歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の攻め~中野寛也氏の場合≫

2024-09-01 18:00:15 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~中野寛也氏の場合≫
(2024年9月1日投稿)

【はじめに】


 今日、9月1日(日)の「囲碁フォーカス」で、柳澤理志先生も、攻めについて語っておられた。攻めは相手の石を取りにいくこととは限らず、方向を意識して、上手に逃がすことだと。なるほどと思った。
 今回も、次の著作を参考にして、囲碁の攻めについて考えてみたい。
〇中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
 中野寛也氏は、プロフィールおよびコラムにおいても、書いておられたように、碁を始めた昭和53年ごろ、当時加藤正夫先生が五冠王で、活躍されていた。力でねじ伏せて大石を取ってしまう加藤先生の力強さに憧れたという。「殺し屋加藤」という異名であったことは、よく知られている。
(“殺し屋”とは随分ぶっそうな異名だが、中野氏本人もコラムに書いておられたように、加藤先生は優しく穏やかな人柄であったそうだ。また、吉原由香里さんも、師匠の加藤先生は優しい人であったと、「囲碁フォーカス」で涙ぐみながら偲んでおられた。)
 なお、本日のNHK杯テレビ囲碁トーナメント(2回戦)は、芝野虎丸名人と小池芳弘七段との対局で、解説は三村智保九段であった。その解説の中で、芝野名人は、大石を積極的に取りにいく“令和の殺し屋”であると、三村九段は形容されていた。それほど、大石を取りにいくことは難しいのである。
 だから、中野氏も、これまで紹介した著者と同じく、攻めにおいて、「石を取ること」を勧めていない。その代わり、次のように、いみじくも述べている。
 囲碁を始めたときに、誰でも最初に考えるであろうことが、「相手の石を取りたい」ということである。石を取ったら有利、取られたら不利と思いがちである。
ところが、上達してくるにしたがって、いらない石は捨てるという考え方を身につけるようになる。強くなることで、より大切な石を重視できるようになる。
捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイントである、と。(189頁)

 中野氏は、攻めのポイントとして、次のような点を挙げている。
〇石の強弱の判断(73頁、173頁、182頁)
・自分の石が強いか弱いかの判断によって、着手は変わってくる。簡単に言えば、強い石=生きている石、弱い石=生きていない石となる。
・相手に一方的に攻められると、ただ逃げるだけのダメ手を何手も打たされ、形勢を損じやすくなる。そうならないためにも、相手に攻められる前に、弱い石には備えが必要。
・逆に、自分の石が相手の石よりも強い時には、相手の石を分断して強く攻めることもできる。
・相手に封鎖されてしまうと、その石の生き死にを心配しなくてはいけなくなる。
 多くの場合、無理に生きるためにもがくことは、周囲にさまざまな悪影響を与える。
 だから、眼のない石は中央の広い方に頭を出していくというのが基本。

〇要石とカス石の判断(65頁)
・要石とは、助けるか、あるいは取ることによって、石の連絡に関わる石。
 カス石とは、お互いの石の強さには関係のない石で、助けても取られても、周囲にあまり影響のない石のこと。
➡その判断のさいには、石の眼のあるなしが、一つの大きなポイント。

〇石の方向(81頁)
・石の方向は、ある意味では石の強い弱いに、直接関係する部分だといってしまっても、いい。追いかけ方ひとつで、相手に楽をさせたり、苦しめることができたりと、展開が大きく変わってくるので、方向の見極め方は、とても大切。
・また、攻めの方向としては、相手を分断して、カラミ攻めを狙うべきところや、自分の石の安全を確かめるためにしっかりと連絡しながら相手を攻めること。

〇形の急所(126頁)
・石の配置が複雑な状態で行われる戦いにおいては、「形の急所」が、打つ手を選ぶ時の方針の一つになる。
・よく、プロが、「ここはこう打つ一手」といういい方をするが、それは手を読んで判断している場合よりも、形の急所を知っていて、それを指摘している場合が多い。
格言にもあるように、「二目の頭は見ずハネよ」や、「急所のノゾキ」などにあたる筋を大切。

〇「碁は切断にあり」(142頁)
・碁は陣地を囲うゲームであるが、石と石との戦いでもあり、その戦いは石を切ることによって始まることが多いからである。石を切るというのは簡単なことのようであるが、相手もそれなりに注意して守っていることがほとんどであるから、時にはテクニックが必要。
・まず、相手の連絡に不備があるのかどうか、そこを見極めることができるかどうかが、大きなポイント。

〇捨て石の活用(189頁)
・捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイント。
 助けると重くなってしまい、全体を攻められてしまうような時には、早く見切りをつけ、小さいうちに捨て石として活用すべきである。

〇仕掛けのタイミング(214頁)
・戦いの醍醐味の1つに仕掛けのタイミングがある。
 主導権を握ることのできる局面を見極め、また、相手の弱点をつき、よい攻めの方法を見つけてほしい。

〇根拠を奪う(238頁)
・相手の石の根拠を奪い、完全には生きていない状況に追い込むことで、攻めをより厳しくすることができる。
・根拠を奪うための最初のポイントは、相手の守りの不備を見つけることができるかどうか。

【中野寛也(なかの・ひろなり)氏のプロフィール】
・1969年広島県生まれ。島村俊廣九段門下。
・1985年入段、1997年九段。
・日本棋院中部総本部所属。
・1995年第10期NEC杯俊英トーナメント優勝、第51期本因坊戦リーグ入り。
 第38、39期王冠。
・2000年第38期十段挑戦。2010年第19期竜星戦準優勝、通算700勝達成。
・激しく戦う棋風で活躍中。
※趣味はゴルフ、読書。

<プロフィール補足>
「コラム 戦い王子のひとりごと ②戦いに目覚めたきっかけ」
・著者が碁を始めた昭和53年ごろ、当時加藤正夫先生が五冠王で、「殺し屋加藤」という異名で活躍されていた。
 地の計算で勝つ石田芳夫コンピュータ先生も活躍されていたが、著者は力でねじ伏せて大石を取ってしまう加藤先生の力強さに憧れたという。
・そのせいか、少年時代は碁とは戦って勝つものだと思い込んでいた。
 ところが院生になってみると、ただのチャンバラでは通用しない。
 皆、地のバランスや計算もしっかりしているので、乱闘派の著者も自然に勝負を意識して、バランスを重視するようになったそうだ。
・地元広島の呉に後援会ができ、島村俊廣先生の内弟子として、お世話になれたのも、後援会の方々のお蔭であったという。
 その後、島村導弘先生、羽根泰正先生、山城宏先生の親切な指導もあり、子供ながらプロにならなければという気持ちが強くなった。
・とはいえ、どんな局面でも最短で最強の手を選びたいという気持ちは変わらない。
 著者は、囲碁は石を使った格闘技だと思っている。
(子供のころから、ボクシングやプロレスが大好きで、昔はアントニオ猪木の大ファン)
・著者の尊敬する加藤先生の棋風も、普段の優しく穏やかな人柄とは正反対である。
 先生は著者が深夜までかかって負けた対局後も、さりげなく「ちょっと行こうか」と声をかけてくれて、お話をしてもらった。先生と話していると、負けて重い気持ちが薄れていくのを感じた。この気持ちが今でも戦い続けられる原動力で、著者の財産でもあるという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、96頁)



【中野寛也『戦いの“碁力”』(NHK出版)はこちらから】


〇中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年
1章 打って良い時悪い時
 軽率なアテに注意
 生ノゾキの隣に急所あり
 切って厳しく攻めよ
 弱い石の連絡に敏感になる
 ツケは強い石を狙え
 腕試し問題①~⑤

2章 見分ける力をつける
 要の石を見逃すな
 石の強弱を見抜け
 戦うべき方向を読む
 押すか引くかを決断せよ
 腕試し問題①~④

3章 パンチ力をつける
 定石でシチョウを生かす
 ゲタシチョウの威力
 形の急所をつけ
 弱点をついて根拠を奪え
 戦いの勝機は切断にあり
 攻めの着点をさがせ
 腕試し問題①~⑥

4章 攻めを生む防御力
 弱い石を作るな
 封鎖をされるな
 捨て石で大胆に動け
 手入れで力をためろ
 腕試し問題①~④

5章 戦闘力をみがく
 弱い石の狙い方
 間合いを図って切れ
 包囲網を広く敷け
 根拠を奪う攻め
 腕試し問題①~④
 
【コラム】戦い王子のひとりごと
①碁を始めた時
②戦いに目覚めたきっかけ
③失敗談
④海外での経験、なぜ行くか
⑤テレビ講座を経験して




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


1章 打って良い時悪い時
 軽率なアテに注意
 生ノゾキの隣に急所あり
 切って厳しく攻めよ
 弱い石の連絡に敏感になる
 ツケは強い石を狙え

2章 見分ける力をつける
 要の石を見逃すな
 石の強弱を見抜け
 戦うべき方向を読む
 押すか引くかを決断せよ

3章 パンチ力をつける
 定石でシチョウを生かす
 ゲタシチョウの威力
 形の急所をつけ
 弱点をついて根拠を奪え
 戦いの勝機は切断にあり
 攻めの着点をさがせ

4章 攻めを生む防御力
 弱い石を作るな
 封鎖をされるな
 捨て石で大胆に動け
 手入れで力をためろ
 腕試し問題①~④

5章 戦闘力をみがく
 弱い石の狙い方
 間合いを図って切れ
 包囲網を広く敷け
 根拠を奪う攻め

・【補足】石の強弱に注意~山下敬吾『基本手筋事典』より
・【補足】ツケギリと両にらみ~藤沢秀行『基本手筋事典』より
・【補足】中野寛也氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より






はじめに


・本書に興味を持った人は、「戦わなくても碁は楽しい」あるいは「戦いはちょっと苦手」などと思っているのではないかと推測する。
 でもあと少し強くなるためには、戦う力も必要と感じているのではないだろうか。
 そんな人に、読後「戦うことが怖くなくなった」「碁が一層面白くなった」と思ってもらえたら幸いだという。
 逆に戦いが好きな人にはもうワンステップとなればと願っている。
➡著者なりの上達法のエッセンスをギュッと詰め込んでみたという。

・碁は何度対局しても同じ局面にはなかなか出会えない。
 しかし、それが醍醐味でもある。
 だから、図を記憶しようとするより、考え方をつかみ、本書で学んだことを実戦のさまざまな場面で応用してほしいという。

※なお、本書はNHK囲碁講座で、2011年4月から9月まで放送された「中野寛也の戦いの“碁力”」の内容と、新たに復習問題とコラムを付して、再構成したものであると断っている。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、2頁~3頁)

1章 打って良い時悪い時


・“碁力”は、“戦いが楽しくなる棋力”という意味の造語であるという。
 本書では、戦いというテーマを通して、囲碁の基礎知識や基本の手筋を紹介している。
・まず、基本の考え方。そして、戦いでよく使う基本手筋。最後に、それを応用した、戦いの中での攻めと守りの実戦を示す。
・1章は、基本の考え方として、決断力を養う。
 戦いでよく打つ場面が出てくる、アテ、ノゾキ、切り、連絡、ツケについて、代表的な局面をテーマ図にしている。
 周囲の石の状況をしっかり観察して、打つべきか否かを決断してほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、9頁)

軽率なアテに注意


・石を取るぞとアタリをかけるのが、「アテ」
 すぐにアタリを打ちたくなるが、打って良い時と悪い時がある。
 アテて良い時の例としては、相手を切るよりも、アタリのほうが勝る場合。
 アテて悪い時の例としては、いくつもあるが、簡単に言えば、いろいろな利きをなくす味消しの悪手となるアテを取り上げる。
(もちろん、周囲の状況によっては、部分的には同じ手でも、いい手になったり、悪い手になったりすることがある)

・大事なことは、状況に応じた対処ができるかどうかということ。
 そういう力をつけながら、アテていいか悪いかを、しっかり見極めてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、9頁)

1章 打って良い時悪い時

生ノゾキの隣に急所あり


・テーマは「ノゾキ」
 ノゾいて良いところと悪いところの見極めは難しい。
 いわゆる生ノゾキといわれる悪手の隣が、急所のノゾキとなる好手である場合が多い。
 また、ノゾいてはいけない時もあるが、それは相手を強化してしまうことで、周囲の自分の石にリスクが生じてしまう時である。

・悪いノゾキを打ってしまってから、これは悪手だったと後悔しても、時すでに遅し。 
 だから、ノゾキを打つ前にしっかり判断して、それから着手するのが、大切なポイント。

・碁には、良い手よりも悪い手のほうがたくさんあるものである。
 多くの人が知らず知らずのうちに生ノゾキの悪手を打っているケースが多い。
 注意が肝心。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、17頁)


【テーマ図3】(黒番・先手を取るノゾキ)
・目下の急務は、上辺の黒二子を安定させること。
 右上の白の弱点をうまくつきながら、すんなり黒を治まってしまう。
 そんな進行を目指したいもの。黒はどこに目をつけるか?

【1図】(正しいノゾキ)
・この場合も、黒1とナナメからノゾくのが正解。
・黒1に、もし白aのツギなら、黒はbと頭を出して、すっかり余裕のある形になった。
※これは、黒の理想の手順といっていい。


【2図】(黒の注文)
・黒1のノゾキには、白も2とコスミツケて、切り違いを防いで連絡するくらいの相場。
・これなら黒も3と、もうひとつノゾキを利かし、白4のツギに黒5と中央に進出して、これも不満のない形。

【3図】(これは生ノゾキ)
・初心者の人が、つい打ってしまうのが、黒1の生ノゾキ。
・今度は白2とツガれ、黒3とサガった時に、白aとは打ってもらえず、上から封鎖してくるだろう。
・黒3が先手にならないのが、生ノゾキの弱点。



【4図】(生ノゾキの弱点)
・黒1、白2の時に、黒3とトブのは、白4と打って、全体の眼を狙う好手がある。
・白4に黒aは白b。黒bは白a。
※黒1はaにあるほうがいい。


【5図】(ダメヅマリは怖い)
・黒1、白2に黒3と打って、先手を取るのも悪手。
・白4に黒5と打って、白を攻めようとしても、この場合は白6とコスミツケる好手がある。
・黒7に白8のワリ込みが手筋で、白12まで。
※黒は要の三子を取られて、ひどい形になった。
 黒の失敗は明らか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、17頁~25頁)

切って厳しく攻めよ


・戦いの好きな人なら、誰でも興味を持つのが、「切り」
 しかし、その切りにも、切って良い時と悪い時がある。
・たとえば、
①シチョウ関係の見極めは大切。
 もちろん、切った石がシチョウで取られるようではいけない。
②また、味方の連絡がしっかりできていないような状況でも、切ってはいけない。

・テーマ図1で取り上げた両ノゾキは、実戦では相手の石を切断する時に使うケースが多い。
 このような場面はすでに接近戦になっているので、決断力とともに、ある程度先を読む力が必要。

※切って仕掛けていく時には、自分の石の連絡はできているかなど、細心の注意をはらって決行しなければならない。

【テーマ図1】(黒番・切りは成立するか)
・上辺で競り合いが始まっている。
 白石の連絡には、どこか不備がありそうだ。
 黒から白の石を切っていく手段が成立するのだろうか。
 黒はどこに目をつけるべきか、考えてみよう。


【1図】(両ノゾキ)
・aとbを狙う、黒1の両ノゾキが目につく。

【2図】(白の反撃)
・しかし、黒1には、白2とこちらをツイでくる。
・黒3から5と切った時に…。

【3図】(ツケ切り)
・白6の反撃を食らうと、黒はまずい。
・黒7と下をハネれば普通だが、ここで白8の切りが好手。


【4図】(黒取られ)
・黒9に白10が決め手。
・続いて、黒aなら白b、黒cなら白aである。
 黒9でbなら白aである。
※1図黒1は失敗する。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、26頁)



【テーマ図3】(黒番・捨て石を使って攻める)
・上辺黒41のケイマに白が42と逃げたところ。
 ここは上辺の白三子と右辺の白の間を割って攻めたいところ。
 ただし、平凡に間を割ればいいのか?
 そこを考えてみよ。

<ポイント>
・ツケオサエ定石 石田(上)336頁

【1図】(手を抜かれる)
・すぐに浮かぶのは、黒1から3の押しだろう。
・しかし、この場合は黒3に手抜きで、白4と整形されそう。
※こうなると、上辺の白四子は好形で、それほど厳しい攻めは利きそうにない。
 問題は右辺であるが…。

【2図】(チャンスを逃した)
・黒5は二目の頭をハネる急所であるが、白6と受けられて、意外にたいしたことはない。
・右下の白は強く、右辺の幅は狭いので、白12、14くらいまでで、ワタられてしまう。
 黒はチャンスを逃した。



【3図】(切り)
・黒1と切る。
 この発想がひらめいた人は鋭い。
 白に変化の余地を与えず、攻めようというのである。
・黒1に白が手抜きをすると、黒aのノビで、三角印の白二子を取り込むことができるから、これは黒の大戦果である。

【4図】(二子にして捨てる)
・黒1の切りには、白2とアテる一手。
・黒3と二子にして捨てるのが手筋。
・白4で二子は取られてしまうが、黒5の切りが黒の読み筋。
 この石が取れるわけではないが…。


【5図】(強烈な攻め)
・白6と逃げた時に、黒7とこちらからアテ、さらに白8にも黒9がアタリ。
※ここで先手を取れることが1図との違い。
・白10に黒11から13と、上辺の白に襲いかかる。
※白は相当に危ない形で、黒成功。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、34頁)

弱い石の連絡に敏感になる


・連絡するかどうかの見極め方であるが、まずは治まっていない2つの石が連絡するのは、とても大きいということを、実感してほしい。
・その逆に、連絡しなくてもいい場合は、どちらか一方、あるいは両方の石が生きている場合である。
 特に両方の石が生きている場合は、連絡する手は無駄になる。
 また、弱い石同士を連絡しようとすると、まとめて危なくなってしまう場合もあるので、注意すること。
・連絡しなくてもいいのに、連絡に手をかけることは、ほとんど1手パスになってしまう。

※連絡は碁の中でもとても大切な要素で、生き死にもからんでくる。
 連絡の基本さえ頭にあれば、さまざまな場面で応用できる。
 ぜひその感覚をつかんでほしい。

【テーマ図2】(黒番・連絡か切りか)
・右上黒21、23は実戦にもよく現れるサバキのテクニック。
・白26のツギに対し、黒Aの連絡か、黒Bの切りか。
 次の一手はどちらを選ぶか?


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、38頁)

【テーマ図3】(黒番・連絡かツギか)
・右上隅で三々定石が出来上がったあと、白が28から動き出してきた局面。
・白28は、この定石後の狙いの一つであるが、黒29、31が正しい応手。
・ただし、白32のアテに対して、しっかり受けなければならない。
※黒は素直にツグか、それとも連絡を図るか。
 ここは重要な分岐点である。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、39頁)
【1~2図】

【3図】

1章 打って良い時悪い時

ツケは強い石を狙え


・ツケは接近戦の中では非常に重要になってくるテクニック。
・ツケの目的はいろいろある。
 自分の石を強化するため
 相手を凝り形にしたりするため
 また、ツケによって相手を封鎖するような時は、ツケてよい場面である

・ツケてはいけない時は、攻めるべき石を強化してしまうような方向が違うツケ。
・むしろ攻めたい石がある時は、その反対側の石にツケていく。
 これをモタレ攻めという。
 実戦でも好手になることが多い。
 攻めたい石に直接ツケるのは、悪手になることが多い。
※今回のテーマ図を参考にして、いろいろな場面で、ツケの良し悪しを見極めてほしい。

【テーマ図2】(黒番・相手を凝らせる)
・黒31のカカリに、白は32とハサんできた。
※ここは黒の作戦の分岐点。
 白は上辺に向けて強い厚みがある。 
 強い石はいくら強くしてもいい。
 そう考えると、次の手がみえてくる。

【2図】
【3図】(正解)
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、45頁)


2章 見分ける力をつける


〇2章は、囲碁では大事な目のつけどころをテーマにしている。
・それは、「石の力を見極める」ということ。
 石には、要となる石がある。その逆に、捨ててもいい石ができることもある。
 また、石は、強くもなるし、弱くなってしまうこともある。
・この石の強弱に直接関係する部分に、石の良い方向と悪い方向がある。
 戦いの中では、その分岐点が必ず何度かあらわれる。
 そして、周囲の自分の石と相手の石の状況を把握して、押す(攻め)か、引く(守り)かを見分ける力がつけば、“碁力”もステップアップである。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、64頁)

要の石を見逃すな


・要石とカス石の見分け方は大切。
・要石とは、助けるか、あるいは取ることによって、石の連絡に関わる石。
 カス石とは、お互いの石の強さには関係のない石で、助けても取られても、周囲にあまり影響のない石のこと。

・本項では、その石がはたして要石なのか、それともカス石なのか、クイズ感覚で挑戦してもらう。
・その判断のさいには、石の眼のあるなしが、一つの大きなポイント。
 例えば、眼のない石同士がその石を取ることで連絡することになれば、それは要石。
 逆に、生きている石から地をふやすだけのヨセのような石は、カス石。
 そのあたりを注意しながら、チャレンジしてみてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、65頁)


【テーマ図4】(白番・石を捨てる勇気)
・黒が白の形のキズをついて、黒27と出てきたところ。
 白としては、何かあいさつをする必要があるが、ここで急所の一手は白Aとオサえる手だろうか。白Bと緩める手だろうか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、71頁)

【1図】(バラバラになる)
・黒の出に白1(A)とオサえられてしまうと、黒2と切られる。
・隅の白は9から11でなんとか生きるが、黒12と二間にツメられると、7とトンだ中央の白五子が浮き上がって、一方的に攻められそうである。


≪棋譜≫72頁、2図
【2図】(緩める手が正解)
・白1(B)と緩める手が正解。
・黒2には、白3から5とどんどんノビて、白7までとなる。
・三角印の白二子は、ほとんど取られた格好であるが、これはカス石。
※代わりに、白は三角印の黒一子を制しながら、上辺に20目以上の白地を増やせた。
 白優勢である。


2章 見分ける力をつける

石の強弱を見抜け


・自分の石が強いか弱いかの判断によって、着手は変わってくる。
 簡単に言えば、
強い石=生きている石
 弱い石=生きていない石となる。
※とはいえ、実戦ではその見極めがなかなか難しい。

・相手に一方的に攻められると、ただ逃げるだけのダメ手を何手も打たされ、形勢を損じやすくなる。
 そうならないためにも、相手に攻められる前に、弱い石には備えが必要。

・逆に、自分の石が相手の石よりも強い時には、相手の石を分断して強く攻めることもできる。
 そんな時は穏やかな手よりも、厳しくいく手を選択すべきである。
 強い石はどれか、弱い石はどれか。
 そのあたりを注意したら、自然と判断力もついてくる。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、73頁)

【テーマ図2】(黒番・攻める意識)~中国流の布石より


・白36の三々入りは、黒の星に対する白の常とう手段。
・黒37のオサエは当然であるが、白38のハネに対して黒はAとBのどちらのオサエか?
 それぞれ、その後の進行を考えよ。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、76頁)

2章 見分ける力をつける

戦うべき方向を読む


・石の方向は、ある意味では石の強い弱いに、直接関係する部分だといってしまっても、いいかもしれない。
・追いかけ方ひとつで、相手に楽をさせたり、苦しめることができたりと、展開が大きく変わってくるので、方向の見極め方は、とても大切。
・また、攻めの方向としては、相手を分断して、カラミ攻めを狙うべきところや、自分の石の安全を確かめるためにしっかりと連絡しながら相手を攻める図を紹介している。

・これらは応用が利くテーマ図だと思うので、ぜひ活用してほしいという。
 一局の碁の中では、いい方向と悪い方向への分岐点が必ず何度かある。
 だから実戦では、そんな時に手が止まるかどうかが、ポイントになる。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、81頁)


【テーマ図3】(白番・攻めか守りか)
・黒35とツメてきたところ。
 迫られた右上の白二子はこのまま放置することはできない。
 白Aに打って生きを図るのが賢明か。
 それとも中央の方に打って、逆に黒を攻めることを考えるか?


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、86頁)

【1図】(失敗)入力せよ

【4図】(カラミ攻め)
・正解は白1のトビ。
・続いて、黒2、4には、白5とカケて、三角印の黒二子を攻める。
※黒は三角印の黒をサバいてくるが、白は先手を取って再び右上の黒四子を攻める展開になる。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、86頁~87頁)

2章 見分ける力をつける

押すか引くかを決断せよ


・「押す」とは、攻めを目指して強く打つこと。前に出る手のことをいう。
 反対に、「引く」とは、攻める前に守りを固めること。文字通りに、いったんは後ろに下がる手のことをいう。

・今回のテーマである、「押すか引くか」とは、攻めと守りの両方が考えられるような場面で、はたしてどちらにいくべきかを見分けるものである。
 やはり周囲の力関係によって、定石後の打ち方もさまざまに変わってくるので、そんな時にどう考えて選択するのかを見極めてほしい。
 自分の石もしっかりしていないと、相手の石を攻めることはできない。
 本章で勉強した味方の石は連絡しているのかいないのか、そして強い石なのか弱い石なのか、周囲の状況をよく把握して決断すれば、取り組みやすい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、88頁)

<ポイント>
・自分の石もしっかりしていないと、相手の石を攻めることはできない。

【テーマ図2】(白番・構想を立て直す)~打ち込み対策
・黒33の打ち込みから黒35のスベリは、狙いのある手筋。
・ここで白の次の一手は、白Aのオサエ(押す手)か。白Bと上の線を止める手(引く手)か?

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、91頁)
入力せよ
【1図】
【2図】
【3図】

3章 パンチ力をつける


・3章は、戦いで役立つテクニック(手筋)を紹介している。
 まずは、戦いの基本手筋である、シチョウとゲタ、そしてこの2つの合わせ技。
 本章で一番気をつけてほしいところは、様々な場面で「石の急所」が見つけられるかどうか。
石の急所とは、文字通り石の形の要点。
 形の急所を知ることで、攻めの威力や幅も増していく。
・また、相手の根拠を奪う手筋や、分断するための切断の手筋も覚えていこう。
・テーマ図では、それぞれの場面で気持ちのいいパンチを繰り出せる局面を用意したので、自分ならこの局面でどう打つのかと考えながら、チャレンジしてみよう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、106頁)

 定石でシチョウを生かす


・「シチョウ」は、基本的な石の取り方であるが、高段者になっても、毎回のように使う大切な手筋。
 特に戦いになると、プロでもシチョウ関係には細心の注意を払う。
・シチョウに慣れるには、簡単な詰碁をやるのがお勧め。
 シチョウ詰碁を盤に並べてみるのも、自然に碁盤に石の形が残る訓練になる。
 頭の中で追いかけている石の残像が、盤上に浮かんでくるようになれば、しめたもの。
・シチョウを覚えたら、次に覚えたいゲタである。
 実戦では、シチョウで取れる石でも、あえてゲタで取る場合もある。
 シチョウには常にシチョウアタリの心配がつきまとうから、憂いのないゲタで取りきっておく方がよいということがよくある。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、107頁)

ゲタシチョウの威力


・ゲタシチョウというのは、ゲタとシチョウを組み合わせた取り方で、著者の造語だという。
・ゲタシチョウは、シチョウの仲間であるが、ゲタからのシチョウのほうがより複雑な読みを必要とする場合が多くなる。
 ゲタにする場所を見つけるのが難しかったり、捨て石を使って相手の石をダンゴにしたりするケースもあり、少し難易度が上がる。

・また、ゲタシチョウに取る手を見つけて相手の石を取ることができる時はいいのだが、反対に、取られそうな時は注意が必要。
 逃げる前にしっかり読むことが大切。
 取られたことに気がつかずに逃げていくと、ドンドン取られる石が増えて大損。
 すぐに皆さんの対局でもお役にたてていただけるだろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、119頁)

【テーマ図2】(黒番・カケてシボる)~シボリのテクニック
≪棋譜≫122頁、テーマ図

〇カケてシボるテクニックは痛快。
・右上隅で、星の定石から変化した接近戦が始まっている。
・白の要石は白14、20の二子であるが、この石を取ることができれば、黒大成功。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、122頁)

【1図】(シチョウは不利)
≪棋譜≫122頁、1図

・黒1、3と追いかけるシチョウで取れれば簡単なのだが、これは白4、6と逃げられる。
※左下の三角印の白にぶるかることを確認してほしい。

≪棋譜≫123頁、2~3図

【2図】(ゲタの手筋)
〇シチョウに追えないときは、カケてシボるテクニックを思い出してほしい。
・まず、黒1のカケから入る。
【3図】(シチョウ完成) 白6ツグ(2の右)
・白2のアタリに黒3のアテ返しが手筋。
※この手が一目で浮かぶようになれば、しめたもの。
・白4の抜きに、黒5がアタリ。
・白6とツイだ時に、黒7から9で見事にシチョウが完成した。
※まずはゲタにかけてからシチョウに追い込む。
 その流れがわかってきたであろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、122頁~123頁)
<ポイント>
・カケてシボる。星の定石から変化。接近戦

3章 パンチ力をつける

形の急所をつけ


・石の配置が複雑な状態で行われる戦いにおいては、「形の急所」が、打つ手を選ぶ時の方針の一つになる。

・よく、プロが、「ここはこう打つ一手」といういい方をするが、それは手を読んで判断している場合よりも、形の急所を知っていて、それを指摘している場合が多い。

・本項では、格言にもあるように、「二目の頭は見ずハネよ」や、「急所のノゾキ」などにあたる筋を集めてみたという。
 よい形を覚えて、自然に急所に石がいくようになってほしい。
・形の急所を知って、それを実戦で使いこなせたら気持ちがよいはず。
 コツはよい形をたくさん見て感じること、悪い形とも比較して、その差が感じられるようになれば会得したのも同じである。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、126頁)
入力せよ
【テーマ図2】(黒番・急所のノゾキで攻める)
・白28とトンで、上辺の白が中央に進出したところ。
※ここでまた、「形の急所」として覚えてほしいところがある。
・黒は自身の安定を図りながら、白の形を崩してほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、130頁)

【1図】(急所を逃す)
・黒1のシマリは大場だが、白はすかさず白2に打ち、白6までと形を整えてくる。
※上辺の白はすっかり安定した。
 一方、左上の黒五子はまだ眼がなく、次に白aと打たれると、黒は生きるのに四苦八苦。

【2図】(効率が悪い)
・黒1は急所を外しており、白2とカカられた時に、決め手がない。
・黒3には白4とさらに手を抜かれ、黒5と切っても、上辺で三手もかけては、効率が悪い。

【3図】(急所のノゾキ)
・黒1がまさしく形の急所。
※こういう手は読みではなく、形で覚えてしまおう。
 次に黒aと切られては大きいので、白は2やbなどと受けることになるが、黒はそれから黒3のシマリに回るのが、好手順。
➡こうなれば、黒十分の展開。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、130頁~131頁)

弱点をついて根拠を奪え


・眼を取るというと、石を取る、イコール殺すという考えが浮かぶかもしれない。
 しかし、プロの実戦では、相手の石を取って勝つというケースは、意外に多くない。
・プロが考える攻めとは、相手の石の根拠を奪うことによって、その石に逃げてもらうこと。
 そして、弱い石に逃げてもらうことによって、その周囲や全局でポイントを稼ぎ、その効果を勝ちに結びつけようということ。
・今回のテーマ図2では、実戦でもよく出てくる二間ビラキの石の根拠を奪う場面を、ポイントにしてみたという。
 攻撃は最大の防御という言葉もあるが、相手の根拠を奪いながら攻めることが、自軍の石を強化することにもつながるので、その辺りも見てもらいたい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、134頁)

【テーマ図2】(黒番・根拠を奪うテクニック)~二間ビラキの場合
・白26とトンで、上辺の白が頭を出したところだが、この白には弱点がある。
・黒から攻めるとしたら、どこに打つか。
 白の根拠を厳しくエグって、攻める手がある。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、137頁)

【1図】(危険な筋)
・黒1とコスみ、白2に黒3、5と一歩ずつ出ていく手も考えられる。
・白6に黒7と内を切り込む手筋で、外側の白を切り離すことに成功した。
・しかし、この場合は白にも12から16の反撃があり、ダメヅマリの黒も危険。


【2図】(足が遅い)
・黒1とスソからエグるのは白6となって、白の形に余裕がある。

【3図】(コンビネーション)
・黒1、3が形を崩すコンビネーション。
・白4、6には黒5、7と応じて、白の眼を奪うことに成功する。

【4図】(黒成功)
・黒1に白2と下から受ければ、黒3から9まで。
※上下の白を切り離せる。

【5図】(黒に不満あり)
※本図はテーマ図2とは、似て非なる形。
・4図同様に、黒1から白8までとなっても、黒aには白bと出られて、止まらない。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、137頁~138頁)


3章 戦いの勝機は切断にあり(142頁~149頁)

戦いの勝機は切断にあり


・「碁は切断にあり」といった人がいる。
 碁は陣地を囲うゲームであるが、石と石との戦いでもあり、その戦いは石を切ることによって始まることが多いからである。
・本項のテーマ図では、連絡しているように見える相手の弱点をついて分断してしまう打ち方を取り上げた。
 石を切るというのは簡単なことのようであるが、相手もそれなりに注意して守っていることがほとんどであるから、時にはテクニックが必要。
・まず、相手の連絡に不備があるのかどうか、そこを見極めることができるかどうかが、大きなポイント。
 単純な切りではなく、手筋を使うときにはある程度先を読む力も必要になってくるので、その辺りも注意してほしい。



攻めの着点をさがせ


・本項のテーマ図は、著者や著者の息子、娘の実戦から題材を取り上げたという。
・いずれのテーマ図も、やや局面が広くて難しい感じを受けるかもしれないが、難しいと思った人はまず正解手を見て、雰囲気をつかんでほしいとする。

・一口に攻めの急所といっても、大きな攻めや、部分的な攻めなど、いろいろあるが、今回は次の3つのパターンを用意したという。
①包囲する攻めの急所
②弱点を補いながらの攻め
③肺ふをえぐるような攻め

・実戦では、周囲の力関係の見極めができて、初めて攻めの着点が決まる。
 失敗図との比較で違いがわかると思うので、その差を感じながら、このような手もあるのだなあと感じてもらい、正しい感覚を身につける力になれば、幸いであるという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁)

【テーマ図1】(白番・壁を攻める着想)~著者の実戦から
・著者の実戦から取り上げた。
・黒は右上に厚みを築いたようだが、この厚みは本物とはいえない。
 白としては、この壁をそっくりそのまま攻める構想を立てたいところ。
≪棋譜≫150頁、テーマ図

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁)

≪棋譜≫151頁、1図

【1図】(網を破られる)

・白1からaの切断を狙うのは、やや疑問。
・黒2のブツカリで守られると、次に黒bのハネやcの反撃などを狙われ、白のほうが持て余す。
※白1では次の狙いがなく、黒への攻めとしては中途半端。

≪棋譜≫152頁、3図

【3図】(敵の急所はわが急所)
・この場合、白1と打つのが、絶好の攻め。
・黒2のケイマなら、さらに白3とカケが、ぴったりした手になる。

≪棋譜≫152頁、5図

【5図】(白十分)
・1図のように、黒1のブツカリなら、白2とかぶせる。
・黒3とハネるくらいだが、黒を内側に封鎖して、攻めの効果は十分。
・右上の攻めはこれで満足して、白4のカケから白20までとなれば、白の手広い局面になった。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、150頁~152頁)

4章 攻めを生む防御力


・4章は、「攻められた時にどう受けるか」がテーマ。
 攻めと守りは表裏一体のもの。
 碁は碁盤全体に常時攻めと守りの機会が織り交ざっているので、細かい注意が必要。
・自分がどう打つかということだけではなく、相手はどうくるだろうかと予測することも、大切な要素。

・守ることは力をためることでもある。
 正しく守っている石からは厳しく攻めることができる。
 また、守るだけでなく、時には石を捨てることで、有利な状況を作り出すこともできる。
・感覚として、守りの呼吸をつかんでほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、172頁)

弱い石を作るな


・本項のテーマは、「弱い石を作らない」
・弱い石とは何だろうか?
 基本的には、眼がなく、攻められる可能性のある石のことである。
 自分の石が強いのか弱いのかを判断することが、まず最初の一歩。
 自分の石が強ければ手抜きしてもよいのだが、弱いと判断した場合にどう手入れするのかが、大事なポイントになる。
 手の入れ方にもいろいろあるが、なぜそこを守るのかということを考えてほしい。

・「弱い石から動け」という格言がある。
 これは弱い石を強化するためには、そこから動けということを表している。

・相手の石を攻めるためには、まず自分の石を攻められないようにするバランスが大切なので、そこに注意してほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、173頁)
【テーマ図2】(黒番・弱い石から動け)
・白1と、右辺をツメてきたところ。
※この手は白の陣地を広げると同時に、ある狙いを持っている。
 黒は右辺の白地を大きいとみて、消しにいくか。それとも何かほかの手を打つか。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、176頁)
入力せよ
【1図】
【2~3図】
【4~5図】
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、176頁~178頁)

4章 攻めを生む防御力

封鎖をされるな


・本項のテーマは、「封鎖をされない」である。
・相手に封鎖されてしまうと、その石の生き死にを心配しなくてはいけなくなる。
・封鎖をされても、死ななければいい? いえ、そうではない。
 多くの場合、無理に生きるためにもがくことは、周囲にさまざまな悪影響を与える。
 だから、眼のない石は中央の広い方に頭を出していくというのが基本。
・今回は、少し方向を間違えてしまうと、相手に封鎖されて苦しくなってしまうケースを集めてみたという。
 封鎖をされる寸前の状態とは、どのようなものかを見極めてほしい。
・なんとなく危機感がない状態でも、相手に打たれると急に脱出できなくなることは、多々あるので、あらかじめ察知する感覚が重要。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、182頁)


【テーマ図2】(黒番・逃げる時は広いほうへ)
・白1とツイだところ。
・黒には2つの懸案がある。
 1つは左上の黒が生きているのかということ。
 もう1つは上辺の黒の安定度。
 この2つを考えて、次の手を選んでほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、185頁)

入力せよ
【1~3図】
【5図】
【6図】
【7図】

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、185頁~188頁)

 捨て石で大胆に動け


・囲碁を始めたときに、誰でも最初に考えるであろうことが、「相手の石を取りたい」ということ。
 石を取ったら有利、取られたら不利と思いがち。
・ところが、上達してくるにしたがって、いらない石は捨てるという考え方を身につけるようになる。
 強くなることで、より大切な石を重視できるようになるということ。
・捨てるべき石は小さいうちに捨てるのがよく、そして、捨ててもいい石とそうでない石の見極めも大事なポイント。
 助けると重くなってしまい、全体を攻められてしまうような時には、早く見切りをつけ、小さいうちに捨て石として活用すべきである。
 助けて重くなった図と、捨てて可能性を広げる打ち方との差を感じてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、189頁)


【テーマ図3】(黒番・捨て石の連続技)
・白1とノゾいてきたところ。
※この手は黒一子を切り離そうとしているだけではなく、黒三子をまとめて攻める狙いを持っている。
 黒は大胆な構想で、白の狙いを逆用してほしい。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、195頁)
入力せよ
【1図】
【2~3図】

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、195頁~196頁)

手入れで力をためろ


・手入れとは、危険な部分や弱い部分を前もって補強しておく手のこと。
実際に戦いを始める前に、1回力をためる、それが手入れ。
・手入れについては、それが本当に必要なのかどうか、そして必要だとすれば、どう手を戻すのかがポイント。
 本項は、全体的に布石の段階での手入れが、必要な場面を用意したそうだ。

・実戦では、戦いの最中に手を入れるというのは、スピードで遅れてしまうような気がして打ちにくいものである。
 しかし、相手からの攻めが厳しい場合は、きちんと備えておくことが、後から強い反撃に出られることにつながる。
 攻める前には、多少の我慢が必要なこともあろう。

・ある程度読みの力も必要になってくるが、この感覚を身につけてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、197頁)

【テーマ図1】(白番・万全な形で戦いを待つ)~トビマガリ対策
・黒1と白二子に狙いをつけてきたところ。
※左辺の白が弱い石であることはわかるだろう。
 そこで、手を入れるとしたら、どう形を整えるのがいいか、考えよ。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、197頁)
入力せよ
【1~2図】
【3図】
【4図】


<ポイント>
aトビ、bツケコシ、c両ノゾキ 
 反撃狙い スソから攻め、石の強弱の変化(頁)


入力せよ
コラム

5章 戦闘力をみがく


・最終章は、「戦いを楽しむ」というテーマで、攻める力の総仕上げ。
 テーマ図では、実戦に現れそうなさまざまな場面を用意したという。
 戦いの醍醐味の1つに仕掛けのタイミングがある。
 主導権を握ることのできる局面を見極め、また、相手の弱点をつき、よい攻めの方法を見つけてほしい。
・今までやってきたことの総まとめとして、とらえてもらえればありがたい。
 攻めが必要な時は攻め、守りが必要な時は備えという判断を常に正しくしてもらいたい。
 この1冊をマスターすれば、戦いの“碁力”も、ジャンプアップしていることだろう。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、214頁)

弱い石の狙い方


・本項のテーマは、「弱い石を見つける」
・根拠のない石が弱い石だから、実戦では、相手の石が強いのか、弱いのかを判断できるようになることが、まずは大切な第一歩。
・そして、布石の段階からどのように相手の弱い石を見つけるのか、また見つけたらどう攻めるのかが、次のポイント。
 その際の判断材料としては、周囲にあるお互いの石の強弱や力関係の見極めなど、ここまで本書で学んできたことが、判断をする際のベースになる。
・また、相手の立場になって、次にどう打ちたいかを考えてみるのも、着手を決める大きなヒントになるかもしれない。
 次の一手で石の強弱が変わる、その一歩手前の状態を敏感に察知することが大事。
 チャレンジしてみてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁)

攻めるは守りなり
【テーマ図1】(黒番・攻めるは守りなり)
・白1と左辺を守ったところ。
※白には弱そうな石が二つあるが、本当に弱い石はどれだろうか。
 具体的には、A、B、C。あなたなら、どちらに目をつけるか?




(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁)
入力せよ
【1図】
【2図】
【4図】
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、215頁~217頁)

間合いを図って切れ


・本項のテーマは、「石を切って攻める」。
 石を切るのは、戦いに持ち込むための大切な手段であるが、時と場合に応じていろいろなケースがある。
 本項では、断点を直接切るという部分的な話ではなく、大きな戦いとして石を分断して攻めるということを考えてみよう。

・テーマ図は2つだが、どちらも布石が終わって、中盤の入り口という局面、どこから戦端を開くかを、考えてほしい場面を用意したという。
・正解の仕掛けに気がつくかどうかは、まず周りの石の強弱の判断と読みが大切。
 味方の石が強い時は厳しく切り込んでいく手も成立するし、そうでない時は無理な仕掛けにならないように自重すべきで、そのバランスに注意することが大切。
 線を切って攻める呼吸を感じてほしい。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁)


【テーマ図1】(黒番・線を切って戦う)~著者の実戦より
・著者の実戦で、白1とトンできたところ。
 白1は左辺と右上の黒模様を意識した手であるが、少々危険な意味もある。
 黒は積極的に戦いに持ち込んでほしい。
≪棋譜≫223頁、テーマ図

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁)

≪棋譜≫227頁、4~8図

【4図】(線を切る)
・著者が実戦で打ったのは、黒1の打ち込み。
・白2の押しには、黒3のノゾキを利かして、白4のツギに黒5。
・白6にも黒7とコスミ出して、まずは上辺の白のラインを切ることに成功。


【5図】(実戦)
〇実戦の進行をご覧いただこう。
・白は8にツケてサバキを狙う。
・黒9、11に白12とアテ返して、白14とアテるのは形作りの手筋であるが、この場面が黒にとってのチャンス。


【6図】(実戦続き1)
・5図白14のアテに、なんと著者は黒15と切って、大きなコウを仕掛けた。
・普通なら天下コウと言われるほど大きなコウで、黒が無理な打ち方であるが、この碁では、黒17のコウダテが利くのが、黒の自慢。


【7図】(実戦続き2)
・黒19とコウを取り返せば、今度は白にコウダテがないので、黒はこのコウに勝つことができる。
・白は20のツケをコウダテにしたが、黒はかまわず、黒21とコウを解消してしまう。

【8図】(実戦続き3)
※黒がコウを解消し、白は左上の黒二子を取り込んで、大きなフリカワリになったが、右上の黒地が大きくなり、黒に不満がない。
・黒25までの進行は、黒の積極策が成功したといえる。



(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、223頁~227頁)



【テーマ図2】(黒番・切りのテクニック)
・白1とハッて、三角印の白と連絡しているつもりのようだが、本当にそうだろうか?
 白の甘い読みをとがめる強手を出して、有利に戦いを始めてほしい。


(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、228頁)

【1図】(これなら一局)
・本来なら、白は1のトビが無難だった。
・これなら、黒も2のコスミツケを利かすくらい。
・白も3とハネ一本から白5のコスミツケを利かし、白7のトビに回れば、一応シノいでいる格好。


【2図】(平凡)
・黒1とハネるのは、白aのマゲもあるが、仮に白2のコスミツケでも、単に黒3とノビたのと同じことになる。


【3図】(外切り)
・続いて、黒1には白2、4とポン抜き、黒3、5と打てば、白aには符号順に黒hと石塔シボリの筋で、攻め合い勝ちで、三角印の白二子は取れるが、ポン抜きの損が大きく、黒不満。

【4図】(内切り)
・黒1も白2から6(aも有力)までと生きられ、三角印の白は切り離したが、白b、黒c、白dの味も残って、黒不満。


【5図】(鮮やかな切断)
・黒の正解は、1のケイマ。
※切断の筋はこれが最善。
・黒1に白2なら、黒3とブツカリ、白4には黒5とハッて、完全に白を分断している。
※切って攻めるという目標は、完全に達成した。



【6図】(これも切断)
・黒1のケイマに、白2のオサエなら、黒3と一回押してから、黒5とサガリ。
・白6のワリ込みなら、黒7、9でやはり、きれいに白を分断している。
※黒1のケイマが切断の急所だった。










(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、228頁~230頁)

包囲網を広く敷け


・本項のテーマは、「包囲して攻める」。
・包囲というのは、文字通り包み込んで攻めること。
 地図を見るような感覚で碁盤を見て、広い視野でとらえる攻めの呼吸を感じてほしい。
・本項では、壁を攻めることも考える。
 包囲しての壁攻めと、包囲してカラミ攻めというケースを示したが、実戦ではまったく同じ局面ができるというわけではないので、石の流れを感じて、その感覚をいろいろな局面で応用してほしい。

・周囲の味方の石がしっかりしていることを確認して、包み込んで攻めるというのがどういうことなのか、出来上がった図の雰囲気をみて、「なるほど」と思ってもらえれば十分である。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、232頁)

【テーマ図1】(黒番・壁を重くして攻める)~壁を包囲する攻め
・上辺に白の壁があるが、この壁は厚みと呼ぶには、ちょっと頼りない形をしている。
 黒としては、この壁を攻めてしまいたい。
 それには、まずこの壁を重い形にすることを考える。




(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、232頁)
<ポイント>
・ノゾキが急所の攻め
・二間の薄みをつく(234頁)

入力せよ
【3図】
【4~5図】

根拠を奪う攻め


・最後は、「根拠を脅かす」がテーマ。
 まずは、相手の石の根拠を奪い、完全には生きていない状況に追い込むことで、攻めをより厳しくすることができる。
・根拠を奪うための最初のポイントは、相手の守りの不備を見つけることができるかどうか。
 相手の弱い形に対して敏感になるほど、チャンスをものにする可能性も高くなる。
・「このような形ではこのような攻め方がある」
 この呼吸を覚えてもらえば、実戦でも必ず応用が利くようになる。

・根拠を奪う攻めだけではなく、戦い全体に通じることだが、相手の形を見ただけで、その弱点がピンとくるようになってもらえば、本当にありがたいという。
(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁)


【テーマ図1】(黒番・急所はどこか)~本手も必要
・上辺の白が黒に包囲されているが、白はこの石は大丈夫とみて、下辺を囲ってきた。
 しかし、本当にこの白は大丈夫なのだろうか。
 白の安易な判断をとがめてほしい。

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁)

入力せよ
【1図】(本手)
【2~3図】
【4図】
【5図】

【6図】(カド)

(中野寛也『戦いの“碁力”』NHK出版、2011年、238頁~241頁)

【補足】石の強弱に注意~山下敬吾『基本手筋事典』より


第4章 形を崩す 第5型 
【第4章 形を崩す 第5型(黒番)】
・形を崩すのと形を整えることは、表裏の関係にある。
 黒が急所を衝くか、白が守るか。
 一手の差で石の強弱が入れ替わる。
※原図は「活碁新評」所載

≪棋譜≫117頁、問題図


≪棋譜≫117頁、1図

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、白の断点をねらった、形を崩す手筋。
・白2と守れば、黒3とトンで、攻めの態勢が整う。
※白は眼形を失い、弱い石になる。
※白番なら、1と守るのが、相場。
 一手の価値があり、強い石となる。

≪棋譜≫117頁、2図

【2図】(変化)
・黒1に白2が手強い抵抗手段だが、この場合は黒3のサガリが強手。
※黒aの躍り出しとbのツケが見合い。
黒bのツケに白cのツギなら、黒dの切りが成立。
 攻め合いは白が勝てない。

≪棋譜≫117頁、3図

【3図】
・白が1図のように攻められるのを嫌うなら、白2のツケも考えられる。
・黒は3のハネ出しから、手順に9まで手厚く封鎖して十分の形。
※なお、黒3で6の下ハネは、白5とノビられて、生きても大損。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、117頁)

【補足】ツケギリと両にらみ~藤沢秀行『基本手筋事典』より


 藤沢秀行氏は、『手筋事典』において、両にらみの手筋について、次のように述べている。また、ツケギリの棋譜として、興味深い対局を載せている。

<両にらみの手筋について>
・碁の一手一手は、広い意味での両にらみといっていいかもしれない。
 そのなかでも、一般的な手筋は、「左右同形、中央に手あり」であり、また、両ガラミ、モタレなども、本来なら作戦的な構想だが、やはりこの手筋の一変形と見られる。
・両にらみとは、一つずつ追求しても成功しない相手の弱点を、一度に二つ以上にらんで、一方を実現しようというものである。
 ただし、相手にも両シノギの手筋が伏在しているばあいもあり、慎重を要する。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、170頁)
〇そして、カラミ、モタレ、左右同形について、次のような図を掲載している。
【4図】(カラミ)
・黒1と躍り出して左右の攻めを見る。
※これが典型的な両ガラミの形であり、両方の白が無事生還するためには、長期間の苦労が必要だろう。
※黒1でa、白b、黒c、白dなどと、一方をせっせと追って、さきに損をしてからでは、攻めに威力がない。
≪棋譜≫171頁、4図


【5図】(モタレ)
・黒1、3とモタレかかって、aのキリとbのオサエを両にらみにする。
※黒1でbやcなどと露骨に追い、白に脱出のめどがついてからでは、遅いのである。
※原理は両ガラミと同じだが、モタレの方は相手に弱点を作りにいく、仕掛けの手筋である。
≪棋譜≫171頁、5図


【7図】(左右同形)
・白1は、左右同形中央に手あり、の典型。
・aとbのハネの両にらみである。
・したがって、黒はcとアテ、白d、黒eなどとカケツいで、外部脱出を考えるくらいのものだろう。
※この形は、中国古典『官子譜』にも採録された著名な手筋でもある。
≪棋譜≫171頁、7図

(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、171頁)

<ツケギリの実戦譜>
【ツケギリ】
・両にらみの筋を拡大解釈すれば、両ガラミの筋となり、モタレの筋となる。
 より全局的な手筋の運用といえるだろう。

【参考譜26】
≪棋譜≫参考譜26、186頁

第15期NHK杯戦決勝
 白 橋本昌二
 黒 大竹英雄
・黒1とアオリ、白2と逃がしてから、3、5のツケギリで上下をカラミに持ち込んだ。
※黒の配石はすべて働き、ここから局面の主導権を得る。

≪棋譜≫参考図1、186頁

【参考図1】(実戦)
・参考譜に続いて、白1、3はマクリツギの筋だが、黒は形が悪くとも上下を切断して攻めれば、必ずどこかに利が残る。
・白9でaからシボッても、意味がない。

≪棋譜≫参考図2、186頁

【参考図2】(サバキの筋)

・白は前図5で1以下の交換をすませておけば、5のツギから11とオサえる筋に結び付けることができる。
※とはいえ、黒は2で7とノビキリ、上辺の攻めをさきにするからこうはならず、やはり苦しい戦いだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 上(中盤の部)』日本棋院、1978年[1980年版]、186頁)

【補足】中野寛也氏の実戦譜~片岡聡『布石 これだけはいけない』より


・次の著作の「第4章 石の方向の流れ」の「気合というもの<研究局12>」(196頁~205頁)において、中野寛也氏の実戦譜が載っている。
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]

【研究局12】
 黒 片岡聡
 白 中野寛也
・タスキ小目から、ひと隅を黒5とシマリ。
・白は両三々から白6のカカリ。
・黒7で打つ手はいくらでもあるが、このカカリは一種の工夫。
・白8のカケから12までは、こちらの注文の拒否。
※注文通り打って悪いというのではなく、拒否したい気分になった、ということ。
 また、こちらの趣向に対し、趣向し返したいという反発もあったかもしれないという。
・黒13に当然ながら、白も14と反発してきた。
・黒15、17は必然。
・白18のアテを利かされても、この形は隅の白がまだ生きていないのが、黒の自慢。
・白20、22で間に合わせ、やむなく白は24のスベリ。
・黒25とトンで、少なくとも黒互角以上の戦い。

※白12の次の一手をテーマ図としている。
 実戦は、手抜きを咎める黒13と打った。
 打つ場所は、下辺、それも右下隅しか考えられない場面。
 黒7に手を抜いた白の趣向に対し、それを咎めるには、黒13に限る、と著者は解説している。

≪棋譜≫196頁、片岡VS中野

〇変化図として、参考となる図を紹介しておこう。

≪棋譜≫201頁、3図

【3図】(これだけはいけない)
※黒13で、黒1と打つのは、いけない。
 下辺から目をそらすのだけは、いけない。
・黒1、3は大場ではあっても、完全なソッポ。
・白4と受けられると、最初の黒の趣向、三角印の黒が悪手になってしまう。

≪棋譜≫203頁、7図

【7図】(シチョウ)
※黒13で黒1のケイマでも、いけない。
・白2に黒3とオサえられなければ、黒不満。
・しかし、白4と切られて困る。
・黒5、7で黒aのとき、見合えればいいのだが、白8とワタられ、黒aのシチョウが成立しない。

≪棋譜≫203頁、8図

【8図】(白やれる戦い)
・ということで、白のツケ切りに対しては、黒1とノビ、戦っていかざるを得ない。
・しかし、隅の白はすでに生きており、白4にノビられては、実戦とくらべても、黒の苦しい戦い。

≪棋譜≫205頁、10図

【10図】黒6コウ取る(1の右)
・実戦の白18でこの白1のカカエのとき、黒2の切り返しは、ひとつの手筋。
・しかし、このケースでは、白5と切られて、黒が持て余す。
※捨てるには、三角印の黒は大きい。
 手筋も、時と場所をわきまえるべきである。
(片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]、196頁~205頁)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿