美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

水素は、万物の祖先である―――放射能考  (イザ!ブログ 2013・7・23 掲載)

2013年12月18日 08時06分12秒 | 科学
いまから138億年前、ビッグバンという大爆発が起こりました。原子や物質だけではなく、時間も空間もすべてはこのビッグバンによってはじまったというのですから、想像がつかないほどに大規模な爆発ですね。「その前は?」という疑問が過ぎりますが、それはこの場合措いておきます。


ビッグバン http://homepage2.nifty.com/AXION/note/2006/note_200609.html より

このときに散らばった″宇宙の素″の一滴一滴のほとんどすべてが水素原子(原子番号1番)で、ほんの少しがヘリウム(原子番号2番)だったそうです。

できたばかりの宇宙には水素原子が均一に漂い、充満しました。そのうちに、濃いところと薄いところができました。そうして、濃いところは重力によってさらに引き合って高密度になり、熱を発し、高温となりました。

その結果、原子番号1の水素原子Hどうしが融合して原子番号2のヘリウムHeになる核融合反応が起きました。小さくて高エネルギーの原子が融合して大きくて安定した原子になれば、その間のエネルギー差である余分なエネルギーが放出されます。その結果、水素原子集団は膨大なエネルギーを生み出すことになり、こうこうと輝いてまわりじゅうにエネルギーを放出するようになりました。これが恒星です。そうしてもちろん、私たち地球の住人にとっては、太陽がいちばん身近な恒星です。


http://www.nifs.ac.jp/kids/qa/qa_02_01.html より

恒星にあるすべての水素がヘリウムになると、今度はヘリウムどうしが核融合して、原子番号4のベリリウムBeになります。このようにして、次々と大きな原子が誕生しました。だから恒星は、原子の誕生の地なのです。そうして、核融合とはもちろん原子核反応です。また、原子核反応から生じるエネルギーとはもちろん原子力エネルギーです。つまり、原子の誕生の地には、原子力エネルギーが満ちあふれていたのです。

ところで、核融合反応は次々と新たな原子を産み出しますが、それにも限りがあります。というのは、核融合がエネルギーを生み出すのは、質量数(原子核の陽子数と中性子数の合計)60程度の鉄の同位体までです(同位体というのは、原子番号が同じでも中性子の個数が異なる元素どうしのこと。ただし、原子番号=陽子の数は同じ)。そこまで核融合が進行すると、それ以上の核融合をしてもエネルギーは生産されなくなるのです。


恒星の終わり http://nationalgeographic.jp/nng/magazine/0703/fea...より

エネルギー生産を停止した恒星は膨張力を失い、反対に重力の働きにより収縮をはじめます。この収縮は凄まじいもので、ミクロレベルで原子核のまわりに雲のように存在していた電子雲までもが原子核のなかに押し込められるそうです。

その結果、マイナス電荷をもった電子とプラス電荷をもった原子核が反応して、中性子が生まれます。すなわち、収縮した恒星が、一個の原子がまるごと中性子だけでできた星、中性星になるのです。原子核をピッチャーマウンドに置いたパチンコ玉だとする(本当はそれよりずっと小さいですよ、もちろん)と、それをつつむ原子雲は、東京ドーム二個をハンバーガーのような形に合わせたほどの広がりがあります。だから、東京ドーム二個分の体積を持っていた電子雲が、まるまるパチンコ玉のなかに押し込められることになるのですね。

その結果、星の密度は、一立方センチメートルあたり数十億トンというおそろしい数値になります。それによってもたらされる重力は光をも飲み込むほどのすさまじさになります。これが、有名な(というのも変ですが)ブラック・ホールです。


ブラック・ホール http://news.kanaloco.jp/localnews/article/1109080017/ より

さて、恒星の最期はブラック・ホールだけではありません。その姿は、大きさによってさまざまですが、大きな恒星はその最期にエネルギーと質量とのバランスを失い、突如きらめくような大爆発を起こします。これを超新星爆発といいます。

このときに発生する巨大なエネルギーによって瞬間的に誕生したのが、鉄Feより大きな原子なのです。


超新星爆発 http://www.wallpaperlink.com/bin/0602/01980.htmlより

ちなみに、自然界に存在する元素の種類はおおむね90程度です。しかし、周期表の原子番号は118までありますね。その差を埋めるのが、原子炉や加速器で人工的に作り出された人工元素です。これらは一般に超ウラン元素と呼ばれています。これらはおおむね核分裂反応で得られるものです。

このように、大きい原子も小さい原子も、すべて夜空に輝く恒星を舞台に、まばゆいばかりの光とめくるめくような無尽蔵のエネルギーのなかで誕生しました。

そのような原子が何万光年という遠距離を旅することで、一箇所に集まって地球という惑星が作られ、それらが分子となり、有機物となり、そうして、私たち人間をふくむ生命体がつくられたのです。生物の進化などと言っても、その壮大な宇宙のドラマの寸劇のようなものなのです。

目をわれらが太陽に転じましょう。太陽は恒星ですから、そこでは、水素(質量数1=陽子1)の原子核が反応して、重水素(質量数2=陽子1+中性子1)になり、それがまた反応してヘリウム(質量数4=陽子2+中性子2)になります。

この一連の原子核反応で、原子力エネルギーが解放されて電子の運動エネルギーとなり、太陽光エネルギーとなって四方八方に放出されます。その一部が地球に降りそそぎ、植物や微生物を育て、それが化石となって、石油・石炭・天然ガスとして、人間にとっての重要なエネルギー源を供給します。

また、太陽光で育つ植物と、それを食べる動物は、人間の食物という形で、重要なエネルギー源になります。

さらに、目を地下に転じてみましょう。私たちが踏みしめている、いわゆる「大地」なるものは、地殻と呼ばれるもので、地球の直径1万3千mに対してわずかに30kmの厚さに過ぎません。人間で言えば、皮膚のようなものです。これは「冷たい大地」などと形容されることもありますが、それより深いところは信じられないほどの高温なのです。地殻の下のマントルは熱いところ(下部マントルの最深部)で3000℃にまで達し、地球の中心あたりの内核では8000℃にまで達するほどです。

では、地球の内部はなぜこれほどに熱いのでしょうか。地球が誕生したとき、地球は、宇宙から降り注いだ隕石の衝撃熱や摩擦熱で溶けていたといわれます。その余波がいまだに残っているのでしょうか。しかし、それは48億年も前の話です。いまとなっては、熱は宇宙に放散して冷え切っているはずですね。数千℃の熱をいまだに保っているのは、自分で熱を出していると考えるよりほかにはありませんね。

実は、地球の内部では絶えず原子核反応が生じているのです。つまり、地球は一個のとほうもなく巨大な原子炉のようなものなのです。

だから、当然のことながら、この巨大な原子炉から、放射性物質が漏れてきます。そのひとつがラドンRn(原子番号86)です。ラドンは、地殻中にある放射性物質であるラジウムRa(原子番号88)が壊れることによって発生するものです。だから当然のことながら、ラドンは放射線(α線:ヘリウム原子核)を放出します。それが温泉に溶けたものがラジウム温泉として人気を博することになったりするのです。ラジウム温泉とは、要するに放射能温泉です。


地球の内部のイメージ http://www.kankyo-sizen.net/blog/2012/09/001194.html より

こうやって、宇宙の始まりから、人間の生命の誕生・維持にまでに思いを致してみると、ふたつのことがおのずと浮かんできます。

ひとつは、宇宙の始まりとともに生まれた水素こそが、人類をはじめとする森羅万象に共通の祖先であること。まったくもって、感謝、感謝ですね。

もうひとつは、核融合反応によるまばゆいばかりのエネルギーの放出が、生命の本質に深く関わっているということ。ここで、「核融合反応によるまばゆいばかりのエネルギーの放出」とは、要するに、放射能のことです。というのは、放射能とは、放射線を放出する能力のことであるからです。つまり、放射能こそが、もしかしたら、生命の本質なのかもしれないのです。この真実からかたときも目を離さずに、原発問題を考え抜く姿勢がいま求められているように、私は感じています。


参考 『知っておきたい放射能の基礎知識』齋藤勝裕 Soft Bank Creative

   『ビックリするほど原子力と放射線がわかる本』 江尻博素 同上


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