電電公社中央学園の講堂で講演した紀野一義が言ったことを未だに記憶している。50年ほど前のことだ。日本にはたおやめぶりとますらおぶりがあると。そしてたおやめぶりが優れているといった。
「たおやめ」とは、若い女房のしなやかな腕 自分の赤子を長時間抱く強さで 賀茂真淵が「たおやめぶり」と評した。
「花に鳴く鶯、水に住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌を詠まざりける。力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれとおもはせ、男女の仲をも柔らげ、猛き武士の心をも慰むるは歌なり」古今集 「かな序」紀貫之
一見か細く弱々しく見えるものに、実は天地を動かすほどの力がある、「ますらおぶり」負けると折れてしまうが「たおやめぶり」は一挙に崩れることはない。
日本人は自然に対して「たおやめぶり」だった。古神道では自然に八百万の神が宿り、日本仏教では水にも一輪の花にも仏性を認めた。