美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

全世界は、バイデン「ギャンブル」のツケを支払うことになる

2022年05月16日 16時42分58秒 | 経済


バイデン政権下でパンデミック対応として2021年3月まで実施された現金給付は3回におよび、総額が8500億ドルを超えました。8500億ドルを1ドル=130円で換算すると110兆円超となり、日本のGDPの20%超の規模です。

では、2回目給付の2020年12月から3回目給付の2021年3月までの米国インフレ率はどうだったのでしょうか。

下のグラフにあるとおり、2020年12月5.4%、21年1月5.4%、2月5.3%、3月5.4%とけっこう高率で推移しています。つまり大量の現金給付を実施することに対してすでに赤信号が点滅している状況だったことが分かります。バイデン政府は、「ええい、ままよ」とばかりにギャンブルをしたといわれてもしかたがありませんね。



今回紹介する「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」掲載の最新論考は、バイデン政権の「ギャンブル」は失敗に終わり、アメリカ経済さらには世界経済は、悪性インフレとその後の景気後退というツケを支払わされることになる、と述べています。

よろしかったら、ごらんください。


***
ガンドラック氏の景気後退予想: 現金給付のツケを払うことになる
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/23546
2022年5月15日 GLOBALMACRORESEARCH

債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏がFox Businessのインタビューで景気後退を予想し、その理由を説明している。

株価が下落し、今後の先行きが危ぶまれるアメリカ経済について、ガンドラック氏は次のように始めている。

今年ではないが、来年には本物の景気後退が来そうだと信じる根拠が出始めているようだ。

ガンドラック氏は理由を2つ挙げている。1つ目は住宅バブルである。

家賃高騰が消費者にのしかかる
アメリカでは住宅価格が高騰しており、それがインフレの大きな部分を占めている。

• アメリカの住宅価格が2月に19.8%上昇、再上昇開始
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/23546

ガンドラック氏は次のように続ける。

アメリカの多くの都市で住宅価格は2年で30%上がった。そして30年の住宅ローンの金利は倍になった。
これは住宅のための支払いが2年前から倍になったことを意味している。


住宅価格高騰で純粋に得しかしないのは現金で住宅を買ったオーナーだけである。

賃貸に住んでいる人にとっては家賃が高騰することになり、ローンで家を買った人にとっては、固定金利でなければ金利が上がることになる。資産である持ち家の価格も上がっているのだが、家を売却しない限り絵に書いた餅であり、毎月のローンの支払いは増えてゆく。

結果として人々は他の消費を減らすことになるというわけである。現金給付をきっかけに始まったインフレは、今や給付された額の何倍もの悪影響を消費者に与えている。

消費の前借り
そしてガンドラック氏が景気後退予想のもう1つの根拠を次のように説明する。

コロナ対策の現金給付の結果、一見経済は良好であるように見えた。しかしその大部分は消費を前借りしたためだ。

現金給付が消費と物価を押し上げたのは単純な事実である。消費と物価を月次データで見れば、アメリカで3回行われた現金給付の直後に両方が急上昇していることが分かる。

そしてガンドラック氏が特に注目しているのが消費の内訳である。個人消費のデータには耐久財(車など長持ちするもの)と非耐久財(洗剤など使い切るもの)などがあり、ガンドラック氏はこれらの内訳について次のように述べている。

現金給付の結果、耐久財の消費が爆発し、トレンドラインから30%上昇した。非耐久財の消費は20%上がっている。

実際にグラフを見てみると次のようになる。
*青線が耐久財、赤線が非耐久財 です。(引用者 注)



アメリカで最後に現金給付が行われた2021年3月に、特に耐久財の消費が爆発していることが分かる。

そして両方のグラフはコロナ前のトレンドラインを大幅に上回っている。現金給付はコロナで沈んだ経済を元に戻すためのものだったはずなのだが、完全に過剰だったことは明らかである。

それでインフレにならないわけがあるだろうか。インフレがロシアのせいだという寝言を言っている人は、このグラフを見たことがあるのだろうか。

• 世界最大のヘッジファンド: インフレになって驚いているリフレ派は馬鹿じゃないのか
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/19942

しかし現金給付の結果は物価高騰だけではない。ガンドラック氏は個人消費のグラフについて次のように述べている。

これが意味することは、いずれ元のトレンドまで戻らなければならないということだ。
中古車や電化製品、冷蔵庫などの耐久財を買った場合、耐久財は耐久するので、当分もう一度買うことはないだろう。

これを踏まえて上のグラフの耐久財消費の爆発を見直すとどうだろう。その爆発は、消費にその後同じだけの穴が空くということを意味している。

結論
元々コロナ後のばら撒きに一貫して反対していたガンドラック氏は次のように包括する。

ツケを払わなければならない。

消費者は既に物価高騰のせいで、現金給付で受け取った金額以上のものを支払っているが、更にここから株価暴落と景気後退を受け取ることになるだろう。

• 世界最大のヘッジファンド、アメリカ経済がもう手遅れであることを認める
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22771

それが現金給付を支持した人への経済からの当然のプレゼントである。何故人々は自分から望んで穴に落ちてゆくのだろうか。

• 世界最大のヘッジファンド: 政府が金融危機から守ってくれると思うな
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/10473

***

当論考では、物価騰貴の原因としてバイデン政権の現金給付が挙げられています。別の論考で、物価騰貴のもう一つの原因として脱炭素政策が挙げられています。脱炭素政策は、火力発電を目の敵にするので、原油の供給量が減少し原油高になるのです。そこに露宇戦争が重なって、原油・天然ガス・穀物がさらに値上がりしているのです。
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インフレのピークが株価の「大底」になる

2022年05月13日 16時26分13秒 | 経済

バブル崩壊以降、日本の株価がバブル期の最高値を超えたことはない。世界の株価の動向と比べた場合、これは異常事態である。“消費増税のくびき”が最大の要因である(以上、当記事の内容とは関係のないコメントです)。

5月11日(水)の「YAHOO JAPAN ニュース」に、次のような記事が掲載されているのを昨日目にしました。発信源はロイターです。

「米労働省が11日に発表した4月の消費者物価指数(CPI、季節調整済み)は前年同月比8.3%上昇と、1981年12月以来の高水準だった3月の8.5%から減速した。減速は昨年8月以来初めて。(後略)」

日頃「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」を欠かさず読んでいる当方は、すぐに、その誤りに気づき、FBに次のように、データ付きのコメントをアップしました。

《3月のインフレ8.5%の比較対象となった2021年3月は、アメリカで最後の現金給付が行われた、インフレが本格化する直前の月です。今後発表される4月以降数か月間のインフレ率は、現金給付によって高騰した後の2021年のインフレ率と比較されてゆくことになります。それゆえ、2022年4月以降のインフレ率は「見かけ上」鈍化します。それは単なる統計技術上の現象にすぎません。だから当報道は、バイデンの経済政策の失敗をカモフラージュするための、MSMによる単なるデマのたぐいである、か、もしくは単にバカが記事を書いたか、のどちらかです。ゆめゆめダマされないようにしましょうね。》

経済のド素人の、ロイターという「権威」に歯向かった生意気な経済関連コメントにもかかわらず「いいね」ボタンを押してくれた奇特な方がいらっしゃいました。この場を借りてお礼申し上げます。

「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」掲載の最新論考は、ロイターと同じネタ、すなわち、米国4月のインフレ率を取り上げています。4月の見かけ上の数値の低下を予告していただけあって、その取扱い方は見事というよりほかはありません。

じっくりとごらんください。得るところ大でしょう。

***

アメリカの4月のインフレ率、予想上回る 株価は下落
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/24257
2022年5月12日 GLOBALMACRORESEARCH

アメリカの物価高騰が株式市場をも揺るがすなか、注目の最新の消費者物価指数が発表された。4月のアメリカのインフレ率は8.2%(前年同月比)となった。

減速したインフレ率
まず債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏が述べていたように、今回の数字は前回3月よりも下がることが予想されていた。

• ガンドラック氏: インフレはピーク
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/23164

3月の数字が8.6%なので、4月の8.2%はガンドラック氏の想定通り少し下がったということになる。インフレ率のチャートは次のようになっている。



少し下がっている。

何故下がることが想定されていたかと言えば、この数字が前年同月比で、比較対象となった前年2021年4月が、アメリカで3月に行われた3回目の現金給付の影響で物価が急騰した月だったからである。

前年同月比とは前年の同じ月に比べてどれだけ物価が上がったかという数字なので、前年の比較対象の月が物価の高い月であれば、当然ながらインフレ率は高くなくなる。

インフレのピークは株価の大底
以下の記事ではインフレのピークが株価の大底になるということを説明した。

• 2022年インフレ株価暴落はいつまで続くか
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/24209

この記事は非常に重要なので読んでもらいたいが、要するに株価の底値を予想するためにはインフレ率が今後どうなってゆくかを予想しなければならない
まず、前年同期比の数字を考えるためには、比較対象となっている前年において各月の物価上昇がどの程度だったのかを考えなければならないだろう。
そこで、2021年の前月比年率(前の月と比べた数字を年率換算したもの)のインフレ率を見てみたい。



やはり4月頃からインフレ率が高くなり、6月には11%に達している

よって前年との比較で今年の数字が高いインフレになるためには、高かった去年6月の数字を超えてゆかなければならないということになり、やはり今後数ヶ月のインフレの数字は落ち着くという予想が妥当だろう。

インフレ鈍化で株価反発の可能性
これまでインフレを警戒して株価が下落していたのに、インフレが減速した今回の数字を受けて米国株は更に下落した



何故かと言えば、8.2%という数字が市場が予想していたほどの減速ではなかったからである。

今回の数字があまりインフレ減速的だと思われなかったとしても、やはり6月(の数字が発表される7月)までは数字上インフレは減速し、株式市場にとってはつかの間の追い風となる可能性もある

だが結局は、今年の後半にかけてインフレ率がどうなってゆくかということが、株価の最終的な命運を握っている

それを考えるためには、高騰している住宅価格の上昇率と長期金利を並べた以下のチャートが一番分かりやすいだろう。

• アメリカの住宅価格が2月に19.8%上昇、再上昇開始
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/23546




アメリカ国民は家賃が高騰するなか、ローンを組んで住宅をこぞって買おうとしている。賃貸ならば住宅価格や家賃の上昇はマイナスだが、買ってしまえば自分にとってプラスになる。しかしそうした住宅購入が住宅価格を更に押し上げてゆく。

住宅価格が年率20%近い速度で上がるなか、ローン金利に影響する長期金利は3%程度である。

つまり、年間3%か4%のコストを払うことによって、お金がない人でも20%の資産価格上昇を手に入れることができる。それはローンが実質的に損のない無料の資金であることを意味する。この状態で、アメリカ国民の購買意欲が収まるかということである。

*当論は、住宅価格と長期金利の乖離から、アメリカ国民の購買意欲は収まらない、すなわち、インフレは収まらないだろうと予測しています。ちょっと調べてみて分かったのですが、新型コロナのパンデミックがもたらした意外な結果として、目下、多くの国で住宅価格が急上昇しています。米国、英国、ドイツを含むいくつかの主要国では、2桁ペースで住宅価格が上昇しており、価格の上昇はこの1年で加速しているそうです。世界的な物価高の一側面として、住宅価格の急上昇があるということです。それが日本にどう飛び火するか注視すべきところでしょう。 〔引用者 注〕

結論
筆者はこの状態でインフレが収まるとはまったく思っていない。だから6月にかけてインフレが減速し、中央銀行が金融引き締めの手を緩めるならば、それは一時的には株価にとってプラスになるだろうが、最終的なインフレ率は更に高くなってゆくだろう。

だがいずれにしても今後インフレ率は最重要指標である。その動向が株価の行く末を決めるからである。以下の記事はしっかり読んでおいてもらいたい。

• 2022年インフレ株価暴落はいつまで続くか
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/24209

***

当論考に従うならば、今後7月まで数字上のインフレは減速し、株価は数か月間の追い風に恵まれるかもしれません。しかし複合的な要因によってインフレが収まらなければ、結局株価は「大底」に向けて下落することになるでしょう。当論考によれば、インフレの行方が株価の行く末を決定するのですから。
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エミンさん 、視聴者の質問に答える 「ハイパーインフレ」「信用創造とお金」

2022年05月12日 20時46分14秒 | 経済


経済のわかりにくい論点を、当動画のエミンさんが分かりやすく説明しています。

Q1「日本でハイパー・インフレが起こる可能性はあるか」

→A1「日本の国債はすべて円建てなので、純粋にテクニカルな意味でありえない。仮に国債の利払いが膨らんだとしても、日銀は、必要なだけの円を刷って支払いをすればいいだけのこと。だから財政破綻はありえない。よって、ハイパー・インフレもありえない」

Q2「銀行が新たにお金を作る信用創造の理屈が分からない」

→A2「銀行は、新たな預金の一部分を残してほかは全部貸し出す。貸し出されたお金はまた銀行に戻ってくる。その新たな預金の一部分を残してほかはまた全部貸し出される。その無限回の繰り返しによって、結局最初の預金の何倍もの預金が創造される」

信用創造とは、銀行が貸し出しを繰り返すことによって、銀行全体として、最初に受け入れた預金額の何倍もの預金通貨をつくりだすことです。例えば、A銀行が最初に受け入れた預金額が100万円だとしましょう。A銀行は手元にその1割の10万
円を残して90万円を別の誰かに貸し出します。お金を遊ばしておくのはもったいないですから。その90万円がさらにほかの誰かに渡り、その誰かは90万円を今度はB銀行に預けます。その1割の9万円を残して・・・、というプロセスが無限に繰り返されます。文字通り「金は天下の回りもの」というわけです。以上を表にまとめれば、次のようになります。




このようにして、預金の合計は結局100円×1/0.1=100円×10=1000円となり、元の預金の10倍の預金が創造されたことになります。厳密にいえば、この式を理解するには無限等比級数の知識が必要なのですが、そこまでこだわらなくても、最初の預金の何倍もの預金が生まれることは、エミンさんのお話と当方の補足でお分かりいただけるのではないでしょうか。

それにしても、コロナ禍以降のアメリカの預金準備率が0%とは驚きです。知りませんでした。

【エミQ】教えて!エミン)さん Vol.59「ハイパーインフレ」「信用創造とお金」

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株価の「大底」は、年内にはやってこないだろう

2022年05月11日 17時04分30秒 | 経済


いつ来るかと固唾を飲んで注視していたのですが、どうやら株価の下落プロセスが始動した模様です。それが正しい判断であるとするならば、4月の長短金利逆転(逆イールド)からひと月足らずで早速動きが生じたことになります。
で、気になるのは、今回の株価下落のゴールすなわち「大底」はいかほどの値で、下落プロセスはいつまで続くのか、です。

「グローバル・マクロリサーチ・インスティチュート」掲載の最新論考は、そういう興味関心に対して歴史的な資料を明示しながら答えようとしています。その意味で、とてもタイムリーな内容なので紹介することにしました。


***

2022年インフレ株価暴落はいつまで続くか
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/24209

2022年5月10日 GLOBALMACRORESEARCH

アメリカも日本も株価の下落が続いている。世界的なインフレでアメリカのFed(連邦準備制度)が強力な金融引き締め政策を行なっているからである。

*米国中央銀行FRBは、5月のFOMC会合で、通常の倍の0.5%利上げを行うとともに、2018年に世界同時株安を引き起こした時の2倍の規模の量的引き締めを発表しました。〔引用者 注〕

2022年世界同時株安
これは予想されていたことだった。少なくともここでは年始から次のように書いておいた。

• 2022年の株式市場はインフレと金融引き締めで暴落する (2022/1/6)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/18367

株を買っている人は、自分が何故株を買っているのかもう一度考えた方が良い。少なくとも筆者には今株を買うべき理由が何1つとして見当たらない。

それで米国株の推移は次のようになっている。



そろそろ最高値から20%の下落になりそうだが、それでもこの下落相場はまだまだ始まったばかりである。

株価暴落はいつまで続くのか
さて、ここで投資家にとって問題となるのは株価暴落がどこまで行くのか、そしていつまで続くのかだろう。

比較対象になるのは常に過去の相場である。例えば同じようにパウエル議長による金融引き締めで下落した2018年の世界同時株安では、最高値から20%の下落となっている。



しかし当時はインフレではなかった。だから結局パウエル議長は自分の金融引き締めが株安を引き起こしていることを認め、引き締めを撤回した。だから20%で済んだのである。

だが今回は引き締めを止めるとインフレが止まらなくなってしまう。

• 3月のアメリカのインフレ率は遂に8.6%に
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22933

だから中央銀行は金融引き締めを止められない。しかも量的引き締めの規模は2018年の2倍となっている。

• 5月FOMC結果、2018年世界同時株安時の2倍の規模の量的引き締め開始
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/24032

*2018年のFRBバランスシートの縮小幅つまり量的引き締め額が月間300億ドルであったのに対して、今回は月間600億ドルの縮小です。それゆえ今回の量的引き締めは、2018年の世界同時株安を引き起こした時の2倍の規模ということになります。〔引用者 注〕

1970年代のインフレ株価暴落
それだけでも今回の株安が20%の下落では済まないことは分かる。では、過去に同じようにインフレで金融引き締めを止められなかった時の株価暴落はどうだったかと言えば、1970年代の物価高騰時の株価下落を見るべきだろう。



丁度半値になっている。ちなみにインフレに弱いNasdaqは60%の下落である。今の相場でもNasdaqの下げは大きい。

• ハイテク株の決算後株安はインフレ暴落相場の始まりに過ぎない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/23641

*ハイテク株はなぜインフレに弱いのでしょうか。インフレは貨幣価値の減少をもたらします。たとえば、米国3月CPIの上昇率8.6%が5年間続くと約50%のインフレになります。とすると、5年後の100万円の収益の現在価値が100万円÷1.5=666、666円と大幅にダウンすることになります。インフレとはすなわち将来のキャッシュフローの実質的価値(現在価値)がそれだけ下がることを意味するのです。実質的価値の下落は、将来のキャッシュフローを織り込んでいた成長株(グロース株)にとっては大打撃となります。だからインフレはグロース株としてのハイテク株にとって天敵なのです。〔引用者 注〕

天井から大底までの下落幅を厳密に予想することはできない。だが今回の株価暴落の規模は2018年の20%というよりは、1970年代の50%に近いものになるということは間違いなく言えるだろう。

株安はいつまで続くか
一方で、「どれだけ下がるか」ではなく「いつまで下がるか」についてはもう少し厳密な予想が立てられるだろう。

中央銀行はインフレ抑制のために利上げや量的引き締めをしているが、以前も述べたように株式市場は住宅市場や実体経済よりも先に反応する。

だからこれから、株価がかなりの程度急落しても、インフレや住宅バブルが収まらない期間が続くことになるだろう。

その時中央銀行はどうするか? パウエル議長がある程度の株安を許容するだろうということは、以下の記事を読めば分かる。

• ガンドラック氏: アメリカ金融引き締めでソフトランディングは無理
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/24193

だからFedは株価が下落していても金融引き締めを一定期間そのまま続けるだろう。

それが終わるのがいつかと言えば、インフレが鈍化し始める時である。実際、1974年の大暴落で大底となった1974年終盤は、アメリカのインフレ率(以下)がピークに達した時である。



だから株価がいつ大底に達するかということは、インフレ率がいつピークになるかを見ていれば分かるということになる。

インフレ率の推移
だが現在のアメリカのインフレ率はピークにはほど遠い直線的な上がり方をしている。



このインフレ率はジェフリー・ガンドラック氏が言うように、今後数ヶ月数字が鈍化する統計的要因がある。

• ガンドラック氏: インフレはピーク
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/23164

だがそれはあくまで統計的要因であり、今後数ヶ月のインフレ鈍化で中央銀行が引き締めを躊躇すれば、それは長期的にはより酷いインフレへと繋がってゆくだろう。

*「今後数ヶ月数字が鈍化する統計的要因がある」とはどういうことでしょうか。現在のインフレ率の比較対象となった2021年3月は、アメリカで最後の現金給付が行われた月です。それゆえ、今後発表される4月以降のインフレ率は、高騰した後の2021年のインフレ率と比較されてゆくことになります。とすると、2022年4月以降のインフレ率が「見かけ上」鈍化します。それが上記の「統計的要因」の意味するところです。〔引用者 注〕

結論
実際にはインフレ率が落ち着くのは(もし落ち着くとすればだが)今年中は無理であり、来年ということになるだろう。

それはつまり来年までは株価が下落しても金融引き締めが止まらない期間が続くということである。株式市場は地獄絵図となるだろう。

大底までの下落幅は1970年代の50%が大まかな目標水準である。しかしドル建てで米国株に投資している日本の投資家には、そこに更にドルの下落分が加算されることを指摘しておきたい。
(後略)


***

以上を端的にまとめれば、次のようになるでしょう。

株価の「大底」までの下落幅は、1970年代の50%が大まかな目標水準である。「大底」に達するまでの時期は、量的引き締めが続く時期であり、それはすなわちインフレが終息プロセスに入るまでである。インフレが今年中に終息プロセスに入るのは無理であり、少なくとも来年まで待たねばならない。それゆえ「大底」に達する時期は最短で来年中である。

けっこう恐ろしい話です。

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FRBパウエル議長の胸の内

2022年05月10日 20時42分32秒 | 経済


今回は「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」に掲載された最新の論考の紹介記事です。FRBパウエル議長は、5月3・4日のFOMC会合に関連して、タカ派的な利上げ政策を遂行しても株価暴落を避けることができるかのような発言をしました。が、実はそれはいわゆる「タテマエ」であって、「株価暴落は避けられないだろう」というのが本音である、というお話です。

「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」のもろもろの論考を読んできた者としては、そうだろうなという感想が浮かんできます。

***

ガンドラック氏: アメリカ金融引き締めでソフトランディングは無理
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/24193
2022年5月9日 GLOBALMACRORESEARCH

債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏がCNBCのインタビューで金融引き締めの経済への悪影響について語っている。

金融引き締めとソフトランディング
Fed(連邦準備制度)は5月のFOMC会合で、通常の倍の0.5%利上げを行うとともに、2018年に世界同時株安を引き起こした時の2倍の規模の量的引き締めを発表した。

• 5月FOMC結果、2018年世界同時株安時の2倍の規模の量的引き締め開始
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/24032

アメリカでは現金給付と脱炭素政策のために物価が高騰しており、インフレ抑制のためには他に選択肢がないのである。

だがこの規模の金融引き締めはどう考えても株価と実体経済を殺してしまう。

そしてそれはパウエル議長も分かっている。分かっていないのは一部の個人投資家だけである。だからパウエル氏は聴衆を安心させるように記者会見で次のように言った。

ソフトランディングか、ソフトランディングのようなものを達成できる十分な見込みがある。

ソフトランディングのようなもの(原文:soft-ish landing)とは何だろう。

もうこの時点でかなり苦しいのだが、この表現に関するガンドラック氏のコメントを見てみよう。

記者会見のあの場面はパウエル氏が輝いていた瞬間ではなかった。

パウエル氏はそう言うしかない。それは理解できる。だが「ようなもの」という言葉からすでにアキレス腱が露出している


パウエル氏はそう言うしかなかったのだが、それでも彼はこれから市場と経済がどうなるかを知っているだろう。

何故ならば、パウエル氏は2018年に今の半分の規模の量的引き締めで世界同時株安を引き起こしているからである。

• 世界同時株安を予想できた理由と株価下落の原因 (2018/10/28)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/7959

パウエル氏はそれがトラウマになったために、インフレが明らかに高騰しても金融引き締めをやりたがらなかった。それで「インフレは一時的」と言い続けていたのである。

• ガンドラック氏: パウエル議長はただインフレが続かないように祈っているだけ (2021/7/18)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/14522

だがインフレが止まらなかったのでパウエル氏も諦めざるを得なくなった。それが「ソフトランディングのようなもの」が可能だという虚しい決意表明に表れている。

ガンドラック氏は次のように言う。

その見込みが五分五分よりも悪いことを彼は理解しているだろう。


景気後退へ
何度も言っているが景気後退と株価暴落は避けようがない

• 世界最大のヘッジファンド、アメリカ経済がもう手遅れであることを認める
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22771

司会者は巨大ヘッジファンドCitadelのケン・グリフィン氏の「われわれは恐らくリーマンショック以後最大の不確実性のただなかにいる」という発言を持ち出し、ガンドラック氏にコメントを求めた。

ガンドラック氏は次のように答えている。

ポール・チューダー・ジョーンズからほとんど同じ言葉を聞いたよ。ジェフリー・ガンドラック、ポール・チューダー・ジョーンズ、ケン・グリフィン。これでハットトリックだ。

ちなみに筆者にとって2022年は未曾有の高リターンの年である。投資法を1月の時点でこれほど詳しく公開していたのだから、誰でも同じことが出来たはずなのだが。

• 2022年のスタグフレーションに投資する方法 (2022/1/20)
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/18949

***

では、いつ株価暴落は起こるのでしょうか。基本的に「それは神のみぞ知る」というよりほかはありません。

しかし、FRBが量的緩和から金融引き締めへ政策転換し、インフレ対策としてのタカ派的利上げ政策の推進をしている現状からすれば、今後、株価が急降下する要因はあっても株価が継続的に上昇する要因はないとはいえるでしょう。一時的な上昇局面に惑わされて、大局を見誤らないようにしたいものです。

そうして、そのような米国株の、おそらくは今年から来年(の少なくとも半ば)にかけての数度の暴落局面を含む下落傾向に、長期インフレと基軸通貨ドルの地位低下と中露の台頭という長期的な「地殻変動」が複雑にからむことになるのでしょう。
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