スウェーデンの森に住む人の話を聞いた。人里離れた所で、電気も太陽電池のみで、水道もガスもない。大きな湖の側に家があり、お隣とは4キロメートルも離れているそうだ。冬の間は雪で住めないのでバリに住んでいる。春から秋にかけてはこの湖畔の家に住むという。湖では魚が釣れ、あたりにはオオカミ、鹿、キツネが出没するという。まるでヘンリー・ディヴィッド ソローの「森の生活」(Walden, or Life in the Woods)のようだというと、それはまだ読んでいないという。
若い時にけっこう夢中になって読んだ「森の生活」の内容も今は記憶の彼方に去って、ネズミを捕まえてから揚げにして喰う話や湖での釣りの話などが微かに残る程度だが、これまでで印象に残る本の一冊になる。今度帰国したら持って来よう、再読してみたくなった。
このスエーデンの森は全くの静寂に包まれている。一人で住んでいるときには全くしゃべらない日が続くそうで、ときおり尋ねてくる人が大きな声でしゃべるととんでもなく違和感があるという。夜には沈黙の声を聴くという。詩の一説のようだと少し茶化すと、いや詩ではなく全く事実なのだという。
完全な静寂と言うものをこれまで経験しただろうかと思いを巡らせてみる。サハラ砂漠、ボリビアの山中や塩湖、バリのニュピの日と思いつく。中でもモロッコから行ったサハラ砂漠は完璧な静寂で、ここでは24時間動物の鳴き声さえしない。ボリビアの山中はひとつの小ぶりな街というより集落になっていたが、昼間は生活音がする。同じくボリビアの塩湖ウユニも夜はあたり一面の静寂だが昼間は観光客で騒がしい。バリのニュピの日も劣らず静寂だが、それは人為的な静寂で、人々が静まり返っている気配がある。