バリではバンジャールと呼ばれる非常に重要な住民の集団がある。日本の江戸時代の村と呼んでもほぼ差し支えないが現代の日本の村とは少しニュアンスが異なる。もっともシンプルに、葬式を出してくれる集団と定義できるかもしれない。あるバンジャールで生まれたものはたとえ他の地に住んでも死ぬまでそのバンジャールに帰属する。しかし、これは男子については言えるが女子は嫁いだ先のバンジャールに帰属する。
愛郷心はバンジャールに
サヌールの凧揚げ会場に向かう若者たち バンジャールの旗を持っている女子 トラック荷台は凧運搬用に竹組で土台が施されている。
はためくバンジャールの旗、旗、旗に注目
シドニー大学の調査団がまとめたバンジャール
約40年前にシドニー大学の調査団がまとめた文書を参考にしながらバンジャールを読み解いてみよう。
バリの王家・ロイヤルファミリーが分家して王とブラフマナ、スリンギ、ペダンダとバンジャールをセットにして次々と新しい集団を設けていった。
すべての家族の長はバンジャールに属さなければならず、バンジャールにはバレ・バンジャールbale banjarと呼ばれる集会所がある。
そしてクルクルkul-kulと呼ぶ危険などを知らせるドラムタワーとpura pemakusaanと呼ぶ寺院がバンジャールにはつきものである。
バンジャールは環境や衛生面の管理や町役場の行政的役目もする。
政府は地方長官を任命するがperbekel と呼ばれる。perbekelはkepala desa と呼ばれる村長を任命するがkepala desa は選挙で選ばれたbanjar の長でもある。
バンジャールはガルンガンやクニンガンの際には共同の炊事場となり、パーキング管理などの利益を貯めて置いてこうしたウバチャラの時には数頭のバビを料理して村人に振舞い、利益を還元する。
バンジャールには次のサブグループあるいは機能がある。
klian adat 宗教と慣習を監督する。
klian dinas 行政事務を監督する。
sekehe teruna 若い衆の集団。
デサ
デサは複数のバンジャールよりなる。人々はデサよりもバンジャールに対する帰属意識が強い。
身近なバンジャールについての見聞
1.ドライバー君は出身地のギャナールと現在住んでいるサヌールの2つのバンジャールに所属しているらしい。年会費を2か所で払っているとのこと。それでもサヌールは仮の地でギャナールのバンジャールが重要だとのこと。ガルンガンやクニンガンはギャナールに帰ってウバチャラを行う。
2.ビラのスタッフMさんにバンジャールの規模を聞いてみた。いろいろだが数百所帯だとのこと。大きな行事は必ずしも単独のバンジャールで行うとは限らない。複数のバンジャールが一緒に行うこともあるとのこと。
3.車で通行するだけで30円程度を徴収する通りがかなりある。さすがに本通りはやらないが、海岸に向かって入り込んだ道はほとんどでバンジャールが通行料を徴収する。バリに住みだした当初は驚いたものだが、次第に慣れてしまった。バリ政府はこんなおかしなことに対して何も言わないのかと思っていたが、州政府もバンジャールには遠慮があるらしい。新聞にはバリ州知事がバンジャールの自治を尊重するような声明をだしていたのを読んだことがある。
4.身近に聞いた話だが、不倫密通した男をバンジャールの男たちがリンチして殺してしまったという。いまだにバンジャールによるリンチが黙認されているらしい。インドでも似た話を聞くのでヒンドゥに共通した自治機能なのかもしれない。
知事投票所の数から推測してバリのバンジャールは6371に近い数字と思われる。
凧揚げもバンジャール単位で。
納得できな通行料もバンジャールで徴収。
バンジャール単位にクルクルがあり、音色と方角で内容を知らせる。で寺院の祭礼に集まる。
祭礼で人手を出さないとバンジャールに罰金を払う。
葬儀もバンジャールで共同で埋める作業を行う。
バンジャールの寺のブマンクは終身身分でバンジャールから専属の田を与えられる。
プラ・ダレム
バンジャールには三種の寺がある。プラ・ダレムは死者の寺で村のはずれにある。
遠藤周作の深い河
遠藤周作の深い河には下記の記述がある。インドの女神についてのものだがバリの女神も当然ながら伝統を引き継いでいる。
この女神はチ ャー ムンダー と言います。チ ャー ムンダー は墓場 に住 んでいます。だか ら彼女 の足 もとには鳥 に啄まれ た り、ジャ ッカル に食べ られて いる人 間の死体があ るで しょう。・・・彼 女 の乳房 はも う老婆の よ うに萎び てい ます。で もそ の萎び た乳房 か ら乳 を出 して、並んでい る子供 た ちに与 えています。彼女の右足 はハ ンセ ン氏病 のため、ただれているのがわか りますか。腹部 も飢えでへ こみ にへ こみ、 しか もそ こには蠍 が噛みついてい るで しょ う。彼 女はそんな病苦や痛 み に耐 えなが らも、萎びた乳房 か ら人 間に乳を与 えているんです(220-1頁)