まさおレポート

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誤解していた「もののあはれ」

2015-06-19 | 源氏物語

源氏物語のテーマは「もののあはれ」だという。源氏物語が書かれた11世紀以来定まった評価の目線ではなく、江戸時代には不義密通の文学と言われ、昭和初期には天皇家の血筋にまぎれをもたらすものとして教科書から排除されたこともあるという。しかし本居宣長が言い出した「もののあはれ」は現代では定着した価値観となっている。


「あはれ」は本居宣長の『源氏物語玉の小櫛』に、「『あはれ』といふは、もと見るもの聞くもの触るる事に心の感じて出づる嘆息(なげき)の声にて、今の俗言(よのことば)にも、『ああ』といひ、『はれ』といふ、これなり」とあるように、感動詞「あ」と「はれ」との複合した語です。その原義は広く喜怒哀楽すべてにわたる感動を意味しました。平安時代以後は、多く悲しみやしみじみした情感、あるいは仏の慈悲なども表すようになりました。なお、「もののあはれ」の「もの」は広く漠然というときに、その語の上に添えることばで、「もののあはれ」といっても本質的には「あはれ」と同じことだと宣長は説いています。http://kokken.onvisiting.com/genji/genji009.php


小林秀雄が折口信夫にバス停まで送っていき、去り際に「折口信夫氏は、お別れしようとした時、不意に、『小林さん、本居さんはね、やはり源氏ですよ、では、さよなら』と言はれた」と、「本居宣長」の序に書いている。日本はやはりもののあわれですよと言っているようだ。川端康成がノーベル賞受賞式での講演「美しい日本の私」でもののあわれを取り上げて一層不動の言葉として定着している。

この「もののあわれ」日常、目に触れるいろいろな文章のなかにもこの語はときおり見かけるが、意識的に意味を考えたことがなかった。なんとなく、寂しさ、哀れさといったもの悲しい感情のことを言っているのかなと思っていた。しかし現代的な語感のあわれ、つまり無残なさま、を連想する哀れさが日本文学の原点なんて、あまり現代人にはピンとこないし、どうも違和感があるなと長年感じていた。この言葉に接する度に釈然としないものがつきまとっていたのだが特に深く知ろうともせず勤め人の年月を送ってきた。


なにかの折にあわれは天晴れと同根の語源だと書いてある文章を読んだ。なるほど、あわれは天晴れに変化するだろうなと素直に理解できる。ああ、とかあわ、とか感動を発した時に思わずでる発声、つまり嘆声がもとになっている純粋なやまと言葉だ。天晴れの晴れは当て字で特に意味はないらしいが、おそらく当て字された晴れの字がその後に晴れがましい感動と結びついて上昇志向の感動へと使われ、哀れのほうは悲しみを伴う感動あるいは無常さらには空観、芥川龍之介の末期の眼的な感動へと使い分けがされていったものと思われる。

現代ではあわれな生活などを連想する言葉となっている。嘆くとあはれは同じ意味と考えてもよい。悲嘆は嘆き悲しむことだが、感嘆は素晴らしいことに歎ずることで、とにかく心が激しく動くことを指している。


夏目漱石の草枕のテーマである非人情ももののあわれの漱石流の言い方なのでは。憐れを非人情の視点つまり末期の眼で見ればもののあわれ、となるのではと思われる。末期の眼とは矛盾の塊である人間の根源、無明そのものを美と観ずる視点ではないか。

天晴れと同義語ならもののあわれは俄然意味が異なってくる。なんとなく湿っぽいものを哀れと呼ぶのではなく末期の眼にうつる美への感動からからりと晴れ渡ったいわゆる天晴な感情まですべてをカバーする感動の意味だそうで、これだと実に素晴らしい言葉ではないか。古今東西に普遍的で、日本が世界に誇れるテーマだ。

「もののあわれ」の「もの」もなんだかよくわからない言葉だったが、webサイトで、ものとは霊とか神とかたましいを指すとしった。物の怪姫やもの狂いの意味も容易に連想できる。なるほどと合点した。

「都にて 月をあはれと おもひしは 数よりほかの すさびなりけり」旅宿月 西行は旅で見る月が都で見る月と比べ、物の数ではないといったが何故だろう。旅、漂白は人生の凝縮であり、輪廻でいえば転生へ至る中有の写し絵でもある。滅びの美学と言われるが単に滅びてしまうだけのものに美があり得ようはない。春を期待するからこその冬の荒れ野の美であり、それはつまりつぼみを愛するのと同じ心根ではなかろうか。

再生への期待を内包しているからこそ滅びの美学たり得るのだと思える。美は乱調にありもあるいはその意に通じているのかと思う。こう考えてくると輪廻転生感が日本の美意識の基調にあると考えてもよさそうだ。

 


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