もしNTTグループが一体化すれば競合には不利ということで NTT法廃止に反対ということが今回の議論の最大焦点だと言っても良さそうだ。島田社長が「NTTとNTT東西、NTTドコモの統合はない」と宣言するが口約束だけでは誰も信じることないというのも至極当然だ。
いまは分離されているNTTとNTT東西、さらにNTTドコモが一体化する可能性が出てきて何が困るのだろうかを深掘りしてみたい。
競合が大きくなられたら困る、そりゃそうだろうが企業が巨大化することは独禁法に触れなければこれはどの国でも許された企業間競争だ。独禁法に抵触するかどうかが問題ならば独禁法で争えば良いがこれも心許ない。
日本ではATT解体に持ち込んだ米国の独禁法規制とは違って公正取引委員会はどうもそれほど力がありそうに思われていない。それにグローバリズムの縮退のサイクルに入っており、国民にとって企業の大きいことは自国日本の産業立国に有利だと国民は半導体凋落の反省も含めて思い始めている。
失われた30年はグローバリズムのせいではないかと考える人もいる。だから一層この巨大化阻止の攻め方は競合3社には部が悪い、30年前なら大手を振って通った攻め方だが。すでに横綱企業なのだから競合各社も巨大化すれば良いと反論されるだろう。
NTTとNTT東西、さらにNTTドコモが一体化すると内部相互補助ができ、競合には高く、内部取引には廉価で光ネットを提供できる、競合にとって極めて差別的かつ不利な競争状態が生まれるという論理はかつて有効な反論だった。3社はNTT東西に光ファイバー網を接続してもらって、全国の5Gや4G基地局を運営している。これがNTTドコモと一体化してしまい、不利な条件での接続を強要されているのであればその事実を裁判で持っていき争えば良い。そうでなければ「内部相互補助は発生していないし今後も発生しない。事実無根の恐れだけでNTT法廃止を反対されるのは根拠を欠くと反論されそうだ。
かつて理論の中心にあった内部相互補助を振り返ってみよう。1990年3月末に政府は「講ずる措置」で移動体通信業務について一両年内を目途にNTTから分離して完全民営化することで競争条件を整えた。これを受けて1991年8月にドコモの前身である エヌ・ティ・ティ・移動通信企画(株)が設立されることになる。
このエヌ・ティ・ティ・移動通信企画(株)が設立されたのは内部相互補助の完全な防止のためだ。当時欧米のレギュラトリ-関連では頻繁に「subsidiary」の禁止がキーワードとして登場し、新電電各社もこの防止を訴えていた。この「subsidiary」防止=内部相互補助の防止の結果としてエヌ・ティ・ティ・移動通信企画(株)(現在のドコモ)が設立されたのだ。
ドコモが100%NTT子会社になったということは競合他社との競争状態が十分に整い、NTT内部相互補助も問題ないと政府も認め、競合も大きな反対もなく認めたと受け取られたのだ。売上高やシェアから見ても各社が横綱クラスになりドコモも死に物狂いで戦わないと生き残れないと世間が認めたと受け取られている。
NTTからすればKDDIもソフトバンクも自社光回線を高速道路中央分離帯や鉄道側溝に持ち、一体となって効率的経営をしているではないか、との気持ちがあったのだろう。
冷静に客観的に理論的に考えるといまさらドコモが100%NTT子会社になったことをNTT法廃止反対の論拠に使うのは感情論としてはわかるが論理的ではない。
現在の攻め方としてはドコモが100%NTT子会社になったことが結果として政府の失政であったのかどうか事実を持って証明するしかない。失政であったことを事実として証明するには競合2社の経営がドコモ100%NTT子会社後悪化したことを挙証してその原因がドコモ100%NTT子会社と因果関係があることを挙証するしかない。政府の諮問も裁判を擬制しているのだから裁判官(最終的には審議会委員だろうか)の心証を動かせるかがポイントとなる。この心証を得られないと反論の根拠は潰える。
NTTの島田社長は「NTTとNTT東西、NTTドコモを統合する考えはない」としているが、3社の社長は全く島田社長のことを信じていない。髙橋社長は「(再統合するつもりがないなら)法律に書いておかないといけない。分離分割の方向が閣議で決まっていたにも関わらず、法律に書いていないからとNTTはNTTドコモを完全子会社化してしまった。こういうことをされるので、基本的には法律に残しておかないといけない」と語る。宮川社長も「NTTはNTTドコモの完全子会社化をしれっとやってしまった。あと、10年、20年後、いま我々がこの事業をやっている世代の人間が気がついて、声を出さないといけない」と苦言を呈す。 楽天モバイルの鈴木共同CEOも「会社というのは経済合理性第一で動く。約束が反故にされるリスクが大きいと考えるべき」と主張する。
いずれもその言い分の気持ちは理解できる。しかし過去の論争を経験してきたわたしの感想としては大事なことはその裁判もどきをどのような戦略で戦い裁判官の心証を勝ち取っていくかしかないのだ。わたしは競合2社の経営がドコモ100%NTT子会社後悪化したことかあるいは確実に悪化することの証明に失敗すればこの論点は負けるとクールに考えている。
残された戦いは地域インフラの公正な扱い、アクセス権を巡っての話に行くだろう。アクセス権だけは誰もが納得する国民の権利であり説得性がある。かつての光の道構想の欠点を克服したリニューアルか、あるいは空港運営会社を模した地域インフラ保守会社構想を探っていくのが最善だと思えてくる。しかしいずれも時間がかかるだろう。来年までに結論が出ることはないだろう。またNTTだけではない、KDDIもSBも地域インフラを提供する覚悟が試される。1990年代と異なりブーメランが返ってくることもある程度覚悟しなければならない。
民営化とNTT法成立後にNTT形態のあり方が10年以上先送りされたように地域インフラの公正な在り方議論は先送りされるかもしれないが、それが日本国にとって最善の道の気がしている。
相互接続クロニクル NTT 新電電 孫正義 1989~2005
宮本 正男
宮本正男
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