寒中、滝の中、
声が響いてきた。
今だ立て!
そういう声が、
師の頭の中で響き渡ったのだった。
一瞬、
師は周囲を見わたされた。
だが、
誰もいなかった。
仏様の声だった。
一体どういうことだろうか。
立てと言ったって、
一体何をすればいいのかわからなかった。
それが来る日も来る日も、
滝行の間、
聞こえてきたのだ。
腹を括るしかなかった。
やれと言われたらやるしかないが、
途中で失敗しても俺のせいじゃない。
そう観念して、
師は因縁解脱の修行を始められたのだった。
やると言っても、
自分には、
若い時から研鑽してきた運命学しか持ち合わせていない。
その運命学を使って、
人助けから始めるしか他には方法がないと決意した。
そして、
一軒長屋を借りて、
弟子と二人で、出家修行のようなものを始めた。
それが真実の宗教=阿含仏教、
そして完全宗教を立てられた師の出発だったのだ。
弟子の私もそこから始めるしかないのだろうか。
そう自問自答する。
初心に戻って、
一から始めるのが、
一番確かな道なのではないか。
師よ、
今一度ご指導を仰ぎたい、
どうか、
我に新たな道を指し示し賜らんことを。
今一度、道を示したまえ!