植物園「 槐松亭 」

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寿山石の印材セット メインはやはり田黄だ (中編)

2023年06月02日 | 篆刻
昨日に続いて「寿山石見本セット」のお話であります。

こういう品物は、おそらく現地福建省の印材を扱う商店・工場街に行けば入手できるものであろう、と思います。「石工場」と表記されていても、せいぜい全部で数人の小規模なお店ではないか、近代工場で数百人も働いているとは到底思えないのです。家内工業だろうというのは、ワタシの中国の僻地や寒村を想像する中での偏見であります(笑)。それでもいつかは中国福建省に渡り、寿山石のふるさとを体感し、現地で販売されている怪しげな田黄を購入したいものだと願っております。

50個ある自然石の種類を表す文字を数個を除いて解読いたしました。150種ほどあるという「寿山石一覧表」は、この工場で一応提供できそうなものを中心に書いているのでしょうか。親方か、あるいはこうしたセットを手作業で揃えて化粧箱にはめ込む作業をする担当が、大量にある在庫の中からたぶん「テキトー」に50個を抜き出し、その名前を帯状のラベルに印字したのです。従って、数個は漢字変換ミスや誤字があって解読困難になっているのです。

例えば「三秀園」は「山秀園」の誤り、「牛角連」は「牛角凍」でしょうし、「紅孝〇」というのは結局なんだかわかりません。中国のおじさんが、自分で選んだ石を並べて、名札がわりにラベルプリンターみたいなもので打ち出したので、誰かが正誤チェックするなどというシステムは無いでしょうから、間違っていても不思議はありませんね。

ともかく、おおよその石の名前が判明したので良しとしましょう。「前編」で説明した通り、この50個の中で、銘石・希少石に数えられるのは上の方にある20~30個で、それより下の石は、寿山石でも「老嶺系」か半山・峨眉山系の一般的な石で、さほど気にすることもなく、収集対象とはならないものであります。

ここからが、その石の名前を一応記録に残し、備忘録としてあるいは石のサンプル表として自己目的で記載するものです。
一番上の列・・・これが「田黄」に分類される一群です。
左から順に説明いたします
①黒田  黒褐色、牛角凍に似る
②田黄凍 透明度が高く珍重される
③白田  白い地色に黄色が混じる
④銀裏金(田石)または銀包金 外皮が白(銀)で地色が黄色⑦はその逆
⑤灰黒田 灰色の田石 
⑥擱溜田 または猴流田 土中から地表に転がり出ているのを拾われたもの 
⑦金裏銀(田石) または金包銀
⑧硬田  石質が硬く粗いので安い
⑨渓管田 または渓管独石 田石が流されて渓流の底に溜まったもの
⑩黒皮田 田黄の表皮が黒く、希少品の烏鴉皮田とも混同される 

この一群に共通するのは、まず、最も価値が高いとされる「田坑」の石であろうということ、10~20gの小石で、高価な田黄に施される「薄意」や紐彫が無いことであります。夾雑物が多い、凹凸があって細工が難しい、透明度が低く「通霊」という田黄石を評価する大事な要素に欠けるといったことから商品価値が低く、単品としては売れないでおかれていたのでしょう。

捨てるには惜しいが、さりとて細工するにはあまり美しくなく、小さい石でやった甲斐が無い、というものであれば、せいぜい一個数千円のものとみていいのです。
田黄を中心に石印材を研究し、蒐集しているワタシにとっては、そんなことは大したことではなく、田黄のもつ特徴を知り、実物に触れる喜びが優るのであります。

ところで田黄は、別の角度から見た分類もあります。前提としては田黄特有の黄金色飴色の色合いで、寿山の中で田黄の母岩と言われるものを含んでいます。あくまで見た目外観の色合いで田黄を分類するのです。

「橘皮黄 栗子黄 黄金黄 鶏油黄 枇杷黄 桂花黄(キンモクセイ) 蛋黄 桐油黄」といったところであります。いずれも石肌や地色の色合いが何に見えるかというネーミングでありますので、これもワタシにとっては大した問題ではありません。
 
脱線ついでに言及するなら、ヤフオクで毎日数十件ほど出品される「田黄石」で、大きな角印をよく見かけます。ほとんどが中国で作られている美術品・骨董品・模造品・お土産物でありますが、そのほぼすべては狭義の田黄とは異なるものだとみております。その理由は、①もともと田黄は畑の土中から出土した手のひらに収まる程度の丸い自然石である ②紅筋や蘿蔔紋(らふくもん) などが見当たらない ③金と同じ価格で重さで取引されたほど希少な石である ことであります。

すでにその資源は枯渇したといわれる田黄なのです。そんな貴重な蒐集家の垂涎の的になるような本物が、ヤフオクでごろごろしている方がおかしいのであります。中には、黒い皮(烏鴉皮)が付いたままの田黄が出品されています。何万年も土中にあって原石の廻りが黒く変色した硬い表皮であります。これも本物ならば大変美しく、珍重されるのです。ところが、その「烏鴉皮」の名称で角材が出品されます。丸い自然石であるはずの田黄が角形に切られ、4つの側面が黒い皮に覆われているというのはあり得ないことであります。これは、わざと高温で表面を焼いたか黒く染色したかのいずれかであります。

200~500gもあるような大きな角石で、大仰な刻字が彫られて立派な紐があるような石は、天然石であってもせいぜい「新田黄」と呼ばれる偽物であります。田黄の母岩と言われるような山坑から切り出した切石に細工をして高級品に似せているものが出回っていて、これは偽田黄でも10万円位するので馬鹿にできません。博物館級といわれるような大きな田黄が本物なら、100万円はおろか一桁高くなってもおかしくないのです。表題の本を出した方先生の図鑑にもそうした角石を細工したような田黄は、ほとんど掲載されておりません。

次は2段目の石材です。が続きは後編に譲るといたしましょう。

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