喜んでずっとノビていればいい。
※黒が仮に生きたとしても、二線では地が小さい。
 白の厚みが大いにまさって、黒がよくない。
【24図】
・三角印の黒のナラビがあれば、白1から3と出切っても、黒4、6とシチョウに取って助かる。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、85頁~97頁)

オサえる方向に注意


四子局
≪棋譜≫166頁、A1-3譜 



【基本図A】
〇四子局
・黒2のハサミに対して、白が他へ転じた場合を考えてみよう。
・白3と右下にカカってきた。
※相手が何かやってくるまで待っているという姿勢ではいけない。
 相手が手を抜いたら、続けて攻めるのがいい。
 守らなかった弱い石を攻めるのは、攻めの効果が出やすい。

【A-1譜】
☆黒は手を抜いた右上の白をねらう。
・黒4とコスミツケて、白の根拠を奪う。
・黒6は大切な守り。
・三角印の黒(16, 十)があるため、白は7と一間にしかヒラけない。

【A-2譜】
〇黒は最も弱い石から動く。
・辺の石に白が近づいてきたので、黒8と中央へ向かってトビ。
・白も閉じ込められないように、9と頭を出す。
※今度は右上の黒が囲まれそう。
 背の高さを比べれば、わかる。
【A-3譜】
・白が11と右下に両ガカリしてきた。
・両方とも小ゲイマガカリなので、黒は12とコスミ。
・黒はハサミのあるほうから、14とオサエ。
※もう得意の形になってくれただろうか。
・黒16とカケて、白にプレッシャーを与えて、黒が好調。

【5図】
・A-2譜の白9で1と右上の黒をおびやかしてきたら、黒は2とふんわり封鎖。
※攻めはまず閉じ込めるのが基本。
・白は3、5とツケサガって、フトコロを広げて、生きをはからなければならない。
※黒は無理せず、外からオサえ込むような気持ちで、応対すればよい。
・白9が急所で白は生きたが、狭いところに閉じ込められた。
・黒10で、黒は右上、右辺とかたまって、大きな地になりそう。
・黒12と攻めて、黒好調。

<ポイント>
・白3、5と、ツケサガリで、フトコロを広げて生きをはかる。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、166頁~171頁)

4章 見合いと振り替わり

小目に挑戦~小目の大ゲイマガカリ定石

 
≪棋譜≫182頁、基本図

【基本図】
・白1が「小目」
・小目には黒2の大ゲイマにカカるのが、著者のおすすめ。

≪棋譜≫183頁、2~3図

【2図】
※小ゲイマガカリだと、6とおりのハサミがあって、覚えるのが大変だが、その点、大ゲイマガカリは簡単!
・白3のコスミに黒4と二間にヒラけば、定石の完成。
※左上隅は白が先行しているので、険しい戦いになれば、白が有利な理屈。
 白の勢力が左辺に及ぶのを止めていることで、黒はカカリの目的を果たしている。

【3図】
※左辺で黒の勢力ができたので、次に黒が下辺に打てば、大模様ができそう。
・それを阻止する意味で、白5のカカリが普通。
・黒6ハサミなら、前に勉強した定石になりそう。
・黒先手を取って右辺に16と三連星するのが足早。
※碁盤の右側が黒の勢力で、これから白を攻める展開になりそう。

≪棋譜≫184頁、4~9図

【4図】
・大ゲイマガカリでは、白1のハサミが手順が長く少し難しいかもしれないが、これさえできれば、大ゲイマガカリは合格。
・ハサまれたら、黒は2とツケてサバキ。
※白の打ち方によって、カカった石を捨てて隅を取ろうと振り替わりを目指している。
 相手の強いところでは、振り替わって相手の攻めをかわすのが有力。

【5図】
・白は3とハネるだろう。
・黒は4と切り違える。
※黒はあとからカカッていったので、弱い立場。
 弱いときには、ツケたり切ったりハネたりするのがよい。

【6図】
・白はハサミの顔を立てて、5、7とアテ、三角印の黒(3, 六)の石を切り離すのが正しそう。

【7図】
・白は9にツイで、弱点を守る。
・黒は10と地を稼ぎながら、三角印の白(4, 三)を取る。

【8図】
・白11は薄い手であるが、三角印の白(4, 三)があるので、大丈夫。
・黒は12と1つ出て、白に節をつけてから、14と戻る。

【9図】
・白15のツギまでが、定石。
※白に厚みができたので、黒16とケイマにシマって、厚みをぼかす。
 aなど近寄るのは、苦しくなる。
相手の強いところでは、有利に戦えないだろう。
「厚みに近寄るな」という格言もある。
のちに、白がbと囲ってきても、黒はcの切りとdのコスミが見合いで生きているので、手抜いて大丈夫。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、182頁~185頁)


☆変化図を一つ
≪棋譜≫188頁、17~21図
【17~21図】

【17図】
・8図の黒12で1とハウのは、危険な手。
・白は断点を気にせず、2とハネ。
・黒3の出にも、白4と断固オサエ。

【18図】
・黒が5と切ってアテれば、よさそうに見える。
※アタリだからといって、すぐツイでもらえるとは限らない。
・白6とまくるのが厳しい手で、シボられてしまう。

【19図】
・黒は7と取るしかない。
・白8にアテられると、黒は9とツイでダンゴにされる。
・白は10とノビて、まず上辺を安定させる。

【20図】
・黒11と切ってみよう。
※これもアタリであるが、逃げてもらえない。
 白の立場では、大切な石がどれかを見失わないようにするのが大切。
・白は12とハネ。
・黒13のオサエに、白14と切れるのがミソ。

【21図】
・黒はアタリなので、15と取る。
・白が16とツグと、隅の黒三子はそのまま取れている。
・黒17とアテてもだめ。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、188頁~189頁)

4章 見合いと振り替わり

囲わせて勝つ~小目の大ゲイマガカリ定石の変化


【基本図】三子局
≪棋譜≫190頁、基本図

・前項で説明した定石の途中で、白が1と変化してきた。

≪棋譜≫191頁、2~3図


【2図】
※黒は閉じ込められてはいけない。
・黒2とコスんで、4とノビ、頭を出す。

【3図】
・白は5とマガって、黒一子を制する。
・黒は6とコスんで、三角印の白を取りきるのは、とても重要なこと。
・白8とサガって、一段落。
※白は分断されて薄い。
 これから黒は主導権を握れそう。

≪棋譜≫191頁、4~6図


【4図】
・3図の白5で1と逃げてくるのが心配かもしれない。
・黒はなんとしても2とハネ。
・白3の切りが黒二子をアタリにしている。
・黒4とツガざるをえない。
・白5とカカえられると、白二子に逃げられてしまったが。

【5図】
・黒6と白を封鎖するのが、いい手。
・白は、7,9とハネツギで、がんばってきた。
※さあ、隅は攻め合いになった。
 どうやって攻めたら、いいだろうか?

【6図】
・黒10とハネるのが、ダメを詰める好手。
・白11と眼を持っても、黒12とじっとツナいで、大丈夫。
・黒14のサガリまで、白は取られてしまった。
※4図の白1は無理なのである。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、190頁~191頁)

【基本図2】
〇では次のテーマ
≪棋譜≫192頁、基本図

・白が左下に1と一間にカカッてきたときを考えてみよう


≪棋譜≫192頁、7~10図

【7図】
・カカリに対して、黒は2と受ける。
・白3、5のツケ引きから黒6のサガリまでが、星の一間ガカリ定石として、よく打たれる。

【8図】
・ここで白は7と押してきた。
・11まで押して、下辺に13とトンで、模様を広げてきた。
※よく四線は押すと損というが、こんなに大きな模様ができるとびっくりしてしまうのではないだろうか。

【9図】
・白模様が大きすぎてちょっと心配かもしれないが、黒は14とケイマにトンで、連絡しながら消すのが、わかりやすい。
・白が17と守ったら、黒は18と下辺を広げる。

【10図】
・白が19と広げてきても、黒20から22と、白に囲わせて地にさせてあげればいい。
・黒24となったところまで、おおまかな形勢判断をしてみよう。
・囲わせた白地は55目くらい。
・黒地は上辺、下辺ともに、20目ほどで、合計40目ある。
※右上隅の黒地を足せば、地合いは接近しているが、上辺の黒模様は谷が深く、右辺と下辺も黒の楽しみが多い。
➡黒有望の形勢
※著者が囲わせてもいいといっても、やはり白地が大きそうに見えて心配になる人も多いようだ。
 そこで、1回形勢判断してみよう。
 普通は序盤から細かい地の計算をしなくてもいいのだが、このような確定地ができた場合はやってみていいだろう。

【11図】
≪棋譜≫195頁、11図

・まず地の境界線を確認する読み。
・すぐには打たないが、黒1から6までが相場。
・7も大きなヨセで、黒の権利。

【12図】
≪棋譜≫195頁、12図

・隅の切り取りの権利は半々として、三角印の部分を計算しないことにする。
・四角印で最低限の境界線を作ってみた。
 白地は56目。
・黒確定地は、左下隅21目、左上隅16目で合わせて37目で、19目少ないのだが、盤の右側は圧倒的に黒有利。
※右下、右辺と下辺も黒の楽しみが多い形勢。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、192頁~195頁)

切る・切られる~競り合い


・競り合いの解説をしている。
・前項からの続きだが、競り合いでは、キズや弱点が必ずできてくる。
・守っていれば堅いのだが、守ってばかりいると相手に大場へ先行され、体勢が遅れてしまう。
※ここでも、見合いと振り替わりの考え方は、基本となってくる。

【基本図1】
≪棋譜≫199頁、基本図

・左辺の模様拡大に、白は1と押してくるかもしれない。

≪棋譜≫201頁、1~3図

【1図】
※白が競っているときには、そっぽをむいてはいけない。
 黒はハネかノビかを打たないと、勢力争いに負けてしまう。
・黒は5つも並んで強くなったので、2、4と二段バネしてがんばる。
・白が5とノビたら、黒6と二間にトンで、反対側から消す。
※連絡していることが大事。

【2図】
・白は左下の三子が弱いので、白7と守る。
・黒は8とひとつ押したら、今度は10と上辺に転じる。

【3図】
・白は11と切って、13とハネるのが筋。
※二目の頭をハネたよい形になるから。
・黒は抵抗せず、14とカカエておくのが本手。
・黒16と下辺に構えて、黒十分。
※16は三角印の黒のちょうど真ん中にあたる。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、199頁~202頁)

見合いをみつけよう


・前項からの続きの図
・小目に大ゲイマガカリして、白が一間にハサんだ形の変化

【基本図1】
・黒2と切り違えたとき、白が3、5とアテてきた場合を考えていこう。

≪棋譜≫206頁、1~5図

【1図】
・アタリなので、黒は6と逃げる。
・白は7のカケツギで、両方の断点を防いだ。
・黒8で地を稼ぎながら、白一子を取り込んだ。

【2図】
・白は9とハネを効(ママ)かしてから、11とヒラキ。
※隅の黒は生きた。

【3図】
・白が上辺を守ったら、黒は12と左辺の白を攻める。
※四線と高くハサんだのは、下辺の模様を意識している。
 上辺と左辺は見合い。

【4図】
・黒は14とノゾいて、白の眼形を作りにくくする。
・白を強くしてから、黒16とマガるのが調子。
・黒18とトンで白を攻めながら、下辺を盛り上げる。

【5図】
・白は19とトバなければならない。
・黒は深追いせず、黒20と三連星に構えて、黒の模様は大きく十分。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、206頁~208頁)

【基本図2】
・では、白が1とノビてきたときのことも考えておこう。


【6図】
・黒は連絡したいので、2と引き。
・白3とノビると……?
※見たことがある定石に戻っているのが、わかるだろう。

【7図】
・白5で、白の壁ができたので、黒6と少し控えてぼかす要領。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、208頁~209頁)

【基本図3】
・今度は、白が1とハネてきたら、どう対応するか?



≪棋譜≫210頁、8~11図


【8図】
・黒は2と引いていて、いい。
・白3のカケツギは、カタツギより眼形が豊富。
・黒は4とトンで、まず自分をしっかりさせる。
※次に、上辺か左辺の白、どちらかに攻めに回る。これも見合い。
・白が5と左辺に二間ビラキして守ったら、黒は6と上辺を攻めにいく。
・黒6はコビンという急所。
・白7のツケが手筋だが、黒は8とハネていい。
・白は9とサガリ。しかし、つらい。

【9図】
・断点はあるが気にせず、黒は10とハネるのが厳しい。
※一番弱い石から動く。
・黒は14とトビ。
・白15のノビには、黒16とカケツギながら、連絡するのがいい手。
※隅の白を封鎖することができた。

【10図】
※左上の白を生きなければならない。
・白17、19とハネツイで、フトコロを広げる。
・続いて、黒は20と左辺の白を攻めに回る。

【11図】
・黒24とノビるのがいい手。
・黒は26と大きく上辺の白二子を攻めて、好調。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、210頁~211頁)
<ポイント>
・囲碁用語コビン
 相手の石のコビン(小髪、小鬢、もみ上げの上の部分)、斜め上を突く手。アゴと同意。

【補足】ハネツギの効果


・ハネツギの効果について、著者は、丁寧に解説しているので、紹介しておこう。

≪棋譜≫173頁、B-2譜

【基本図B】
〇今度は、黒2のハサミに白がすぐ3と三々に入ってきたときを見ていこう。
※互先のときによく出てくる定石である。
 この機会に身につけよう。

【B-1譜】
・黒はハサミのあるほうから、4とオサエ。
・三角印の白があれば、黒6とノビ。

【B-2譜】
・白は先に7、9とハネツギ、11とトンで一段落。
※定石では次に黒はAとハネるのだが、ここは雄大な構想で、黒12と大場に先着するのがよさそう。

〇さて、著者は、上図のハネツギについて、次のように、解説している。

≪棋譜≫173頁、2図

・ハネツギを打たずに、単に白1とトブのは、黒2、4と出切られ、6まで隅の二子を取られてしまう。


≪棋譜≫173頁、3図

・ハネツギがあれば、2図と同じように、黒1、3と出切られても、白6で黒を取ることができ、連絡している。

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、171頁~173頁)

【補足】ハネツギの効果~攻め合いのとき(『攻め合いの達人』より)


・ハネツギの手筋は、攻め合いのときにも、その威力を発揮する場合がある。
 次の問題を参考にしてほしい。

〇柳時熏『囲碁文庫 天下初段シリーズ3 攻め合いの達人』日本棋院、2002年[2020年版]
【問題19】黒番 1分で4級
・三目どうしの攻め合い。
・白の手数は四手、黒は三手だから、普通なら勝てないが、そこは頭の使いよう。
 境界線をどうするか、テクニックの見せどころ。
≪棋譜≫攻め合い問題19、57頁


【正解】(ハネツギ)
・黒1、3のハネツギで解決。
・白4のツギがちょうど三角印の黒にぶつかり、手数が双方三手ずつ。
・黒5で一手勝ちになる寸法。
※ハネツギで相手のダメを縮める手法、よく覚えてほしい。
≪棋譜≫攻め合い問題19、正解、58頁


【失敗1】(黒負け)
・単純に黒1と攻めるのは、白2とハネられ、黒負けは明らか。
※白2ではaでも、黒いけない。
≪棋譜≫攻め合い問題19、失敗1、58頁


【失敗2】(同じく負け)
・黒1、白2のサガリ、サガリでは、工夫が足らず、黒負け。
≪棋譜≫攻め合い問題19、失敗2、58頁

(柳時熏『攻め合いの達人』日本棋院、2002年[2020年版] 、57頁~58頁)
<ポイント>
※ハネツギで相手のダメを縮める手法、よく覚えてほしい。



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