青春時代を思い出させる歌謡曲に癒される。
ぼくが20代の頃、歌謡曲を聴く自分なんて考えられなかった。あの頃は、気負ってモダーンジャズなどを聴くことに精いっぱいの背伸びをしているぼくがいたんだろうか。もちろん流行歌は、学生といえども街中や、生活のいろんな場面で流れていて、耳に入ってくるのだった。八代亜紀がこの頃、心にしみるのである、流行歌とも言った歌謡曲を、実は毛嫌いしていた。そんな自分はまちがっていた。40年の歳月を経て、いま、歌謡曲が心に染み入るのである。藤圭子、大好きである。もう、ブルースを愛して聴くように心を揺さぶるのである。
過ぎ去った昔の歌謡曲が演歌が、今とてもいい。
平ったくいえば、ぼくも年を取ったということか。
大好きな歌手をあげろと言われれば、たちまち両の指がいっぱいになる。たとえば山崎ハコ。
ファドという音楽が大好きな、お坊さんを知っているが、ぼくにとってハコの歌声は、なぜかブルースと同じ、激しく魂を揺さぶるものだ。岡林信康など、20歳のころから大好きだった。ある曲など聴くたびに泣いた。この人も上手い。ハートがどうのこうの以前に歌が上手い人だと思う、その上に譲れない思いがあるんだろう、その魂の叫びがぼくを惹きつけて止まない。どんなに売れていても、どんなに人気があってもぼくの心に染み入ってくる音楽でなければ、ぼくは聴かない。J.コルトレーンや C.ミンガスを愛して止まないぼくだが、同じ地平に以上にあげた歌手がある。浅川マキも大好きだ。もう、何でも、来いという感じ。
ぼくの親友に、ロックからジャズから、音楽評論家くらいにはお金をかけてレコードやCDを買い続け、聴き続けた男がいる。ぼくはよく知らなかったのだが、キンクスというイギリスのバンドが大好きらしいと分かってはいた。それが30年くらい前。その後ある時から、自分はもう、ビリー・ホリディ―しか聴かないと宣言して、実際に膨大なCDのコレクションは若い人にあげたという。そのちょっと前はブルースに凝っていた。おかげでぼくも少しはブルースを聴くようになった、あるレーベルも知った。なるほどいいCDを何枚か聴けたっけ。
そんなやっこさんでも、日本の演歌がいいとか、歌謡曲がいいねえ、などと言うのを聞いたことがない。いや、ここ数年、この友人に会っていないのである。会ったらその点を聞いてみたいと思っている。音楽は、D.エリントンが言ったのだと思うが、良い音楽と悪い音楽しかない、のだろうか?悪い音楽?言いすぎか、つまらない退屈な音楽といってもよい。
それでも、青春時代にぼくを通り過ぎて行った音楽は、やっぱりいい。
エッセイ 石郷岡まさを
ぼくが20代の頃、歌謡曲を聴く自分なんて考えられなかった。あの頃は、気負ってモダーンジャズなどを聴くことに精いっぱいの背伸びをしているぼくがいたんだろうか。もちろん流行歌は、学生といえども街中や、生活のいろんな場面で流れていて、耳に入ってくるのだった。八代亜紀がこの頃、心にしみるのである、流行歌とも言った歌謡曲を、実は毛嫌いしていた。そんな自分はまちがっていた。40年の歳月を経て、いま、歌謡曲が心に染み入るのである。藤圭子、大好きである。もう、ブルースを愛して聴くように心を揺さぶるのである。
過ぎ去った昔の歌謡曲が演歌が、今とてもいい。
平ったくいえば、ぼくも年を取ったということか。
大好きな歌手をあげろと言われれば、たちまち両の指がいっぱいになる。たとえば山崎ハコ。
ファドという音楽が大好きな、お坊さんを知っているが、ぼくにとってハコの歌声は、なぜかブルースと同じ、激しく魂を揺さぶるものだ。岡林信康など、20歳のころから大好きだった。ある曲など聴くたびに泣いた。この人も上手い。ハートがどうのこうの以前に歌が上手い人だと思う、その上に譲れない思いがあるんだろう、その魂の叫びがぼくを惹きつけて止まない。どんなに売れていても、どんなに人気があってもぼくの心に染み入ってくる音楽でなければ、ぼくは聴かない。J.コルトレーンや C.ミンガスを愛して止まないぼくだが、同じ地平に以上にあげた歌手がある。浅川マキも大好きだ。もう、何でも、来いという感じ。
ぼくの親友に、ロックからジャズから、音楽評論家くらいにはお金をかけてレコードやCDを買い続け、聴き続けた男がいる。ぼくはよく知らなかったのだが、キンクスというイギリスのバンドが大好きらしいと分かってはいた。それが30年くらい前。その後ある時から、自分はもう、ビリー・ホリディ―しか聴かないと宣言して、実際に膨大なCDのコレクションは若い人にあげたという。そのちょっと前はブルースに凝っていた。おかげでぼくも少しはブルースを聴くようになった、あるレーベルも知った。なるほどいいCDを何枚か聴けたっけ。
そんなやっこさんでも、日本の演歌がいいとか、歌謡曲がいいねえ、などと言うのを聞いたことがない。いや、ここ数年、この友人に会っていないのである。会ったらその点を聞いてみたいと思っている。音楽は、D.エリントンが言ったのだと思うが、良い音楽と悪い音楽しかない、のだろうか?悪い音楽?言いすぎか、つまらない退屈な音楽といってもよい。
それでも、青春時代にぼくを通り過ぎて行った音楽は、やっぱりいい。
エッセイ 石郷岡まさを