「苔色を着る」
★私のぬけ殻となりハンガーに吊られるスーツは古寺の苔色
松井多絵子歌集『えくぼ』より
不況のおかげで服がとても安くなっている。流行やブランドにこだわらなければ、千円でも素敵なブラウスが手に入る。ケーキを2~3個買わなければ服が買える。これ以上絶対太りたくない私はケーキを控えて、つい服を買ってしまう。母は「女は中年になったら安物を身につけるな、着るもので女の背景が知れる」などと生前によく言っていた。「そんなことないわ」とあの世の母に言いたい
近藤芳美の奥方、とし子夫人のあのジャケツトをおもう。八年位前の中野歌会の休憩時間のトイレで「その上着ステキですね」と私が申しあげたら「これはバーゲンで1980円で買ったの」とおっしやった。あのしっとりしたワインカラーはとし子夫人を思わせる色である。
歌会ではブランドの服やバッグを見かけることはほとんどない。若い女はシマムラ的?老女はユニクロ的?お金をかけないセンスのよい装いがカッコイイのだ。短歌はセンスが勝負なのだ。
昨日、私は服の整理をしながら苔色の服がとても多いのに気付いた。老人は明るい色を、と言われるが、明るくキレイな色は私の「老い」を強調するような気がする。暗緑をまとうとき私は安らぎ心地よい。夏は苔色のブラウスに白いスカート、白いバッグ、白い靴
そういえば京都の苔寺にごぶさたしている。境内はいまモスグリーンのじゅうたんを広げていることだろう。約120種の苔とか、あの境内をゆっくり歩きたいなあ。苔色の服を着て。
6月8日 苔色のTシャツの松井多絵子