空飛ぶ自由人・2

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映画『マタインディオス、聖なる村』

2022年06月30日 23時00分00秒 | 映画関係

[映画紹介]

珍しい、ペルーの映画。
シネ・レヒオナル(地域映画)というのだそうだ。
ペルーの首都リマ以外の地域を拠点とする映画作家や
プロダクションによって制作される映画を指す。
その地域独自の文化や習慣を織り込んでおり、
都市圏一極集中ではない多元的なペルー映画を構成しているという。

ペルーの山岳地帯の村が舞台。
村人4人が村の守護聖人・サンティアゴを称える祭礼を計画する。
家族を失い、嘆き悲しむ苦痛からの解放を聖人に祈るのだが、
予期せぬ出来事によって、
信仰と、守護聖人による庇護の力に疑問を抱くことになる・・・

スペイン語でサンティアゴとは、聖ヤコブのことで、
イエスに従った弟子の中でも、
一番側近の3弟子、ペテロ、ヤコブ、ヨハネの一人。
映画の中で、司祭の口により、
そのことが語られる。
他のヤコブと区別して、「大ヤコブ」とも呼ばれる。
聖ヤコブは、スペインの守護聖人ともされる。

非常に興味深いのは、
キリスト教が、辺境の地で
どのように変容するかで、
先住民の慣習とカトリック信仰が入り混じった生活が描かれる。
信者たちは、教会に集まって礼拝するが、
キリスト教神学の何たるかを理解している者は誰一人としていないに違いない。
実は中世のヨーロッパも同じで、
ラテン語で書かれた聖書を一般民衆は読むことはないから、
教会のステンドグラスで福音書の内容、イエスの生涯を
絵解きしてみせたのだ。
この村でも同じで、
何百年と伝承されてきた儀式の中で生活しているだけで、
信仰の深い意味など、考える者はいない。
そもそも、キリスト教自体が、
侵略者たちが強制した宗教なのだ。
その形骸化されたキリスト教の崩壊を表現して、
興味深かった。

(話は逸れるが、
仏教も同じで、インドから中国を渡り、日本に伝達される間に、
変貌を遂げた。
スリランカ・ミャンマー・タイ・カンボジアなどの
南伝仏教(上座部仏教、小乗仏教)も同様だ。
仏典は僧侶だけのもので、一般大衆は仏像を拝むだけの信仰だった。
ただ、それでも、因果応報と地獄極楽の思想だけはくみ取った。)

映画は、欧米の映画手法とは違うので、
やや冗長であり、意味不明でもある。
ただ、鍵穴から見る映像は斬新で、
おそらく「神の目」を示していると思われる。

半分ドキュメンタリーのような手法と、
モノクロに見える映像に、
わずかに残る色彩が印象に残る。

そして、エピローグが大変示唆的だ。
祝祭に使われた、神輿の上の聖人像を
子どもたちが山の上に持って行き、
石で砕き、もてあそぶ。
そして、最後は崖から下に投げ落としてしまう。
それを見つめる鍵穴の「目」。
しかし、それさえも、
少女が近づき、
鍵穴を塞いでしまうのだ。

まさに、シネ・レヒオナル(地域映画)。
監督と脚本は、オスカル・サンチェス・サルダニャ監督と
ロベルト・フルカ・モッタ監督。
撮影は、監督の故郷である、
山岳部のワンガスカルで行われた。
7年かかったという。
司祭役の俳優以外は、
ワンガスカルに暮らす村人たちが演じている。
さすがに、司祭役は俳優でなければ無理だったのだろう。

2016年、ペルー文化庁のシネ・レヒオナル映画コンクールに入賞
リマ映画祭に出品され、2018年のベストペルー映画に選ばれた。
ペルーのシネ・レヒオナルが日本で公開されるのは初めて。

しかし、今のところ、日本では東京(渋谷)と鹿児島の2館のみの上映。
渋谷では1日2回上映で、私が観た時、観客は6名。
全国で順次公開だというが、
この映画、一体日本で何人の人が観るのだろうか

5段階評価の「3」

渋谷のシアター・イメージ・フォーラムで上映中。

 



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