[映画紹介]
妻メアリーを見送った90歳のトム・ハーパーは、
住んでいたスコットランドの最北端の町、ジョン・オ・グローツから
昔住んでいたイングランド最西南端の町、ランズエンドまでの旅を企てる。
グレートブリテン島を斜めに縦断する1300キロ。
移動手段はバス。
高齢者福祉で手にした無料パスを使って、
バスを乗り継いで行こうというのだ。
途中、様々なことが起きる。
寝過ごして終点まで行ってしまい、
宿が取れずに路上で寝たり、
大切なものが入っているカバンを奪われそうになったり、
イスラムの女性を庇ったために
反イスラムのチンピラに絡まれたり、
チアガールたちの座席に巻き込まれたり、
結婚式の帰りの連中と遭遇したり、
誕生日パーティーに招かれたり、
無料パスはイングランドでは無効だと
バスの運転手に言われて降ろされたり、
その度に、多くの親切な人々の助けで、旅を続ける。
乗っていたバスが交通事故を起こして、
ケガをしたトムは病院に運ばれ、
医師からこのまま入院治療をするよう促される。
この時、実はトム自身も末期癌に侵されていたことが分かる。
トムは医師の制止も聞かず、
「私には時間がない、
行かなければならない場所がある、
しなければならないことがある」
と言って、旅を続ける。
やがて、トムのことを撮った動画がSNSに投稿され、
「バスの旅を続ける謎の老人」
は、本人が知らぬ間に有名人になってしまう。
やがて、目的地のランズエンドに辿り着いたトムは・・・
ここで、トム夫妻がなぜ故郷を捨てなければならなかったか、
わざわざ、一番遠い町に住まなければならなかったか、
ランズエンドに向かった理由は何か、
大事に持っていたカバンの中には何が入っていたのか、
が明らかになる。
旅の途中、若い時のトムと妻のメアリーの姿が
画面の中に登場する。
そして、老齢になった夫婦の姿も回想と幻覚の中に現れる。
人生は長く、若い時から壮年となり、やがて、老齢を迎える。
どんな年寄りにも、若い時があり、
夢と希望に満ちた時がある。
反対に、生まれ故郷を捨てなければならないような深い悲しみも。
トムとメアリーの旅路は、
二人の共有した輝くような時の連鎖。
そして、黄昏を迎えて、
妻との約束を守るために、旅に出た老人。
その途中で、人間の善意と悪意の両方に出会い、
まさに、人生そのものの旅をする。
若い時は、年取った時のことなど、想像できないものだが、
この映画は、年齢を重ねること、
死を予感することの中で、
振り返れば、輝かしい人生だったことを感じさせてくれる。
私のような人生の最終段階を迎えた者にとっては、
身につまされる内容だったが、
しかし、肯定的に描かれているので、
胸を打つ。
イギリスの片田舎の風景、
様々なバス停の様子が興味深かった。
ある一人の高齢者の旅を通じて、
人生を描くロードムービー。
なかなかの作品だった。
トムを演ずるのは、英国の名優ティモシー・ スポール。
監督は、ギリーズ・ マッキノン。
原作はジョー・ エインズワース。
5段階評価の「4. 5」。
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