米国TVドラマのプリズン・ブレイク。TVドラマは2シーズンから8シーズンまで、つまり2年から8年にわたる作品が多いがこのプリズン・ブレイクは4シーズンで4年間にわたって放映された作品だ。合計すると50時間以上の映画でじつに長い物語を見終わったことになる。これだけ長い時間付き合うと見終わったあと一つの人生に付き合った気がする。
主人公マイケルは母親似の異常に頭のよい男として設定されている。サバン症候群かと思われるがサバン特有の映像記憶は持っていない。ただ母もマイケル同様に脳腫瘍の手術を「組織」で受けているのであるいは脳腫瘍が異常な頭の良さの要因になっていることも伺える。マイケルは脱獄に必要な設計図などの情報を刺青にしてメモ代わりにする。(映像記憶とは一度見た映像を再現できる能力で、身近な例では将棋の升田幸三がこの能力の持ち主だった。電柱にとまる雀の群れを一瞬見ただけで再現できたと自ら講演で語っていた)
マイケルは情に異常に厚い。兄のリンカーンやサラ、スクレに対しては自らの危険を顧みずに助け出そうとする。彼の助け出そうとする意思の強さは半端ではなく、それが彼の脳の状態から来ている設定になっている。サバン症候群と思われる知能と異常なほどの厚い情、それに絶対に崩れない意思の強さ、これが従来型のヒロイズムとは一味違うヒーローを描き出している。
それにしても登場する女性大統領のアコギさ、女性大統領を操る組織の存在、米国政府がここまでやるかというほどの極端な司法取引がこの映画の背景として設定されているが、果たしてこの怪しくも巨大な陰謀組織の設定は有る種の真実を含んでいるのだろうか、何かの予言だろうかと気になってくる。そして米国の表現の自由を感じさせる、日本で首相の陰謀みたいな映画は許されるのかな。
マイケルの知能
建築学の修士課程を終えている。フォックスリバー刑務所の設計図を刺青にして体に書き込むことが脱獄を成功させる最大のポイントになる。鉄を錆びさせる液体を刑務所のクリーニング剤から作り出して医務室の下水に流し、通り抜けられるようにする、刑務服を白く脱色するハイパー様の洗剤を使う、医務室に出入りできるように糖尿病の仮病を装うなどは特別に知能が高くなければできないことではない。
頑丈な壁を破るときに特定のポイントのみドリルで穴をあけて置くと穴があくというところなどは建築工学の修士であれば常識かなとも思う。
組織の秘密を追っていく過程でBARGAINという単語をB AR GA INと分解して太陽エネルギー兵器の秘密に迫るところなどはマイケルの知能さすがと思わせる。
マイケルの情
通常いくら情が深くても兄の脱獄を企てるために自らも銀行強盗で捕まって同じ刑務所に入ろうとは思わない。それにこの兄貴リンカーンは適当に悪いこともするいわば乱暴者の男だ。大学院までの学費も当初兄が出してくれたと思っていたが実は父が出していたことも後でわかる。おまけに兄は実の兄ではなく組織ではたらいいてた同僚の子で三歳のときに両親が死に、育てた子だったことも。しかしマイケルは両親に捨てられてひどい育て親に虐待を受けている環境から兄が救いだしてくれた恩を決して忘れない。マイケルの父が学費を出していたのならなぜ虐待する男に預けたのかなど矛盾はあるのだが。マイケルのサラに対する強くて純粋な愛情が後半の物語を引っ張る。
マイケルの父は組織のメンバーだったが途中で抜けて追われ、子供を捨てる。母も同様に組織のメンバーだったが別組織のボスになる。母はリンカンを憎んでいるがマイケルは愛していると言う、しかしその愛はどこか不純で、金と権力だけを求める女がマイケルを愛の名のもとに取り込もうとする、それが一層マイケルを苦しませる。サラがこの母を正当防衛で射殺する。
マイケルの宗教心
脱獄して逃亡中に教会で懺悔室に入り懺悔する場面がある。信仰心を見せるのは後にも先にもこの1場面のみ。TwentyFourやHomelandなど米国ドラマでは驚くほど宗教心を見せる場面が少ない。TwentyFourではジャックが上司を大統領命令で殺す場面があり、「神よ許したまえ」と唱えたあとに引き金を引く。Homelandでは主人公がモスリムになっているが本心からかどうかわからない。
べリックの改心
あれだけ悪辣な刑務主任が最後はマイケルとリンカーンやスクレを助けるために自己犠牲で水道管の中で溺れ死ぬ。ティーバッグの次に憎まれ役だったべリックの突然の改心であり意外性に驚く。もともと母親に愛があり、サラを刑務所に誘ったという伏線があるのだがここにきての突然の自己犠牲はティーバッグとの差を強調するためだろうか。しかしティーバッグもシーズン5では改心してマイケルを助ける。このときティーバッグの息子が登場するのだが、それまでのシーズンで彼は遺伝的に子供を作れないしかもEDの設定になっている。これだけ長編の映画では多少の矛盾はしょうがないか。
おぞましいティーバッグ
この映画でのもっとも嫌われ役であるティーバッグはおそらく観客の誰もがおぞましいと思い、殺されることを期待される存在だ。物語の終わりでは刑務所に舞い戻り、最後まで生き延びることになる。5人もの幼児レイプと殺害でなぜ死刑にならないのかが不自然な設定には違和感があるが、この男の悪辣さおぞましさが観客のマイケルの行動に対する期待を強調することになる。舌をなめる癖、肩を落としながらゆする歩きかた、半白眼で相手をにらむしぐさ、近親相姦で生まれた性的不能者という設定とあいまってこれほどおぞましい男を最初から最後まで主人公マイケルと同じくらいの露出(出演頻度)で描いた映画も珍しいのではないか。
サラの魅力
刑務所の医者であるサラは清楚で知的な雰囲気を漂わせる知事の娘だが意外なことに麻薬(モルヒネ)中毒者でアルコール中毒者だったという設定だ。この女優の出演がなければプリズン・ブレイクはこれほどの魅力を持ったとは思えない。それにしてもサラの首の代わりになった女性はだれが殺したのかドラマははっきりさせていない。あるいはサラが強要されてころしたのかも。
ブルーラベル
ドラマの中で唯一ブランド商品がでてくる。ジョニーウォーカのブルーラベルだ。秘密組織のトップクランツ将軍「閣下」は暗殺要員の女グレンチェルがブルーラベルを飲んでいるのをみて、組織の金でそんな高い酒は飲むなという。しかし閣下は常にジョニーウォーカのブルーラベルを嗜んでいる。暗殺要員の女グレンチェルは閣下の女で、一人娘を姉に預けているが、この女の唯一の弱点がこの娘だ。
ニックネーム
このドラマでニックネームで呼ばれる囚人が2名登場する。シーノートとティーバッグだ。シーノートC-noteは100ドル紙幣のことでベンジャミンフランクリンが描かれている。
ベンジャミン・フランクリンは、アメリカ合衆国の政治家、外交官、著述家、物理学者、気象学者。印刷業で成功を収めた後、政界に進出しアメリカ独立に多大な貢献をした。また、凧を用いた実験で、雷がelectricityであることを明らかにしたことでも知られている。 by wiki
囚人の元イラク帰還兵ベンジャミンがその名前からシーノートと呼ばれる。
ティーバッグは幼児殺害犯のおぞましい囚人セオドア・バッグエルのセオドアのかしら文字とバッグエルのバッグからつけたものだが、このティーバッグも紅茶のティーバッグではなくおぞましい意味をもつ隠語になっているところが面白い。知りたい方はteabag 隠語で検索してください。
印象が激しく変わるマホン
元FBI職員のマホンは常に医者に処方されないと入手できない向精神薬を常用しないと仕事が続けられない。エキセントリックで容疑者を何人も殺すことに快感を覚える異常者だが頭脳はマイケル並みに優秀という設定だ。前半ではべリックと双璧をなすほど視聴者に憎まれていると思われるが後半パナマの監獄SONAで薬を断つ頃から人格がまともになってくる。それに伴って表情もまともに。その変化の演技ぶりが面白い。
組織が守るスキュレとは
太陽エネルギー兵器が最大の秘密で、効率の極めて高いB AR GA INの4元素からなる太陽電池がその技術の核心になる。これは荒唐無稽の作り話だが物語では極めて価値の高い特許技術とされている。他に真水生成装置やどんな土地でも栽培可能で栄養豊富な植物の種子がある。これらの製品設計情報の入ったデータ記憶装置の争奪が後半のテーマになる。ちなみにこの設計データは700億から1000億円の値がつく。
あの500万ドルはどうなった
伝説の強盗犯が隠した500万ドルはユタ州で掘り出された後、ティーバッグが独り占めしてパナマまで運んでくるがマイケルに取り返された後組織に襲われて海に落ちて沈む。そのあとどうなるのかは不明のまま。あるいは企画されている続編でだれかが海底から拾いだし、それを巡って物語が展開するのかとも考えたが、続編でも誰も手をつけていない。しかしマイケルとサラそれに子供の幸せな未来が暗示されるので彼らが生活資金にパナマに取りにいくのではと思わせる。
日米の刑務所の違い
ドラマだが米国の刑務所の真実を少なからず描いているだろうとの前提で。
夫婦の面会日にはセックスも可能。
刑務所の庭には公衆電話が設置されている。
米国では死刑囚にも作業がある。
刑務官の賄賂といじめが日常茶飯事としてある。
米国は二人房で日本は8人部屋。
日米で時給がほぼ同じ程度だ。米国、日本ともに能力で差があるが30円程度。
科学的根拠
電磁波やフックの法則でコンクリートを割る話やB AR GA INで太陽エネルギー兵器を作るなどは荒唐無稽だ。