まさおレポート

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バリ島綺談 カリマンタン籠バッグ屋の親父とダヤック 2

2018-05-11 | バリ島 人に歴史あり

親父はレヤックを見たという。夜中の一時にショップからウブドに向かう途中に巨大な黒い犬が現れたという。毛穴が総毛だったそうだ。すぐにブラックマジックだと感じたという。別の場所では巨大な蛇のレヤックを見たという。バリ人の遺伝子に潜むなにものかの作用かあるいは集団催眠に近いものを子供の時から植えつけられるのか。店先にいた近所のビラの門番ワヤンも話に加わる。

ワヤンは出身地のシンガラジャで一度見たと云う。空中を、歩くようにしていたという。彼によればバリ人なら10人に一人くらいの割合で、この妖怪をみたことがあるそうだ。ワヤンはさらに彼の上歯がすべて欠けている理由を話し出した。彼はまだ52歳なのだが、上歯が抜け落ちているために実年齢よりも老けて60歳以上にみえる。ワヤンは歯が抜けた理由をブラックマジックだという。

でました、ブラックマジック!「何故ブラックマジックだとわかるの?」「???」「ジェラシーだ。小さな家を建てたときに、それを嫉妬された」またもや、嫉妬。この嫉妬が理由でブラックマジックをかけられたという話をきくのは2回目だ。このレヤックの話は、かつて何年も前にウブドにあるホテルのスタッフからも聞いたことがある。その青年は何度もみたことがあるとごく普通に、少しめずらしいキノコの存在を見つけたことのようにしゃべっていた。老女がレヤックになるケースが多いとも付け加えた。

 そんな話をしていると親父の息子が大学から帰ってきた。目は親父に似ているが親父ほど野性的ではない顔つきと体つきをしている。

「あんたの息子はハンサムだね」

「妻に似たんだ」と目を細めて答える。バリの親父は実に素直に息子を可愛がる。可愛くて仕方がないとの想いが直に伝わってくる。

経済学を学ぶ4年生の息子はこのバッグ屋を継ぐのだろうか。おそらくは別の道を歩みはじめるに違いないがさてその先にはやはりバッグ屋を継ぐのだろうなとの予感が働く。残念なことにバリでは大学を卒業してもふさわしい仕事があまりにも少ない。観光関連の仕事か学校の教師が思いつくばかりだ。

さてこの親父から買ったダヤックの山刀に話を戻してみよう、ビラに持ち帰ったあとに洗うとビーズはきれいになったが刃は赤錆びていて、これをなんとか研ぎ上げてみたいのだが砥石がを手元にない。そこであたりを見渡すとふと庭に砂だまりがあるのが目に止まった。それを見てかつて松江で街巡りをした時に武家屋敷に砂溜まりがあり一朝事ある時は槍を砂溜まりに突き刺して錆をとると聞いたことを思い出した。錆びた山刀を砂溜まりに何回も突き刺していると錆はとれたが擦り傷がひどい。 

細かい無数の擦り傷が入ってしまい、砥石で磨いても刀特有の冷たい光が出てこない。まあ素人がこすったためで仕方がないかとあきらめて2年ほど放っておいた。あるときビラの知人との話で刀を研ぐのは実に難しいという話をしていたら、その知人は話を覚えていてくれて、後日たまたま彼のもとに遊びに来られたカップルの旦那さんが実はバリ島で一人しかいない刀鍛冶だということを教えてくれた。刀を研ぐ話をして2日後に彼の部屋にバリ最高の刀鍛冶名人が現れる。どう考えても出来すぎているほどの話だ。何らかの力でこの二振りの刀がバリの刀鍛冶名人を招き寄せたような気がした。

刀鍛冶氏にこのダヤック刀は研ぐに値するものか尋ねてみた。彼の答えは、ビーズで出来た鞘は後で土産物らしく拵えたものだが刀身はなかなか良いものだという。購入した値段を言うと、とてもそんな値段で買えるものではないらしい。刀鍛冶氏の顔つきをみて信用した私は早速この2本を研いでもらうことにした。2日後に研げたとのメールが紹介してくれた知人に入って、添付写真をみると光りすぎていてよく刃が見えない。今日やっと研ぎあがった刀身をみてその見事な出来栄えに感心した。写真では冷たい光を表現できていないが黒錆はきれいに落とされ、無数にあった細かい疵は消えて刃特有の光を放っている。

この見事に研ぎ上げられた山刀を持ってカリマンタン親父を久しぶりに訪ねた。親父はしばらくこの刀身に見入っていたが

「売値の10倍でも買い戻したい」と笑いながら言った。冗談半分だが本音も混じっていたかも知れない、10倍と言えば30万円にもなる。

「バリの刀鍛冶はパンデと言う階級だ。ブラフマナ、サトリア、ウェシア、スードラは知っているよね」

「友人にブラフマナがいるからよくその話は聞いている」

「このカスト以外にスルンプと呼ばれるパンデ出身の司祭階級があるんだ」

「それは聞いたことがないね」

「スルンプはパンデの儀礼を行う。パンデは巧いという意味で、鍛冶屋はスードラだがクリスと呼ばれる聖なる刀を作るので特別扱いなのだ」と親父は博識を披露してくれる。

今この記事を書いているとバリに置いてある山刀が再び錆びているのではないかと心配になってきた。親父の息子も既に社会人で働いていることだろう、ひょっとしたら既に引退して息子が後を継いでいるかも知れない。次に行った時はゆっくりとよもやま話をしてみたい。ダヤック族の集落に向かう旅の話ももっと聞きたい、既にある程度の開発が進み親父の体験した冒険旅行はレジェンドとなっている。

追記

ダヤック人について書かれた論文を見つけた。

ダヤック人(上)“DAJAKS”, Encyclopaedie van Nederlandsch-Indië .深見純生訳 で気になるところを紹介してみたい。

おおいに目立つのが耳飾りである。たいていの部族の習慣では,耳朶に穴をあけて重たい耳輪をぶら下げることで耳朶を非常に長く延ばしたり(バハウ族),穴に棒を入れ,その棒を段々太くしていくことで,あるいは畳んだ葉を入れることで穴を大きくし,ついにはを外側を金の薄板で覆った鉄木の円盤をその穴に入れるようにする。カヤン族とバハウ族はさらに耳殻の上部に穴をあけ,その中に勇敢さが卓越するボルネオ豹の犬歯または熊の歯を挿している。

カヤン女性の耳朶は男性よりさらに長く下がり,肩より10センチも下がっていることがある。

ダヤック諸部族には刺青の習慣がきわめて一般的である。

(写真の女性の顔や手の甲にはひっかき傷のような入れ墨が無数に入っている。)

ダヤック人の剣はカヤン族ではマラットmalat,海ダヤック族ではパラン・イランparang ilang,そして南東州ではマンダウmandauといい,刀身が非常に重くて上部では1.5センチの幅があり,そして刀身の一方から他方へと窪んだ穴が1つあいているという特徴がある。きわめて念入りに鍛造され,非常に鋭利で堅いので,釘を叩き切ることができる。武器として使うだけでなく,枝を切り,板を削り,また薪を割るのにも使う。 

写真の刀はバリでカリマンタンバッグを商う親父から買ったダヤックの山刀で、確かに「刀身が非常に重くて上部では1.5センチの幅があり」とあるとおりだが「刀身の一方から他方へと窪んだ穴が1つあいているという特徴」は見られない。

吹矢は戦具としてはほとんど意味がなく,狩猟具として用いられることがずっと多い。2メートルほどの長さの固く丸い棒を均等にくり抜いたもので,一方の端にはさらに槍先が付けてあることが多い。非常に軽い20センチほどの矢を吹いて飛ばす。矢の先には植物からとった毒が塗ってある。矢の末端に,吹き棒の中の溝にはまるように非常に軽い木片か骨片が付けてある。この矢をしまっておくのに太い竹筒で作った矢筒を用い,竹か木の丸い蓋と帯にかけるための鉤がついている。

バリでカリマンタンバッグを商う親父と交わした会話を以下に再掲すると2メートルほどの長さの固く丸い棒や毒矢が一致している。

ダヤック人の交易行の主要な目的はビーズの買い入れである。つまり,古いビーズを所有することは,内陸の諸部族においてたいへん値打ちのあることなのである。くわえてビーズはあらゆる衣服の装飾や宗教儀礼において用いられる。さらには部族内で交換手段として,つまり貨幣に代わるものとして使われることも多い。 

写真の山刀にもビーズがふんだんにつかわれている。

バリ島綺談 カリマンタン籠バッグ屋の親父とダヤック 1

バリ バッグ屋の親父に22年前のダヤック族の話を聞く 事情が許せばカリマンタンにいたかった

昨日は鉄の日 ダヤック刀の手入れ


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