植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

彫るだけではなく、のめり込んで石を削る

2023年01月31日 | 篆刻
先日、いつもの書道教室で、書道歴の話題になって、「誰でも長くやっていれば上達しますよね」と尋ねたところ、わが師藤原先生が、真顔で「それは違いますね。何十年やってもうまくなるとは限らないのです。」と。さらに「〇〇さん(ワタシ)は、全く他の人と違う。」と言い出したのです。身振り手振りで、「皆さんは背中を伸ばして書に距離をとっているのに、ワタシは背中を丸めのめり込んでいるように見える」、というようなお話で、それ以上の言葉は何もありませんでした。ワタシの筆を持つ姿勢が悪いという意味か、あるいは、ただ長くやっているよりのめり込んでいるのが大事だと言いたかったのかは分かりません。ほかの書道仲間がいる前で、変な意味でとらえられて気を悪くされるのを心配されたのかもしれません。

篆刻を始めて、その魅力や奥深さに惹かれてのめり込んできました。その延長で石印材を研究し、もっと知りたい・もっと学びたいと日々過ごすうちに、その故郷である中国へ行って、寿山石や青田石の産出地に行ってみたいという願望が膨らんできました。印材の90%以上が中国で採取されているのです。

しかし、コロナもあり、単身で知り合いのいない中国へ印材探しの旅に出るのは現実的ではありません。メダカや1000種類以上の植物の世話もあるので、家を空けるのは3日位が限度なのです。

目下のところ、篆刻で闇雲に彫るだけではなく①石印材についての実用本を著す ②石の飾り彫りである「薄意」や「紐」を自作する ③手持ちの石を種類別に仕分け整理してきちんとしたコレクションにする ④公募展に出品する といったことを目論んでおります。

のめり込む以上は、更に前のめりになって出来ることを限定せず、新しい事知らないことにチャレンジするという姿勢を持ち続けねばならぬ、と自らを叱咤しているところなのです(笑)。

そこで、とりあえず着手したのが「薄意」作りであります。これについては、中国ではその種の専門書が沢山ある、と、さる日本人書家さんが書かれていました。日本にはそんなノウハウ本は発行されていないようです。しかし、中国語の専門書が容易に入手できるはずもなく、また、中国語を解せなければ、写真や図柄を眺めるだけになりかねません。さすがにそのために中国語を学ぶ気にはなりません。

例によって、やってみて、自らの失敗と工夫・試行錯誤によって独学独習することにいたしました。そのステップは、以下のようになります

a.手持ちの安い印材の中でちょっと模様があるものを試しに彫る
→b.そこで足りない事(絵柄・表面の磨き・凹凸の付け方)を修正し、いくつか追加で彫って、ある程度習熟する
→c.先日入手した大型で、まだ彫りかけと思われる石を完成させる
→d.さらにもっと前にヤフオクで落札した1㎏以上ある凍石を10個ほどに細断し別々の印材として「紐・薄意」付きの印材に仕立てる
という計画であります。


aの試作第1号です。まぁ最初はこんなものでしょう。デザインや彫もいい加減で、彫った跡のへこみを均して磨く方法を模索中であります。

これがcで彫る予定の印材で、表には翁か道人がアバウトに刻まれています。裏側が全く粗削りで何の細工もされていません。これに薄意を彫るのです。

で、これがすでにして全面に薄意がある大石であります。
灰色の半透明の石で、それなりの値段で落札したものですが、正直デカすぎるのであります。石自体は、さほど高級石でもなければ、さりとて駄石とも言えません。前述のように、中国で職人さんや愛好家向けの薄意の書籍が色々発行されているのであれば、それを指導する先生や教室・工房などもあるに違いありません。ワタシの想像ですが、この印材(置物)は、そうしたスクールや教室で生徒・弟子が、練習用に試作したものや教材ではなかろうかと思うのです。例えば書道・美術学校の卒業作品みたいなものかもしれません。

なので作款もなく、そのままの形で所蔵していても、骨董価値が出るような代物ではありません。ならば、細かく切断して、実際に篆刻する印材として活用しようと思うのです。印刀を当てると、それなりに彫りやすさと耐久性(硬さ)が備わっているように見えます。既にある薄意を生かしたまま、ワタシが少しそれに薄意を加え、自然形の美しい印材に生まれ変わらせようというのがワタシの計画であります。

中国で、採掘するのはなかなか果たせぬ夢でありますが、最近ちょいちょい篆刻用の道具・印材などをネット販売している「墨文字製作所」で、細かくした寿山石(芙蓉石と説明にはありましたが)の原石を二つ購入しました。
これは、皮の部分を削り落としたり、その形を生かして成形し、きれいに磨いて印材として売られる物です。勿論、原石は二個で1800円と安いものでありました。
これが、飛行機代を使って中国に飛び、さらに幾つも乗り物を乗りかえて福建省福州市の寿山まで行って、その山坑に近い売店で売られていたものだと考えたら、どれだけ安上がりであろうか、と思わずニヤリとしてしまいますね。

この二つの石は早速、これからやすりを掛けてちびちび削って磨いてみようと思います。この原石は、採石する際に割れ落ちた破片か、細かに分断して製品として研磨する石原材の中の「端材」や規格外になったものではなかろうかと想像しております。原石をピカピカにして、「芙蓉石」の印材に仕上げることが出来たら、そのプロセスは大変興味深く、また、ほとんどただで一つ経験値を上げることが出来るのです。

考えてみれば、世に篆刻家は大勢いて、印材を刻む人はもっと沢山いるでしょう。しかし、原石を削って磨き、それに薄意や紐を施し、印面を磨いて篆刻する、そして側款を入れる、という全工程を一人でこなした人は、そうそう居るものではありますまい。

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