[書籍紹介]
直木賞作家・井上荒野による
ともに70歳の女性2人の愛と友情を描いたシスターフッド小説。
専業主婦の照子は横暴な夫に愛想をつかし、
シャンソン歌手の瑠衣は
老人マンションの陰湿な人間関係に嫌気が差し、
照子の運転するBMWで逃避行を果たす。
「まだまだこれから、なんだってできるわよ、あたしたち」。
到達したのは、長野のとある別荘地。
そこで一軒の別荘の鍵を破壊して無断で住居に。
照子は町内の喫茶店で占いを始め、
瑠衣はレストランで歌を歌い始める。
本物の別荘の持ち主が現れることを恐れつつ、
地元に定着していくが、
実は照子にはある目論みがあって・・・
親友同士の女性二人が
車で逃避行をする、
となれば、
往年の名作映画「テルマ&ルイーズ」を思い出すが、
主人公の名前が照子と瑠衣となれば、
この映画を意識したことは明らか。
作者によれば、
最初は「ワルナスビとワルボックリ」(植物の名前)という題名で、
「テルマ&ルイーズ」は後から出てきたものだという。
ただ、「テルマ&ルイーズ」のオマージュということは知らせたいと思って、
「照子と瑠衣」にした。
「テルマ&ルイーズ」・・・
1991年の映画。
「1990年代の女性版アメリカン・ニューシネマ」
と評されたロードムービー。
監督はリドリー・スコット。
ジーナ・デイビスがテルマ、スーザン・サランドンがルイーズを演じ、
キャリア初期のブラッド・ピットも脇役で出演し、注目された。
アカデミー賞では、監督賞、主演女優賞(サランドン/デイヴィス共に)、
撮影賞、編集賞、脚本賞の延べ6部門でノミネートされ、
脚本賞(カーリー・クーリ)がを受賞した。
スコット監督自身の監修により製作された4Kレストア版で
今年リバイバル公開された。
まあ、70歳の老女の話だし、
ここは日本なので、
映画のようなレイプや殺人事件や銀行強盗は起こらない。
犯罪と言えば、別荘の不法侵入くらい。
あとは、ごく平和的に話は進む。
ラストも映画のような結末にはならない。
ただ、主人公が70歳というのがミソで、
それまでの人生を捨てて、
新たな人生に歩み始めるのが現代的。
趣味が合ってるわけでもないし、
性格も違う2人なのに、
なぜかウマが合う。
中学時代の同級生で、
卒業以来初めてのクラス会で再会して親しくなった仲。
作者は言う。
「私、自分が老人に近づいてきたのもあると思うんだけど。
老人だからっていろんな欲望が
なくなるってことはないと思うんですよね。
もちろんできなくなることが増えてくるんだけど、
だからって心の中まで老人にふさわしくっていうか、
みんなが思っている「老人」にふさわしく
枯れていく必要はないんじゃないかって思っていて。
死ぬ時まではやりたいようにしていきたいっていうのが
あるんですよね」
作者は今、63歳。
なお、父は作家の井上光晴。
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