[映画紹介]
アインシュタインとナチスの台頭と原爆開発をめぐる
ドキュメンタリー・ドラマ。
白黒の画面の実写記録映像と
カラーのドラマ部分を交互に描く。
劇中のアインシュタインの台詞は、
スピーチや手紙、インタビューで語られた
本人の言葉だけで構成。
1933年(54歳時)、ナチスのユダヤ人迫害を逃れて
アルバート・アインシュタイン(ドイツ語で「一つの石」の意)は、
親友の招きで
イギリス・ノーフォークで亡命生活を送る。
野原に建てられた粗末な木造の小屋で、
散弾銃を持った二人の女性ガードマンとの暮らし。
平穏を求めるアインシュタインは、
そこで数学だけに没頭する生活をすごす。
その亡命生活の描写と並行して、
ドイツにおけるナチスとヒトラーの台頭が描かれる。
国家主義に邁進するドイツを「精神的な病」と表現。
ヒトラーの演説に酔う大群衆の姿に戦慄する。
またアインシュタインの青年期の
空間と時間の関係を表す相対性理論の発見も描く。
物質がエネルギーに交換できる(E=mc2)という発見が、
後の核兵器と原子力発電所を生む。
第2次世界大戦が始まると、
資金集めのために、
アルバートホールの集会に1万名を集め、
演説する。
その後、アメリカに渡り、
プリンストン高等研究所の学部長に就任。
それ以降、ヨーロッパに戻ることはなかった。
そして、マンハッタン計画(原爆製造プロジェクト)。
しかし、アインシュタインは過去の反戦的な言動が問題視され、
メンバーから外される。
その前に、あとで出て来るが、
亡命ユダヤ人物理学者レオ・シラードらが起草した
ルーズベルト大統領に、
原子爆弾の開発でドイツに負けないよう、
うながす書簡に署名してしまう。
これを受けてウラン諮問委員会が設置され、
マンハッタン計画がスタートする。
ドイツの敗北。
砂漠での原爆の実験。
前にも観たことがあるが
身の毛もよだつ映像だ。
そして、広島・長崎への投下。
晩年のアインシュタインに、
日本人記者が手紙を出す。
本作では、日本人記者が登場し、
アインシュタインを詰問する。
「なぜ人類の幸福を追及するはずの科学が
恐ろしい事態を招いたのですか?」
アインシュタインは答える。
「私は原子力の父ではない。
直接関係はない」
記者は更に追及する。
「教授は原爆の製造に重要な役割をと果たしています」
アインシュタインは答える。
「唯一の私の関与は、
1905年に発表した
質量とエネルギーの理論だけだ」
更に言う。
「私は人生で一つ大きな過ちを犯した。
ルーズベルト大統領宛の手紙に署名した。
ドイツが原子爆弾の開発に成功する可能性があると思い、
手紙に署名することにした。
ドイツが原子爆弾の開発に成功しないと知っていたら、
パンドラの箱を開ける手伝いはしなたかった」
それは正しい認識だ。
あの時は、ドイツとどちらが早く原爆を持つかの瀬戸際だったのだ。
最後にアインシュタインの言葉。
「自然の力の知識が
破壊的な目的に利用されても、
人間を非難してはいけない。
むしろ人類の運命は
私たちの倫理観の成長にかかっているのである」
アインシュタインは1955年4月18日没(76歳)。
ロシアが核攻撃でウクライナを脅し、
北挑戦が核武装し、
中国が台湾を併呑しようとしている今の世界を見たら、
何と言うであろうか。
この映画では描かれていないが、
1949年にノーベル物理学賞を受賞したあとの湯川秀樹が
プリンストン高等研究所に招かれた時、
アインシュタインは、湯川のいる研究室を訪ねて、
湯川の両手を握り締め、
泣きながら何度もこう繰り返したという。
「原爆で罪もない人たちを傷つけてしまった。
どうか許してほしい」と。
(伝承かもしれない)
「オッペンハイマー」を観る前の予習として観た。
監督は、アンソニー・フィリップソン。
アインシュタインを演ずるのは、
エイダン・マクアードル。
良く似た俳優を配役したもので、
黒白の実写部分も
この俳優で撮影したのでは、と疑うほど。
Netflixで配信。
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