歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の手筋~依田紀基氏の場合≫

2025-02-16 18:00:03 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~依田紀基氏の場合≫
(2025年2月16日投稿)

【はじめに】


  今回も引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
 副題には、「“捨て石”で勝つ! 実戦サバキのテクニック93題」とある。

【依田紀基氏のプロフィール】
・昭和41年(1966)、北海道岩見沢市生まれ。
・安藤武夫七段に入門。
・昭和55年入段。平成5年九段。
・昭和59年18歳で名人戦リーグ入り。リーグ入り最年少記録。
・平成7年 第33期「十段」獲得。
・平成8年 第1回三星火災杯優勝。
・平成10年 第45期NHK杯戦優勝。第47期まで三連覇。
・平成12年 第25期名人戦で趙治勲を破り「名人」を獲得。



【依田紀基『サバキの最強手筋』(成美堂出版)はこちらから】



依田紀基『囲碁 サバキの最強手筋 初段・二段・三段』成美堂出版、2004年
【目次】
サバキ名人になろう
第1章 サバキの基本手筋40問
第2章 サバキの最強手筋35問
第3章 腕だめしの手筋18問



〇問題の種類 解答の手筋など
第1章
1 ノータイム アテが形の急所
2 瞬時 整形の基本手筋
3 完全封鎖 ツケコシの筋
4 例の筋 捨て石の筋
5 無理筋 押さえる筋
6 好手順 二子にして捨てる筋 常用手筋 ハサミツケも有力
7 決め筋 捨て石の筋
8 腕しだい 利き筋をにらむ
9 サバキの手筋 二子にして捨てる筋
10 魔法のランプ 切り一本の筋
11 形の明暗 突き抜く筋
12 名探偵 カケる筋 アタリアタリは俗筋
13 急所切り 常用の手筋
14 方針 三子にして捨てる筋
15 欠陥 ハネ出す筋
16 利き筋 利き筋をにらむ サガリが本手
17 本手はずれ 利き筋をにらむ
18 封鎖の巧拙 ツケコシの筋
19 手筋一発 ツケる筋
20 ひと目 鼻ヅケの筋
21 先手をとる ツケコシの筋
22 切り対策 アテる筋
23 鋭い次の三手 ツケ切りの筋
24 白の野望 ワリコミの筋
25 基本手筋 シボリの筋 最強の筋
26 急所攻め サガリの筋 ツギは利かされ コスミは筋ちがい
27 ケイマ対策 ツケコシの筋
28 弱点 押さえる筋
29 食うか食われるか アテカケの筋 ダメヅマリ地獄
30 ノゾキ対策 軽くサバく筋 ダメヅマリ "オイオトシ
ツケコシが鋭い"
31 高速 石の調子で出る筋 車の後押しの俗筋 重いサバキ
32 整形の基本 ブツカリの筋
33 状況しだい アテ返す筋
34 力自慢 ツケる筋
35 アテの方向 石の調子で出る筋
36 目一杯 ツケの筋
37 黒三子がカナメ石 カケの筋
38 形感覚 アテる筋
39 戦場の風景 ツケコシの筋
40 攻めとサバキ ツケノビの筋 コスミツケは筋ちがい

第2章
1 断言できる人 三子の真ん中が急所 捨て石の筋 攻防の急所攻め
2 アテ対策 アテ返す筋
3 手筋一閃 ハネコミの筋
4 手筋の発見 ツケコシの筋
5 軽快 飛びの筋 ノビは重い
6 生死の明暗 ツケコシの筋
7 力自慢の戦法 ツケの筋 押さえは俗筋 利き筋をにらむ
8 あの筋だな 鋭い攻め筋
9 急所切り 捨て石の筋
10 定石後の攻防Ⅰ 突っ張りの筋 ハネ切りの筋
11 定石後の攻防Ⅱ 下ツケの筋 石塔シボリの筋 エグリがきびしい
12 定石はずれ カケの筋
13 工夫 ツケコシの筋
14 軽妙 捨て石の筋
15 戦いの形感覚 アテ返す形
16 継承 コウふくみのサバキ
17 致命的な弱点 整形の筋 白地を荒らす ハネは筋ちがい
18 完全封鎖 ツケコシの筋 カケは追及不足
19 切り対策 ツケの筋
20 好手順あり ノゾキから切る筋
21 腕しだい 飛びツケの筋
22 泣き言 アテの筋
23 かなりの腕前 ツケの筋
24 封鎖の最強策 飛ぶ筋
25 常用の手筋 切り込む筋 サバキ形 押しは俗筋
26 ノータイム アテ返しの筋
27 基本の形 はずす形
28 決め筋 形の急所攻め 捨て石の筋 ハネはいま一歩
29 捨て石 急所攻めの筋
30 最強の追及 戦いの手筋
31 急所攻めの後 ハネ出しの筋
32 勝負の分かれ目 ワリコミの筋
33 最強の応戦 ハネコミの筋
34 鋭い攻めの筋 ツケコシの筋
35 最強の決め筋 急所攻めの筋 捨て石の筋 サガリは次善

第3章
1 最強手の後 ツケ一発の筋
2 モタレ攻め モタレ攻めの筋
3 粉砕 腹ヅケの筋
4 先手をとりたい 切り込む筋
5 隅に弱点あり ハネ切りの筋
6 無理筋 切りアテの筋
7 シチョウで取る 切り押しの筋
8 二段バネ対策 ハネ返し筋
9 エグリの筋 ハネの筋 切りは無理筋
10 手筋救急隊 切り込みの筋
11 大切な石 シボリの筋
12 戦上手 黒石を捨てる
13 俗っぽい切断 見合いの筋 カナメ石を取る アテは俗筋
14 鋭いエグリ筋 急所攻めの筋
15 天下六段 ツケコシの筋 切る筋
16 最強のシノギ 鋭い置きの筋
17 プロ級の筋 ツケ切りの筋 白はアテツギが最善 引きはいま一歩
18 追及策 急所攻めの筋 切りは俗っぽい




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに ●サバキ名人になろう
・第1章第30問 ノゾキ対策
・第2章 サバキの最強手筋
・第2章第14問 軽妙
・第2章第25問 常用の手筋
・第3章 腕だめしの手筋
・第3章第2問 モタレ攻め
・第3章第10問 手筋救急隊
・第3章第17問 プロ級の筋




はじめに


●サバキ名人になろう
・初段どまりの人と五段になれる人の分かれ道は、「石を取る、捨てる」を正しく判断できるかどうか。
・さらにふさわしい最善の手筋が打てるか打てないかにある。
・取れる石を確実に取ることができるようになれば、有段者。
 捨てるべき石を的確に捨て、最善のサバキが打てるようになれば、高段者。
・碁では石を取るか捨てるか、石を逃げるか捨てるかの判断が、往々にして、ポイントとなる。
・サバキの代表的な手筋は捨て石である。
 その目的は、最善の形を得ること。
(石を捨てるべきときに助け出すと、シノぐことはできても他の方面に悪い影響が出たり、相手に大きな確定地や鉄壁を作られたりする)
☆本書は、実戦にしばしば出現するサバキの手筋をピックアップして、問題集にしている。

●サバキに強い人は本物の強者
・サバキに強い人は本物の強者
⇒その基本は捨て石にある。
 その目的は、①外勢を固める
       ②先手をとる
      ③利き筋を作る
 その他、さまざまである。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、4頁~5頁)

第2型・黒番
星のツケノビ基本定石である。
・定石後、白1の切りが決め筋の一つ。ここで、黒aとb、二通りの受け方がある。

【1図】
・まず、黒1には白2が二子にして捨てる基本手筋。
・二子にして捨てることによって、白4と6が先手になる。
・黒9までほぼ必然手順。
・白10の飛びか白手抜きか、全局の状況によって変わる。
・黒1、3では白に目一杯サバかれてしまう。
【2図】
・そこで、ふつうは黒1の方から受ける。
・取れる三角印の白を取らない黒1、3が白のサバキを封じる最善手なのである。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、6頁)

第3型・黒番
〇サバキには、さまざまなテクニックがあるが、その基本は捨て石で、最善の形を作ることである。
・サバキの手筋は、本書の問題に挑戦していけば、ほとんどマスターできるという。
 後は実戦に臨んで、その手筋を応用するように心掛けることが大切である。
・白1と迫られたとき、手筋を知らない人は黒aと受けてしまいそうである。

【1図】
・黒1は白2、4となる。
【2図】
・ここは黒1の切り込みがサバキの手筋である。
・白2なら黒3が先手であるし、白2で4なら黒aが先手となる。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、7頁)

第1章第30問ノゾキ対策


第1章 第30問(黒先)ノゾキ対策
【ポイント】
・白1とノゾいてきた。いやらしいノゾキである。
 黒の応手はAかBか。
 後の変化を考えて、次の一手を決定すること。

 【正解図】(ツギは利かされ)
・白のノゾキに黒aのツギは利かされで、重い形になる。
・そこで、黒1と押して軽くサバく。
・白2のとき、黒3の早逃げが一例。

【変化図1】(妥当)
・白2なら黒3とツギ。
・周囲の配石によって打ち方が変わるが、ふつうは、白4。
・黒5、7を利かして、9(あるいは黒a)あたりに守る。

【変化図2】(押さえは無理)ダメヅマリ
・変化図1白6の変化である。
・本図白1の押さえは無理で、黒2から4、6が先手となる。
・白はダメヅマリに備えて、白7が省けない。

【変化図3】(オイオトシ)
・白1のコスミなどは、黒2の切りが白のダメヅマリをとがめる手筋となる。
・白3、5に黒6のホウリコミから、オイオトシの筋が見え見えである。

【失敗図】(切断)
・黒1のツギはいかにも重く、利かされ。
・白2のツケコシがきびしい切断の手筋となり、黒の苦戦はあきらか。

【参考図】(ツケる筋)
・ほかに黒1とツケるのも、サバキの手筋。
・白2、4に黒5のアテが先手で打てる。
※手順中、白2で3なら黒2、白2でaなら黒3。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、83頁~86頁)

第2章


第2章
〇サバキの基本テクニックは捨て石。
・その目的は相手の石を封鎖したり、石の整形やシノギなどさまざま。
・捨て石の手筋は状況に応じて、使用法が変化する。
・また、サバキの手筋の使い分けができるようになれば、相当な腕前。
(本章の問題に挑戦していけば、大方のテクニックはマスターできる)
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、112頁)

第2章第14問 軽妙


第2章 第14問(黒先)
14 軽妙 切り込みの筋
【ポイント】
・黒はAの押さえ、Bのツギ、Cのアテコミの三通りが考えられる。
 軽妙なサバキが正着である。

【正解図】(軽妙なサバキ)
・黒1の押さえが正解。
・白2と切るほかないから、黒3、5と軽快にワタる。
・黒7を決めて、9かaの早逃げ。
・のちに黒bのねらいが残る。

【失敗図】(重い)
・黒1のツギは重い。
・白2に黒3なら、白4の筋がある。
・また、黒3でa、白b、黒cは白3。
※ほかに、黒1でdは、白eのツケ一発で、取られて失敗。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、153頁~154頁)

第2章第25問 常用の手筋


第2章第25問 常用の手筋 1分で二段、3分で1級
【ポイント】
・こうした形はサバキの常用手筋が決まっている。
 次の一手は、黒A、B、Cのどれだろうか。

〇解答 切り込む筋
【正解図】(様子見の手筋)
・こうした形は、まず黒1と切り込んで、様子を見る筋。
※ふつうは白aと下からアテ。白bと受けると黒の注文にはまるから。

【正解図・続】(黒の注文)
・白2が黒の注文。
・黒3と二子にして捨てるのが、サバキの常用手筋。
・白4に黒5を決め、さらに黒7のツギを先手で打ち、黒好調の戦い。

【変化図】(白2が最善)
・黒1の切り込みに対して、ほとんどの場合は白2が最善の受けとなり、黒3のノビに白4まで、必然手順。
※白aからの出切りを残すため。

【変化図・続】(ほぼ必然の手順)
・つづいて、黒1のタケフツギが省けない。
・白2かaは周囲の配石しだい。
・白2なら黒3を決めて、5、7まで、ほぼ必然手順。

【失敗図1】(典型的な俗筋)
・皆さんの実戦を見ていると、しばしば黒1の押しを決めている。
・黒1は白2と受けられ、黒aの切り筋をなくしてしまう味消しで、典型的な俗筋。

【失敗図2】(無策)
・白1からの出切りがある。そこで、黒1とツグというのでは素朴すぎ、あまりに無策。
・白2のナラビが石の形となり、黒不満の進行。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、181頁~184頁)

第3章 腕だめしの手筋


第3章 腕だめしの手筋
・序盤から中盤までの戦いは、手筋力が大きなポイントになる。
 また、基本手筋が身についてくれば、石がこみ入った実戦に臨んで応用できるようになる。
・中盤戦はサバキの手筋だけでなく、総合的な手筋力や死活の力量が問われる。
 本章の腕試し手筋は、石を取る、石をサバく、相手の陣地をエグるなど、さまざまな領域から出題したという。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、210頁)

第3章第2問モタレ攻め


第3章第2問モタレ攻め
【ポイント】
・黒2の急所叩きに、白3の愚形で逃げるほかないところ。
 次の一手はモタレ攻めである。

【正解図】(常用のツケ)
・黒1でaは白2と出られて、裂かれ形。
・また、黒1でbは、白1とノビられ、いずれも失敗。
・ここは、黒1がモタレ攻めの筋で、白2なら黒3。

【変化図】(黒満足)
・また、白2のハネから4のマゲなら、黒5と石の調子で出る。
・白6に黒7と叩き、黒に何ら不満がない戦い。
・次に白aなら、黒b。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、213頁~214頁)

第3章第10問手筋救急隊


第3章第10問手筋救急隊 切り込みの筋
【ポイント】
・次の一手が勝負の決め手。
 手筋救急隊の出動によって、中の黒数子を救出し、白石を取ることができる。

【正解図】(ダメヅマリ)
・ここは白aとbの切断が見合いになっているように見えるが、黒1の切り込みが白をダメヅマリに導く手筋。
・次に白bなら黒cと白五子を取る。

【変化図】(切断できない)
・また、白2なら黒3と打つ。
・白はダメヅマリのため、白aと切断することができない。
※黒1は囲碁天狗の鼻がさらに高くなる手筋一発である。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、231頁~232頁)

第3章第17問プロ級の筋


第3章 第17問(黒先)プロ級の筋 3分で四段、5分で二段
【ポイント】
・様々な利き筋をにらみながら、黒1とツケたのはプロ級のサバキ筋。
・白2のハネに対し、黒AかBかCか。

〇ツケ切りの筋
【正解図】(サバキの筋)
・黒aやbの利き筋を見ながら、黒▲のツケから黒1の切りが鋭いサバキの手筋。
・白2、4のとき、黒aやbの利き筋を利用してサバく。

【正解図・続】(黒大成功)
・つづいて、黒1とアテて3と石の調子で出るのが好手筋。
・そして黒5と押さえ。
※黒5でa、白b、黒5の簡明な打ち方でも大成功。

【変化図1】(白地が大きい)
・黒1のカカエは次善の打ち方。
・白2の押しに黒3と抜くほかないが、白4と守られて、右下隅の白地が大きくなるから。

【変化図2】(最善の分かれ)
・正解図・続黒5まで黒が目一杯にサバいた形。
・そこで、黒1の切りには白2、4のアテツギが最善。
・黒5とカカエて、次に黒aがねらい筋。

【失敗図1】(次善のサバキ)
・黒1の引きはサバキの一策であるが、白2と守られて、いま一歩。
・黒3の一手であるが、白4、6の筋で先手を取られる。
※ほかに白2で4の変化もある。

【失敗図2】(俗筋)
・黒1のアテは様々な利き筋をなくす俗筋。
・白2、4の後、黒5と切っても証文の出し遅れで、こんどは白6、8から10とカカエられて失敗。
(依田紀基『サバキの最強手筋』成美堂出版、2004年、249頁~252頁)



≪囲碁の手筋~白江治彦氏の場合≫

2025-02-09 18:00:08 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~白江治彦氏の場合≫
(2025年2月9日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
 著者の白江治彦氏は、プロフィールにもあるように、NHKの囲碁講座講師などを務め、囲碁の普及に尽くされたプロ棋士である。その普及は、国際的なものであったらしく、
昭和51年豪州などに囲碁指導され、平成3年パリで102面打ち、平成8年仙台で165面打ち、多面打ち(100面以上)は出版当時、10回で世界記録更新中だったそうだ。
 本書では、ツケに始まり、ツケコシ、ツケ切り、ホウリコミ、捨て石など手筋について要領よく解説しておられる。
 そして、【コラム】においては、「置碁での手筋・形」「天元対局」が特に面白かった。
 「置碁での手筋・形」においては、世襲制最後の本因坊である秀哉と木谷実七段(当時)の有名な引退碁を、「名人」という小説に著した川端康成さんが、大の囲碁ファンであったことに触れている。加えて、棋譜として残っている岩本薫元本因坊との六子局は、なかなかの出来ばえであるようで、川端さんの布石で随所に出てくる手筋をごらんいただこうというのである。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、50頁~52頁)

 また、【コラム】「天元対局」においては、工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖のテレビ早碁対局を紹介されている。依田プロが工藤天元のタイトルに敬意?を表して、初手を黒1と天元打ちした話題局であった。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、53頁~54頁)

 さて、白江治彦氏が川端康成の小説『名人』について触れているので、私もこの小説についても言及している川嶋至氏の次の著作を読んでみた。
〇川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]
 川嶋至(1935-2001)氏は、学者にして、文芸評論家で、川端康成の研究家として知られている。川端康成の元恋人の伊藤初代の実体をいち早く究明した研究者として注目された。
本書の詳しい紹介は後日にするとして、さしあたり「第六章 現実からの飛翔―「雪国」と「名人」」から、小説『名人』に関する言及について、簡単に紹介しておく。
〇【補足】川端康成と小説『名人』~川嶋至氏の著作より



【白江治彦『手筋・ヘボ筋』(日本放送出版協会)はこちらから】

【白江治彦氏のプロフィール】
・昭和13年生まれ、石川県小松市。
・昭和31年大窪一玄九段に入門。昭和32年入段、昭和34年二段、昭和35年三段、昭和42年四段、昭和45年五段、昭和51年六段、昭和59年七段。
・昭和51年豪州などに囲碁指導。テレビ司会、解説で活躍。
・昭和62年テレビ囲碁番組制作者会賞、平成3年日本囲碁ジャーナリストクラブ賞受賞。
・平成2年銀座で101面打ち、平成3年パリで102面打ち、平成8年仙台で165面打ち、多面打ち(100面以上)は現在までに10回で世界記録更新中。
・昭和52年、平成3年、平成9年とNHKの囲碁講座講師。
・平成8年度普及功労賞。
 




白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年
【目次】
筋のとなりはヘボ筋
1・ ツケ(実戦で最も多い)
2・ ツケコシ(飛躍の手筋)
3・ ツケ切り(サバキや消し)
4・ 切り(効果は多岐多様)
5・ 切り込み(形を崩す働き)
6・ ワリ込み(攻め合いでの手筋)
7・ ホウリコミ(駄目を詰める手筋)
8・ コスミ(隅や辺での手筋)
9・ コスミツケ(形崩し、攻め合いの手筋)
10・ ワタリ(1線から3、4線での連絡)
11・ オキ(撹乱・ヨセに威力)
12・ 三子は真ん中が急所
13・ 左右同形中央に手あり
14・ 捨て石(囲碁の醍醐味の一つ)

【コラム】
・手筋一閃、局面打開のツケ
・置碁での手筋・形
・天元対局
・死活に見る捨て石の妙技
・ビックリ!の詰碁解答
・二子にして捨てよ
・捨て石のツケで先手封鎖大地完成




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・はじめに
・3 ツケ切り(サバキや消し)
・4 切り(効果は多岐多様)
・7 ホウリコミ(ダメを詰める手筋)
・10 ワタリ(1線から3、4線での連絡)
・14 捨て石(囲碁の醍醐味の一つ)
・捨て石の問題~一間高ガカリ定石の変化とシボリ作戦
・捨て石の問題~二間高バサミ定石の変化とシボリ作戦
・川端康成の置碁
・天元対局~工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖
・【補足】川端康成と小説『名人』~川嶋至氏の著作より







はじめに


・一局は平均250手ほどかかる。
 正しい着手もあれば凡手もある。
 正しい着手は手筋、凡手はヘボ筋である
(ヘボ筋は俗筋ともいい、はたらきの少ない着手のことである。イモ筋、筋違い、無筋とも言われる)
・手筋の中でも接近戦にそなえるものを「形」といい、石がぶつかり合えば「筋」となる。
※故瀬越憲作九段は、筋と形の違いを「筋は攻撃、形は守りの正しい打ち方を指す」と表現した。
(ただ、サバキやシノギの手筋など、攻撃より防御の雰囲気のものもあり、いちがいにいえない部分もあるが、わかりやすい区別である)

〇ところで、接近戦でもっとも効果の高い着手である手筋の効用は、多目的ホールのようなもので、何にでも使われるすぐれものであると、白江氏はいう。
・攻め合い、死活、遮断、連絡、封じ込め、封じ込め回避、荒らし、シボリ、愚形に導きコリ形にさせる。
・また、オイオトシ、ウッテガエシ、ゆるみシチョウなど捨て石を駆使した華麗な展開も可能。
(捨て石を使った手筋は、相手地の中への元手なしのもの、リスクなしで攻め合いに勝ったり、地の得をはかったりするものも多くある)
・しかし、手筋のそばには多くのヘボ筋があり、注意が必要。
(ヘボ筋とは、満点のはたらきをしていない減点着手、さらに打たない方が良いマイナス着手まである)
 ヘボ筋の罪は、攻め合いに負け、死活に失敗、ヨセの損など序盤戦から終盤戦まで延々と続く。
※本書では、それぞれの形で、手筋とヘボ筋の違いを鮮明にあらわしたという。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、2頁~3頁)

【3・ツケ切り(サバキや消し)】


3・ツケ切り(サバキや消し)
〇ツケ切りは、ツケと切りのあわせわざ
⇒先にツケ、相手のオサエに切り込む手筋
・とくにサバキや消しに、華麗なはたらきを見せてくれる。
 おおむね相手陣内でのサバキで、本来かなり不利な結果になるところを、五分五分に近い分かれに持っていく手筋である。

【基本図:定石進行】
〇大ゲイマガカリ定石のはじまりである
・三角印の白(12, 三)のハサミに、黒1とツケ、3と切るのが、ツケ切りの手筋

【1図:定石】
・黒1のツケ切りの手筋に対し、白1、3はアタリ、アタリのヘボ筋進行であるが、この手筋の効果を上げた証拠でもある。

【2図:変化】
・白は基本図のツケ切りを嫌い、白1、3と変化するのは、黒2、4と素直に応じて良い。
・白5と封鎖しても右辺はガラ空で、単なる厚みに過ぎない。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、46頁)

【4・切り(効果は多岐多様)】


4・切り(効果は多岐多様)
・切りは文字通り、相手の石を切断すること。
・その効果は多岐にわたり、攻め、サバキ、シノギ、ヨセ、死活などなど多様。
・また、ツケ切り、切り込み、切り違いなど、他の手筋との合わせわざでの使い方もある。
・ただ、切りを入れた瞬間から戦いが始まるわけであるから、ある程度先見する必要がある。

【基本図】(根元切り)
・一間高ガカリ定石の進行中であるが、黒1の切りは絶対の一手。
※黒の形を根元から切る強烈な攻めで、白の中央進出を防ぎ、戦いの主導権を握る。

【1図】(白無理)
・白1と押さえ込むのは、黒4のコスミの手筋で、白ツブレ。

【2図】(定石進行)
・白は1と下からアテるよりなく、黒6まで進行。
・しかし、このままでは黒に制空権を取られるだけの一方的進行、白7からの逆襲開始は当然。

【3図】(お返し)
・白1とお返しの切りで、戦端を開く。

【4図】(定石)
・黒1以下、隅で生きをはかったとき、白8のカケから主導権奪回に動き出す。

【5図】(続き)
・黒1以下、互いに手筋を打ち合っての進行。

【6図】(中央の争い)
・黒1のノビから以後延々と中央の戦いが続くことになる。

※「碁は断にあり」と喝破したのは、故細川千仞九段であるが、地の囲い合いに終始するだけでは妙味に欠ける。
 切りの手筋を駆使しての戦いは、囲碁の醍醐味のひとつだろう。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、55頁~56頁)

<メモ>
〇細川千仞(1899-1974)九段
 日本棋院関西総本部の重鎮として活躍。「コウの細川」とも呼ばれ、乱戦の雄として知られる。
 門下に石井邦生九段、佐藤直男九段など、孫弟子に結城聡九段、山田規三生九段、坂井秀至八段、井山裕太九段がいる。

【7・ホウリコミ(ダメを詰める手筋)】


〇ホウリコミは、「放り込み」である。
・すぐにアタリになる自殺手であるが、相手のダメを詰める極上の手筋
 ⇒とくに攻め合いの手数短縮や、死活に大きな威力を発揮
・わずかの捨て石を放つことによって、大きな戦果を挙げる気分の良い手筋
・相手地の目減りをねらうヨセにも使える
・また、ホウリコミそのものには、取られても損はなく、捨て石作戦の練習にも、うってつけ

【1図:基本手筋】
・黒3取り返す1の所 

・黒1がホウリコミの基本形
・白2と取れば、黒3と取り返す手筋

【2図:取り跡】
・わずか一子の捨て石で大きな戦果を上げることができる


【3図:応用問題】
・基本手筋の応用、3手のヨミで

【4図:ダメヅマリ】
・黒1と出て、白をダメヅマリにして、黒3のホウリコミでしとめる

【5図:合わせわざ~ツケコシとホウリコミ】
・焦点のはっきりしない白の形をダメヅマリに導くためには、黒1のツケコシの手筋との合わせわざから入る。
・白2に、黒3の切り。

【6図:オイオトシ】
・続いて、黒1のホウリコミから黒3でオイオトシに。

【7図:連続ホウリコミ~ホウリコミ+ホウリコミ】
☆ホウリコミの連続手筋である
・まず黒1が最初のホウリコミ、白2のとき黒3とアタリ
⇒白をダメヅマリに追い込む

【8図:決め手のホウリコミ】
・白1のツギに、黒2が決め手のホウリコミ
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、85頁~86頁)

10 ワタリ(1線から3、4線での連絡)


【10 ワタリ(1線から3、4線での連絡)】
・ワタリは「渡り」で、自石同士の連絡のことである。 
 ワタリは、地の増減にとどまらず、死活やヨセにも大きな影響がある。
・ワタリは、1線から3、4線での連絡をいうが、ワタリの完成によって地の増のみならず、相手からの攻撃をかわす利点もある。

・俗格言に「ワタリ八目」というのがあるが、8目の得があるということでなく、大きな意味の八の字を当てることで、効果を強調したものである。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、110頁)

【問題図(黒番)】
・黒▲のサガリを活用して、隅の二子との連絡は?

【1図】(ヘボ筋)
・黒1は、左右の真ん中付近でバランスのように見えるが、白2、4のツケ二発で連絡不能に。

【正解図】(トビ)
・黒1のトビが落ちついた手筋。

【2図】(切断不能)
・白1、3とねらっても、ドッキング成功。

【3図】(連絡完成跡)
・もう白から何の手段も残っていない。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、111頁)

【問題図(黒番)】
・白1と目取りにきたところ。
 ダメヅマリ状態であるが、連絡の手筋あり。

【1図】(ダメヅマリ)
・黒1で連絡できそうに見えるが、白4でダメヅマリとなり、黒はaに切ることができない。

【正解図】(ハネ)
・黒1のハネが手筋で、連絡できる。

【2図】(コウにあらず)
・白1、3には黒2、4のヌキでコウにあらず。

【3図】(連絡跡)
・2図を確かめた図。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、113頁)

【問題図(黒番)】
・白△に惑わされず、左右を連絡するには?

【1図】(問題図までの定石進行)
・白△に黒7まで進行、白8の封鎖で問題図に。

【2図】(一見筋風)
・黒1のアテは手筋のように見えるが、白2から6までで、コウで抵抗される。

【正解図】(ケイマ)
・黒1のケイマが手筋。

【3図】(別定石)
・白が正解図を嫌えば、白1、黒2の定石進行あり。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、115頁)

【問題図(黒番)】
・左右の黒の連絡手筋は?

【1図】(切断)
・すぐに黒1とオサエるのは、白2のワリ込みで破ける。
・黒3と強引に取るのは、白6まで黒四子が落ちる。

【2図】(弱い)
・黒1のトビでは、隅は安泰だが、左が弱体に。

【正解図】(ケイマ)
・黒1のケイマで連絡可。

【3図】(大丈夫)
・白1以下の画策には、黒6までで心配なし。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、126頁)

【参考図】(世界棋戦の実戦進行)
・黒1のケイマで左右が連絡。
 上辺は黒地化。白は厚味を背景にaと構え、消し囲いの難解な中盤戦に突入。
 結果は黒半目勝ち。

【1図】(参考図までの手順)
・黒1の打ち込みに、白2とサガリ、黒3とフリカワリ策に。

【2図】(体力をつけて)
・黒1、3のハネツギで体力をつけ、黒5で連絡という進行。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、127頁)

14捨て石(囲碁の醍醐味の一つ)


〇捨て石作戦は、囲碁の醍醐味の一つ。
 主な捨て石作戦は、
①手数を詰める
②カケメにする
③シボリ作戦
 A二子にして捨てる
 B石塔シボリ
 Cグルグル回し
 D締めつけ
 Eその他
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、163頁)

手数を詰める


手数を詰める
【1図】(手数を詰める)
・黒1の捨て石が攻め合いに勝つ唯一の手筋。

【3図】(捨て石を増やして)
・詰碁には捨て石が似合う。
 すでにつかまっている黒石をさらに増やして、黒1の捨て石が白をカケメにする手筋。
〇石を捨てるのが嫌いな向きも多く、まずは捨て石に慣れる訓練をすることが大切であるという。

【5図】(黒番)~12目の死活問題
☆黒先で手段ありや、なしやと、3段レベル約50名に出題したことがあるという。
 正解は手段なしである。
 だが、応手が結構難しいようで、セキやコウになるケースがかなり出た。
〇このような白の地とおぼしき形の中に打ち込んで見るのは、捨て石の練習をする絶好の機会だという。
 手があるかどうかは不明でも損はなく、また手筋発見の訓練にもなり、一石二鳥である。

【6図】(打ち込み)
・黒1の打ち込みに、白はそれなりに悩む。

【7図】(セキ)
・白3は誤った応手。
・黒2~8まででセキになってしまう。

【8図】(セキかコウ)
・前図の変化で、白1も悪手で、黒4までコウ。
※白3で4は、黒aでセキ。

【9図】(手なし)
・白1が正しい応手で、黒に手段はない。
※しかし、これによって、白地が増えたわけではない。
 黒は三子を捨て(取られ)たが、白地も3目減で損得なし。

【10図】(問題2)
・黒1と来るとどうするか?

【11図】(手なし)
・これも1、3で手なし。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、161頁~163頁)

捨て石の問題~一間高ガカリ定石の変化とシボリ作戦


【問題図(黒番)】
・定石変化のひとつ。
・黒のシボリ作戦の初手は?

【1図】(一間高ガカリ定石の変化)
・黒6の切りに白7のアテからの変化はハメ手風。

【2図】(ヘボ筋)
・黒1、3と決めてしまっては白4で隅を取られ損で、黒は浮き石のまま。

【3図】(イマイチ)
・黒1のコスミツケは考えた手であるが、イマイチ。

【4図】(実利の損)
・黒1では実利の損が大。

【正解図】(切り)
・黒1の切りから進めるのが手筋。

【5図】(大勢に暗い)
・折角、黒▲の手筋の切りを打ちながら、白1の逃げ出しに、黒2と隅を生きるのは大勢に暗い発想。

【6図】(先手突き抜き)
・白△には黒1、3のアテを決めて、黒5が名調子。
・白6は省けない。

【7図】(隅に手段)
・前図の白6に手抜きするのは、黒1から手段。

【8図】(コウ)
・黒1、3でコウに。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、187頁~188頁)

捨て石の問題~二間高バサミ定石の変化とシボリ作戦


【問題図(黒番)】
・二間高バサミ定石の進行中。
・捨て石のシボリ作戦駆使のすばらしい大局判断がある。

【1図】(問題図までの進行)
・二間高バサミから黒4、6と戦端開始。

【2図】(続き)
・続いて、白1のカケに黒2の捨て石の手筋。

【3図】(打ち過ぎ)
・黒1、3と両方を助けるのは無理。

【4図】(もったいない)
・黒1、3と上方を捨てるのは、もったいない。

【正解図】(カケ)
・黒1のカケが白の動きを制限し、シボリを完璧にするグッドセンスの手筋。

【5図】(自殺行為)
・白1とケンカを売るのは自殺行為で、黒6までシチョウに。

【6図】(シボリ開始)
・白は単に1と出るよりなく、黒は2、4とシボリ作戦開始。

【7図】(シボリ完了)
・黒4まで二子の捨て石で大シボリ。

【8図】(ケイマツギ)
・黒1のおしゃれなケイマツギで手厚い外勢。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、189頁~190頁)

川端康成の置碁


「コラム 置碁での手筋・形」
【川端康成の置碁】

昭和十年代(1940年代)世襲制最後の本因坊である秀哉と木谷実七段(当時)の有名な引退碁を、「名人」という小説に著した川端康成さんは、もちろん大の囲碁ファンであった。
 多くのプロ棋士との対局があったと思われるが、棋譜として残っている岩本薫元本因坊との六子局は、なかなかの出来ばえであるようだ。
 した手、川端さんの布石で随所に出てくる手筋をごらんいただこうと、白江氏はいう。

川端康成の置碁
岩本薫元本因坊との六子局

【川端康成と岩本薫との六子局】

【第1譜】(六子局)
・白5のボウシは、うわ手の常套手段であるが、黒6の肩ツキは、攻めと中央進出を兼ねた手筋。
・次の白9、11のツケのサバキに、黒12はなんでもないようであるが、正しい手筋の受け。
・それは、白13という車の後押しを強要させる効果があり、黒16まで悠々と中央に進出、黒上々の出だし。

※ところで、当時は、川端さんの他にも囲碁好きの作家は多く、皆さんかなりのレベルで、
 本因坊戦などタイトル戦の観戦記執筆が花盛りであったが、ときおり術語を間違えるのが、ご愛嬌だったという。

【第2譜】(整形と攻めのコスミ)
・白1のトビに、黒2のコスミはなんでもないようだが、整形の手筋。
※連絡を確かめながら、白の連絡は許さんという強い態度でもある。
・上辺に移って、白5のヒラキに、黒6もすばらしい反応、隅の確保と白二子への攻めと一石二鳥。
※実戦では、aと追随しがち。

【第3譜】(ケイマであおる)
・白3、5のくすぐりに、黒6のケイマのあおりも大賛成の攻め、ここまで黒絶好調。

【第4譜】(サバキのツケ)
※ここでようやく岩本プロが、術を使いはじめる。
・白1のツケがそれで、サバキの手筋のひとつ。
・黒2はその術にまんまとかけられ、黒8まで利かされてしまった。
※黒2では、単に4が正解。
 サバくときツケよという格言があるが、その見本のひとつ。
 応用範囲広く、ぜひ覚えてほしいという。

【第5譜】(ようやく置碁らしく)
・白1と中央に進出し、白7、9でようやく置碁らしい局面になってきた。
 しかし黒勝利。

【第6譜】(1~51まで)

(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、50頁~52頁)

天元対局


「コラム 天元対局」
【天元対局】
工藤紀夫天元 対 依田紀基碁聖のテレビ早碁対局

【第1譜】(初手天元)
・依田プロが工藤天元のタイトルに敬意?を表して、初手を黒1と天元打ちした話題局。
・これには工藤プロの多少驚いたと思うが、棋士は何局かの天元対局を経験している。
・その天元に対する白の手筋は、簡単にいえば、そのはたらきを減らすようにすることであるが、言うは易くて中々ムズ(難)。
(しかし、それは黒も同じことで、地に結びつきにくい天元は甘くなる可能性は大)
・白2に黒3と積極的なカカリは、天元との連携プレーの意味があり、早い時期の戦いを意識。
・黒5以下、珍しい進行となったが、お互いに天元の存在を視野に入れての応酬で興味津々。
・黒17と押しと黒19と天元で大三角形の形成。
・黒21、23のさらなる拡大に、白24のハサミ一本から白26と単騎突入、荒しの頃合だろう。

【第2譜】(技あり)
・その後数十手進んだ局面、上辺のシノギの見極めがついた白は、左辺白1のツケから手段、白3が連係の手筋で白11までかなりの稼ぎで白技あり。
※地合では黒も大変、天元打ちの難しいところ。

【第3譜】(大技あり)
・さらに進んで中央を生きる前に、白1のノゾキを利かそうとした瞬間、黒2のワリ込みが強烈な手筋で、白はシビれた。
・黒6で五子が落ち、一挙に形勢が傾き、数手後投了。
(白江治彦『手筋・ヘボ筋』日本放送出版協会、1998年、53頁~54頁)

【補足】川端康成と小説『名人』~川嶋至氏の著作より


 最近、川端康成の小説『名人』を調べるにあたり、川嶋至氏の次の著作を読んでみた。
〇川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]
 川嶋至(1935-2001)氏は、学者にして、文芸評論家で、川端康成の研究家として知られている。川端康成の元恋人の伊藤初代の実体をいち早く究明した研究者として注目された。
本書の紹介は後日にするとして、さしあたり「第六章 現実からの飛翔―「雪国」と「名人」から、小説『名人』に関する言及について、簡単に紹介しておく。

●「名人」の生いたちについて
<第一章 なまけものの文学>
・こうした傾向(川端の作品に、未完、中絶の多い傾向)は、この時期だけのものではなく、たとえば「雪国」は、昭和十年から十二年までの三年間に、断続的に種々の雑誌に書きつがれ、創元社版「雪国」で完結したかに思われたのが実は未完で、十年後にまた書きつがれ、結局完成までに十三年の歳月を要するという生いたちを持っている。
・「名人」にしても、戦前戦後にまたがる改稿がみられるし、敗戦後の諸作にしたところで、「千羽鶴」「山の音」など、多くは「雪国」同様の発表形式をとっている。むしろ、氏の作品には、順当な手続きを経て完成したものはほとんどないと言ったほうが、わかりがはやいであろう。
(川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]、15頁)

<第六章 現実からの飛翔―「雪国」と「名人」>
・「雪国」は、完成までに十数年の歳月が費やされたが、「名人」も「雪国」に遅れること数年で、やはり完成に十数年の日月を要している。
 作中にも明らかなように、「名人」は、東京日日新聞社主催の本因坊秀哉名人引退碁の観戦記をもとに書かれたもので、小説化の意図は、観戦記執筆中にすでに生まれていた。

・引退碁は昭和十三年六月にはじまり、秀哉名人の病気で約三箇月の中断があって、同年十二月に終った。それから約一年後、秀哉名人は持病の心臓病で世を去った。

・この素材がはじめて小説化されたのが昭和十七年の初稿「名人」で、以後敗戦をはさむ数年間、草稿となった作品の発表があり、その後更に数年を経て、全集編集を契機として再び小説化がくわだてられ、昭和二十九年単行本『呉清源棋談・名人』にまとめられて、「名人」の完成をみたのである。
 このように、定稿は「山の音」「千羽鶴」などと平行して書かれているわけだが、「雪国」を戦後の作とはしなかったように、「名人」も「雪国」に続く時期の作品としてあつかって、異論のないところであろう。

・一見したところ、「雪国」と「名人」では、作品の世界ががらりと変ってしまったように見える。
 「雪国」が作者の計算にもとづく人工的なからくり、純粋仮構の上に成り立っているのに対して、
 秀哉名人が実名で登場する「名人」は、引退碁の凄絶な勝負の顚末記ともみえる。

・しかし、作者の描こうとする力点はそうした勝負の世界にはなかった。
 氏の興味は、秀哉名人その人に向けられていたのである。
 だから題名の「名人」は、棋界の最高位を示す称号ではなく、具体的に秀哉その人を指す固有名詞としての名人なのである。
 おそらく、彼以外のいかなる碁の上手が名人の座にあったとしても、川端氏の創作の対象とはなり得なかったであろう。

・ところが、実際の秀哉名人は、「野卑で貧相」な外貌の持ち主で、対局中の行動にも身勝手なところがあり、金銭にきたないといった風評もあったらしい。
 事実、引退碁の前に名人と会う機会を持った榊山潤氏は、「その印象は、あまりいいものではなかつた。瘠せて小さく、吹けば飛ぶやうで、而もその上、失礼ではあるが、何となく小狡そうな感じがあった。」(昭和32年『解釈と鑑賞』)と「名人」論を書き、
「私が若し棋士を書きたくなつたら、第一に木谷(註・「名人」における大竹七段の本名)その人を選ぶだらうと思ふ。恐らく現棋士中、もつとも複雑な情感を持つた人と思はれる。天才の一つの型である。」とも述べている。

・このように、名人の称号を剝奪した秀哉その人は、うすぎたない老人にすぎず、むしろ大竹七段の方がなまの人間として魅力的な人物だったと思われるのに、川端氏は大竹七段には注目しなかった。
 わき役の彼は、ときには名人との対比から、悪役すらもふりあてられている。

・川端氏は「野卑で貧相」な老人に、なぜそれほどまでに傾倒したのだろうか。
川端氏は観戦記を「小説風に書き直してみたいと思った」理由について、「観戦記には読者をひくための舞文も多く、感傷の誇張がはなはだしく、また対局中の紛糾など新聞には書けぬこともあつたからである」(全十四、あとがき)と書き、
「対局中の棋士の気にさはらぬやうに心を配つて、筆をおさへねばならぬ」(第四十一章)ことが多かったとも述べている。
 確かに観戦記では、記者「私」がみずからの意見や感想を述べることはほとんどなく、まれに顔を出しても、「私達素人は……」とか「素人の観戦子にも……」といったひかえ目な発言しかしていない。
(川嶋至『川端康成の世界』講談社、1969年[1973年版]、228頁~230頁)






≪囲碁の手筋~大竹英雄氏の場合≫

2025-02-02 18:00:05 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~大竹英雄氏の場合≫
(2025年2月2日投稿)
 

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年

※この本を読んで、手筋についての考え方は、目からウロコだった。
 「ウッテガエシ」や「オイオトシ」といった石を取る筋のみを手筋と考えがちだが、そうではないことに、気づかせてくれたのが、大竹先生のこの本であった。
つまり、手筋は、相手の形の欠陥をとがめる手でもあるという。だから、欠陥のない形に対して手筋はうまれてこない。強い人の石には、そうした欠陥が少ないために、手筋を打てるチャンスはなかなかないものらしい。相手から手筋を打たれないように、形をしっかり打つことが大切だと、大竹英雄先生は強調している。
また、定石は相手の手筋を防ぐ形が中心であるという。形が悪ければ相手から手筋でひどい目に会わされる。手筋を学んだ効果は、相手の石の中に手筋を発見して戦いを有利に導くということもあるが、それ以上に自軍の石をしっかり打つようになることにあるというのである。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、115頁、148頁)

 また、代表的な手筋であるオイオトシ(「追い落し」と本書では表記)についても、改めてポイントを適確に述べておられ、「独習書」ならではの良さであろう。
 例えば、次のようにある。
「この追い落しの筋は実戦でもひじょうによく出る。
 第2型についていえば、この追い落しの筋をみて、同図黒▲のサガリがいつでも先手で打てるということである。
 サガリの筋でも出たように、第1線へのオリキリが活躍する場というのはきわめて多い。
 また追い落しにかかるほうはといえば、それはダメヅマリになっているということである。
 みなさんがこれから勉強するうえに、どういうのがダメヅマリなのか、それを注意するだけでも勝率がずいぶんあがるだろう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、120頁)

この追い落しの筋は実戦でもよく出てくるといい、第1線へのオリキリが活躍する場というのはきわめて多い。そして、追い落しにかかるほうはといえば、それはダメヅマリになっているということである。この点は、オイオトシを考える上で、重要なポイントである。
この点については、【補足】において、他の例を挙げておいたので、参考にしていただきたい。
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~溝上知親氏の著作より
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~You Tube石倉昇九段

 そして、オイオトシの手筋を使う「鶴の巣ごもり」にしても、ダメヅマリが石を取る条件であることも確認しておきたい。
【補足】鶴の巣ごもりとグルグルマワシとダメヅマリ~影山利郎氏の著作より

 なお、手筋の表記は本文に出てくるものをそのままにしてある。
 例えば、オイオトシは「追い落し」、ウッテガエシは「ウッテガエ」といった具合である。

【大竹英雄氏のプロフィール】
・1942年5月12日生。福岡県北九州市出身。木谷實九段門下。
・1956年入段。
・1965年第9期首相杯争奪戦 優勝
・1967年第6期日本棋院第一位決定戦 優勝
・1969年初の十段位を獲得
・1970年九段
・1975年第14期旧名人戦で初の名人位に 初の王座位を獲得
・1978年初の碁聖位を獲得
・1986年碁聖位6連覇
・1992年世界囲碁選手権富士通杯 優勝
・1994年テレビ囲碁アジア選手権 優勝
・2002年名誉碁聖を名乗る

※通算獲得タイトル数 48
 棋道賞最優秀棋士賞受賞2回
 秀哉賞受賞1回
 平成20年12月~平成24年6月 日本棋院理事長

【大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』(誠文堂新光社)はこちらから】



〇大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法―意外な急所がどんどんわかる』誠文堂新光社、2014年
【目次】

大竹英雄『囲碁 基礎手筋の独習法』
第1章 基本感覚の養成
No.1 単に固くツぐのがカタチ (第1型)
No.2 ノゾかれたらまずツげ (第2型)
No.3 傷を残さぬ打ち方 (第3型)
No.4 足早に辺を占める打ち方 (第4型)
No.5 ゆるまずオサエ込み (第5型)
No.6 遠慮なくハネる気合 (第6型)
No.7 周辺の状況に注意 (第7型)
No.8 2子のアタマ見ずハネよ (第8型)
No.9 絶対に欠かせぬノビ出し (第9型)
No.10 単にハネるカタチ (第10型)
No.11 単ギリからいく筋 (第11型)
No.12 形の急所――手厚いマゲ (第12型)
No.13 有効なタケフの連絡 (第13型)
No.14 有効なツギ方 (第14型)
No.15 切りをおそれない (第15型)
No.16 一間にトぶ形 (第16・17型)
No.17 封鎖をはかる形の急所 (第18型)
No.18 カケて封鎖(コスミ) (第19型)
No.19 上ツケして封鎖する筋 (第20・21型)
No.20 腹ツケの手筋 (第22型)
No.21 相手に調子を与えない (第23型)
No.22 相手にチャンスを与えない (第24型)
No.23 連絡を妨げる工夫 (第25・26・27型)
No.24 まず傷の補修 (第28型)
No.25 シチョウを狙う筋 (第29型)
No.26 シチョウがよい時の決め方 (第30型)
No.27 狙いをもった備え (第31・32型)
No.28 封鎖を避けるコスミ出し (第33型)
No.29 まず形をととのえる (第34型)
No.30 ゲタにカケて取る筋 (第35型)
No.31 アタリを気にしない――コウ (第36・37型)
No.32 模様を張るための上ツケ (第38型)
No.33 模様を張るためのケイマ (第39型)
No.34 模様を張るための大ゲイマ (第40型)
No.35 あと押しを避けるケイマ (第41型)
No.36 形の決め方 (第42・43型)
練習問題1~6
練習問題解答
練習問題7~12
練習問題解答
練習問題13~18
練習問題解答

第2章 やさしい手筋の学び方
No.37 コスミの手筋 (第1・2・3型)
No.38 ツケの手筋 (第4~7型)
No.39 コスミツケの手筋 (第8型)
No.40 ハサミツケの手筋 (第9・10・11型)
No.41 アテツケの手筋 (第12型)
No.42 アテコミの手筋 (第13・14型)
No.43 ケイマにツケコシ (第15・16・17型)
No.44 出切りの手筋 (第18型)
No.45 キリコミの手筋 (第19~22型)
No.46 ハネ出しの手筋 (第23型)
No.47 二段バネの手筋 (第24~27型)
No.48 オキの手筋 (第28・29・30型)
No.49 サガリの手筋 (第31型)
No.50 ワリコミの手筋 (第32・33・34型)
No.51 二子にして捨てる手筋 (第35型)
No.52 追い落しの手筋 (第1~4型)
No.53 ワタリの手筋 (第5・6型)
No.54 攻め合いの手筋 (第7~13型)
No.55 ウッテガエの手筋 (第14・15型)
No.56 シボリの手筋 (第16・17型)
No.57 コウの手筋 (第18~22型)
練習問題1~6
練習問題解答
練習問題7~12
練習問題解答
練習問題13~18
練習問題解答

第3章 実戦で学ぶ手筋
No.58 星の基本定石(1) (第1・2・3型)
No.59 星の基本定石(2) (第4型)
No.60 星の基本定石(3) (第5・6型)
No.61 星の基本定石(4) (第7・8型)
No.62 星の基本定石(5) (第9型)
No.63 星の基本定石(6) (第10~13型)
No.64 星の基本定石(7) (第14・15型)
No.65 星の基本定石(8) (第16~19型)
No.66 星の基本定石(9) (第20型)
No.67 置碁定石(1) ツケノビ定石 (第21型)
No.68 置碁定石(2) コスミツケ (第22型)
No.69 置碁定石(3) ボウシ (第23型)
No.70 置碁定石(4) ノゾキ (第24型)
No.71 シチョウ関係に生ずる手筋 (第25型)
No.72 石をサいて出る手筋 (第26型)
No.73 三々の対策 (第27・28型)
No.74 下ツケで連絡する手筋 (第29型)
No.75 分断する手筋 (第30型)
No.76 ツケ・トビの手筋 (第31型)
No.77 ワタリの手筋 (第32型)
No.78 模様を固める鉄柱 (第33型)
No.79 模様を消すボウシ (第34・35型)
No.80 模様を消す肩ツキ (第36型)
No.81 ハネツギからの狙い (第37・38・39型)
No.82 サガリの手筋 (第40・41型)
No.83 “2の一”に手あり (第42型)
No.84 ツケの手筋 (第43型)
No.85 サルスベリの手筋 (第44型)
練習問題1~6
練習問題解答
練習問題7~12
練習問題解答
練習問題13~18
練習問題解答
さくいん



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はしがき
・本書の独習法

・第1章 No.6 遠慮なくハネる気合い
・No.7 つねに周辺の状況に注意が必要である
・No.8 2子の頭は見ずにハネよ(格言)
・No.12 形の急所になる手厚いマゲ
・No.20 腹ツケの手筋(第22型)
・No.22 相手にチャンスを与えてはならない
・No.23 連絡を妨げるための工夫
・No.36 形の決め方

・第2章 No.45 キリコミの手筋
・No.50 ワリコミの手筋
・No.52 追い落しの手筋
・No.54 攻め合いの手筋
・No.55 ウッテガエの手筋

・第3章 実戦で学ぶ手筋●実戦感覚を養うにあたって
・第3章No.60星の基本定石(3)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~溝上知親氏の著作より
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~You Tube石倉昇九段
【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~張栩九段の基本死活事典より
【補足】鶴の巣ごもりとグルグルマワシとダメヅマリ~影山利郎氏の著作より






はしがき


・出版社のほうから「基本を身につけるのに役立つ筋とか形、それに手筋を加えたような本を書いてほしい」という要請があった。
 基本はたいせつである。
 筋とか形とかいっても、その基本はきわめて単純な手法にかぎられている。
 たとえば、ツギとかハネといったようなものである。
 しかし手筋ともなってくると、いささかむずかしくなってくる。
 一見なんの手もないような所へ、いきなりトビツケたり、ツケコしたりして手にするわけである。むずかしいといっても、こんな痛快なことはない。

・しかし、相手がそのような手筋の生ずる形に打ってくるか、こちらが積極的に手筋の生ずる形に導いていくかしなければ、手筋は生じない。
 また言いかえれば、自分としては、相手から手筋を打たれて窮するような形にもっていってはいけない、ということである。

・そこに筋とか形とか手筋の問題が絡んでくる。
 初心者の打つ碁には、ある意味ではいくらでも手筋の活躍できる場はある。
 したがって、この著作で手筋なるものをしっかり勉強して、碁の醍醐味を十分味わっていただきたいという。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、1頁)

本書の独習法


〇一着の重要性の認識
・碁は数十手、百数十手の積み重ねで勝敗が決まる。
 実はその一手一手が重要な役割をはたしている。したがって、それらを正しく頭の中に記憶させることが大切である。

〇まず第1章を確実にマスターする
・第1章は形とか筋と呼ばれるものの基本中の基本といえるものが網羅されている。
 だから、まずこれを繰り返し読んで、確実に自分のものにして、それから第2章に移ってほしい。

〇第2章の勉強法
・第2章の筋の連けいは、第1章で学んだ基本形の複合である。
 したがって、相手の石の動きも正確にキャッチできるようになる。
 それをマスターするためには、図をいく度も繰り返して眺め、頭の中で石の変化が浮かぶようになるまで続けてほしい。

〇練習問題
・各章のあとに練習問題を提出しておいた。本文の応用だから、どの程度内容を理解できたかを示すバロメーターとして、取り組んでいただきたい。

〇最後に
・本書は初級者向きの教材を扱っているが、石の形、筋等に中級者でも間違えるようなものも含まれている。
 初級者に限らず、感覚を正しい方向に是正するのに、かなりの力倆のある人でも役立つ。
・また、碁はいつの場合でも、絶対という手は少ないものである。
 この著作に出た変化も絶対ではなく、周囲の状況が変わると、当然手段も変わってくる。
 それを絶えず念頭におき、今後の勉強に励まれること切に希望する。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、6頁)

第1章 No.6 遠慮なくハネる気合い


No.6 ハネられるところは遠慮なくハネる
〇第6型 黒番
【第6型 テーマ図】
・第5型の1図黒1につづいて、本図白1とハッてきたあとの打ち方について考えてみよう。

【1図】(ハネる一手)
・こういうところでは、黒は1とハネなければならない。
・あとで述べる≪2子の頭≫にもなっているのだから、白の形を窮屈にするためにも、黒1は絶対。
※ただし、白にAと切られて困るような場合には、そのかぎりではない。
・白は、当然白2とハネるだろう。
・ふつうに黒3とノビていて十分。(第3型の1図の場合とは違う)
・黒5とノビれば、白Aはこわくない。

□別法に注意
【参考図】(二段バネ)
・白のダメヅマリをとがめる意味で、黒1、3と二段バネしていく筋も成立する。
(105ページ、第24型1図参照)
・なお、このあと白A、黒B、白C、黒D、白E、黒F、白ツギ(3)、黒Gとなるのが、定石のひとつであることをつけ加えておこう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、14頁)

No.7 つねに周辺の状況に注意が必要である


No.7 つねに周辺の状況に注意が必要である
〇第7型 黒番
【第7型 テーマ図】
・なんでも2子の頭はハネればよいかというと、なかなかそうは簡単にいかないのが、碁の面倒なところ。
・白1と隅(3, 三)に入ってきた石に対して、黒2とサエギるのは、この場合(三角印の黒がある)、当然である。
・白3に対して、黒はどう打つべきだろうか。

【1図】(正着―ノビ)
・このように、すぐ、そばに三角印の白がある局面では、黒1とノビなければならない。
・前型と同じように、黒Aとハネるのは危険(参考図参照)。
・いくら2子の頭とはいっても、黒Aとハネ、白に1の切りの余地を残してはよくない。
⇒第6型と比較してみよ。

□周辺に注意
・そばに相手(ここでは白)の石がある場合は、極力傷をつくらないように打つ心構えが必要。
【参考図】(とがめられる)
・ここで黒1とハネると、白2から白4と切られて窮す。
※このあと、どう打っても、黒1か、上方の3子のどちらかを取られてしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、15頁)

No.8 2子の頭は見ずにハネよ(格言)


No.8 2子の頭は見ずにハネよ(格言)
〇第8型 黒番
【第8型 テーマ図】
・白が1とオシアゲたという想定であるが、こういう形では黒は次にどう打つべきだろうか。

【1図】(2子の頭)
※冠頭にもあるように、≪2子の頭は見ずにハネよ≫という格言がある。
・この黒1がそれにあたる。こういうダメのツマっている形では特に有力な手になる。
※第8型は図のように黒2子に白2子と勢力関係が拮抗しているはずである。
 ところが、次は黒番であるので、そこで起こるせり合いは、グンと黒に有利に展開するのが常識。

【2図】(白も対抗)
・白としては受け方に困るのだが、最強の抵抗は、2子の尻のほうを白2とハネる打ち方だろう。
 (ただし、白2で白Aとトぶのもあり、黒B、白Cと変化する)
・そこで黒は3と応じて頑張ることになる。
※黒としてDの傷が気になるが、黒Eと1子をカミ取る余地が残されている以上、すぐ反撃されるという心配はない。
・つづいて次図。

【3図】(白の整形)
・手堅く白は4とツグ。問題はこのあと。
・もし黒ならどう対処するだろうか。

【4図】(しっかりした形)
・黒5とここをしっかりツグ。
※黒の実利は相当なもの。
 このあと白はAとヒラいているくらい。
Aをはぶくと、黒B、あるいは黒Cあたりからの攻めがきびしくなる。

□次の狙いをみる
 せっかく2子の頭をハネてみても、あとの打ちかたが分からないと、せっかくの強手が活きてこない。
【参考図】(弱点のある白の形)
・もし白2とハネてきたら、どうするだろう。
・黒3、5と決めて、将来黒Aの狙いをもつ。
※もっとも、黒3でBと切る手も成立する。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、16頁~17頁)

No.12 形の急所になる手厚いマゲ


No.12 形の急所――手厚いマゲ (第12型)
〇第12型 黒番
【第12型 テーマ図】
・黒の4子が第3線に並んでおり、その上方に白の3子がへばりついている形を想定してみる。
・こんな形では、黒の次の一手ははっきりしている。

【1図】(ダメヅメ)
・黒1とマゲるのがすばらしい急所。
※白3子をダメヅマリにしていると同時に、黒は右方(下辺)に大模様を形成していく。
・次に白Aなら、黒はBとハネ、白Cとノビることになるだろうが、この白の形には、将来黒からDとノゾくような嫌味が残る。
・このあと、黒が右方の模様を拡大したい場合には、さらに黒はEと押していくことになろう。

□白黒双方の争点
【参考図】(白番なら)
・もしこの局面で白の手番であれば、やはり1と押す。
・黒も2とハネるくらいだが、白3、5とハネノビても、1図とは違って白の形もしっかりしている。
・それに白の模様もかなり大きなものになってきた。
※白1では、3とケイマする場合もあるだろう。

【類型】黒番
・このような局面で、もし黒の手番なら、どう打つだろうか。

【2図】(マゲオサエ)
・黒1の一手。
 これは用語で、マゲオサエと呼ばれる形。
※この黒1によって、まず下辺の黒地がかなりつきそう。
 そしてそれ以上に大きな価値は、白が手を抜けないということ。
 もし白が手を抜けば、黒にAと走られて、隅はまるまる黒に取られてしまうだろう。
・そこで、やむをえず、白Aと活き形につくか、白Bとケイマで活きをはかるかすることになるだろうが、いずれにしても、黒は手を抜き、先手で他の好点に回ることができる。
※黒のように先手でマゲオサエが打てるようなところは、決して見逃さないようにすること。

□白番との比較
【参考図】(トビ)
・もし白番なら1とトんでいくだろう。
 この図と2図とをくらべてみよ。
※本図では下辺にまったく黒地を見込むことはできない。
 しかも白Aを狙われ、黒の4子の影が薄くなってしまう。
 2図の黒1がいかにすばらしい手かが分かる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、22頁~23頁)

No.20腹ツケの手筋 (第22型)


No.20 ピタリと決める腹ツケの手筋
〇第22型 黒番
【第22型 テーマ図】
・もはや隅の黒2子を放出することはできない。
 しかしその黒を利用してピタリと決めるうまい方法がある。
 どういう方法だろうか。

【1図】(腹ツケ)
・黒1がそれである。
 どうしてこの手がよいかは、参考図と比較してみよ。
・白はつづいてAと2子をカカエるよりしかたがない。
・そこで黒はBとアタリにして、先手で他(たとえばCのヒラキ)に回る。
・黒1のツケに対して、白がBと出られないことはいうまでもない。

□俗手に注意
【参考図】(傷が残る)
・ふつうに黒1とオサエていくとどうなるか?
・白はいったん2とマゲる。
・けっきょく白4の2子カカエに回るのだが、白は同じ後手でも、この形なら将来白Aと切る狙いが残る。
・黒としてはBとカケツぐぐらいだが、それなら白が先手になってしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、35頁)

No.22相手にチャンスを与えてはならない


No.22相手にチャンスを与えてはならない
〇第24型 黒番
【第24型 テーマ図】
・いま白が1と押してきたところだが、こうした場合、黒はどう応ずるのが正しいか。

【1図】(引く一手)
・こうしたところでは、黙って黒1と引くのがよい。
 強情を張って黒Aとハネたりすると、白に1の切りを与え、形をととのえさせるお手伝いをしたことになる。(参考図参照)
・白がつづいてAと押してくれば、こんどは黒Bとオサエられる。
※相手に調子を与えたり、形をととのえたりさせないために、こうしてさからわずに引いていなければならないケースは意外と多いようだ。

□切りに注意
【参考図】(白サバく)
・もし黒1とハネると、白2の切りが白からの手筋となる。
・黒3以下で白の2子は取れるではないか――と考える人もいるかもしれないが、そのために白6のアテが先手で利かされ、しかも白8のオサエ、さらに白10のアテまでを利かされては、大へんな損失。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、38頁)

No.23連絡を妨げるための工夫


No.23 連絡を妨げるための工夫
〇第25型 黒番
【第25型 テーマ図】
・これは置碁はよく出る形。
 白が1と打ってきたと仮定する。これに対して黒はどう応じるか。

【1図】(白の狙い)
・まず白の意図を考えてみることが必要。
 いったいなにを考えて、こんな手を打ってきたのだろうか。
※実はもし黒が手を抜けば、白Aとワタってしまおうというのである。
・単に連絡させないだけなら、黒AでもBでもよいわけだが、黒としては反撃する気構えも必要。
・そこで黒1のコスミが形で、黒Cや黒Dと中央でも頑張ろうというわけである。

□無策なトビ
・1図黒1によって白Aと連絡できないことは、各自確かめてみてほしいという。

【参考図】(ワタれる)
・なんでもトベばよいというものではない。
 この黒1では、白2とツケられて、連絡されてしまう。
・次に黒Aなら白B。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、39頁)

〇第26型 黒番
【第26型 テーマ図】
・相手の連絡を妨げるにも、いろいろと工夫が必要。
 この図の場合も同じ。白が1とハッて根拠を奪ってきたところだが、黒はどう応ずるか――というのがテーマ。
 ただし、黒Aとサエギるのでは、白B、黒Cのとき白Dと右方に連絡され、黒は傷だらけ。

【1図】(正着)
・こういうときは、黒1とツキアタるのがうまい手筋。
※ふつうはツキアタる手というのは、あまりよくない場合が多いのだが、危急のさいそんなことは言っておれない。
・この黒1に対して、もし白Aと立てば、こんどは黒Bとオサエて、白の2子を取ってしまおうというわけである。

【2図】(変化)
・白も一本2と出て、4とワタることになるだろう。
・それならば、黒は5とハネ(これでは黒Aの下バネもあるので、その状況に応じて使いわけてほしい)黒はなんとかサバけそう。
・途中、白4で白Bと切ってくれば、いったん黒4とオサエ、白Cのとき黒Dのアテを利かし、さらに黒Eのオサエまで、先手で利かしてしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、40頁)

〇第27型 黒番
【第27型 テーマ図】
・これは互先定石(一間高ガカリにツケ引く定石)によく出てくる形。
・いま白が1と打ち込んできたところだが、これに対して黒はどう対処すべきだろうか。 
 ただし白Aの渡りを妨げる手法――という条件である。

【1図】(コスミ)
・黒1のコスミが正しい手。
・これに対して、白Aとオサエてくれば、黒はBと押して白を封じる。
・次に白Cのハネ出しなら、黒はDとハサミツケる手筋で、白を閉じ込めることができる。
・したがって、白もこのあと、DとかEと工夫して、一戦まじえることになる。
・なお、この黒1には以上の含みのほかに将来、黒Fとハネ、白G、黒Hと先手で大きくヨセる含みがある。

□無策なサガリ
【参考図】(渡れない)
・この黒1のサガリでもいちおう白の連絡を妨げてはいる。
・しかし、白に2と押しあげられると、黒は右方との連絡ができない。
※このように石が左右に分断されると、両方の石を同時にシノがねばならなず、苦しくなることはいうまでもない。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、41頁)

No.36 形の決め方


No.36 形の決め方 (第42・43型)
〇第42型 黒番
【第42型 テーマ図】
・よく置碁で生ずる形。
 右方にあらかじめ三角印の黒の1子があるような場合、黒の次の打ち方は決まっている。
 どう打つのか?

【1図】(厚味)
・黒1とマゲてここを封じる。
・白2とノビれば、さらに黒3とオサエ込んでいく。
※この打ち方は後手になるが、ひじょうに厚い手で、今後の中央での戦いに、ひと役もふた役も買ってくれるだろう。
 ただし、前にもことわったように、あくまで三角印の黒があるのが条件。
 もしないと、黒3に白Aとノビられて、よくない。

□形を決める手筋
【参考図】(急所からいく)
・なお1図のあと、ここを黒が固めるとすれば、黒1の急所からもっていくのが手筋になる。
・白2に黒3と打てば、白からのAのハネ出しの狙いが防げる。
・しかも次に黒Bと打つと、白は死にだから、白Cと走り、黒D、白E、黒Fとなれば、黒は鉄壁の厚みができて、必勝となる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、62頁)

〇第43型 黒番
【第43型 テーマ図】
・白が黒を攻める形として、この白1のようなコスミがよく使われる。
 というのは、この白1で白Aなどとトぶと、黒Bにツケて軽くサバかれてしまうから。
・これに対して、黒はどうサバくか――というのがテーマ。

【1図】(手筋)
・だいぶ高級な打ち方だが、まず黒1と別の石にツケて、白の受け方をみる(次ページ参考図参照)。
・白は黒に調子を与えないために、2と引くのが普通。
 たとえば、この白2で白Aとハネると、黒にBと上にノビ出される。
・また黒1に対して、白Cとオサエてくれば、黒Dとツキアタり、黒2のカカエをみる。
・なお、白2で逆に白Dとツキアタってくれば、黒はさからわずにCと上に出てよい。
・では、白2につづいて、どう決めていくか先に進んでみよう。

【2図】(押し)
・そこで黒3と押す。
 これで黒Aとゆるめるのでは、白にBとカケてこられていけない。
 白3のアテコミがいつでも利くから。
・白も4とトぶのが筋。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、62頁~63頁)

第2章No.45 キリコミの手筋


No.45 キリコミの手筋
〇第19型 黒番
【第19型 テーマ図】
・ダメヅマリは手筋を誘発する。
 だから、自分の石がダメヅマリにならないよう注意して打つことが肝要。
 また言いかえれば、相手の石をダメヅマリにもち込もうとする打ち方が有力になるわけである。
 黒からの手段を考えよ。

【1図】(手筋)
・この問題はこうして提出されると、ほとんどの人が解けるはず。
・黒1のキリコミからいくのうまい手筋。
・ところが実戦では、こうした形になっても気づかない人が多い。
 黒のほうとしては、気づく気づかないでなく、自分からこうした形に白を追い込んでいくようにもっていくことが、戦術的に必要。
・そのためには、形を見た瞬間にこの手筋が見抜けるよう、頭の中入れておかなければならない。
 つづいて――

【2図】(ウッテガエ)
・白2とアテても、黒3で簡単にウッテガエである。
 これはもうお分かりだろう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、99頁)

No.50 ワリコミの手筋


No.50 ワリコミの手筋
〇第32型 黒番
【第32型 テーマ図】
No.50 ワリコミの手筋 (第32・33・34型)

〇第33型 黒番
【第33型 テーマ図】
・かなり複雑な形をしている。
 したがって、一見しただけでは、初級者には、どういう問題か分からないかもしれない。
 白の傷をとがめてもらいたい――というテーマである。

【1図】(手筋)
・いかがだろうか。黒1の手に気づいただろうか。
 これがワリコミの手筋である。
 次に白Aなら、黒Bとツいで、Aの上と下の2カ所に断点が生じる。
 また黒1に対して――

【2図】(分断)
・白2と下から切ってくれば、黒は3と逃げ出す。
 これで、AのツギとBのツギが見合いになる。
 下方の白は完全に分断された。

手筋は、このように相手(ここでは白石)の欠陥をとがめる手でもあるわけである。
 だから、欠陥のない形に対して手筋はうまれてこない。
 強い人の石には、そうした欠陥が少ないために、手筋を打てるチャンスはなかなかないものである。
 みなさんも、相手から手筋を打たれないように、形をしっかり打つことがたいせつだという。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、115頁)

No.52追い落しの手筋


〇第1型 黒番
【第1型 テーマ図】
・この隅の黒にはまだ一眼しかない。しかし、黒▲のサガリがあるために、追い落しが利く。
※これは入門書にも出てくるようなやさしい筋であるから、どなたでも簡単に解けるだろう。
 しかし実はむずかしい追い落しの筋のほとんどがこのスタイルなのである。
 いわば追い落しの原型であるから、しっかり覚えておいてほしい。

【1図】(手筋)
・黒1のホウリ込みが手筋。
・白に2と取らせて―

【2図】(追い落し)
・黒3とダメをツメれば、白は4子をツグことができない。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、119頁)

No.52追い落しの手筋


〇第2型 黒番
【第2型 テーマ図】
・隅の黒は生きていない。
※この場合、頼りになるのが黒▲のサガリ(オリキリともいう)。
・黒からどういう手段があるだろうか。

【1図】(手筋)
・まず黒1とホウリ込みで、白に2と取らせる。
※もうここまで示せば、どなたもお分りだろう。

【2図】(追い落し)
・黒3とダメをツメれば追い落しになる。
※この追い落しの筋は実戦でもひじょうによく出る。
 第2型についていえば、この追い落しの筋をみて、同図黒▲のサガリがいつでも先手で打てるということである。
 サガリの筋でも出たように、第1線へのオリキリが活躍する場というのはきわめて多い。
 また追い落しにかかるほうはといえば、それはダメヅマリになっているということである。
 みなさんがこれから勉強するうえに、どういうのがダメヅマリなのか、それを注意するだけでも勝率がずいぶんあがるだろう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、120頁)

No.54 攻め合いの手筋


〇第7型 黒番
【第7型 テーマ図】
・まん中に包まれている黒7子と、下方の白3子との攻め合い。
・下方の白7に対して白からの手数は三手。
 黒自体にはたして何手かかるだろう。また黒の対策は?

【1図】(手筋)
・妙に思えるが、ここを黒1とツいでおくことが肝要。これが攻め合いの手筋。
・この黒1によって、黒の手数は四手。
 一方の白は三手であるから、この攻め合いは黒の一手勝ちになる。
※ではこの1を打たず、黒Aと白を取りにいくとどうなるだろうか。
 参考図をみてほしい。

〇手数を縮める筋
【参考図】(要石を取られる)
・ふつうに黒1とダメをツメるのでは、白2ホウリコミを食い、白4と追い落しとなり、黒は2にツぐことができない。
・もしツぐと白Aで逆に全体が取られてしまう。
※なお白4のあと、黒がBとダメをツメてきたときには、白2と3子を抜いておかなければならない。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、125頁)

〇第13型 黒番
【第13型 テーマ図】
・隅の特殊性を利用した攻め合いの手筋の問題。
 これは変化がかなりむずかしいので、いく度も基盤に並べて、しっかり覚えておいてほしいという。

【1図】(手筋)
・まず第一弾は黒1の二段バネ。
※これで黒2とゆるめるのでは、白に1とハイ込まれて攻め合いに勝つことができない。
・白2の切りには黒3とツぎ、そして白4のアテに一本黒5とサガるのが肝要。
 これさ覚えておけば、あとは比較的簡単。
・白6に黒7とハネて、白8と2子を取らせ、次図――

【2図】(一手勝)
・ここで黒9と打ち欠くのが、やはり手筋。
※白はダメヅマリでAとツゲない。
・やむなく白10と取れば、そこで黒11と打って、攻め合いは黒の勝ちになった。

≪石塔≫
・この1図黒1、5と2子にして捨てる形を一般に≪石塔≫と呼んでいる。
 シボるときによく使われる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、131頁)

No.55 ウッテガエの手筋


No.55 ウッテガエの手筋
〇第14型 黒番
・いよいよ楽しいウッテガエ(ウッテガエシ)に入る。
 これは碁をはじめて覚えたときに、最初に習う手筋の一つである。
 白の形の欠陥をみごとにとらえてほしい。

【第14型 テーマ図】
【1図】(手筋)
・黒1のワリコミが成立する。
・もし白2と応じれば、黒3と切って、ウッテガエになる。
※なおこの筋を見抜いて、白2で白3と1子をカカエれば、黒は2とツキ出していく。
 ダメヅマリのために、白Aと切断できない。

□ダメヅマリに注意
【参考図】(首をしめる手)
・第14型のように、白に手段が生じた原因は、たとえばこの白1と出る手を打ったことにある。
・初級者はAの切りだけに気を奪われてこういう手を打つのだが、それは同時に自分の首をしめていることになる。
≪ダメのツマリは身のツマリ≫、注意せよ。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、132頁)

第3章 実戦で学ぶ手筋


●実戦感覚を養うにあたって
・基本の手筋が身につけば、あとはそれがどう実戦に結びつくかというのが課題になる。
 その効果をあげるには、実戦を打つことが手っとり早いことは確かである。
 しかし、むやみやたらと打ってみても、それだけでは身についたはずの手筋感覚が活用されない。
 というのは、覚えたはずの手筋感覚が活躍できるような石の形がほとんど出てこないからである。
・そこで基本手筋を実戦に役立たせるための勉強をどうしたらよいかということであるが、その解決法として定石をとりあげてみた。
 定石の中には、いろいろの手筋がふくまれている。
 しかも定石は一局に二つや三つは必ず打たれる。
 そうした定石を打つことによって、それに関連した手筋は実戦に役立ってくれるはずである。
(ひと口に定石といっても、その数は大変なものである。そこで実戦に役立つはずの星の定石にしぼってみた。小目定石とか高目定石にはふれなかった)

・定石を通じて手筋を勉強する効用は、一つには実戦によく出てくるという面もある。
 定石は相手の手筋を防ぐ形が中心である。みなさんの打たれる石もしっかりしてくるだろう。
 形が悪ければ相手から手筋でひどい目に会わされる。しかしそうした手筋を読みとることができるようになれば、形にも十分注意されるだろう。
 手筋を学んだ効果は、相手の石の中に手筋を発見して戦いを有利に導くということもあるが、それ以上に自軍の石をしっかり打つようになることにある。
 石の感覚を確かなものにする心がまえで、本章ととりくんでほしい。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、148頁)

第3章No.60星の基本定石(3)


No.60星の基本定石(3)一間トビ・3三入り対策(第5・6型)
〇第5型 黒番
【第5型 テーマ図】
・黒の一間トビ受け(三角印の黒)に対して、白1と3三に入ってくることはよくある。
 これに対して、黒はどう対処するのがよいか――というテーマ。

【1図】(サエギる一手)
・なずなにがなんでも黒1とサエギらなければならない。
 これはまず絶対の一手と言ってもいい。
 そこでふつうに考えられるのが――

【2図】(黒の打ち方の岐路)
・白2とハネる手。
・黒もいきおい3とオサエてサエギる。
※ただし、黒が上方(左辺)の地をたいせつにしたいときは、この黒3でAとマゲ、白Bのカケツギに黒Cとアテ、白Dとツがせて、先手で他の好点に回ることもある。
・ことにE方面にあらかじめ白石がある場合は、黒3とサエぎってみても、三角印の白の1子が痛むだけで、黒の壁はあまり働きそうもない。
・とすれば、この一角での折衝は早く切りあげて、他の好点に回るほうが得策ということもある。

【3図】(隅を与える)
・この図のように、周辺になんの石も見当たらない状況では、白4とツがせ黒も5とツいで隅を与えるほうがよいだろう。
・つづいて――

【4図】(一子を制する)
・白6と走って活きることになるが、黒は7とハネて白1子の動きを封じて十分。
・ただし、この黒7は右方(下辺)を自軍の勢力下に置きたいときに打たれるのであって、上方をたいせつにしたければ、黒7で直接黒Aとツケていく手もあるし、またそれが危険な場合(参考図参照)には、黒Bとコスんで受けるのも形。
※よくこういうところで、黒Cと出て、白Dと交換する人がいるが、それは白の強化のお手伝いだけで少しも得しない。筋悪の標本といえる。

□状況に注意
【参考図】(上方をたいせつに)
・この図のように、あらかじめ三角印の黒の1子があれば、黒1とツケていくのも考えられる。
・白2以下、6と出切ってきても、黒7とノビて十分戦えるから。
 しかし三角印の黒の方面に反対に白石がある場合には、この黒1のツケは危険をともなう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、154頁~155頁)

〇第6型 黒番
【第6型 テーマ図】
・前ページ参考図のあと、白が1、3と打ってきたとする。
 本来ならば白3で白Aとツいでいなければいけないところ。
 この場合、黒からどう打てば、この白を殺すことができるだろうか。

【1図】(ハネ殺し)
・まず黒1とハネ。
・白も2とマゲて受けるくらいだろうから、そこでまた黒3とハネ。
➡これで白は死んでいる。

※たとえば、このあと白Aと打てば、黒Bと置いて殺せる。
 また白Cと活きにくれば、黒Dと置いて、やはりそれまでである。
・そのあとの変化については、それほどむずかしくないので、各自で検討してほしいという。

□異筋に注意
【参考図】(失敗)
・黒1のツケからいく人がいる。
・これは白2と受けられ、黒3と渡っても、以下白8までと簡単に活きられてしまう。
※また黒1で4のオキからいくのも、たとえば白2とツがれ、黒3のとき、白5、黒1、白6となって、黒Aとノビ込むコウになる。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、156頁)

〇第8型 黒番
【第8型 テーマ図】
・前ページ2図の黒2をはぶいたところで、白が1、3から5とノゾいてきたとする。
 これは黒Aに白Bを狙っている。
・この応接をめぐって、どういう手筋があるか――少々くわしく検討してみよう。

【1図】(関連の手筋)
・この応接はシチョウ関係でずいぶん変わってくるので、あらかじめシチョウ関係を読んでおかなければならない。
・ともかく、黒1とコスミツケてみよう。
 これが好手筋。
・そして白2と切りに黒3とサガっている。
(黒3でAにサガっては失敗)
・これに対して、白が――

【2図】(押す手なし)
・4と隅をハネてくれば、黒5とダメをツメる。
※これで白は4の下からも、またAからもツメることができず、押す手なしとなる。
つまり、1図黒1、3の手筋が功を奏したのだった。
ところがこの変化はそう単純な結果に終わらない。
実は、白4とハネたところに問題があった。
この手でもし白5とアテてきたらどうなるか――その検討をしておかなければならない。
・1図黒3につづいて――

【3図】(脱出可能?)
・白1とアテ、3とハネ出してきたとする。
 こうなるとひと筋縄ではいきそうもない。
・つづいて――

【4図】(グズミ)
・黒4とグズんで出る一手。
・白はここでいま一本5と押しあげる。
・黒6もやむをえないだろう。
・次に黒Aがあるので、白は――

【5図】(ダメをつめながら守る強手)
・7とダメをつめるのが強手。
 次に白Aのシチョウを狙う。
 もしシチョウが白によければ、黒Aとでも打って、シチョウから逃げなければならない。
・すると、白はBとツいで、さあ黒にとっては一大事件が起こった。
 こうなると黒はバラバラで収拾のしようがない。

※では、黒はどこが悪かったのだろうか。
 実は1図にさかのぼって、同図黒1、3の手筋が悪かったのだった。
 この手筋は、シチョウがよいときにしか使えない手筋だったからである。
・したがって、さらにさかのぼって、第8型黒4ではCとでもトんでいなければいけなかったのだった。
・シチョウ関係が反対に黒によければ、5図白7に対して黒Bと切っていてよいのであるから、こんどは白がツブレ形になってしまう。
(大竹英雄『復刻版 囲碁 基礎手筋の独習法』誠文堂新光社、2014年、158頁~159頁)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~溝上知親氏の著作より


【第1章テーマ2】白番
・両ガカリ定石からの変化。
・黒が1とトンで逃げたところ。当然のように見えて、失着なのである。
・黒▲2子を狙ってほしい。

【1図】
〇テーマ図までの手順
・白1の両ガカリに、黒が2、4とツケ引いた形。
・黒8のハネ出しから10とサガるのは、11の切りを見ている。

【5図】(利き筋活用の一手)
・白2のサガリから4の一線サガリまでが、利き筋。

【6図】
・黒は1とオサえるわけにはいかない。
・白2とアテられて取られてしまう。
※1の地点のダメがツマらないことが、ミソなのである。

【7図】
※黒は隅を放っておくわけにはいかない。
・黒1などと手を抜くと、白2のホウリコミから4で取られてしまう。
(溝上知親『アマの知らない実戦手筋 利き筋の考え方』毎日コミュニケーションズ、2009年、37頁~40頁)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~You Tube石倉昇九段


石倉昇九段は、「戦いの極意第6巻味を残す打ち方」(2018年7月23日付)においても、第一線サガリの利き筋について、次のような問題を出している。

<ヒント>
・アタリを最初から打たないで、味を残す打ち方を考える。
※解答は各自確認のこと(1時間45分~55分あたり)

【補足】第一線サガリ(オリキリ)の利き筋~張栩九段の基本死活事典より


・張栩九段は、『新版 基本死活事典』「第4章 実戦」において、星に三々入りの定石についての死活を解説している。
【星に三々入り】
・星の構えに対し、白1と三々に侵入した場合にできる基本的な定石。
・ヨセに入ってから死活が問題になることがある。
 そこのところを研究してみる。
≪棋譜≫星に三々入り定石、420頁

【第3型】黒先二段コウ
・白△と固ツギした場合、黒▲が利き筋になる意味がある。
≪棋譜≫第4章三々入り第3型、423頁

【1図】白死(正解変化)
・黒1のツケから3とコスむのが、うるさい手。
・白4から6と無条件生きを目指すと、黒7とハワれてしびれる。
※白はダメヅマリでaに入ることができない。
※これが黒▲の効果である。
≪棋譜≫第4章三々入り第3型1図、423頁

【2図】二段コウ(正解)
・黒1、3に対しては、白4とオサえるのが最善となる。
・そこで、黒5とホウリ込み、白6と取ってコウになる。
※このコウは、普通のコウではない。
 白は次にaと取れば解消だが―

【3図】二段コウ(正解続き) 白2、4手抜き
・黒からは1、3と二つのコウを勝っていかなければならない。
・さらに、黒は△とツグことはできず、黒5に△でまだコウ(ただし、白不利な二段コウ)。
※死ぬまでは大変だが、白も負担ではある。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、423頁)

【補足】鶴の巣ごもりとグルグルマワシとダメヅマリ~影山利郎氏の著作より


・鶴の巣ごもり、グルグルマワシ(文字どおり相手を団子にまるめてシボリあげ、息もつかせず取る手筋)で石を取る時は、ダメヅマリが条件になることを問題で確認しておきたい。
 影山利郎氏は、次のような問題を出している。

【第3問】
・黒先、三角印の白の要石二石を取る手を考える。
 凡手、俗手ではとうてい難事だが、手筋なら楽。
 
第3問の答
【15図】正解1
・黒1、ここを狙うしかない。
・問題はこの後のよみ、白2の方は問題ない。
・黒7まで、鶴の巣ごもりは誰でも知っている。

【16図】正解2
・白2と逃げたときだ。
・黒3からシボリ、白8まで白を団子にまるめた。
※ここでシチョウ関係黒悪しと、黒aのツギにバックすると白bと逃げられる。
・黒9ではさらに追撃する。

【17図】正解2続き
・黒9のカケ。
・以下、黒23まで息もつかせぬグルグルマワシ。何とも痛快。
 合計23手。手数長けれど道は一筋。

※影山利郎氏は、その他、鶴の巣ごもりの大型版(大ツルス?!)の問題も出している。
(影山利郎『素人と玄人』日本棋院、2013年、212頁、216頁、218頁)







≪囲碁の手筋~結城聡氏の場合≫

2025-01-26 18:00:05 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~結城聡氏の場合≫
(2025年1月26日投稿)

【はじめに】


 本日1月26日の第72回NHK杯3回戦は、山下敬吾九段(黒番)と富士田明彦七段(白番)の対局であった。
 解説の武宮正樹九段は、ハードパンチャーの山下九段が戦いを積極的に仕掛けて、オールラウンダーの富士田七段がそれを受けて立つ展開を予想しておられた。
 山下九段といえば、『新版 基本手筋事典』の著者であり、NHK杯ではいつも奇抜な布石を打って視聴者を楽しませてくれるプロ棋士である。
 その山下九段が期待に応えて、5手目で左上隅の「5の五」に打ち、それに対して富士田七段が右下隅の「5の五」で受けるという“面白い布石”になった。その後は、予想に反して、富士田七段の方が白30手目で、左上隅の黒の「5の五」にツケ(5, 六)て、切って戦いを仕掛けて、意外な展開を見せた。勝負というのは、実際に始まってみないとわからないものである。
 
 さて、今回のブログでも、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇結城聡『囲碁 結城聡の手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年
 著者の結城聡九段は、昨年12月1日の第72回NHK杯2回戦で、河野臨九段(黒番)と対局されていた。解説のレドモンド九段は、結城九段の棋風を評して、碁盤全体をつかった攻めに特徴があると言われた。確かに、石の働きを追求する棋風で、“武闘派”とも呼ばれ、攻めの得意な棋士が結城聡九段である。
 その棋風が本書にも現われている。
 とりわけ、
・第4章 手筋を使いこなす目を養う 部分より大局を見る
・第5章 上達を実感する総合問題 どの手が悪いか
 これら2章の問題は、全局的観点から出題された問題で、他の手筋の問題集とは一味違う問題となっている。
 ともあれ、本書では、初級から上級までの人が有段になっても通用し、手筋を正しく使う考え方が身につくことに主眼を置いて構成したという。手筋は石の働きを効果的に発揮する打ち方のことであるとする。
 手筋に関していえば、
①必要な石と不要な石を判定する。
②強い石と弱い石、強い場所と弱い場所を判断する。
③無意識に打っている俗筋に気付く。
この三つを念頭に置いて、正しい手筋を打つように心掛けることが大切だと強調している。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、8頁~9頁)

【結城聡氏のプロフィール】
・兵庫県神戸市出身。昭和47年生まれ。関西棋院に所属。
・佐藤直男九段門下。昭和59年3月に入段し、平成9年4月に九段へ昇段。
・第36期天元位、第51期十段位、NHK杯5回優勝、テレビ囲碁アジア選手権戦準優勝。
・2007年度には、NHK囲碁講座の講師を務める。



【結城聡『囲碁 結城聡の手筋入門 初級から初段まで』(成美堂出版)はこちらから】



〇結城聡『囲碁 結城聡の手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
はじめに
〇あなたの手筋理解度チェック表
第1章 上達の基本的な考え方 手筋を正しく打つ三つのポイント
第2章 A、B二択問題からスタート 手筋か俗筋かを見抜く
第3章 戦いの手筋、攻め合いの筋と形をマスターする問題 接触戦に強くなる
第4章 手筋を使いこなす目を養う 部分より大局を見る
第5章 上達を実感する総合問題 どの手が悪いか




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・第1章 手筋を正しく打つ三つのポイント
・第2章 【問題29】実戦でよく使う筋(1級レベル)
・第2章 【問題36】戦いの基本手筋(1級レベル)
・第3章 【問題8】ダメヅマリ攻防の急所(5級レベル)
・第3章 【問題21】隅の急所をめぐる攻防(1級レベル)
・第4章 【問題3】 強い石と弱い石(5級レベル)
・第4章 【問題18】 黒▲三子を補強する(初段レベル)
・第4章 【問題19】 黒▲の価値を判定する(初段レベル)
・第4章 【問題20】 生ノゾキ対策(初段レベル)
・第5章 【問題1】 黒不満の布石(3級レベル)
・第5章 【問題4】 戦いの鉄則に反する(1級レベル)
・第5章 【問題9】 大局を見ない悪手(初段レベル)



第1章 手筋を正しく打つ三つのポイント


【手筋を正しく打つ三つのポイント】
・手筋は石の働きを効果的に発揮する打ち方のこと。
 そのテクニックは初級、上級、有段とレベルが上がるにしたがって正確になっていくが、手筋を正しく使う目のつけどころがどこにあるか分かっていないという点では、級位者も有段者も五十歩百歩。
・本書では、初級から上級までの人が有段になっても通用し、手筋を正しく使う考え方が身につくことに主眼を置いて構成したという。
 そのポイントや目のつけどころさえ理解できれば、有利に戦いを進められるようになり、さまざまな局面で応用できる。
・布石、中盤の戦い、手筋など分野は違っていても、効率的に石を働かせるという点では同じ。

・手筋に関していえば、
①必要な石と不要な石を判定する。
②強い石と弱い石、強い場所と弱い場所を判断する。
③無意識に打っている俗筋に気付く。
※この三つを念頭に置いて、正しい手筋を打つように心掛けることが大切。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、8頁~9頁)

・アマの人は往々にして石を最大限に発揮する打ち方である手筋が打てないため、それを戒める格言が多く作られている。
 その中でも多いのが悪手を打っているという自覚のないまま、無意識に打ってしまう俗筋に関する格言である。
「アタリアタリのヘボ碁かな」
 この格言もその一つ。
 「分かっちゃいるけど止められない」という歌の文句と同じで、悪手と分かっていても、手が出てしまうのがアタリアタリの俗筋。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、44頁)

第2章 【問題29】実戦でよく使う筋(1級レベル)


黒の番
〇切りがサバキの筋
【正解図】サバキ成功
・黒▲とツケたあと、黒1と切るのが実戦でよく使うサバキの筋となる。
・白2には、黒3、5とサバける。
※白4で6なら、黒aとカナメの白二子を取る。

【失敗図】黒苦戦
・黒1は白2。
※黒1でaも白bで失敗。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、83頁~84頁)

第2章 【問題36】戦いの基本手筋(1級レベル)


黒の番
〇ツケが戦いの手筋
【正解図】左下の白石も弱くなった
・黒1のツケが黒2をにらんで整形する筋。
・白2が省けず、黒3から7までサバける。
※白2でaは黒2、白b、黒cが読み筋。

【失敗図】黒3と守ってもまだ弱石
・黒1は筋違い。
・白aに備えて、黒3と守っても、まだ弱い石。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、89頁~90頁)

第3章 【問題8】ダメヅマリ攻防の急所(5級レベル)


黒の番
〇サガリが急所
【正解図】攻め合いに勝つ急所
・黒1が攻め合いに勝つ急所。
・白2には黒3のハネ一本から5と押さえて、一手勝ちに持ち込む。

【失敗図】筋違い
・黒1のハネは筋違い。
・白2、4とダメを詰められて、黒攻め合い負け。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、113頁~114頁)

第3章 【問題21】隅の急所をめぐる攻防(1級レベル)


黒の番
〇隅の急所を攻める
【正解図】黒攻め合い勝ち
・黒1が「隅の急所、二の一」を攻める筋、白2に黒3、5。
※なお、黒1で4も「隅の急所、二の一」であるが、白aで黒取られ。

【失敗図】コウと無条件では大差
・黒1、3は白4のコウ。
※コウと無条件では大差。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、127頁~128頁)

第4章 部分より大局を見る
【問題3】 強い石と弱い石(5級レベル)


黒の番
・強い石か弱い石かを判断することは、序盤、中盤にかかわらず、有利に戦いを進める基本となる。
・とすれば、黒A、B、Cのうち、どこに先着するのが最善か。
【テーマ図】

〇弱石の強化が急務
【正解図】弱い黒三子を補強する
※右上の黒三子は根拠を確保していない弱石。
・黒1と隅に食い込み、白2に黒3、5と補強するのが盤中最大。
※この一団を強くしておけば、黒aの狙いやbの価値が高くなってくる。

【変化図】根拠を確保しながら地を増やす
・また、白2には黒3、5と根拠を確保しながら、隅を黒地にする。
※有利に戦うためには、右上の強化が急務。

【失敗図1】黒三子が根なし草になる 【失敗図1・続】白地がどんどん増える
・黒1は一級の大場だが、白2に先着されると、黒三子が根なし草になり、いっぺんに弱体化する。
※「強い石と弱い石」を判断しないで、目先の大場にとらわれると、不利な戦いを強要される。
・つづいて、黒3なら白4、6と攻めながら、隊列を整えられてしまう。
・黒7は白8が先手。
・白aに備えて黒9が省けず、白10と好形になり、白地がどんどん増えてくる。
➡黒苦戦はあきらか。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、145頁~147頁)

第4章 部分より大局を見る
【問題18】 黒▲三子を補強する(初段レベル)


黒の番
・私の黒番。白1と生きたところ。
・まだ下辺の一団をイジメる狙いはあるが、まずは右辺一帯で競り勝つために、弱い黒▲三子の補強が急務。
・黒A、B、Cのどれが整形の筋と形だろうか。

【問題18】ツケ切りの筋
【失敗図1】黒は重い姿
・黒1のコスミは筋違い。
・白2とハイコまれて、黒3を省きにくく、黒の一団はゆとりのない重い姿。
・これでは大した補強にならず、白4と黒二子に迫られて、上辺の白地も増えてくる。

【失敗図2】黒の形がくずれる
・黒1の飛びは早逃げの手法であるが、白2のナラビが急所攻めとなり、黒3と受けるようでは、黒の形がくずれてしまう。
・さらに、白4に黒5を強要されて、フユカイきわまりない展開。
※失敗図1の黒1は筋違い。
 失敗図2の黒1は右下の白石と競い合っているこの局面では、ふさわしくない戦い方。

【正解図】サバキの基本手筋
※右上の白四子は強い石。
 右下白八子はまだ弱い石。
・そんなケースでは、黒1、3とツケ切って、弱い黒三子を補強するのが、適切な判断となる。
※強い白四子にツケ切ることで相手を強化しても、さほど惜しくないという判断に、基づいている。

【正解図・続】堅固な形 白8ツグ(黒a)
・白は4、6が最善。
・黒7のアテを決めて、9と飛び出し、堅固な形にして、右下の白石へのプレッシャーを強めていく。

※正解図の黒1、3のツケ切りは実戦によく現れる整形の基本テクニック。
 ツケ切りは、自分の石を強くするためのテクニックで、相手の石を強くしても良いケースに使う。
・白は、正解図の4とカカエるのがふつう。

【変化図1】白1、3は悪い
・白1、3などの反撃は、黒4とノビられて、白地が減ってしまうからである。

【変化図2】黒1、3は重複形
・さかのぼって、黒1、白2の時、黒3と引くのも、白4とノビコまれて、黒石が働きの乏しい重複形となる。
※やはり、白2には黒aの切りがサバキの筋で、黒1とaは二手ワンセットの整形手筋。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、183頁~186頁)

第4章 部分より大局を見る
【問題19】 黒▲の価値を判定する(初段レベル)


黒の番
・アマ有段者の実戦を題材にした。
・白1とツメたところ。
※この局面は黒▲の価値を判定するのが大切。
 黒▲がカナメ石なら黒Aと動き出す。そうでないなら、黒BやCの大場に先着する。

【問題19】
〇黒▲はカナメ石だ
【失敗図1】時期尚早
・黒1は右上の黒地を固める好点であるが、時期尚早。
・白2とカナメの黒▲を取られると、のちに白aの三々も打ちやすくなる。

【失敗図2】やはり白2が大きい
・戦いの鉄則にしたがうなら、上辺よりも黒1のほうが価値が高い。
・逆に、白1に先着されると隅が白地になり、左辺の黒二子へのイジメが残るから。
・しかし、黒1にも白2とカナメの黒▲を取り切る一手。
・すると黒3のスベリが白二子の根拠を脅かす好点となる。
※黒1、3の連打も魅力的だが、白2と黒▲を取られては次善策。

【正解図】右下の白四子が弱い石になる
・ここは黒▲のカナメ石を黒1と動き出すのが、最強最善の戦い方となる。
・黒石は決して強い石ではないが、黒1と飛べば上下の白石を分断して、白も弱い石になるから。
※今や右下の白四子も強い石ではない。つぎに白の応手はaかb。

【正解図・続】黒は大威張り
・白2が本線の戦い方。
・弱くなった右下の白四子を補強しながら競り合う手法だから。
・黒は3の飛びマゲから、5、7と中央に出ていくことになる。
※こうなれば大威張りの戦い。

【参考図1】ノゾキはこわくない
・正解図黒7のあと、白1のノゾキをおそれる人は多いもの。
・黒は当然ながら警戒しなければならないが、今は無理筋。
・白3、5に黒6、8とツケ切って、カナメの白二子を取ることができる。
・つぎに白aなら黒b、白cなら黒dである。

【参考図2】白1もこわくない
・白1から5も無理筋。
・黒6、8のあと、黒aの逆襲が狙い。

【変化図】黒の楽な戦い
・白2の飛びには黒3、5と中央に出て、黒の楽な戦い。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、187頁~190頁)

第4章 部分より大局を見る【問題20】 生ノゾキ対策(初段レベル)


【問題20】 生ノゾキ対策(初段レベル)
黒の番
・1の所は双方の根拠に関する要点。
・黒は1と強くすれば、有利に戦いを進めることができる。
・白2、4の生ノゾキに対して、黒はAとBのどちらが最善だろうか。

〇出切りが鋭い
【失敗図】ツギは利かされ
・黒1とツグのは利かされ。
・白2とサガられて、黒は絶好のチャンスを逃している。

【正解図】今が出切るタイミング
・今が黒1、3と出切るタイミングとなる。
・黒は利かされを避け、黒aとツグ前に白の弱点を突いて反撃するのが戦いの時機。

【正解図・続】黒有利は明白
・あとは白4から10まで生きた時、黒11とツグことができ、のちに黒aが先手となる。
・また、白10でaなら黒bとcのどちらでも、黒有利の戦いは明白。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、191頁~192頁)

第5章 どの手が悪いか【問題1】 黒不満の布石(3級レベル)


第5章 どの手が悪いか
●誰もが打つ俗手をさがす
・本章はアマ有段者の実戦を数手示して「どの手が悪いか、どの手が俗手や筋違いか」を発見してもらう総合問題。
・有段者と言えども、初級者と同じような俗手や愚形が飛び出すことに気付くはず。
・第1章で指摘した「三つの目の付けどころ」を理解できていれば、俗手を見つけるのは容易。

【問題1】 黒不満の布石(3級レベル)
【テーマ図】
俗手さがし
・アマ有段者の実戦。
 黒1、3のツケ引きから白6まで黒不満の布石。手順中、一番悪いのはどの手か。

【1図】相手の弱い石にツケると強くなる
※黒1のツケは利敵打法
・黒1とツケると、弱い白石△が強くなる。
・白2、4とツガれると白石が強くなり、左辺の黒二子に悪影響が及ぶ。
・黒5に白6とケイマで出られて、黒不満の布石。
※黒1、3のツケ引きは弱い白石△を強化する俗っぽい打ち方。

【2図】黒1が有力
・この布石では白aのカカリを防いで、黒1と右上一帯を固めておくのが有力な一策。
・まず自分の陣地を固めて、のちに黒b、白c、黒dの攻めを狙う
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、197頁~198頁)

第5章 どの手が悪いか【問題4】 戦いの鉄則に反する(1級レベル)


【問題4】 戦いの鉄則に反する(1級レベル)
【テーマ図】
俗手さがし
・アマ有段者の実戦進行。
・黒1から11までの手順中、戦いの鉄則に反する悪い手がある。それはどれだろうか。

※ツケ引きが悪い
【1図】黒石が重くなり、白石が強くなる
・黒1、3は戦いの鉄則に違反する筋の悪い打ち方。
・白4とカケツガれて白石を強化し、自分の黒石は重い格好になってしまうから。
※黒1、3は見た目以上にひどい俗筋。
・白6から黒11のあと、白a、黒b、白cと攻められて、黒が一方的に被告になってしまう。

【2図】互いに順当な競い合い
・単に黒1と飛ぶのが戦いの筋と形。
・あとは白10、黒11まで競い合い、黒はaと置く筋を狙いながら戦う。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、203頁~204頁)

第5章 どの手が悪いか【問題9】 大局を見ない悪手(初段レベル)


【問題9】 大局を見ない悪手(初段レベル)
【テーマ図】
俗手さがし
・黒1のカケから5の三々打ち込みまで進んだ。
※有段者らしい石運びだが、一手だけこの布陣にふさわしくない判断ミスがある。
 大局を見ない悪手はどれだろうか。

※勢力や厚みを地にするな
【1図】黒1は勢力を囲う打ち方
※全局を眺めると、黒は右辺に強力な勢力を作っている。
 一方、白は左辺一帯に大模様を張って対抗している。
・こんな大模様対抗布石の時、黒1、3と右上を黒地にすると、必然的に左上一帯の白模様が大きくなる。
※黒1は「勢力を地に囲うな」の鉄則に反する打ち方。
 大局を見ない判断ミスをしている。
・これでは、黒5と三々に入っても、黒不満。

【2図】黒が好機を逃す
・続いて、白1から黒12までアマの実戦進行。
・つぎに白aあたりに打てば満点。
あとの中盤戦が勝負を分けることになる。

【3図】黒1が勢力を生かす筋
※右辺一帯は黒の勢力に比べ、白が位の低い効率の悪い地を作っている。
・したがって、黒1と打ち込みさえすれば、右上の黒勢力が存分に働き、黒リードの中盤戦に持ち込むことができた。
・つぎに白はa、b、cの三通り。

【4図】左辺の白模様を破壊する
・白2のコスミは黒aのワタリを拒否して戦う基本の筋と形。
・ここで、黒は3、5と飛び、黒7とカカる構図が描ければ、満点の戦い方。
・黒7と左辺の白の陣地を破壊して、好調の戦い。

【5図】黒には何の不満もない
・また、白2には黒3とさえぎって戦う。
・白4に黒5、7と追撃して、こんどは黒9と左辺を割って戦う。
※今や左上一帯は黒の強い場所。
・白8まで飛んだ白四子は根なし草。
※この弱石をにらみながら、左上で競い合い、黒有利の戦いに持ち込むことができる。

【6図】黒1と打ち込めば有利に戦える
・白2の飛びにも、黒3、5と積極的に戦うのが最強。
・やはり、白6に黒7とカカって左辺の白陣を破壊し、黒有利の戦いに持ち込むことができる。
※ほかに、黒3ではaとワタる堅実な戦い方も一策。
(結城聡『囲碁 手筋入門 初級から初段まで』成美堂出版、2014年、221頁~224頁)


≪囲碁の手筋~加藤正夫氏の場合≫

2025-01-19 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の手筋~加藤正夫氏の場合≫
(2025年1月19日)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の手筋について、次の著作を参考にして考えてみたい。
〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年
 著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
 碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
 ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する(2頁)。
 本書の構成は、1章から3章から成り、攻め、守り、一般の基本手筋と分けられている。
 本書の特徴としては、テーマ図に必ず手順図がついていることである。これにより、実戦的にも応用がきくようになっている。
 また、基本手筋に関連する重要な指摘も多々見られる。
 例えば、ツケ切りについて、次のような指摘は参考になろう。
 ツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる(22頁)。ツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる(51頁)。一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。 これらはサバキのテクニックの一面を表現している(160頁)。

 ここで紹介するのは、「攻め合い」など、重要性が高く、関心がありそうな基本手筋に限定することにした。

【加藤正夫氏のプロフィール】
・1947(昭和22)年3月生まれ。福岡県出身。
・1959(昭和34)年木谷實九段に入門。1964(昭和39)年入段。
・1967(昭和42)年四段で第23期本因坊戦リーグ入りを達成。1969(昭和44)年(五段)には本因坊挑戦者となって、碁界の注目をあびた。
・1976(昭和51)年碁聖戦(第1期)で初タイトル。同年十段。
・1977(昭和52)年本因坊(第32期、剱正と号す)。その後、名人、天元、王座等を獲得。
・2002(平成14)年第57期本因坊獲得(本因坊剱正と号す)。
・2004(平成16)年6月日本棋院理事長に就任。
※棋風:碁は厚く、それをバックに攻めて圧倒していくタイプ。


【加藤正夫『明快・基本手筋』(日本放送出版協会)はこちらから】



〇加藤正夫『NHK囲碁シリーズ 明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
1章 攻めの基本手筋
 1石を取る手筋
 2切断の手筋
 3捨て石の手筋
 4シメツケの手筋
 5攻め合いの手筋
 6形を崩す手筋
 7侵略の手筋

2章 守りの基本手筋
 1連絡の手筋
 2形を決める手筋
 3サバキの手筋

3章 一般の基本手筋
 1シチョウと手筋
 2コウをめぐる手筋
 3ヨセの手筋




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「はじめに」
・1章 攻めの基本手筋 1石を取る手筋 テーマ図第6型
・1章 攻めの基本手筋 テーマ図第8型
・1章 攻めの基本手筋 捨て石 テーマ図第3型
・1章 攻めの基本手筋5攻め合いの手筋
 ・5攻め合いの手筋テーマ図第1型~第7型
・2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋
・3章 攻めの基本手筋 3ヨセの手筋 テーマ図第4型




「はじめに」


・碁を覚えて、ようやくその面白さがわかってきた頃、筋とか手筋という言葉を耳にするようになる。
 「筋がいい」とか「筋が悪い」などと批評され、筋とはどういうものか気になりはじめる。
 そうした読者のためにまとめたのが、本書であるという。
・では、筋とか手筋とはなにか?
 著者によれば、筋というのは「関係」のことであるとする。
 碁では石の関係、たとえば黒石と黒石、あるいは黒石と白石にさまざまな関係が生じる。
 ケイマの筋、一間の筋、接触した筋などがそれである。
・その筋の中でも、特に手段として効果をあげられるのを、手筋という。
 つまり、「手になる筋」というわけで、手筋と表現する。
・ところが、同じ手になるにしても、ごく当たりまえの手段では手筋とはいわない。
 意外性が強調される手段にかぎられるのが特徴である。
(だから、本とか実戦で、はじめて手筋に接したとき、おそらく読者の多くは驚きと感銘を受けるだろう。そして、碁の奥深さは倍加するはず。)
・碁の腕を磨くには、定石の勉強をはじめ、戦い(攻め、守り、模様の形成、厚みの生かし方等)の仕方など、いろいろとやることが多いもの。
(それはそれで上達するためには欠かせない勉強である)
・しかし、それらの中に、つねに手筋が顔をのぞかせてくる。
 だから、手筋を学ぶことによって、他の分野の勉強も比較的容易に理解できるようになる。
・本書では、まずどういう手筋があるか、基本的な型を76型収録した。
 そして、その手筋がどういう状況で生ずるか、そのプロセスにもふれ、納得できるようにまとめてみたという。
(これらは手筋へのいわばスタートラインに過ぎない。本書が碁への理解を深め、上達の手助けになってくれることを願う)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、2頁~3頁)

1章 攻めの基本手筋 1石を取る手筋 テーマ図第6型


【テーマ図第6型】黒番
・図柄は大きいが、そうむずかしい問題ではないという。
・いま白1と黒の二子を制した局面。
・黒としてはなんとか白△の要石を捉えたいが、どう打てばよいだろうか。

【1図】(失敗)
・黒1なら両アタリであるが、白2と要の石に脱出される。
・白4とノビキられると、左側の黒五子が被告にされる。
※明らかに失敗。いま一度考え直してほしい。

【2図】(正解)
・黒1と遠回しに囲うのが好手筋。
・次に黒2と切れば、要石が取れる。
・そこでもし白2とツゲば、黒3とハズして、白を包囲するのが好手。
➡これで白の三子は逃げられない。
※白aでも黒bからサエギられて手にならない。
 そのほかの手でも、白は逃げ出せないことを確認してほしい。

【3図】(正解―変化)
・黒1に、もう白2とカケツいできたら、どうなるだろう。
・黒はひとまず3とアテ。
・つづいて…

【4図】(ダメを詰める急所)
・白4のツギに黒5と頭をオサえるのが急所。
・白は6とハネても、黒7のアテを利かして、9とオサエれば、白は身動きができない。

【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3のツケ切りを打ったところから生じた。
※このツケ切りの手法は白に地を与えても、それに見合う外勢を求めるさいに有力となる。
・白4、6と決め、8とアテたところから変化したのだが、白20のツギに黒21と動き出され、白は慌ててaと二子を制したのが、テーマ図だった。
・しかし、白は黒21につづいてbとツギ、黒c、白d、黒eと決めてから、白aと二子を制すべきである。
※これはむずかしい戦いに突入する。
・したがって、その黒17では、

【6図】(簡明なワカレ)
・単に黒1とカカえ、白2と二子を取らせて、黒5までと打つ簡明な方法を採用できる。
・また、

【7図】(互角)
・5図白10で1とオサえ、黒8までと決めるのもあり、これでいい加減のワカレとなる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、20頁~22頁)

1章 攻めの基本手筋 テーマ図第8型


【テーマ図第8型】黒番
・白1は一見筋に似て非。
※黒は白の欠陥を突いて、白を崩壊に導くきびしい手段がある。
 アマチュアの陥ち入りやすい安易な解決法が次図。

【1図】(失敗)
・黒1の出から5のカカエまで。
➡これで満足してはいけない。
・白6、8の追及がきびしく、左方の黒四子も弱体で、このあとの戦いが思いやられる。

【2図】(正解―第一の手筋)
※ここでは大切な手筋が四つ出てくる。
・黒1のサガリを利かすのが最初の手筋。
・つづいて、

【3図】(第二の手筋―ツケ)
・白2と黒のダメを詰めて、いっぱいに頑張ることは、十分考えられる。
・ここで黒3のツケが白の形を崩す急所になる。
➡この手筋もぜひ覚えてほしい。
※黒aと打てば、要の白二子が取れる急所に当たる。

【4図】(第三の手筋―オリキリ)
・白4とツイで頑張れば、黒5のハネを一本利かせ、白6と交換してから、黒7とサガるのが、三番目の手筋になる。
※このサガリがなにを意味しているかわかれば、この問題は卒業だろう。

【5図】(第四の手筋―カケ)
・白8の取りは仕方ない(次図参照)。
・ここまで交換しておいて、黒9とオサエ込んでいく。
・白10のとき、黒11とゲタにカケるのが、最後の手筋。
※白はaと脱出を試みても、黒bとオサえられて、脱出できないことは容易に確認できよう。
※では、白8がどうして必要かというと、

【6図】(追い落とし)
・4図につづいて、白1とみずからは脱出を図りながら、黒を取りにいくと、黒2の放り込みから、4とサシ込んで、白四子が落ちてしまう。

【7図】(テーマ図の手順)
・黒の両ガカリに白1と上ヅケしたところから生ずる定石。
・黒4の三々入りから、黒14までのとき、白15がミス。
※白aとマゲる一手だった。

(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、26頁~28頁)

1章 攻めの基本手筋 捨て石 テーマ図第3型


テーマ図第3型 黒番
・白が△にアテてきたところ。
・黒の一子は助からないが、捨て石に利用してほしい。

【1図】(無策)
・黒の一子を諦めるのは仕方がないとして、黒1とアテてしまうのはもったいない。
・当然白2の抜きとなるが、白の形がしっかりしたのに対して、黒の形は少しも整わない。
 かといって、黒aとノビるのでは後手になる。 
※こういう決め方で満足しているようでは、上達はおぼつかない。

【2図】(正解―まず二子に……)
※ここで≪二子にして捨てよ≫の格言を思い出してほしい。
・黒1のサガリがそれ。
・ただし黒3とアテて5のアテも利かして満足しているようではまだまだ未熟。
※白aの切り味も残り、黒bのオサエも先手にならないから。
※かといって、黒aとツグのでは後手をひく。

【3図】(三子にする)
・白2のとき、黒3のアテを決めるのが面白い手筋。
・つづいて―

【4図】(完封)
・白4とツゲば、そこでまず黒5のアテを利かし、黒7とツイで上方を厚くする。
・白8、10は仕方がない。
※なお、この形は黒aのアテが利くので、白bのハサミツケは成立しない。

【5図】(テーマ図の手順)
・白のケイマガカリに、黒1、3とツケ切るところから生じる。
※このツケ切りは白に地を与えて黒の厚みをつくる場合に使われる。
・したがって普通の状況では、黒3の切りで黒aとノビるものと覚えておいてほしい。

【6図】(白の反発)
・5図のあと、白が4図を嫌えば、白1とアテることも可能。
・黒2のアテ返し黒4とサシ込む変化となる。
・白aの切りの大コウが残るが、これは黒も怖いが、白も同様に怖い。

【7図】(黒、不満)黒10ツグ(8の右)
・だからといって、白1と黒2とツイでしまうと、白3、5とやってこられる。
・ここで黒6のアテに、白は8とツグわけもなく、白9とアテを利かされ、11とツガれてしまう。
※黒大いに不満。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、49頁~51頁)

1章 攻めの基本手筋5攻め合いの手筋


・「攻め合い」の勉強はひじょうに大切。
・勝てば相手の石が取れるし、負ければ自分の石が取られてしまうわけであるから、その出入り計算では大変な差になる。
・だから、まず攻め合いに入る前に、攻め合いになった場合のダメの数をかぞえておくことが必要。
・たとえば、相手の黒の石のダメは5つ、自軍の白のダメは4つとする。
 これは普通に攻め合ったら負けることは、火を見るより明らか。
 なんとか攻め合いを回避する方法を考えるほうが賢明。
・ところが、常識的には攻め合い負けのはずが、その攻め合いの形によっては、手筋を駆使して、逆に勝てる場合もある。
 その攻め合いの基本手筋をとりあげる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第1型


【テーマ図第1型】
・白が△にオサえた局面。
・黒には攻め合いに勝てる(右下の二子を助ける)手筋があるのだが、ぜひ発見してほしい。

【1図】(失敗-勝てない)
〇例によってます失敗から。
・≪攻め合いは外ダメから≫という格言もあるが、黒1のハネからでは、失敗に終わる。
・黒3、5で勝てそうに思えるが、その瞬間、白6のアテを利かす好手があって、白8までで負けとなる。
(各自確認のこと)

【2図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きがすばらしい手筋。
➡これさえ覚えておけば、あとは簡単。
※ただし、誤って黒aと置いてはいけない。
 白bと詰められて、黒二子を取られてしまう。
 置きは黒▲の二子に近いほうと記憶してほしい。

【3図】(解決)
・白2には黒3ハネで黒の勝ち(白aには黒b)。

【4図】(テーマ図の手順)
・黒1、3のツケ切りに、白は2から4とサガって、抵抗してきた。
・白6はこの際いささか無理。
・黒7のあと、白aとオサえたのが、テーマ図。
※その白6では―、

【5図】(黒、好調)黒6コウ取る(黒a)
・白1とカカえるくらいが相場。
・黒は2の切りから4と封じ込めるのがシメツケの手筋。
・白3以下9までと生きることになるが、黒の厚みが勝る。
※4図の手順中、白4が頑張り過ぎ。

【6図】(相場)
・白1とカカえて十分だった。
・黒は2、4と形を整えるくらい。
・白5とハネ、黒の一団への攻めをみることになろう。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、74頁~76頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第2型


【テーマ図第2型】
・前型と同じ状況で、こんどは白Aでなく、白△にトンできた。
・一見手筋風であるが、黒はうまい手筋で、攻め合いに勝つことができる。

【1図】(失敗―押す手なし)
・黒1と出て、白の眼を奪うのは急所に似て非。
・白2とツガれると、攻め合いに勝てない。
・念のために、黒3、5とダメを詰めてみる。
・白6と詰められたところでよく見ると、黒はaからも、またbからもダメを詰めることができない。
➡いわゆる≪押す手なし≫黒の負け。

【2図】(正解―ワリ込みの手筋)
・黒1のワリ込みがうまい手筋。
・第一感では白aとカカえられて、まずそうであるが―。

【3図】(正解の証明)
・白2のカカエに、黒3とサガる妙手があった。
・黒5までで白は打つ手なし。
・たとえば白aとダメを詰めても、黒bでアタリ。
➡白はどうすることもできない。

【4図】(準正解)
・なお攻め合いに勝つだけなら、黒1の置きからいけばよろしい。
・白2、4がベストの抵抗で、黒aで白の二子が取れる。
・ただし、将来白bのツギの余地があり、3図には及ばない。
※途中、白2で白3とツグと、今度は黒aでなく黒bとコスミツけるのが手筋で、白4に黒cで白の負けとなる。
(各自確認)
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第3型


【テーマ図第3型】黒番
・白としてはともかく白△のハネを一本利かしておきたい。
・そうした軽い気持ちでハネる人は多いと思う。
・ところが、これが打ち過ぎ。
・黒からきびしい反撃の手段があって、白に大きなダメージを与えることができる。
 では、どういう手段だろうか。

【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・黒の一子を取られてはどうにもならない―と簡単に黒1とツグようでは、失格。
・白2と手を戻されて、何事も起こらない。

【2図】(正解―強手)
・黒1とオサエ込む手が成立。
※意外と思われるかもしれないが、このあとに出てくる手筋は応用の利くものであるから、ぜひとも頭の中にとどめておいてほしい。

【3図】(二子にして捨てる)
・当然、白は2と切ってくるはず。
・黒はひとまず3と二子にする。
・白4に黒5とアテ、白6と二子を取った形が次図。

【4図】(石塔シボリ)
・ここで、黒7の放り込みを打つ。
・ダメヅマリで、白11とはツゲないから、白8と取る一手。
・あとは黒9から11と順にダメを詰めていけば、白は7にツゲず、12とノビ出すくらい。
・黒13と三子が抜ける。
・次に白はaと逃げ出すことになるが、要の白三子が抜けては、黒成功。

【5図】(有利なコウ)
〇なお、途中黒11で、
・コウ争いに自信があれば、黒1とオサえて、全体の白を取りにいくこともできる。
・白は2のハネを一本利かして、コウで抵抗するより仕方がなく、黒7までコウになる。
※このコウは黒の取り番であるから、黒の有利なコウとみてよろしい。

【6図】(テーマ図の手順)
・白1のツケに黒2とハネ出したところから生じた形。
・黒8までは必然であるが、白9のハネは不用意だった。
・白aとカカえ、将来白9のハネをみるべきだろう。

【7図】(常法)
〇問題の黒2であるが、
・黒2と内からオサえ、黒4までとなるのが常法。
➡これなら互角だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、77頁~78頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第4型


【テーマ図第4型】
〇これは攻め合いの手筋の基本中の基本。
 しっかり形を覚えてほしい。
・いま白が△にツイだところ。
・白Aの切りが気になるが、ひとまず白のダメの数を確認して、そのうえで攻め合いに勝てるかどうかを考えてほしい。
※一手誤ると、隅の黒三子は逆に取られてしまう。

【1図】(失敗―攻め合い負け)
・初級者は切りを恐れ、黒1とツグ人が少なくない。
・白に2、4と頑張られて、隅の黒は攻め合い負けになる。
※次に黒aでも、白bと眼をもたれ、メアリメナシであるから、黒は勝てない。
 黒cなら白d、黒eには白fで、黒から押す手なし。

【2図】(正解―ハネ)
〇では正解を。
・黒1とハネて万事解決。示されれば簡単。

【3図】(証明)
・白2と頑張ってみても、黒3のアテから5。
※白はaと切る暇がない。
※以上で、2図黒1のハネがいかに効果的か、わかったであろう。

【4図】(定石)
・黒1、3のツケノビから生じた。
・白4のコスミには、黒5のトビツケが最強。
・以下、白10までが定石。
※テーマ図はこのあと白aのノゾキから生じた。

【5図】(白、無謀)
・白1のノゾキはともかく、黒2のツギに白3と切ったのは、無理を通り越して、無謀というほかない。
・白7までで、テーマ図が完成。

【6図】(常法)
・前図白3の切りでは1とコスんで、黒2とツガせるところ。
・白3は必ずしもすぐハネるとは限らない。
※黒aからの反撃がきびしいから。
※したがって、白3では白bとヒラくくらいだろう。
※なお、5図黒2のツギは少々重い。

【7図】(黒の正しい応接)白8ツグ(3)
・黒1のオサエから3と切り込むのが好手筋。
・黒7のアテに、もし白8とツゲば、黒9からの攻めがきびしい。
・したがって、白8で白aとヒラくことになる。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、82頁~84頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第5型


【テーマ図第5型】
・白が隅の手入れを怠っているので、黒からの手段がある。
・無条件とはいかないが、攻め合いで花見コウにもち込むことができる。
・ただし、手順を間違えないように注意してほしい。

【1図】(失敗―手順を誤る)
・黒1のサガリは急所の一つ。
・しかし、手順を誤った。白2とオサエ込まれては、攻め合いにはならない。
※黒aとアタリをかけても、白bとツガれてそれまで。

【2図】(正解―正しい手順)
・まず隅から黒1とオサエ。
・白2を待って、黒3とサガるのが正しい手順。
※次に黒aと詰められては、それまでであるから―

【3図】(放り込む手筋)
・白4とツグ一手であるが、ここで黒5と放り込むのが、なかなかの手。
・白6と取らせて、黒7とオサえれば、これは≪二段コウ≫と呼ばれるコウ争い。
※白aの詰めに黒5とコウを取り、さらに黒bと取って本コウであるから、解決までには手がかかる。
・しかし、黒にとっては花見コウ。
 もともと隅は白地だったと思えば、気の楽なコウといえる。

【4図】(テーマ図の手順)
・白3~7は無謀に近い打ち方。
・黒14まで黒の厚みが勝る。
・黒14のあと、白aが本手だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、85頁~86頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第6型


【テーマ図第6型】
・この問題は大分むずかしい攻め合いの筋が含まれている。
・しかし攻め合いとしては、基本的な原理でもあるので、あえてとりあげておいた。
・普通は白△の二段バネは成立するのであるが、左方に黒▲の備えがある場合には危険。

【1図】(失敗―チャンスを逃す)
・おそらく実戦に出た場合、多くの読者は黒1のノビを考えるだろう。
※確かに穏やかな打ち方で悪くはならないが、実はせっかくのチャンスを逃している。

【2図】(正解)
・黒1の出から3と元を切る手が成立。
・そして黒5の切り。
・さらに―

【3図】(正解の続き)
・白6のツギを待って、黒7、9とハッていく。
➡ここではじめて攻め合いの問題が生じた。
・白10とオサエられ、果たしてこの黒は勝つことができるのだろうか。
※黒のダメはわずかに三手、そこで―

【4図】(シメツケの手筋)
・黒1の切り込みがきびしい手筋になる。
・黒3、5は前にも出た≪石塔シボリ≫の手順。
※このシメツケの手筋は攻め合いの際、しばしば活用されるはずであるから、しっかり頭の中にたたき込んでおいてほしい。
・白6の二子取りにつづいて―

【5図】(両バネ)
・黒1の放り込みから3とアテ。
※ここでよく見ると、黒のダメはいぜん三手であるが、白のダメは四手ある。
 したがってこのままでは黒は勝てないはず。
・ところが黒5のハネが先手で打てるのがミソ。
・白6と交換してから、黒7とハネ。
・この黒5と7とが両バネ。
※格言に≪両バネ一手延び≫というのがある。
 黒のダメは一見三手であるが、両バネで四手に延びている。
・白8と打ち欠いても、黒9で黒の勝ちがはっきりした。

【6図】(テーマ図の手順)
・黒▲がすでにあるという前提。
・この場合、白10の二段バネは打ち過ぎとなる。
・その10では、

【7図】(正着)
・白1とノるのが正着だった。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、87頁~89頁)

5攻め合いの手筋テーマ図第7型


【テーマ図第7型】
・隅を白が放置していたので、黒1と出て白2と交換した。
・下方の梅鉢形の白との攻め合いであるが、果たして結果はどうなるだろうか。
・この攻め合いは白黒双方に、好手筋が内蔵されていて、なかなかやっかい。
 コウ含みであるが、黒の有利な攻め合いにもち込みたいものである。

【1図】(失敗―黒、無条件負け)
・初級者のほとんどは、黒1のオサエ込みを考えたはず。
・これには白2の腹ヅケが有力。
・ただし、黒3では白4で、簡単に負けてしまう。

【2図】(白、取り番のコウ)白8コウ取る(4)
・1図黒3で、1とサガリ、白2に黒3とマゲる強手があった。
・白は4と放り込むのが好手。
・白8まで白の取り番のコウになった。
※黒はコウにもち込んだが、やや不利なコウ。

【3図】(正解-コスミの手筋)
・黒1のコスミがこうした形でのうまい手筋になる。

【4図】(黒、余裕のあるコウ)
・白2から6と頑張る手はあるが、黒7と取って、黒の楽なコウ。
・白はいま一手aとダメを詰めて、はじめて本コウ。つまり≪一手ヨセコウ≫というわけである。
・なお、途中黒5に白bと抜くと、黒cで、これは黒の攻め合い勝ちになる。
・したがって、白は次図で―

【5図】(白の危険なコウ)
・白1のアテから3と打つコウも考えられる。
※黒aと抜いてコウであるが、これは白がコウに負けたときの被害が大き過ぎて問題。
いずれにしても、白の有利なコウは考えられない。
 3図黒1のコスミが好手筋といわれるゆえん。

【6図】(テーマ図の手順)白10ツグ(5)
〇ではテーマ図の手順を示しておく。
・黒1のボウシから生ずる変化で、中盤の定石といわれるもの。
・白2に黒3のツケから5と切り込むのが手筋で、以下黒11までの手順をへて、次に黒a、白bが加わったのがテーマ図。
・なお―

【7図】(本手)
・黒1のオサエには白2の手入れが本手。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、90頁~92頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋


・相手から攻撃を受けたときなど、じょうずに処理して苦境を打開する――これがサバキである。
・弱い石が攻められた場合、ただ逃げることだけを考えるようでは強くなれない。
・一般に「サバキにはツケ」とか「サバキはツケ切りで」などといわれている。
 これらはサバキのテクニックの一面を表現している。
・状況に応じて、たとえば一部の石を捨て石にして、本体を安全に導くなど、いろいろな方法がある。
・そうした巧みにサバく手筋を身につけていれば、いかなる根拠に立たされても、怖いものはなくなる。
・比較的多く実戦に生ずるサバキの基本例を6型とりあげてみた。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第1型


【テーマ図】第1型 黒番
・星定石にしばしば生ずる形。
・白が△に打ち込んできたところであるが、黒は分断された二子をどうサバいたらよいだろう。
・例によって、まず失敗図から。

【1図】(失敗Ⅰ――不利な戦い)
・平凡に黒1とトンで逃げ出すようでは、白2とコスまれて、黒は二分される。
※黒aとツケて動き出すことはできるが、黒は弱石を二つ抱え、そのシノギは容易ではない。
・いま一つ疑問の手は――

【2図】(失敗Ⅱ――白の実利大)
・黒1の上ツケ。
・白は2のハネ出しから、普通に白8までと決め、黒の一子(▲)を手中にして、その実利はかなりのもの。
・黒9で治まったものの、白の利益には及ばない。

【3図】(正解――下ツケの手筋)
・黒としては1と、下にツケるのがうまいサバキの手筋になる。

【4図】(変化)
・白は1とハネ出し、黒6のとき白7と切るのが、常法ながら強手。
・白9抜きにつづいて、黒には二通りの打ち方が考えられる。

【5図】(黒、実利を重視)
・黒が1のツケから7までと実利を稼ぐのがその一つ。
・また――、

【6図】(利き筋を残す)
・4図につづいて黒1とサガリ、白2と受けさせるのも有力。
・白4で黒三子は助からないが、まず黒5のアテを利かせ、黒7と整形。
※これはいずれ黒aのコウ狙い、黒bのサガリが利き筋で、右方の白を攻めるには強力。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、160頁~162頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第2型


【テーマ図】第2型 黒番
・白と黒との競り合いであるが、白1とノビるのが一つの手筋。
・黒はピンチに立たされているが、どうサバいたらいいだろう。
・まず失敗図から。

【1図】(黒、やや不満)
・白aのカカエを避けるために、黒1のサガリ。
・しかしこれでは白6まで、黒の二子を取られて、不十分。
※一見利かしたようだが、二子を打ち抜いた白の形は厚過ぎる。

【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1とツケるのが≪2の二≫の急所。
 いわゆる≪腹ヅケ≫と呼ばれる好手筋。
※白は隅の二子を助ける打ち方もある(4図参照)が、普通は――

【3図】(変化Ⅰ)
・白2とアテるところ。
・黒3で隅の白二子を手中にすることができた。
・黒3につづいて、白はaから黒b、白cとするか、あるいは黒3のあと白dから決めて、上方に厚みを築くか、選択の権利はある。

【4図】(変化Ⅱ)
・黒1の腹ヅケに、白が隅の二子を助けて戦うには、白2とアテ、4とツギ。
・黒は5と二子を動かし、白6以下、黒13までの戦いに入る。
※3図をとるか4図を選ぶかは、周囲の状況による。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)

2章 攻めの基本手筋 3サバキの手筋 第3型


【テーマ図】第3型 黒番
・前型とは白石、黒石の配置が反対になっている。
・その時は黒A(前型では白)とノビたが、黒はほかにいま一つうまい手筋がある。
 その手筋を発見してほしい。
【1図】(失敗――俗手)
・初級者だと、ほとんどの人が黒1、3を考えたはず。
・そして、黒5以下13まで。
※大変な厚みを築いたようだが、白14と押し上げられると、厚みはさほど働きそうもない。
 それになによりも隅の損が大き過ぎて、失敗図といえる。

【2図】(正解――腹ヅケの手筋)
・黒1のツケ。
※前型とは少々異なるが、これがうまいサバキの手筋。
・黒aと取らせるわけにはいかないので、

【3図】(黒、サバく)
・白2と逃げ出せば、黒は3の押しを一本打って、黒5と一子をカカエる。
※しかし、これで一段落というわけにはいかない。
・このあと――、

【4図】(白の抵抗)
・白1とサガリ、3と切る鋭い手筋。
※ここまでを見て、どういう変化になるか、また白は何を意図しているのかわかれば、たいへんな上達。

【5図】(互角)黒10ツグ(8の左)
・前図につづいて、黒4と二子を取るくらいが相場。
※黒aなどとマゲると、白6のシチョウで黒二子が取られてしまう。
・白はそこで5とカケる。これがまたうまい手筋。
・黒6の抵抗に、以下白9までとシメツける。
※白も下方の四子を犠牲にして、うまくシメツケることに成功。
 このワカレはいい加減のものといえる。

【6図】(テーマ図の手順)
・星の黒に白1とカカり、3、5と切り違えたところから生じた。
・なおその白7で、

【7図】(白、失敗)
・白1とノビ、3とハネるのは黒4と打たれ、aの切りとbの取りを見合いにされて、失敗。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、163頁~164頁)

3章 攻めの基本手筋 3ヨセの手筋 テーマ図第4型


【テーマ図・第4型】黒番
・この白の形を一見しただけで、多くの読者は、「ああこれか」と、ピンときたことと思う。
・この白に対して、黒はどうヨセるのが正しいか――というのがテーマである。

【1図】(失敗Ⅰ―凡手)
・おそらく実戦では、黒1とツイでヨセる人が多いはず。
・白はむろん2と整形する。
※黒aに白bツギが先手で利くとしても、これで白地が6目できてしまう。
 また中には、……

【2図】(失敗Ⅱ―余計な手)
・黒1と放り込み、そこで3、5と余計なことを考えている人もあるかもしれない。
・これは手がないばかりでなく、1図よりもさらに2目損をしてしまった。

〇では正しい手筋を示そう。
【3図】(正解―置きの手筋)
・黒1の置きからいくのが、正解。

【4図】(白、大損)
・もし、白2と受ければ、そこで黒3と根元をツギ。
・白4は仕方ない。
※それで白7とツグと、黒aアタリ、白5ツギ、黒4ツギで、中手三目の死形となってしまうから。
・白6で生きであるが、黒7と三子を抜かれては白地よりも、黒の得た利益のほうが大きい。

【5図】(セキ)
・白は2とツキアタリ、黒3ツギに白4とツイで、以下黒7まで。
※これは一見≪隅のマガリ四目≫と錯覚しそうであるが、まぎれもなくセキ。
※地としてはゼロ目であるが、4図より1目得という計算になる。
 つまり、この白2と打ちセキにするほうが、正しいというわけである。

【6図】(テーマ図の手順)
・黒の星から大ゲイマにヒラいた構えのところに、白1と三々に入ったところから生じる変化。
・白が15とカケツいだ場合には、黒16とカケツいでおく。
・またその白15で、……

【7図】(固ツギの場合)
・1と固くツイだ場合は、黒2の固ツギで、aの欠陥を補う。
(加藤正夫『明快・基本手筋』日本放送出版協会、2004年、217頁~219頁)