レイ・ダリオ
わが国の岸田首相は、8日の記者会見で、ロシアのウクライナ侵攻により、「我が国のみならず、世界各国の人々が、ガソリン価格、電気代、食材価格などの高騰に苦しんでいる」と述べました。それを踏まえて、エネルギー市場の安定化のために1500万バレルの石油備蓄の放出を決めたこと、4月中に「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を取りまとめることを強調し、「国民の生活を守るために最大限の対策を迅速に講じていく」としました。
さらに国民に対して「非道な侵略を終わらせ、平和秩序を守るための正念場だ。国民の皆さんの理解と協力をお願い申し上げる」と呼びかけました。
おそらく、その「緊急対策」とやら、残念ながらあまり効果が期待できないのではないでしょうか。なぜなら日本経済の問題点のとらえ方が間違っているからです。
日本経済は、1997年以来25年間のデフレ不況下にあります。少し景気が持ち直そうとするたびに消費増税を断行して、デフレ脱却の芽を摘み続けるという愚策を繰り返してきたからです。それゆえ四半世紀にわたって、GDPや一般国民の賃金がまったく上昇しないという世界でも珍しい悲惨な現象が起きているのです。日本の経済政策は、世界最低というよりほかはありません。世界に冠たるバカ国家というわけです。
だからほぼ全世界がコロナに対して開放政策に舵を切っているとき、日本だけが相も変わらず国民全員マスク着用を実施し続けることにもなるのでしょう。デフレがあまりにも続きすぎ、心がちじこまっているのでしょうね。
そういう情けない状況下の日本に、世界を席捲しつつあるインフレ(物価高)がこれから本格的に押し寄せます。デフレ不況下のインフレ進行を経済学用語でスタグフレーションと言います。通常は、景気が過熱気味になってインフレが進行するのですが、不況下で物価高が進行するのがスタグフレーションです。最悪の経済状況なのです。
つまり日本経済の問題点は、岸田首相が主張するような単なるインフレではなくて、スタグフレーションなのです。よって、日本経済の今後の課題は〈スタグフレーションからいかに脱却するか〉です。
日本経済がスタグフレーションから脱却するための基本を申し上げれば、国民の購買力を着実に強化することによってデフレからの脱却を図りながら、輸出品の価格高騰を緩和するために、現在の円安傾向から円高にドル円市場が転化するように輸出依存の脆弱な経済体質を変えることです。
では「国民の購買力を着実に強化する」にはどうしたらよいのでしょうか。それは原理的には簡単です。国民の購買力を奪い続けている消費税を、スタグフレーションからの脱却が十分に実現するまで凍結すればよいのです。消費税凍結の断行が、スタグフレーションからの脱却の絶対条件なのです。
岸田首相の現状把握には、もう一つ致命的なミスがあります。それは、世界の物価高の根底にある原油高の原因をロシアのウクライナ侵攻に求めている点です。原油高は実はロシアのウクライナ侵攻の前からありました。
その原因は、西側先進諸国の脱炭素政策推進による自国内における原油供給量の減少です。それは、バイデン政権下のアメリカで顕著です。アメリカの場合、不正選挙で誕生したバイデン政権の過度の現金給付もインフレの一因となりました。
だから世界的物価高を押さえるには、西側先進諸国が、国民生活に災いをもたらす脱炭素政策を放棄することが必要です。
ところで岸田首相は、ロシアのウクライナ侵攻のせいでインフレが起こったかのような言い方をしていますが、正確には、NATOがすなわちアメリカが過度にロシアを追い詰めたことがロシアのウクライナ侵攻をもたらし、それに対するアメリカの強硬な対露経済戦争が原油を筆頭とするコモディティのさらなるインフレをもたらしたというべきでしょう。一連の事態はすべてアメリカ民主党主導なのです。そのことははっきりしておきたく存じます。
(こう言うと、MSMが垂れ流す西側のプロパガンダを絶対的真実と信じて疑わない方々から「じゃあ、プーチンのしでかしたことを弁護するのか」と反論されてしまいそうです。当方の意図はそこにはありません。プーチンのウクライナ侵略という残念な出来事の歴史的な経緯を最低限押さえておきたいと考えるだけです。むろん、二度と同じ過ちを繰り返さないために)
以上のように、岸田首相の発言は事態の根本に迫ったものではない皮相な見識に基づいたものです。
さて、前置きが長くなりました。
今回は、「グローバルマクロ・リサーチ・インスティチュート」の4月9日の論考を紹介します。
タイトルにあるとおり、世界経済のスタグフレーション突入がほぼ確実であることが述べられています。
アメリカは目下デフレ不況ではないから、これからデフレ不況になるのです。日本経済の海外依存体質が続く限り、日本のデフレ不況はさらに泥沼化することが予想されます。
では、紹介いたします。
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世界最大のヘッジファンド、アメリカ経済がもう手遅れであることを認める
WWW.GLOBALMACRORESEARCH.ORG/JP/ARCHIVES/22771
2022年4月9日 GLOBALMACRORESEARCH
引き続きYahoo! Financeによる世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者レイ・ダリオ氏のインタビューである。今回はインフレと利上げについて語っている部分を取り上げたい。
利上げと株式市場
アメリカでは物価が高騰しており、Fed(連邦準備制度)は今年かなりの速度での利上げを行おうとしている。
• 3月FOMC会合結果は利上げ開始、政策金利は年内に2%以上となり株価暴落へ
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21514
見通しでは政策金利は今年中に2%以上の水準になるという。だがダリオ氏はこの金利見通しについて次のように述べている。
7回の利上げとは何と多いんだと皆が言っているのを見ると笑ってしまう。金利を2%か何かに上げたとして、それは確かに資本市場を苦しめ、株式の保有者にとって難しいことになり始めるだろう。
債券や預金のリターンが上がり、資金が引き締まり、リスク資産など他のものの魅力を減らしてしまう。ハイテク株などキャッシュフローの想定期間が長いものは特にそうだ。
*キャッシュフローとは、文字通り一定会計期間にどれだけの現金が流入し、どれだけの現金が流出したかという資金の流れのことです。ハイテク株のような高成長企業の予想キャッシュフローは、①足元の水準が『相対的』に低く、②将来に向かって成長が加速、③場合によっては指数関数的な成長を想定しているケースが多いと考えられます。このような特性により通常の企業に比べ、高成長企業のキャッシュフローは遠い将来に生成されると期待される部分のウェイトが相対的に高いことが特徴です。そのことを上記で「キャッシュフローの想定期間が長い」と言っているようです。〔引用者 注〕
金利が高くなれば、上下動の激しい株式を保有するリスクを取らなくとも国債を保有するだけである程度のリターンが得られてしまう。
例えば今後の利上げを織り込んで2年物国債の金利はほとんど2.6%に達している。
国債を2年保有していれば2.6%のリターンが得られるということである。
一方の米国株は金融引き締めでぐらついており、2年で果たして同じリターンを達成できるだろうか。
*上記の二つのグラフの併記によって、Fedの利上げ政策によって、投資対象が株から国債に移らざるを得ないことが、私たち素人にもよく分かります。〔引用者 注〕
これが株式の投資家が直面している問題である。2.6%の2年物国債は既に株価と実体経済に悪影響を及ぼしつつあり、以下の記事で書いたように今後の悪化は債券市場では既に織り込まれている。
• サマーズ氏: 長短金利の逆転は景気後退を引き起こさない
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22666
*米国債の長短金利の逆転はなぜ起こるのか。当論者は「短期金利は今後の利上げ動向を示すので、市場は明らかに中央銀行が今後利上げするということを予想している。他方、その利上げはローンの金利上昇などを通して消費を停滞させる。あるいは低金利に依存してきた株式市場に害を与えるだろう。そうすれば短期的な利上げが長期的な経済成長を阻害し、いつか中央銀行は利下げに方向転換をせざるを得なくなる。そのような投資者の予想をトレースしたものが長期の金利である。だから長期が短期の金利より低くなる」と言っています。上記の「今後の悪化は債券市場では既に織り込まれている」という言葉が、以上述べた事態を指しているものと思われます。 〔引用者 注〕
利上げは十分か
一方でダリオ氏は金利が2%に上がるだけではインフレ抑制には不足だという。彼は次のように続ける。
だがそれでも金利は2%か2%を少し上回る程度で、インフレ率はそれよりもかなり高い7%だ。長期的には5%くらいに収まるだろうか。
そうすると、2%の金利があっても実質的には(債券や預金の保持者は)インフレに対して資産を失ってゆくことになる。
それで人々は債券や預金から離れ、インフレをヘッジするために貴金属や農作物などのコモディティに投資するようになる。ものが買われるのでインフレは止まらない。それが前回の話である。
• 世界最大のヘッジファンド: 人々がどんどんインフレマインドに変わってゆく
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/22710
だが中央銀行はインフレ抑制のために十分な利上げを行うことができない。ダリオ氏は次のように続ける。
Fedがインフレに対応するために十分な引き締めを行えば、株価と実体経済が沈んでしまう。
だからこれから1年でFedはかなり難しい立ち位置に置かれることになる。インフレ率はまだまだ高く、それが市場と経済にのしかかっている。
結論
どうすれば良いのか? ダリオ氏はそう聞かれて絶望的な答えを返している。
中央銀行はますます難しい選択に迫られており、この状況はスタグフレーションをもたらすだろう。
インフレを抑制したいが、インフレが抑制できるほど金利が高いと経済が死んでしまう。
中央銀行に何が出来るか? 何も出来ない。彼らは既にその状態に置かれている。
中央銀行はスタグフレーションに対処しなければならない。しかしそれは彼らの処理能力を完全に超えている。
アメリカ人にはよくあることだが、彼らは出来る限り楽観的であろうとする。経済学者ラリー・サマーズ氏との対談の時にはダリオ氏はこの状況に警鐘を鳴らしながらも「だがわたしたちは両方間違っているかもしれない」とスタグフレーション回避に含みを持たせた。
だが今回はここまではっきり言ってしまった。やはりどう考えてもこの状況では物価高騰か株価暴落のどちらかは回避できないからである。
• 2022年の株式市場: パーティは終わっているのにまだ踊っている人がいる
www.globalmacroresearch.org/jp/archives/21985
聞き手は絶望的な顔をしながらダリオ氏に恐る恐るソフトランディングは絵に書いた餅(原文:pie in the sky)かと尋ねる。
ダリオ氏は最後まで楽観的であろうと頑張り、かなりためらいながら次のように言った。
んー、ソフトランディングと言うのは…あー、どうだろう。ええと…んー。…そうだ。絵に書いた餅だ。高確率でわれわれはスタグフレーションに突入するだろう。
(後略)
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