361の1『自然と人間の歴史・世界篇』アインシュタインの相対性理論の二つの仮説
自然がどのように成り立っているかを見るには、現代では、アインシュタイン(1879~1955)が唱えた相対性理論の理解を避けては通れない。その元々の前提については、二つの仮説が立てられていて、最初のものは次のようなものだ。
「たがいに平行に、速度一定の直線運動をしている慣性系、すなわち外部から力が働いていない座標系を考える。そのような慣性系に対して、物理法則は同一の形式で表される。」
「電気力学の現象は力学の現象と同様に、絶対静止という考えを立証するような性質を持っていないように見える。むしろこれらの事実から、力学の方程式が成り立つ全ての座標系に対して、電気力学や光学の法則がいつも同じ形で成り立つと考えられる。このことは、小さな物理量の1次の近似については既に立証ずみのことである。
このような推測を第一の要請とみなして、相対性原理と呼ぶことにする。」(A.Einstein「Zur Elektrodynamik bewegter Korper」、日本語訳は湯川秀樹監修「動いている物体の電気力学」「アインシュタイン選集1」共立出版)
もう一つの仮定は、こうした慣性系との関係として、光の速度を考え、次のようにいう。
「さらに次のような第二の要請をつけ加えよう。
光は常に真空中を一定の速さcで伝搬し、この速さは光源の運動の状態には無関係である。
これは、ちょっと考えると、第一の要請とは矛盾するように見えるかもしれない。しかしこれら二つの要請は、静止物体に対するマックスウェルの理論にもとづいて、運動物体の電気力学を簡単にかつ一貫して建設するためには充分である。」(A.Einstein「Zur Elektrodynamik bewegter Korper」、日本語訳は湯川秀樹監修「動いている物体の電気力学」「アインシュタイン選集1」共立出版)
そこで本題に入ると、まず出てくるのが、「ローレンツ変換」という原理である。これを見つけたのは1904年のローレンツ(1853~1928、そもそも彼は電磁現象を表現するための式としてこれを導いていた)らなのだが、アインシュタインはこれを自身の理論を構築する際の媒介項として、改めて措定する。
そこでこの場合でのローレンツ変換の大まかな内容だが、光速度に近い速さで動く物体の運動を二つの慣性系から記述するときの、二つの慣性系間の座標変換のことだ。アインシュタインが発見した特殊相対性理論において用いられる。
その特殊相対性理論の側からの導出の解説では、相互の間で力が働かない物体が等速度運動するようにみえる座標系、つまり慣性系を考えて、説明を行うことが多いようだ。その二つの系の名前を、慣性系 Sおよび S′といい、空間の中での座標 x,y,z,および x',y',z' は、座標軸が平行で,この座標系S′は 座標系Sに対して、その x軸の正の方向(図に表した場合は右側)に一定の速度 vで運動していると仮定してから、話を進めている。
しかし、ここでは話を簡単にするための数式上の操作として、矢野健太郎氏の著作「数学への招待」(新潮文庫)を導きとさせていただき、相対性理論の中でローレンツ変換が大方どのように導かれるかを紹介したい(なお、以下では、同文中の系O、同O′はS、同Sと言い替えて、引用を進めさせていただこう)。
「すなわち、いま一つの直線上に点Sを原点とする座標系を考えて、それを慣性系とします。この直線上の一点Pの位置はこの座標系に関する座標系に関する座標xで表されます。
いまこの座標系Sに対して、その原点 S′が一定の速度vで運動している慣性系S′を考えます。点Pの位置は、この新しい慣性系に対して、それに対応する座標xで表されます。
さてわれわれは、同じ点Pの二つの慣性系に関する座標xとx′との関係を求めてみましょう。
いま、S′は、慣性系Sでの時間が0のときに点Sと重なっていたものとすれば、S′の慣性系Sに関する座標は、vtで与えられます。
ところが、 S′Oの慣性系 S′に関する座標はもちろん0です。したがってxとx′との関係は一次式で与えられると仮定すれば、aを定数として、x=a(x-vt)....(1)とおくことができます。
ここで慣性系Sと慣性系 S′の立場をかえて、点Sが慣性系 S′に対して一定の速度-vで運動しているのであると考えれば、xとx′との関係は、相対性原理によって、xとx′を交換し、vを-vにかえるだけで、(1)とまったく同じ式で与えられるはずですから、x=a(x′+vt′)....(2)となります。ただしここにt′は、慣性系SとS′が重なっていたときから測りはじめたS′に関する時間であるとします。
さて、ここまでは相対性原理だけを使ってきましたが、ここで光速不変の原理を使います。すなわち、点Sと点S′とが重なっていた瞬間にここで光の信号を発し、それが慣性系Sに関してはt′という時間後に、慣性系S′に関してはt′という時間後にPに到達したとしますと、SS′x=ct、x′=ct′
ここにcは、光の速度であって、どちらの慣性系に対しても同じ値をもっているはずです。こ!らをそれぞれ(1)(2)に入れますと、
ct′=a(c-v)t、ct=a(c+v)t′」(矢野健太郎「数学への招待」新潮文庫、1977)
続けて、こうある。
ct′=a(c-v)t、ct=a(c+v)t′」(矢野健太郎「数学への招待」新潮文庫、1977)
続けて、こうある。
「したがってこれらを掛け合わせて、
c2=a2(c2-v2)←「2」とは、「2乗」といい、この例でいうと、その前のcを2回掛け合わせること、つまりc×(かける)cを示す。(中略)
c2=a2(c2-v2)←「2」とは、「2乗」といい、この例でいうと、その前のcを2回掛け合わせること、つまりc×(かける)cを示す。(中略)
したがってけっきょく、x、tとt′との関係を与える式として
x′=(x-vt)/(1-v2/c2)1/2
t′=(-v/(c2)x+t)/(1-v2/c2)1/2
(引用者から、本来、式の表示とされているのは、立体的なものだが、この紙面では簡略化させていただいた)
(中略)
が得られます。
(中略)
なお、これらの式には分母に
(1-v2/c2)1/2
という項が現れていますが、負の数の平方根は考えられませんし、分母が0ということも考えられませんから、
(1-v2/c2)1/2>0
でなければなりません。すなわち、
-c<v<c
でなければなりません。すなわち相対性理論では、光の速度より早い速度で運動する慣性系は考えられません。
また、v2/c2とv/c2を無視することができますから、ローレンツ変換は
x′=x-vt
t=t′
x=x′=x′+vt′
t=t′となって、ガリレオ変換と一致します。」(矢野健太郎「数学への招待」新潮文庫、1977)
t=t′
x=x′=x′+vt′
t=t′となって、ガリレオ変換と一致します。」(矢野健太郎「数学への招待」新潮文庫、1977)
🔺🔺🔺
「六、長さの収縮と時計の遅延
つぎに、このローレンツ変換を用いて導かれる、相対性理論の有名な結論を二、三述べてみましょう。
つぎに、このローレンツ変換を用いて導かれる、相対性理論の有名な結論を二、三述べてみましょう。
いま、慣性系S′に対して静止している長さl′のその両端A、Bの、慣性系S′に関する座標をそれぞれx1′、x2′とすれば、
l′=x2′-x1′です。つぎに、この慣性系S′は他の慣性系Sに関して一定の速度vで運動しているとします。このとき、慣性系Sに関してこの棒の長さlを計算してみましょう。
ここで注意しなければならないことは、この棒は慣性系Sに対して運動しているのてすから、その両端A、Bの慣性系Sに関する座標x1、x2を測って、l=x2-x1とするとき、これらの慣性系Sの時計で同時刻tに測らねばいけないということです。そうしますと、ローレンツ変換の式から、
ここで注意しなければならないことは、この棒は慣性系Sに対して運動しているのてすから、その両端A、Bの慣性系Sに関する座標x1、x2を測って、l=x2-x1とするとき、これらの慣性系Sの時計で同時刻tに測らねばいけないということです。そうしますと、ローレンツ変換の式から、
x1′=(x-vt)/(1-v2/c2)1/2、x2′=(x-vt)/(1-v2/c2)1/2
ですから、
x2′-x2′=(x2-x1)/(1-v2/c2)1/2
したがって、
l=[ (1-v2/c2)1/2 ]l′
となります。
この式は、慣性系S′に対して静止している長さl′の棒を、慣性系S′
に対して速度-vで運動している慣性系Sから観測すれば、その長さが
l=[ (1-v2/c2)1/2 ]
倍に収縮して見えることを意味しています。
したがってvの絶対値が大きければ大きいほど、この収縮の度合は大きいわけです。この現象をわれわれはローレンツ収縮と呼んでいます。
ですから、
x2′-x2′=(x2-x1)/(1-v2/c2)1/2
したがって、
l=[ (1-v2/c2)1/2 ]l′
となります。
この式は、慣性系S′に対して静止している長さl′の棒を、慣性系S′
に対して速度-vで運動している慣性系Sから観測すれば、その長さが
l=[ (1-v2/c2)1/2 ]
倍に収縮して見えることを意味しています。
したがってvの絶対値が大きければ大きいほど、この収縮の度合は大きいわけです。この現象をわれわれはローレンツ収縮と呼んでいます。
つぎに、慣性系Sの原点にある時計の示す時刻をt、慣性系S′の原点にある時計の示す時刻をt′としましょう。これらの、両方が0という時刻を示すときに、点Sと点S′とは重なっていたのです。そこでローレンツ変換の最後の式で、x′を0とおいてみますと、
t=(t′/(1-v2/c2)1/2
が得られます。
これは慣性系S′の時計がt′という時刻を示しているときに、慣性系Sの時計はすでに、
t=[ (t′/(1-v2/c2)1/2]>t′
という時刻を示しているということを意味しています。
これを逆に言いますと、慣性系Sから、それに対して運動しつつある慣性系S′上にある時計を見れば、それは次第に遅れていくように見えるということを意味しています。
これを時計の遅延の現象と言います。」(矢野健太郎「数学への招待」新潮文庫、1977)
🔺🔺🔺
「七、速度合成の法則
x′=(x-vt)/(1-v2/c2)1/2
t′=(-v/(c2)x+t)/(1-v2/c2)1/2
いま慣性系がS′′が慣性系S′に対して速度v′で運動しているとすれば、その間のローレンツ変換は、
x′′=(x′-v′t)/(1-v′2/c2)1/2
t′′=(-v′/(c2)x′+t′)/(1-v′2/c2)1/2
で与えられます。
このとき、慣性系S′′とS′との間のローレンツ変換を見出すために、前者を後者に代入して計算をしますと、
v′′=(v+v′)/(1+vv′/c2)
とおいて、
x′′=(x′-v′′t)/(1-v′′2/c2)1/2
t′′=(-v′′/(c2)x+t)/(1-v′′2/c2)1/2
が得られます。
この式は、慣性系S′がS′に対して速度vで運動し、慣性系S′′がS′に対して速度v′で運動していれば、慣性系S′′は、慣性系S′に対して、このv′で与えられる速度で運動していることを示しています。
すなわちこの式は、相対性理論における速度合成を表わす式になっています。
いま、vもv′も正で、もちろんcより小さいとしますと、すなわち、
0<v<c′
0<v′<c
としますと、
c-v′′=[c(c-v)(c-v′)]/(c2+vv′)>0
したがって、
0<v′′<c
てす。これはc以下の速度をいくら加えてもcを超さないことを示しています。」(矢野健太郎「数学への招待」新潮文庫、1977)
かくて、このローレンツ変換と呼ばれる交換式は、ローレンツがローレンツ収縮を導いた際に、具体的には電磁現象を表現するためのマクスウエルの方程式を不変にする変換として用いたものと同じ形であるものの、ここでの用いられ方のもっとも著しい特徴は、アインシュタイン以前のような(それは(座標の「ガリレオ変換」と呼ばれる)、時間とはあらゆる座標系に共通な流れであり、どんな座標変換を行っても絶対不変に保たれるもの、すなわちt′=tであると暗黙のうちに仮定されていたのとは異なり、空間と時間(xとt)とが互いに移り変わることである。
(続く)
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆