植物園「 槐松亭 」

バラと蘭とその他もろもろの植物に囲まれ、野鳥と甲斐犬すみれと暮らす

銘石は田黄だけじゃない 後編

2023年06月03日 | 篆刻
福建省の寿山石の詰め合わせセット50本を細かくチェックしております。

ちなみに太い赤い文字で表記したものはワタシの蒐集対象では最優先している「欲しい!!」石であります。
その製作工場の説明文(勿論中国語)をざっくりと飛ばして読んでみると
「1億3千万年前の中生代に生成された腊石(ヨウロウ石)で、田坑・水坑・山坑の種類に大別される。多品種の寿山石は他に比類ない多彩な様相がある。--中略--身心愉悦・血気通暢・延年益寿。愛好家が満足されるだけでなく、観賞用にも品種を整理するのにもよろしい。寿品居製」というようなことが書かれております。最後の寿品居が販売店の屋号でありましょう。

田黄石が田坑ならば、その次に希少価値があるのは渓流や川で発見される「水坑」の石で、水晶凍や牛角凍などが有名であります。長い間水に浸かって流されているうちに、丸くて透明度・純度が高い「凍石」が産出され珍重されています。とりわけ「魚脳凍」「天藍凍」には田黄と並び称されるような美しく通霊するような石があるようです。通霊という表現を「寿山石研究」の権威である方先生が頻繁に使っていますが、無垢で崇高な趣があるといった意味合いでしょうか。

今回入手した石印材50種のうち、一番上の10個が田黄系であったのです。上から二番目の石が、田黄石に準じて高価・希少性がある水坑の石になります。
再掲ですが、その写真がこれ。
昨夜ヤフオクでウオッチしていた田黄の小石(薄意なし)が10,700円で落札されていました。わずか5gのものなのです。最上段の田黄各種10個は最小でも10g、低品質とはいえ、安くて5000円、ひょっとしたら1万円前後の値段とみても不思議が無いのです。
上から2番目の石を左から列挙します
分類ラベルによれば以下のようになっております。
①牛蛋黄  黄色い表皮で小川や砂利から採取される、ガチョウの卵のような形をしている 
②白水晶(凍)極めて透明度が高い逸材、水晶凍では最も多い
連江黄  黄色い硬めの材で、田黄石に似るが透明度が低い(山坑)
④牛角凍  薄い鼠色で半透明か微透明、水坑には多くみられる
天藍凍  灰藍色で清浄な透明性のある石で、中には田黄級のものも
魚脳凍  水坑の中では最も尊重されるもので、魚の脳に似ている。
⑦鶏母窩  キメ細かで透明度もあり多色が交じり合う。(山坑)
桃花凍  透明性が高く紅の斑点が散るのが佳しとされる。珍石の一つ
茘枝(ライチ・れいし)凍 高山(山坑)で肌理が美しい。
⑩花坑石  線条紋が入り交じり賑やかな色合いで硬い。凍石を尊しとする

ほとんどの水坑の石が、坑頭渓という渓流の上流で採石されるそうであります。透明度が高い「凍石」なので凍の文字が充てられる石が多いのでしょう。

連江黄は昔悪徳業者が「田黄」と偽って高値で売りつけた、とされ印象が悪いものですが、田黄と間違われても仕方ないような温潤な味わいある石も多いのです。ネット・ヤフオクでこの石を見つけたら、安上がりなので喜んで入手したいと狙っています。
⑤と⑥の石は本物で愛蔵されるような天藍凍・魚脳凍とはずいぶん様子が違います。
「墨スペシャル」に紹介されている銘石印材は以下の写真で、妙なる風情の石であります。左の対章が牛角凍、その右が水晶凍、手前の左が天藍凍、右が杜陵坑と言われる逸品ですが、今回の見本と比べたら、当然ながら月と鼈(スッポン)であります。

(こんなのはワタシらの手に入るようなものではありません)

中編で書いたように、中国の田舎の石材屋のおっさんが、咥え煙草で設えたような石材セットですから、やや怪しいものが入っていても止むをえませんね。名前や種類を無視すれば、②③⑧⑨が大変美しく、以前から蒐集対象にしているものでした。

次の写真が三段目以下のもの ここらから一番一般的な「山坑」であります

一番上(3段目)あたりまでがブランド石で、1個千円以上するような石と見ていいでしょう。4段目5段目の20個の石は、名前は知らなくても、ワタシの手持ちの石に多く見られる普通に出回っている実用的な石が多いようであります。
その上の段の左から①紅花芙蓉 ②都成坑 ③白高山 ④瑪瑙凍 ⑤白芙蓉 ⑥太極頭 ⑦坑頭石 ⑧白善伯 ⑨将軍洞芙蓉 ⑩吊筧凍
 となっております。

この段では、その人気や価格の高さが一番の石は「芙蓉石」で、印材の三寶の「田黄・鶏血・芙蓉」に数えられる石です。乳白色を基調として微透明で柔らかな色合い・雰囲気のある石であります。今回のセットでは①「紅芙蓉」と⑨将軍洞芙蓉が美しく価値が高いように思えますな。太極凍という石は、硬く艶麗にして「晶榮(あかるくすきとおる)」という評価を得て、寿山石の名石と呼ばれるようですが本サンプル⑥はそこまでの良品には見えません。

下の写真の真ん中(第4列)と一番下の石は名前を記すに止めておきましょう
4列目
①尼菇楼 ②旗降紫 ③花善伯 ④仙草凍 ⑤月尾紫 ⑥紅孝? ⑦大山石 ⑧掘性都成 ⑨水洞高山 ⑩月尾緑
この中では③⑨⑩が端麗で、なかなかのものでありました。


5列目
①花半山 ②峨眉石 ③山秀園 ④房?岩 ⑤獅頭石 ⑥紅峨眉 ⑦老嶺黄
⑧白半山 ⑨老嶺紅 ⑩ 汶洋石 これで50個となりました。

ということで35千円で入手した50種類の寿山石をおよそ特定できて、そのうち5,6割が目に留まった良材・ブランド石であったのです。これが、時価がいくらかは全く不明で、どうでもいいことです。印材として実際に彫ることも無かろうと思います。ワタシにとって、もう4日間ずっとこの石たちを手に取り、光を当て、文献と照らし合わせる幸せで有意義な時間を持つことが出来ました。お姉ちゃんのいる店で1,2晩遊んだら無くなる程度のお金で、これだけ楽しめてさらに今後の印材の鑑定や種別の特定に大変な有効なサンプルであります。

滅多にネットでも出ることが無い珍品であります。また見かけることがあったら、35千円が5万でも8万でも出そう、と思いますね。

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2 コメント

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こんにちは石の魔力でしょうか (けんすけ)
2023-06-03 11:37:02
これだけ石を前にするとお見事ですね
まるっきりの素人の僕には美しさに興味が沸きますが
目利きは残念ながら良し悪しは見当もつきません
高尚なご趣味と関心いたすばかりです
どうぞ良い石に出あう事を願っております。
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けんすけさんこんにちは (槐松亭主人)
2023-06-04 10:40:43
石の価値はピンキリで、何十万円から十円程度のものまであるのです。実用にも使えるし、愛玩もできて将来の資産価値も見込めます。

なにより数億年前に組成されたこの石たちが、自分の手中にたどり着くまでに、どんな歴史や人の手を経てきたか・縁があったかを想像する、そのロマンが魅力なんですよ。
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