新たに落札した「篆刻印まとめて」が先日届きました。
週に2,3回のペースでヤフオクで落札出来ております。1回あたり1万円、ただし、出品物が複数に及ぶ印材の場合はおよそ1本2千円を目安にしております。最近は、何でもないような古びた印なのに、10万円前後までエスカレートすることも増え、これは!、といった一品ものは手が届かないのであります。
一日10件以上に対して、ワタシにとっての上値あたりを入札して、瞬間的に最高値となりますが、あっという間に他の方がそれを凌ぐ入札をしてきて、すぐにギブアップとなります。ヤフオクでも、経験を重ね相当な数を落としたりしているので、知らぬ間に目が肥えてきたとみえ、値打ちものがピンとくるようにはなったのです。
非常に魅力的で価値があるものだからといって、際限なく値を上げるわけにはいきません。乏しい小遣いからいっぺんに何万何十万ものお金を投じたら、何か月も指をくわえてみるしかなくなります。
そこで、ようやく二日ぶりに落札したのがこの15本の印材でありました。落札額11,130円は、一本あたり742円と、極めて健全で慎ましい投資であります。一応専用の箱、つまりこの印が売りに出された時にサイズを合わせた布張りの印箱で販売されていたものが4個でありました。これは印材を値定めするうえで大変重要なポイントで、安物・一般流通品の1個数十~数百円の印は、方形の切石で、一つの紙箱にまとめて10本単位で並べて売られているのです。
そんな石は、わざわざヤフオクで探したり落札するほどの価値は無く、二束三文で入手できます。ワタシレベルになると(笑)、ちゃんとした作品・贈り物に相応しい、良質の石質の石や飾り彫りなどが美しい印材、珍しい名石を中心に物色します。また、石印材を蒐集し研究する上で、自分が所有していないタイプの石を集め、またそれらの石の種類を特定していくことがとても大事なのです。そこに、箱入りで、(本当か否かは別にして)石の種類が記載されているものは、その価値を見定める意味でも、新たな石の知識を得る上でも大変有用なのであります。実はいずれ、「サルでもわかる石印材」という印材の入門書の執筆を目論んでおります(笑)。
さて、それに合致して落札した印材がこれであります。
ワタシの興味を引いたのが「太極頭」「三色杜陵」という名前でした。また、石や箱に小さく書かれた「値札」あるいはメモ書きです。書道具店や骨董店の片隅で売られていたと思しき古びた未刻印です。三色杜陵35,000、広東緑3,000、太極頭18,000、青田8,000と書かれているのは、円表示でありましょう。また、他の印材にも$30,$9.50などのシールが貼られておりました。これを鵜吞みにすると、値札付きだけで74,000円という計算になります。それ以外に紐が彫られて魅力的な石が4個あったのです。メモ書きされた価格などは、出品者サイドでどうにでもなるので、あくまで参考程度に留めるべきではあります。
まずは、一番高そうな石「三色杜陵」
寿山石系の中で、優材を産出するので有名で杜陵坑の石ということであります。ワタシの愛読書「石印材 知識と観賞(山内秀夫著)」でも多くの図鑑写真スペースを割いている石です。山内さんに依ると、田黄石と見紛うばかりの石を最近まで産出すると絶賛しています。現品がそれにかなうものかは確たる自信がありませんが、他の石にも専門的で的確な名前を記していることから、かなりの石に関する知見を備えた人によるものだとすれば、信憑性は高いかもしれません。ともあれ、杜陵坑らしき印材は、ワタシのコレクションでは1,2本しかありませんので非常に嬉しいのです。
次が、青田石と広東緑。
これらは篆刻をやる人間であれば、見間違うことはありません。青田石は基本的には、青田石の岩層から切り出した岩塊を方形にカットしたものなので、ほとんどが直方体になっているのです。銘品になると封門とか青田凍、更に藍星(花)入りの希少品もあって、これらは部分的に自然石の形をとどめていたりします。なので青田石の中で、少し高いもの・上品は持ち手側の飾り彫り(紐)を施してあるのです。
今回の石のように扁平で自然形、そして薄くレリーフがある(薄意)のは大変珍しいのです。これは、思ったよりはるかに質が良く美しい青田で、8千円以上の価値があるかもしれません。あぁこれで、4文字の遊印(関防印)を彫ってみたいなぁ、と思わせるのです。
一方右側は緑色系の石材ではポピュラーな典型的な「広東緑」で、深みがある緑色が美しい良材でした。
もっとも興味深いのが「太極頭」と書かれた乳白色の美材であります。そんな表現は手持ちの書物には紹介されていません。ネットでもヒットしないのです。
寿山石系で、紅芙蓉か高山凍あたりかもしれないのですが、もう少しべてみないと何とも言えません。
同じくよくわからない石が三つ
左は、上の細い乳白色の石の仲間で、寿山石と思えます。半透明な中にうっすらと朱色が流れて頂部にも少し飾りがあります。真ん中は赤みが強い半透明の獅子紐ありの石で、上品とは言えず、ラオス石やパリン石ではなかろうかと思います。そして更に謎めいているのが右の透明度が高い石で、茶色・赤・黒・灰色・白と混淆の凍石であります。石質自体は「牛角凍」に近いようですが昌化凍石にも見えます。
さらに石に貼られたラベル、この数字が値段としたら、通貨はどこのものかもわかりません。常識的には中国・香港・台湾・日本のいずれかであろうと思いますが。もし日本円ならば、中央の560円というのはいかにも安いし、そんな半端な値段をつけるでしょうか?かといって人民元ならば、@19円として1万円は高過ぎるか。香港ドルは@16円 台湾ドルは@4円、となると台湾で売られていたもの、というのが妥当な値段のように思えます。
そんな具合で、石印材を蒐集し、その研究を怠って負いませんが、未だにほとんど分からないものが多いのです。集めるほどに謎が比例して増えていくのです。広大な中国の山河、あるいは山の地中奥深くに無尽蔵なほどの岩石があって、その産地や名前を、数十の石の種類の中に当てはめて特定しよう、と思う方が土台無理な話なのです。